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更新日: 投稿日: 弁護士 原 央呂子

誹謗中傷の削除依頼の弁護士費用は?事例も紹介

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昨今、インターネットでの誹謗中傷が事件に発展するケースが増えています。個人をターゲットにしたケースでは、リベンジポルノ等に代表されるようなSNSに誹謗中傷の書き込みや投稿をして名誉棄損等で逮捕されるニュースがあります。一方、店舗や会社がターゲットにされると、風評被害によって会社の経営に大きな影響を及ぼしかねません。実際、新型コロナウィルスの感染者が訪れた店というデマが広がったために、閉店を余儀なくされた飲食店のニュースも記憶に新しいところです。

ネットの誹謗中傷は、一度書き込まれると急速に拡散し、なかなか消えないという特徴があります。営業妨害の書き込みを放置しておくと、誹謗中傷のデマに尾ひれがついて事態が悪化し、大きな風評被害に発展するリスクもあります。

今回はネットの誹謗中傷に対する対策について、事例や費用の目安を踏まえて解説します。

ネットの誹謗中傷でよくあるケースとは

SNSの普及により、ネットには真偽を問わず様々な情報があふれるようになりました。有益な情報に簡単にアクセスできる反面、特定の商品やサービスの安全性、質に関する情報が真偽不明のまま発信され、ユーザーの信頼や安心感に大きな影響を及ぼしています。ネット上の情報は、その拡散力の強さから短時間で不特定多数の人に情報が広まり、予想外の被害が生じる恐れがあります。

1.ネットで企業が炎上した実例

実際のケースでは、即席焼きそばにゴキブリが混入していたとして大学生がSNSに写真をアップした「即席焼きそばゴキブリ混入事件(2014年12月)」があります。
Twitterでゴキブリが混入した写真が投稿され、翌日それがニュースサイトに掲載され、さらにその翌日にはYahoo!トップに掲載されて急拡散し、会社が自主回収を発表するも収まらず、1週間後に全商品の製造中止と数十億円をかけた設備の刷新に至ったケースがありました。また、これにより、同名の別の企業の下にもクレームが殺到し、別会社である旨を周知しなければならない事態にも追い込まれています。

このように、報道がネットの拡散を加速させ、炎上を招くことでリスクを増幅させ、風評被害や社会現象を招いて会社の運営にも悪影響を及ぼす事態が現実に生じています。風評被害が広まると、会社側の対応も困難になります。そのため、事案の発生状況に応じた初動対応を迅速に行うこと、ネットにあがっているデマや誤情報に対しては早急に削除を図り、法的手段を検討して断固とした姿勢を示すことが非常に重要です。

2.ネットの誹謗中傷で生じうるケースとは

上記の即席焼きそばのケースは、ネットの投稿がマスコミ報道につながり、マスコミによる報道がさらに炎上を加速させた事案です。一方で、ネット上の根も葉もない情報が拡散・炎上して報道につながり、リスクを増幅させるケースもあります。

冒頭でご紹介した新型コロナウィルスの感染者が訪れた店であるというデマが拡散したために閉店に追い込まれた飲食店が、その一例といえます。

このほかにも、ネットでの誹謗中傷のケースには、以下のようなものがあります。ご自身の会社で該当するものがないか、一度ご確認ください。

  • 個人のブログに、会社に関する根も葉もない悪評が書き込まれている
  • 根拠のない情報がサイトやブログ等に書き込まれ、まとめサイトまでできている
  • SNSや掲示板に、会社の悪口や誹謗中傷が書き込まれている
  • 会社のHPに執拗な誹謗中傷のメールが送られてくる
  • Google等の検索サイトに会社名を入力して検索すると、関連キーワードとして「ブラック」等のネガティブなワードが表示される
  • 会社を退職した社員が、会社の悪口をブログやSNSで拡散している
  • クレーマーからネット上で誹謗中傷を受けている

ネットの誹謗中傷で弁護士ができる対策とは

ネット上にブラック企業と書き込まれている、ずいぶん前の不祥事がいまだにネットにあがっている、根も葉もないデマで誹謗中傷を受けている等の場合、弁護士に相談することで状況に応じた対策をとることができます。

  • 投稿者の特定
    SNSや掲示板では匿名の書き込みが可能なため、投稿者の特定が難しい場合も多いです。そのような場合でも、弁護士に依頼することにより、然るべき手段を講じて投稿者の特定が可能なケースがあります。
  • 削除請求
    ネット上の記事は削除しない限り残り続けます。また、情報がコピーされて更に拡散される恐れもあります。弁護士に依頼することでサイトの管理者や裁判所を通して、問題の書き込みの削除を求めていくことができます。
  • 投稿者への損害賠償請求
    投稿者が特定できた場合、誹謗中傷を受けたことで生じた損害について賠償を請求することができます。請求するには、誹謗中傷行為と生じた損害の因果関係の立証等や提出書類の作成等もあるので、弁護士に依頼することをおすすめします。
  • 刑事告訴
    投稿の内容によっては、刑事告訴できる場合があります。具体的には、デマの投稿によって営業妨害された偽計業務妨害罪(刑法第233条)が成立するケースや、退職者が会社等の社会的評価を下げるような悪口を書き込んだ名誉棄損罪(刑法第230条)が成立するようなケースです。これらを訴えて刑事処分を求める場合は、警察に被害届の提出あるいは告訴状の提出をしなければいけませんが、警察は内容に法的正当性がないと判断すると、被害届や告訴状を受理してくれないことも少なくありません。弁護士に相談して内容を精査しておくことで、警察からの対応がスムーズに進むケースは多いです。

誹謗中傷の相手の発信者情報開示請求

弁護士が取ることができる対応をご紹介しましたが、損害賠償の請求や刑事告訴をするためには相手の特定が不可欠です。そこで、ここでは請求の前提として、発信者を突き止めるための対応をご紹介します。

1.発信者情報開示請求とは

「発信者情報開示請求」とは、プロバイダに対して、ネット上で他人を誹謗中傷するような表現をした発信者の氏名、住所、登録電話番号等の情報を開示するよう求める制度のことをいいます(プロバイダ責任制限法第4条1項)。

ネット上の誹謗中傷で名誉を棄損されたり、会社の営業が妨害されたりした被害者は、加害者である発信者に対して、行為をやめるように請求する差止請求(商法第12条1項、会社法第8条1項、消費者契約法第12条等)や、不法行為に基づく損害賠償請求(民法第709条)、また刑事上の責任を追及することができますが、匿名の投稿で加害者を特定することは困難です。そのため、被害者がこれらの対応をとるために、発信者を特定する情報の開示請求が認められています。
開示請求が認められると、法務省令で定められた、「氏名」「住所」「メールアドレス」「発信者のIPアドレス等」「携帯端末のインターネット接続サービス利用者識別番号」「SIMカード識別番号」「発信時間」が開示の対象となります。

ただし、むやみに認めると、発信者の表現の自由等の権利を侵害しかねないため、発信者情報開示請求が認められるためには、次の5つの要件を満たすことが必要です。

  1. ネットのウェブサイトで誰もが閲覧可能になるような状態で発信されたこと
  2. 発信により権利が侵害された被害者(人、会社等の法人、権利能力なき社団等)が存在し、権利が侵害された事実があること
  3. 請求者に発信者情報を取得する正当な理由があること(削除請求や損害賠償請求、刑事告訴等の目的があること)
  4. 開示請求の相手方が、プロバイダ等サーバーの提供者や掲示板の管理者等の開示関係役務提供者に該当すること
  5. 開示関係役務提供者であるプロバイダ等が、法律上または事実上、情報を保有していること(情報を開示する権限を有していること)

発信者情報開示には強制力はありません。 なお相手が応じない場合は、裁判所を通じた仮処分の手続きが必要になります。

2.発信者情報開示請求の手続きの流れ

発信者情報の開示請求は、以下の5ステップで行います。

  1. 発信者の書き込み情報の保存
    誹謗中傷等の内容を、日時を含めて全て保存します。発信者が書き込みを削除することもあるので、確認したらスクリーンショット等で保存しておきます。
  2. サイトの管理会社に対するIPアドレス情報の請求
    書き込みが行われたSNSや掲示板の提供会社に、投稿者のIPアドレスを請求します。相手が応じない場合は、裁判所に発信者情報開示請求の仮処分を申し立てます。
  3. IPアドレスからプロバイダを特定する
    IPアドレスが取得できると、そのアドレスを「IP SEACH」に入力するとプロバイダが特定できます。
  4. インターネット業者(プロバイダ)へ情報開示請求の申立
    上記プロバイダに、発信者情報開示請求の申立を行います。通常、プロバイダ等のインターネット業者に対する開示請求は原則として訴訟を起こす必要があります。
  5. 判決
    発信者情報の開示が判決で認められると、インターネット業者から発信者情報が提供され、発信者が特定されます。

誹謗中傷の内容の削除請求

ネット上に誹謗中傷の内容が残っていると、コピーされて拡散が止まらなくなる等の事態が生じる可能性があります。そこで、誹謗中傷の書き込み内容を削除するために、次のような対策を取ることが考えられます。

1.削除請求の具体的対策

①フォームからの削除請求

SNSや掲示板の誹謗中傷を削除するのに、まずはフォームや問合せメール宛に削除請求をすることが考えられます。ただし、費用がかからない反面、管理者側が応じる可能性は低いと言わざるを得ません。
削除の依頼を弁護士に依頼することで、実効性が高まるケースもありますが、注意が必要なのは代行業者に依頼する場合です。弁護士や弁護士事務所ではない代行業者が報酬を得て削除依頼を行った行為が、弁護士法が禁止する「非弁行為」(弁護士しかできない行為を、弁護士でない人が報酬を得る目的で行う行為)に当たるとして無効と判断された事例があります。

②ガイドラインに基づく削除請求

一般社団法人テレコムサービス協会によるガイドラインに基づく「送信防止措置依頼」として削除請求する方法もあります。サイトの運営会社等に依頼書を郵送すると、会社側が発信者に対して書き込み削除に応じるかを問い合わせます。7日以内に反論がなければ削除されますが、削除の同意が得られなかった場合は、権利が侵害されていると信じるに足りる理由があるかをもとに会社側が削除の可否を判断します。比較的容易な方法ではありますが、権利の侵害を主張する際の資料添付は、法的知識がないと対応が難しい場合が多いです。

③削除依頼の仮処分

ネット上に上がっている誹謗中傷を削除するのに、サイトの運営会社等に対して記事削除依頼の請求の仮処分の申立を行います。前提として、発信者を特定するための発信者情報開示請求や民事訴訟を提起しておくこともあります。

2.削除請求手続きの流れ

サイトの管理者やプロバイダといった運営会社等が書き込みの削除に応じない場合には、裁判所に仮処分の申立てを行うという方法もあります。仮処分とは、裁判の途中で被害が拡大しないために、判決が出る前に一時的な対応を行うことを目的とした制度です。

仮処分を求めるためには、まず誹謗中傷等の情報がネットどの程度拡散されたのか、対象となる範囲を特定する必要があります。個人で行うのは難しいので、ITの専門家に依頼することになります。特定ができたら、書き込みされているサイトの運営会社等に、書き込み記事の削除依頼請求の仮処分申立てを行います。
しかし、サイトが放置されている等運営者側に連絡が取れない場合は、Googleに直接申立てを行うことで、その記事が表示されないようにすることができます。なお、Yahoo検索はGoogleと連動しているので、申し立てはGoogleに対して行えば反映されます。
Googleも申立てに応じない場合は、アメリカ本社のgoogle.Incに対して削除依頼の仮処分申立を行うことになります。

誹謗中傷で生じた損害を相手に請求できるか

ネットの誹謗中傷により損害が生じた場合は、書き込みの発信者を特定したうえで、損害賠償を請求することができます

請求できる金額はケースによって異なりますが、ネットに誹謗中傷を書かれたことで店や会社の売上が減少したような場合は、減少した売上分を損害として請求できるため請求額が高額になることがあります。また、プライベートな写真等をSNSや掲示板に流出して名誉を棄損されたような場合も、被った精神的苦痛に対する損害賠償として、高額の慰謝料を請求できる場合があります。

誹謗中傷対策を弁護士に頼んだ場合の費用の目安とは

ネットの誹謗中傷対策を弁護士に頼んだ場合、次のような費用がかかります。

  • 法律相談料
    着手前にかかる費用です。30分5000円程度が目安となります。
  • 着手金
    対応を依頼した段階で発生する費用です。対応の内容によっても異なりますが、サイトの運営会社に対して誹謗中傷の削除請求や発信者情報開示請求等を行ったような場合は5~10万円、裁判所を介して行った場合は20~30万円程度が相場です。
  • 日当
    裁判所や相手方と交渉に出向いた場合にかかる費用です。裁判に発展した場合は1日当たり3~5万円が相場です。
  • 報酬金
    裁判所を介さなかった場合は5~30万円、裁判を行った場合の最低料金は10万円程度が相場です。得られた損害賠償金の15~20%と、経済的利益に応じて報酬を決めているところも多いです。
  • 実費
    郵送費用や交通費等の費用です。

ネットの誹謗中傷対策を弁護士に相談するメリット・デメリット

ネットの誹謗中傷を放置していると、想定外の形で炎上し、会社の売上減少や顧客からの信用低下等の大きなリスクを負う可能性があります。弁護士に対策を相談することで、発信者情報の開示請求によって早期の対応を図ることができます。

仮処分請求はスピードを要すること、損害賠償の請求は生じた損害額の確定や原因となった誹謗中傷のとの因果関係の立証等、法的対応が必要になりますが、弁護士に依頼すれば書類の作成から裁判所への出廷までの全てを任せられるメリットがあります。

反面、デメリットとしては上記のような弁護士費用がかかることです。弁護士に依頼するかどうかは、書き込まれた誹謗中傷の程度、拡散の程度、生じたあるいは生じうる損害の程度によっても判断が異なります。

弁護士は、過去の豊富な裁判例等をもとに、問題になっている誹謗中傷の書き込みが招きうるリスクを踏まえたアドバイスをすることが可能です。ネットの誹謗中傷でお困りの方は、まずは弁護士に相談して、生じるリスクの程度と弁護士費用を検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回は、ネットの誹謗中傷対策について、過去の事例や実際に取るべき対応の手順等について解説しました。

ネットでの誹謗中傷は対応を誤ると、会社に大きなダメージを与えかねません。それだけに、現状を見極め、炎上を防いで被害を最小限に食い止めるための早期の対応が求められます。

東京スタートアップ法律事務所では、発信者情報開示請求や削除請求だけでなく、損害賠償請求までネットのトラブルや誹謗中傷に関わるトータル的なサポートが可能です。ネットの誹謗中傷をはじめとする相談等がございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 弁護士原 央呂子 神奈川県弁護士会 登録番号58899
「こんなことを弁護士に相談してもよいのかな」、と迷われる方もいらっしゃるかもしれませんが、病院への受診と同じく、法律問題も早期にご相談いただくことでよりスムーズに解決することもあると考えております。皆さまのご期待に添うことのできるよう、日々努力して成長することを心がけている。
得意分野
一般民事、刑事事件、国際事件、バイリンガル(日本語、英語)
プロフィール
京都府出身 英ブラッドフォード大学 卒業 上智大学法科大学院 修了 弁護士登録 東京スタートアップ法律事務所 入所