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投稿日: TSL

下請けいじめとは?違法行為や罰則、発生した場合の対処法は?

下請けいじめとは?違法行為や罰則、発生した場合の対処法は?
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下請けいじめとは

下請けいじめとは、発注側の親事業者が自社の優越的な地位を濫用し、受注側の下請事業者に対し、一方的な納期の変更や代金の不当な減額を要求する等、下請事業者にとって不利な取引を押し付ける行為のことをいいます。

発注側が大企業・受注側が零細企業のような場合には、受注側が取引上相対的に弱い立場にあり、発注側の不当な要求にも泣く泣く応じざるを得ないケースが多々あります。

このような下請けいじめに該当する行為については、独占禁止法(独禁法)や、独禁法の特別法である「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)によって禁止されております。

下請法2条7項の「親事業者」に該当する企業としては、下請法の規制対象となる取引(物品の製造委託・修理委託、情報成果物作成委託・役務提供委託)を行う際に、下請法違反となる下請いじめに該当する行為をしないように注意する必要があります。

下請けいじめに該当する違法行為とは

下請法では、下請取引の公正化及び下請事業者の利益保護のために、親事業者による以下の11の行為が禁止されています(下請法4条)。

親事業者の禁止行為
下請法4条1項に該当する行為 下請法4条2項に該当する行為
①受領拒否の禁止 ⑧有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
②下請代金の支払遅延の禁止 ⑨割引困難な手形の交付の禁止
③下請代金の減額の禁止 ⑩不当な経済上の利益の提供要請の禁止
④返品の禁止 ⑪不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
⑤買いたたきの禁止
⑥購入・利用強制の禁止
⑦報復措置の禁止

以上の行為については、たとえ下請事業者の了解を得ていたとしても下請法違反となる点に注意が必要です。

同様に、親事業者が違法であることの認識を欠いていたとしても、下請法違反の違法行為となりますので、親事業者としては、上記の禁止行為に該当しない事業体制を構築することが重要といえます。

 下請けいじめの具体的事例

受領拒否

過去にあった受領拒否の事例として、親事業者の生産計画の変更を理由としたものが挙げられます。

親事業者が、下請事業者に計測器の部品製造の委託を行い、下請事業者がこれを受注し、部品を完成させました。

ところが、親事業者は、自社の生産計画を変更したという理由のみで、下請事業者に対し一方的に納期の延期を通知した上、当初定められた納期に部品を受領しませんでした。

この事例のように、下請事業者の責めに帰すべき理由(委託内容と異なる給付内容である場合や、給付内容に瑕疵がある場合等)がないにもかかわらず、成果物の受領を拒否する行為は、下請法4条1項1号で禁止される行為に該当し、下請けいじめに当たります。

下請代金の減額

その他の事例として、親事業者が、当初、発注日の2週間後を納期として設定していましたが、急に発注日から3日後に納入するように下請事業者に申し入れました。

下請事業者としては、従業員のマンパワーが足りないことを理由に断りましたが、親事業者はこれを考慮せずに納期の変更に固執しました。

下請事業者としては仕方なく変更後の納期に間に合わせるために最大限の努力をしましたが、人手不足からやむを得ず納期までに納入することができませんでした。

変更後の納期の2日後に下請事業者が納品しましたが、親事業者は、納期の遅れを理由として、下請け代金を一方的に減額しました。

この事例のように、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに下請代金を減額する行為は、下請法4条1項3号に違反する禁止行為に該当するものとして、下請けいじめに当たります。

下請法に違反した場合の罰則

下請法に違反する行為が疑われる場合、公正取引委員会及び中小企業庁がそれぞれ書面調査、立入検査を行う場合があります。

調査の結果、下請法違反が認められた場合には、違法状態の是正と再発防止を内容とする指導や、公正取引委員会による勧告を受けることになり、勧告となると原則として会社名が公表されることになります。

そして、下請法違反について、下請法10条から12条は罰則を定めており、最大で50万円の罰金となります。

罰金の対象となる違反行為は以下のとおりです。

  1. 書面(下請法3条1項)の交付義務違反
  2. 書類(下請法5条)の作成及び保存義務違反
  3. 下請法9条の報告徴求に対する報告拒否、虚偽報告
  4. 立入検査の拒否、妨害、忌避

なお、法人の従業員が法人の業務に関して違反行為をした場合は、行為者を罰するほかに、法人に対しても罰金が科される両罰規定が定められています(下請法12条)。

下請けいじめにあった場合の対処法

①親事業者との交渉

下請けいじめに遭ったとしても、単に、親事業者の取引担当者の下請法に関する知識や認識が不足していることが原因の場合もあります。

このような場合には、まずは企業間での交渉を行い、下請法違反について会社として指摘して改善を要求することで、下請けいじめに該当する行為の改善や再発防止について話し合いにより解決することができる可能性があります。

②ADR(裁判外紛争解決手続)を利用した解決

ADRとは、非公開の手続によって調停人(弁護士等)の裁定の下で企業が抱える取引上の紛争を簡易・迅速に解決するための調停手続のことです。

裁判とは異なり非公開で実施されるため、当事者の秘密が守られますし、調停開始から約3か月程度の短期間で終結することもあります。

下請けいじめについては、「下請かけこみ寺」という下請取引の適正化を推進することを目的として中小企業庁が全国48か所に設置したADR機関が存在しており、製造業や建設業を中心に、代金未払・減額や取引停止等の相談について広く受け付けています。

③公正取引委員会への申立

交渉やADRによる下請けいじめの改善が期待できない場合は、公正取引委員会に対し、下請法違反の事実について調査等の申立をすることが考えられます。

下請法に基づく調査の実施主体は公正取引委員会または中小企業庁です。

特に、公正取引委員会は、親事業者が下請法違反の行為をしていると認めるときは、親事業者に対し、速やかに下請事業者に不利益となる取扱いをやめるべきこと等の必要な措置について勧告することができます(下請法7条)。

公正取引委員会は、下請事業者等からの申立等を端緒として、親事業者に対する調査・検査を行い、違反事実に関する行政指導や勧告を行うか検討します。

この点について、公正取引委員会が調査に着手する前に、親事業者から違反行為の自発的な申出がされ、かつ、下請事業者に与えた不利益を回復するために必要な自発的な改善措置を採った等の事由が認められた場合は、勧告を行わないこととされております。

親事業者が勧告に従わない場合は独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令が行われることもありますので、公正取引委員会への申立がされるかどうかは親事業者にとって重大な関心事といえます。

④損害賠償請求

親事業者による下請けいじめによって、下請事業者に金銭的な損害が現に発生してしまった場合は、上記の手段と平行して、損害賠償請求を明確に行うべきでしょう。

公正取引委員会は、下請法違反の是正等に関する行政的措置を所管事務として行うものの、下請事業者に発生した民事上の損害についての解決を直接的に行うものではないため、親事業者による自発的な損害回復がなされない場合には、契約上の債務不履行、不当利得または不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが必要となります。

下請けいじめを防ぐ方法

下請けいじめに関するトラブルを防止するために、下請法では、親事業者に対し、各種の義務が課されています。

その一つとして、下請法第3条が定める「発注書面の交付義務」があります。

同条1項本文では、「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」と規定しており、従来発生していた口頭発注による様々なトラブル(発注内容の変更、支払遅延、代金減額等)を未然に防止しています。

発注書面(3条書面)に記載すべき事項は「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則」に定められていますが、そのうち記載が必須の項目は以下のとおりです。

  1. 親事業者及び下請事業者の名称
  2. 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
  3. 下請事業者の給付の内容
  4. 下請事業者の給付を受領する期日
  5. 下請事業者の給付を受領する場所
  6. 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、検査を完了する期日
  7. 下請代金の額
  8. 下請代金の支払期日

緊急やむを得ない事情があるときは、口頭(電話連絡等)で一旦注文内容を伝えることもあり得ますが、その場合でも、電話連絡後直ちに3条書面を交付しなければなりません。

東京スタートアップ法律事務所に依頼するメリット

下請けいじめに関するトラブルは、発注・納品・支払といった取引の一連の流れの各場面のいずれにおいても問題となるものです。

発注の場面では、発注書面の交付義務や支払期日を定める義務等が問題となり、納品の場面では、受領拒否の禁止が問題となります。

また、支払の場面では、支払遅延の禁止、下請代金の減額禁止等が問題となり、支払い後は返品の禁止や不当なやり直しの禁止等、取引の経過に応じて下請いじめに発展するリスクのある行為が潜在するものといえます。

当事務所は、スタートアップ企業を中心とした各種法律顧問業務の実績の中で、下請法違反が問題となり得るケースを扱った経験に基づき、取引の各場面で下請法違反となり得る事項を意識した上、適正な下請取引の実現に助力することが可能です。

まとめ

本記事では、下請いじめとは何か、下請法で禁止される行為の概要や具体例、下請いじめの対処法や防止方法について検討を行いました。

下請法では、親事業者による下請事業者に対する優越的な地位の濫用行為を防止するために様々な規制が定められているため、双方の事業者が日頃から下請法の内容・趣旨を理解した上で、公正な取引を実践することが重要です。

下請いじめに関するトラブルが発生する前に、下請法に詳しい専門家の助言を参考にしつつ、下請法違反防止のための自社体制を構築することが有益といえるでしょう。

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執筆者 -TSL -
東京スタートアップ法律事務所