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投稿日: 弁護士 内山 悠太郎

スタートアップ企業が離職率を下げるための4つの施策

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スタートアップ企業の経営者の方にとって、従業員の離職率を下げることは大きな課題ではないでしょうか。スタートアップ企業は、従業員の人数が少ないため、従業員が退職した際に業務が滞る可能性が高いです。また、代わりの人材を採用する際の採用媒体への掲載など、採用コストが負担になることもあります。そのため、従業員を定着させて離職率を下げることは、安定した経営のために大切なことだといえます。

今回は、スタートアップ企業で多い離職理由、スタートアップ企業で離職率を下げるために効果的な施策などについて解説します。

スタートアップ企業の離職率

厚生労働省が実施している雇用動向調査によると、令和3年の離職率は13.9%でした。
離職率は、業種や企業規模によって差があります。企業規模別にみると、以下のような結果でした。

  • 従業員数1,000人以上:12.9%
  • 100~299人:19.8%
  • 30~99人:13.9%
  • 5~29人:11.4%

従業員数が29人以下の企業は、離職率が最も低いという結果でした。
ただし、中小企業・小規模事業者の採用後3年以内の離職率をみると、中途採用者では30%、新卒採用者だと40%を超えるデータがあり、特に小規模事業者の場合、新卒者の半数以上が3年以内に離職することが示されています。

これらは、スタートアップ企業に絞ったデータではありません。しかし、通常スタートアップ企業は小規模の人数で開始すること、若手社員の割合が高くなりがちなことからすれば、スタートアップ企業の若年層の離職率は概ね高いことが推察されます。

スタートアップ企業でよく言われる離職理由

スタートアップ企業でよく耳にする離職理由は以下の3つです。

1.人間関係が良くない

従業員数が少ないスタートアップ企業では、社内の人間関係がこじれると仕事のしづらさに直結します。そのため、人間関係に関する問題が原因で離職するケースは多いです。

特に、入社して日が浅い従業員は、仕事を進める上で上司や先輩を頼らなければならない場面も多いですが、その際にコミュニケーションが取りづらいと仕事がスムーズに進まず、ストレスを抱えることになります。ストレスが大きくなると、仕事に対するモチベーションが下がり、転職を考えることもあるでしょう。

2.労働時間や休暇に不満がある

成長過程にあるスタートアップ企業では、従業員一人が抱える仕事の量が多くなる傾向にあります。多くの仕事をこなすために、長時間労働を強いられて、プライベートの時間を確保できないことに不満を持ち、転職を考えるというケースも多いでしょう。

内閣府が公開している『平成30年版 子供・若者白書』の中の「就労等に関する若者の意識の調査」によると、「仕事よりも家庭・プライベート(私生活)を優先する」と回答した者は63.7%でした。平成23年度の調査時の52.9%から10%以上増えており、プライベートの時間を確保したいと考える若者が増加傾向にあることが明らかになりました。

スタートアップ企業では、一人が抱える仕事の量を減らすために新たな人材を採用しても、業務フローが固まっていないために、期待通りの効果が得られないこともあります。

3.給料が低い

スタートアップ企業は、大手企業と比較して経営基盤が弱いことが多く、十分な人件費を確保することが難しいのが実情です。厚生労働省が公開している『令和元年賃金構造基本統計調査(初任給)の概況』によると、大卒新入社員の初任給は、大企業の平均が213.1千円、中規模企業が208.6千円、小規模企業が203.9千円という差が生じています。

スタートアップ企業は、今後の成長に伴い昇給の可能性があるとしても、周りの友人と給与を比較して給料の低さに不満を持つようになるなど、離職のトリガーになる可能性もあります。

スタートアップ企業で離職率を下げるための施策

スタートアップ企業において離職率を下げることは、採用や人材育成にかかるコストの削減という観点からも重要です。
雇用形態などにもよりますが、採用媒体に採用募集広告を掲載した場合は通常1か月で10~30万円程度の費用がかかります。また、人材紹介の場合は年俸の30~35%が紹介料の目安です。また、新入社員が戦力となるにはOff-JT、OJTによる研修が不可欠なので、採用・育成部門を独自に持つことが難しいスタートアップ企業の場合、既存スタッフの負担は避けられません。

そのため、離職率を下げることはスタートアップ企業の成長にも重要な課題といえます。スタートアップ企業で離職率を下げるためには、具体的にどのような施策を行えばよいのでしょうか。

1.1on1ミーティングの実施

最近は、離職率を下げるために1on1ミーティングを実施する企業が増えています。
1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で行う面談のことをいいます。評価面談とは違い、上司は聞き役となり、部下が直面している課題の解決や、部下の目標達成を助ける役割を担うことが特徴です。
1on1ミーティングは、定期的に部下が上司に相談できる機会を設けることにより早期離職の防止に効果的だといわれています。

1on1ミーティングを行う際は、上司が1on1ミーティングの趣旨を十分に理解した上で、定期的かつ継続的に行うことが重要です。ミーティングでは、現在抱えている課題の状況、解決の方法、次に挑戦したいことなどを話し合います。また、プライベートの過ごし方や、将来のキャリアプランなどについても話をします。
1on1ミーティングでは、部下が進んで自分の考えを話せるように、上司は聞き役に徹することが大切です。実際、総合商社の子会社で実施された1on1ミーティングの検証実験によると、部下の発言の割合が高いほど部下が心理的安定性を感じ、自律的な行動の支援に有効であることが示唆されています。

2.マネジメントの見直し

現在、日本全国に事業所を設け、従業員数900人を超えるサイボウズ株式会社が、かつては離職率が高く、約3人に1人が辞めていく企業だったことをご存知でしょうか。同社では、離職率が28%と過去最高を記録した2005年以降、企業風土や評価制度などを見直して、働きやすさを重視した制度の導入や、従業員の意見や提案を積極的に取り入れる取り組みを行いました。その結果、現在の離職率は3~5%と非常に低く推移しています。

このように、若手社員を含めた全従業員が積極的に発言できる場を設ける、従業員の意見を聞きながらワークライフバランスに配慮した制度を導入する等の取り組みは、離職率を下げるために有効な施策といえるのではないでしょうか。

3.キャリアパスの提示

スタートアップ企業への就職を選択する若年層は、大手企業に所属するよりも、成長段階の企業において「自分の能力を発揮したい」「やりがいのある仕事にチャレンジしたい」などという気持ちが強い傾向にあります。

実際、中小企業庁が実施した『中小企業・小規模事業者の人材確保と育成に関する調査』(2014年12月)という調査では、中小企業が実施した人材定着の取り組みの内、「興味に合った仕事・責任のある仕事の割り当て」について、63.5%の企業が有効と回答しています。
そのため、企業の今後の展望を積極的に開示し、従業員の希望を聞いた上で会社における将来のキャリアパスを提案することは、離職率の低下につながるでしょう。

4.増益時の特別賞与の支給

給与・収入の低さは、多くの年代において離職理由の上位となっているので、給与の改定が可能な状況であれば、給与の改定を行うことも離職率の低減には有効です。

しかし、多くのスタートアップ企業では、人件費を抑えることも重要な課題となるため、基本給を上げるのは難しいかもしれません。基本給を上げるのが難しい場合は、決算時に増益した際に特別賞与を支給するとよいでしょう。
また、従業員に対して、会社の業績と将来的な昇給の見込みを説明するなどの姿勢を示すことも、社員のコミットメントを得ることにつながります。

入社・雇用前からできる離職率を下げる取り組み

従業員の離職率を下げるためには、従業員を雇用する前の段階から、入社後の「ネガティブ・ギャップ」を解消する取り組みを行うことが効果的です。ネガティブ・ギャップとは、給与・労働時間などの労働環境や企業が抱える問題など、入社前に分からなかった職場の実態が、入社後に現実となることで受ける精神的なダメージのことをいいます。「リアリティ・ショック」と呼ばれることもあります。早期離職が多い企業では、新入社員がネガティブ・ギャップを感じやすいといわれています。

入社前にネガティブ・ギャップを解消して離職率の低下を目指すための具体的な取り組みについて説明します。

1.インターンシップ制度の活用

インターンシップとは、主に就職活動を始める学生が、関心のある企業で実際に働く職業体験のことをいいます。一定期間就労する方法が一般的ですが、特定のプロジェクトやディベートへの参加などという方法もあります。

インターンシップの参加者にとっては、実際の業務を体験することで、業務の内容を理解し、職場の雰囲気を感じられるというメリットがあります。また、一定の社会常識やビジネスマナーなどを学べることから、就職活動を有利に進められるというメリットもあります。

企業側にとっては、優秀な人材を発掘、入社後すぐに戦力となる人材の育成というメリットが得られることに加え、ネガティブ・ギャップの解消による離職率の低下という効果も期待できます。ただし、インターンシップ参加者のフォローや情報漏えい防止対策など、従業員の負担が大きいというデメリットもあります。

2.RJP

RJPとは、Realistic Job Preview(現実的な仕事の事前開示)の略で、組織や業務内容について、良い面だけではなく悪い面も含めてリアルな情報を応募者に伝えることをいいます。1970年以降、米国で研究が進み、離職率を低下させて定着率を向上させる効果が確認されています。

従来の採用手法は、良い情報を応募者に伝えることで応募者の母集団を大きくし、企業が求める能力と個人の能力の適合を重視した採用を行います。これに対し、RJPでは、悪い情報も含めたリアルな情報を応募者に伝えることで、志望度の高い応募者に絞り込み、個人の能力や希望と、企業風土の適合を重視した採用を行います。これにより、応募者の企業への期待度が入社後も変わらないため、ネガティブ・ギャップの解消につながります。
具体的なRJPの導入方法としては、インターンシップやトライアル雇用のほか、企業説明会、会社見学、メディアの利用等があります。

まとめ

今回は、スタートアップ企業で多い離職理由、スタートアップ企業で離職率を下げるために効果的な施策などについて解説しました。

離職率を下げるために有効な方法は今回ご紹介した方法以外にも存在しますが、1on1ミーティングやキャリアパスの提示などは、スタートアップ企業でも取り組みやすいのではないでしょうか。
マネジメントの見直しも離職率を下げるためには効果的ですが、スタートアップ企業の経営陣は、優先度の高い仕事を多く抱えているため、本格的に取り組むのは難しいかもしれません。

東京スタートアップ法律事務所では、これまで数多くのスタートアップ企業をサポートしてきました。「離職率の低下が課題だと認識しているけれど、自社に合う方法がわからない」「離職率低下に向けた施策を考えたいけれど、本格的に取り組む時間がない」などのご相談にも対応しておりますので、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 弁護士内山 悠太郎 宮崎県弁護士会 登録番号59271
私は、学生時代はアルペンスキーとサーフィンに明け暮れておりました。そんな中で、弁護士を目指すにいたったのは、社会に役に立つための知識を身につけたいという単純な思いからでした。人や企業が困っている場面で手助けできるスキルを身につけて社会に貢献したいと考え、弁護士を志すに至りました。
得意分野
ガバナンス関連、各種業法対応、社内セミナーなど企業法務
プロフィール
埼玉県出身 明治大学法学部 卒業 早稲田大学大学院法務研究科 修了 弁護士登録 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社