新規事業のリスク分析とリスクマネジメントの方法を解説
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記事目次
新規事業の検討をする際、その事業に関わるリスクを事前に洗い出し、それを分析すること、事前に対策を講じておきリスクを管理(リスクマネジメント)することは非常に大切です。
リスク分析をして適切な対策を事前に講じることは、リスクが顕在化した際に生じる事業への影響を低減する事につながります。また、リスク分析の結果を反映した対応マニュアルを作成しておくことは、リスクが顕在化した場合に、迅速に対応して被害を最小限に抑えることにつながります。
今回は、新規事業を開始する際のリスク分析の必要性、新規事業において一般的に想定されるリスクの紹介、リスク分析の方法、リスク分析に役立つフレームワーク、リスクマネジメント体制の構築方法などについて解説します。
新規事業を開始する際のリスク分析の必要性
スタートアップ企業はもちろん、長期間に渡り事業を継続してきた企業にとっても、社会環境の変化に伴い、新しい事業へ取り組むことは、企業の発展や成長につながる重要な施策です。
しかし、新規事業において生じる問題の対応に追われているうちに、商機を逃したり、経営資源が確保できなくなり軌道に乗らずに終わる事業も少なくありません。
中小企業庁の委託を受けて、みずほ総合研究所が2015年12月に実施した「中小企業のリスクマネジメントへの取組に関する調査」の結果によると、新規事業が上手くいかなかった理由として、主に以下のようなものが挙げられていました。
- 新規事業を担う社内人材の不足
- 新規事業を取り巻く環境に関する情報不足
- 資金不足
- 新規事業を展開する顧客や販路の確保
- 新規事業を行う上での想定外のリスクの出現
想定外のリスクの出現を完全に防ぐことは不可能ですが、事前に想定されるリスクを洗い出して分析し、適切な対策を講じることは、リスクを回避または低減することにつながります。
新規事業における5つのビジネスリスク
新規事業の開始に伴うリスクには様々な種類がありますが、公開されている有価証券報告書を参照すると主に以下の5つに大きく分類することができると考えます。
1.戦略リスク
戦略リスクとは、経営に関する戦略、外部環境、人材等に関するリスクのことをいい、以下のように細分化されます。
- 経営戦略(新規事業のリスクの見誤り、設備投資に関するリスク)
- マーケティング戦略(市場ニーズの変化、広告費や価格設定戦略に関するリスク)
- 人事戦略(人材獲得・育成の失敗、離職)
- 政治(法令改正、貿易関係)
- 経済(景気の変動、原材料の高騰)
- 社会・メディア(消費者運動、風評被害)
2.財務・運用リスク
財務リスクは、資産や負債の価値の変動などによって生じるリスクをいい、以下の3つに分類されます。
- 資金調達・運用(負債の増加、信用格付けの低下)
- 決済(取引先の倒産、貸倒れ)
- 価格変動(為替の変動、資金繰り)
3.事故リスク
事故リスクは、自然災害や事故など、予測不可能な外的要因により発生するリスクをいいます。
- 自然災害(大地震、津波、風水害、感染症)
- 事故(火災、交通事故、設備機器の故障、サプライチェーンの寸断)
- 情報セキュリティ(サイバー攻撃、システムダウン)
昨今、予測不可能な外的要因による災害等が、ビジネス上の大きなリスクとなっています。2018年の西日本豪雨以降、例年大規模な水害や地震が発生し、2019年12月以降は、コロナウイルスの流行が経営に大きな影響を与えました。
また、情報セキュリティ上のリスクは、顧客情報等の重要な情報漏洩につながるケースも多く、影響度が非常に大きいため、業種や規模に関わらず対策が必要です。
4.オペレーショナルリスク
オペレーションリスクとは、業務遂行を支える作業等におけるミスや怠慢などの内部的な要因により生じるリスクのことをいい、主に以下の4つに分類されます。
- 製品サービス(製品の瑕疵、リコール、運用ミス、顧客からのクレーム)
- 法務コンプライアンス(法令違反、知的財産権の侵害、情報漏洩、横領や背任)
- 環境(規制の強化、廃棄物処理、環境汚染)
- 労務(労災、ハラスメントに関する問題、従業員のメンタル不調、過労死)
5.業務固有のリスク
その会社や事業特有のリスクをいいます。
具体的には、グループ会社との関係、販売チャネル、事業環境の変化など、上記の4つに含まれないリスクです。
新規事業に関わるリスク分析の手順
新規事業のリスク分析を行う手順について具体的に説明します
1.リスクの洗い出し
新しい事業に関わるリスク分析を始める際は、可能な限り、想定される全てのリスクを洗い出すことが大切です。特に以下の3つの点に注意しながら、リスクの洗い出しを行って下さい。
- 新規事業が法律や規制に抵触しないか
- 提供するサービスや商品が、利用者に危害を加える可能性がないか
- 他人や他社の権利を侵害しないか
他にも、サービスや製品が市場のニーズと合致しているか、価格設定に問題がないかなど、多方面から検討しましょう。
また、昨今、特に重要だと言われているのが、情報セキュリティに関するデジタルリスクです。サイバー攻撃を受ける、サーバーがダウンする、従業員や関係会社による情報漏洩が発生するなどのリスクを洗い出しておきましょう。このようなリスクは、会社の正常な業務遂行を妨げるだけではなく、信頼度にも影響し、顧客離れによる売上の減少につながる可能性もあるため、注意が必要です。
海外と取引をする場合は、昨今の不安定な情勢を踏まえて、為替、輸出入、貿易のルート等のカントリーリスクも考慮することが求められます。
2.リスクの分析
リスクの洗い出しが完了したら、リスクの分析を行います。リスク分析は、後述するように、「リスクの発生確率」と「リスクが事業に与える影響の度合い」を基準に行います。
リスクの分析により、発生確率が高く、事業に与える影響度が高いリスクが明らかになれば、対応すべきリスクの優先順位を判断することができます。
影響の度合いが不明な場合は、保険会社に相談すれば同様のビジネスに関わるリスクや影響度などを教えてもらえる可能性もあるので、相談してみるとよいでしょう。
新規事業のリスク分析に役立つフレームワーク
リスクを分析するためには、まずはリスクを洗い出す必要があります。
新規事業のリスクを洗い出すために役立つフレームワークを2つご紹介します。
1.成功の確率判定
成功の確率判定は、新規事業が成功する確率に関係する要素を分析するフレームワークです。
新規事業の要素(資金、商品、人材など)を細分化して数値化することが特徴です。
例えば、資金については、以下のように要素の全てを数値化していきます。
- 既に事業支援を受ける等により資金調達できていた場合、成功確率は100%
- 製造コストの高騰等により、他社製品よりも商品の価格が割高になった場合、成功確率は50%
- 広告費として500万円を投じたいけれど、300万円の予算しか取れない場合、成功確率は60%
このように算出した全ての確率を乗じて出した数値が、その新規事業の成功確率になります。
ただし、この確率の算出に、経営陣の個人的な主観や希望的観測が入ると、正確な数値に近づけることができません。第三者や他部署に依頼する等して、客観的な評価をすることが、より正確な数値に近づけるためのポイントとなります。
2.リスクマップ(R-MAP)
リスクマップ(アールマップ)は、文部科学省所管の財団法人日本科学技術連盟が開発した、リスク発生の可能性、頻度、影響度を、客観的に分析するためのフレームワークです。リスクを、6×5のマトリックスに埋め込み、対応すべきリスクを可視化し、対応の優先順位を付けることができます。
具体的には以下のような図表に埋め込みます。
(件/台・年)10-4超 | 頻発する | C | B3 | A1 | A2 | A3 |
10-4以下~10-5 | しばしば発生する | C | B2 | B3 | A1 | A2 |
10-5以下~10-6 | 時々発生する | C | B1 | B2 | B3 | A1 |
10-6以下~10-7 | 起こりそうにない | C | C | B1 | B2 | B3 |
10-7以下~10-8 | まず起こりえない | C | C | C | B1 | B2 |
10-8以下 | 考えられない | C | C | C | C | C |
無傷 | 軽傷 | 中程度 | 重大 | 致命的 | ||
なし | 軽傷 | 通院加療 | 重症入院治療 | 死亡 | ||
なし | 製品発煙 | 製品発火製品焼損 | 火災・周辺焼損 | 火災・建物炎症 |
このように、リスクマップでは、横軸に危害の程度を、縦軸に発生頻度(事故件数/累積稼働台数)を置き、どの程度のリスクが発生するかを当てはめていきます。
A、B、Cの各領域は、以下のように定義付けられています。
- A領域:許容不可能で直ちに対応が求められるリスク
- B領域:原則としてC領域まで低減させるべきリスク
- C領域:許容可能なリスク
A領域に分類されたリスクについては、優先的に対策を検討しましょう。
許容可能であるか否かは、利用者の目線から、社会的に通用する一般常識に照らして考慮することが大切です。
リスクマネジメント体制の構築
リスクが顕在化した際に、迅速かつ的確な対応を行うためには、社内にリスクマネジメント体制を構築しておく必要があります。
新規事業のリスクマネジメント体制を構築する際に特に重要なポイントについて説明します。
1.リスク管理チームの構築
新規事業を開始する際は、経営陣が的確な判断をするために、全てのリスクを把握しておかなければなりません。しかし、経営陣は他にもやるべき仕事が多いため、リスクマネジメントのために避ける時間は限られています。
そこで、経営陣をメンバーに加えたリスク管理チームを構築することをおすすめします。リスク管理チームのメンバーは、リスクの発生に際して責任を持って対処できる責任感があり信頼できる人物を選びましょう。
リスク管理を専門とする部門の有無によって、リスク対策の実績は大きく変わります。
中小企業庁の委託を受けて、みずほ総合研究所が2015年12月に実施した「中小企業のリスクマネジメントへの取組に関する調査」の結果では、以下の表のように大きな差が生じています。
リスク管理部門あり | リスク管理部門なし | |
各種リスクを事前に防止できた割合 | 26% | 17.7% |
顕在化したリスクが想定内で事業への影響を抑えることができた割合 | 43.3% | 26% |
2.危機管理対策マニュアルの作成
リスクが顕在化した際に、誰がどのような手順で対処するかを具体的に示した危機管理対策マニュアルを作成しておきましょう。
危機管理対応マニュアルを作成したら、社内で共有し、万一の時に迅速に行動できるよう、関係者が内容を十分に理解しておくことが大切です。
また、昨今、カントリーリスクの勃発、為替変動、法規制の改正、感染症の流行やメンタルヘルスに問題を抱える従業員の増加など、外部要因・内部要因を問わず、リスクは刻々と変化しています。状況に応じたリスクに対応できるよう、マニュアルは定期的に見直すことが求められます。
新規事業のリスク分析やリスクマネジメントに関する相談先
先程ご紹介した「中小企業のリスクマネジメントへの取組に関する調査」では、新規事業が上手くいかなかった理由として、「社内で慎重な検討が行われない」「相談相手がいない」なども挙げられています。このような理由で新規事業が失敗に終わってしまうのは、非常に残念なことです。
社内でリスクマネジメント体制を構築するのが難しい場合は、企業法務に精通した弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。弁護士であれば、法規制に関するリスクや、コンプライアンスなどのオペレーショナルリスク等にも対応が可能です。
まとめ
今回は、新規事業を開始する際のリスク分析の必要性、新規事業におけるリスク、リスク分析の方法、リスク分析に役立つムワーク、リスクマネジメント体制の構築方法などについて解説しました。
新規事業を立ち上げる際は、リスク分析やリスクマネジメント体制の構築を行うことが非常に重要ですが、他にも取り組むべき重要な課題は多いかと思います。社内の人材のみで、リスク分析やリスク管理体制の構築を行うことが難しい場合は、社外の専門家に任せることを検討するとよいでしょう
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- ガバナンス関連、各種業法対応、社内セミナーなど企業法務
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