支払督促の手続の流れ・取引先の売掛金回収に利用する場合の注意点
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支払督促の手続の流れ・取引先の売掛金回収に利用する場合の注意点
取引先からの入金遅延が続いている状況で、売掛金を回収するために支払督促を利用してみようかと考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。支払督促は、債務者からの異議申立てがない場合は迅速に勝訴判決と同じ法的効果を得られる便利な債権回収の手段として知られていますが、注意すべき点も多く、利用する際は慎重な検討が求められます。
今回は、支払督促の概要や法的効果、取引先に対する支払督促の申立て前に行うべきこと、支払督促の手続の流れ、支払督促完了後の強制執行手続の流れと注意点などについて解説します。
支払督促とは
まずは、支払督促の概要や法的効果について説明します。
1.債権回収のための略式の法的手続
支払督促は、売掛金等の支払いをしてもらえない場合に、債権者の申立てに基づき、簡易裁判所の書記官が債務者に対して金銭等の支払いを命じる略式の法的手続です(民事訴訟法第382条以下)。裁判所に出向くことなく、郵送やオンラインで書面を提出するだけで手続を行うことができ、申立手数料も訴訟の半額で済むため、便利な債権回収の手段として広く利用されています。
裁判所(書記官)の支払督促により、債務者が任意に支払いをしてこれば、回収作業は無事に終了です。他方、支払いをしてこなくても、債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議申立てをしなければ、勝訴判決と同様の法的効果を生じさせることが可能です。つまり、債務者の財産に対して強制執行をすることが可能になります。ただし、債務者が2週間以内に督促異議の申立てをした場合は、支払督促は効力を失い、通常の裁判に移行することになります。
なお、支払督促は、所在が分からない等行方不明の相手には利用できませんので、注意してください。
2.時効の完成猶予・更新の効果
売掛金等の債権には時効があり、一定期間が経過して時効消滅すると、その後は債権を請求できなくなります。時効期間は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれか早い方となります(民法第166条第1項)。なお、商事消滅時効(商取引により生じた債権の消滅時効期間を原則5年とする規定:旧商法第522条)は民法改正と共に廃止されたので、会社の商取引により生じた債権にも上記民法の時効期間が適用されますが、民法改正前に短期消滅時効に分類されていた一部の売掛金等のうち、2020年3月以前に発生しているものは、民法改正前の規定が適用され、5年より短い消滅時効にかかるので注意が必要です。
このように債権等が時効消滅すると、請求できなくなってしましますが、支払督促には、時効の完成を阻止する効果があります。具体的には、時効の完成猶予と更新です。
時効の完成猶予と更新の意味は、以下の通りです。
- 時効の完成猶予(旧民法の「時効の停止」)
時効期間経過前に一定の事由が発生した場合に、その事由が終了するまで(または一定期間)時効の完成を猶予すること
- 時効の更新(旧民法の「時効の中断」)
一定の事由において確定判決または確定判決と同等の効力のある決定がなされたときに、時効期間の経過がリセットされること
支払督促を行うことで、消滅時効を完成・猶予させることができます(民法第147条第1項第2号)。また、支払督促に対して債務者が期限内に異議を申立てることなく、支払督促が確定した場合、確定判決と同一の効力を有するため、時効が更新されます(同法同条第2項)。つまり、消滅時効をゼロにリセットできます。
取引先に対する支払督促の申立て前に行うべきこと
支払督促は裁判所に出向くことなく利用できる便利な手続ですが、取引先からの入金が遅延している場面で安易に利用することはおすすめできません。支払督促の申立ての前に行うべきことについて説明します。
1.入金遅延の理由を確認
取引先からの入金が遅れた際、まずは自社内で入金遅延の理由を確認しましょう。請求漏れや請求金額の相違など、自社内の事務処理等に問題がある可能性もあります。自社内の事務処理に問題がないことが確認できた場合、取引先の担当者に連絡して、入金が遅れている理由を確認しましょう。単なる事務処理上のミスなどにより入金が遅れているという可能性もあります。通常の裁判に移行した場合に備え、取引先の担当者に連絡する際は、電話で入金遅延の理由を確認した上で入金予定日を確認し、その後、履歴が残るメールなどで入金予定日を再度確認しておくことをおすすめします。
2.内容証明郵便で催告書を送付
入金予定日を過ぎても入金がない場合、できる限り早いタイミングで、担当者に連絡をして確認をしてください。入金遅延の理由が資金繰りの悪化である場合、その取引先は倒産間近の可能性もあります。その場合、早めに法的な手続をとらないと売掛金を回収できないおそれもあるため、迅速に行動することが大切です。
債権回収に向けた行動の第一歩は、内容証明郵便で催告書を送付することです。内容証明郵便とは、誰から誰宛に、いつ、どのような内容の郵便を送付したのかを郵便局が証明する制度です(郵便法第44条1項、同第48条、内国郵便約款第120条以下)。内容証明郵便自体に法的効力はありませんが、訴訟等の法的紛争の場で有力な証拠となるため、法的手段を講じる一歩手前の段階で用いられることが多いです。
催告書には「期限内に支払いに応じない場合は法的措置を講じる」旨を記載します。このように記載することにより、相手に「支払わないと訴えられる可能性がある」と認識させて、支払いを促す効果が期待できます。実際、電話やメールでの支払い催促を何度しても無視されていたのに、内容証明郵便を送った途端、入金してもらえたなどというケースは少なくありません。
内容証明郵便の詳細、催告書の記載内容や注意事項などについて知りたい方はこちらの記事を参考にしていただければと思います。
3.支払督促を選択すべきか検討する
内容証明郵便を送付しても、支払いに応じてもらえない場合、支払督促を行うべきか検討してもよいでしょう。支払い督促以外の手続きとしては、民事訴訟(少額訴訟含む)・民事調停があげられます。このうち、支払督促は簡単に利用できる手続ですが、注意すべき点もあり、慎重な検討が求められます。
まずは、支払督促の申立てを行う裁判所を確認しましょう。支払督促は、債務者の所在地を管轄する簡易裁判所に申立てる必要があります(民事訴訟法第383条)。所在地は必ずしも取引先の本社である必要はなく、対象となる債権(売掛金等)が支店や営業所の業務により生じたものである場合は、その支店や営業所を管轄する簡易裁判所に申立てることも可能です。ただし、取引先から異議を申立てられて通常訴訟に移行した場合、取引先の所在地を管轄する裁判所で訴訟が行われるため、管轄の裁判所が遠方にある場合、裁判所へ出廷するだけでも時間的にも経済的にも大きな負担を強いられる可能性があるという点には注意して下さい。
また、異議がだされて通常訴訟に移行した場合、民事訴訟を選択した場合と比べ、時間がかかる場合もあります。
督促異議は、売掛金の存在や金額に関する認識が違っている場合だけではなく、分割払いや支払い期限延長を交渉するために行われる場合もあります。異議を申立てられる可能性や異議の申立てを受けた後の対応なども十分に考慮した上で、債権回収の手段として支払督促を選択するかどうか決めるとよいでしょう。
支払督促の手続の流れ
支払督促を行う場合の準備から仮執行宣言付督促を取得するまでの手続の流れについて説明します。
1.必要な書類の準備
まずは、支払督促の申立てに必要な書類を準備しましょう。主な必要書類は以下の通りです。
- 支払督促申立書(所定の金額の収入印紙を貼付したもの)
- 当事者目録の写し
- 請求の趣旨及び原因の写し
- 郵便ハガキ
- 資格証明書(債務者(相手方)が法人の場合)
- 委任状(弁護士に依頼する場合のみ)
支払督促申立書の書式裁判所の公式サイトからダウンロードできます。記載例も掲載されているので、参考にするとよいでしょう。請求の趣旨や原因については、支払いを求める債権の額や債権が存在する理由等を記載します。支払督促を申立てる段階では、債権が成立したことを示す証拠は不要ですが、後に訴訟に発展する可能性も考慮して、契約書などの証拠を確保しておくことをおすすめします。
2.支払督促の申立て
必要書類を準備できたら、簡易裁判所へ支払督促の申立てを行います。前述した通り、申立先は、債務者(取引先)の本社または対象となる債権が発生した支店や営業所の住所を管轄する簡易裁判所です。申立先や必要書類の詳細を知りたい方は、裁判所の公式サイトでご確認下さい。
簡易裁判所から支払督促の申立てが認可されると、簡易裁判所から債務者(取引先)に対して支払督促に関する通知が届きます。この通知には、債務者が異議を申立てるための督促異議申立書も同封されています。
3.仮執行宣言の申立て
債務者が通知を受け取ってから2週間以内に異議を申立てなかった場合、債権者は2週間目の翌日から30日以内に仮執行宣言の申立てを行う必要があります。30日以内に仮執行宣言の申立てを行わないと、支払督促は失効するため注意が必要です。仮執行宣言の申立ての書式や記載例については裁判所の公式サイトでご確認下さい。
4.仮執行宣言付支払督促の取得
債権者からの仮執行宣言の申立てを受けた簡易裁判所の書記官は、内容を審査した上で問題がなければ、仮執行宣言付支払督促を発付します。仮執行宣言付支払督促が発付されると、債権者と債務者の双方に仮執行宣言付支払督促正本が送達されます(民事訴訟法第391条2項)。
そして、債務者は、仮執行宣言付支払督促正本を受領した日から2週間以内に督促異議の申立てをすることができます。債務者からの異議申立てがなく2週間経過すると、支払督促が確定し、確定判決と同一の効力を有することになります(同法第396条)。
支払督促が確定すると、債権者は仮執行宣言付支払督促に基づき、債務者の財産に対する強制執行ができるようになります。仮執行宣言付支払督促は債務名義の一つです。債務名義とは、債権の存在を公的に証明する書類のことで、強制執行の申立ての際に必要となります。
支払督促完了後の強制執行手続の流れと注意点
支払督促後に、債務者から任意に支払いがあれば問題ないのですが、支払いをしてこない場合は、別途債務者の財産に対する強制執行手続き(財産差し押さえ等)をとる必要があります。そのため、次に支払督促手続完了後に、債務者(取引先)の財産に対して強制執行を行う際の手続の流れについて説明します。
1.仮執行宣言付支払督促の送達証明申請
強制執行のためには、債務名義の謄本もしくは正本が債務者に届いていることが必要です。そのため、まずは裁判所に対し仮執行宣言付支払督促正本の送達証明申請を行いましょう。送達証明とは、債務名義を債務者に対して送達したことを強制執行の執行機関に証明する書類をいいます。
送達証明申請は、仮執行宣言付支払督促を発行した裁判所に対して行います。この際、収入印紙代として150円が必要となります。申請に用いる送達証明申請書の書式は、裁判所のホームページからダウンロードすることが可能ですので参考にしてください。
2.強制執行の申立て
強制執行の対象となる財産にはいくつか種類がありますが、取引先の売掛金などの手続の際は、債権執行と呼ばれる方法がとられるのが通常です。債権執行とは、債務者の持つ債権(売掛金等)を差押えることにより債権を回収する手続をいいます。
強制執行の際は、差押えの対象となる債権や財産を債権者にて調査・特定しなければなりません。例えば、取引先が保有する売掛金債権を差押さえる場合、第三債務者(債務者に対する債務を負う者)、金額、支払時期などの詳細を把握しなければなりません。
差押えの対象となる債権や財産が確定できたら、差押命令申立を行います。債権執行における差押命令申立の際の必要書類は以下のとおりです。
- 申立書
- 当事者目録
- 請求債権目録
- 差押債権目録
- 資格証明書(債権者・債務者・第三債務者が法人の場合)
- 仮執行宣言付支払督促
- 送達証明書
この際、申立費用として7,000円(手数料4,000円、郵券切手3,000円)が必要です。
書類の提出先は、債務者の住所を管轄する裁判所となります。
3.強制執行に関する注意点
強制執行をしようとしても、債務者である取引先が非協力的な場合、差押えの対象となる債権・財産を把握することが困難です。また、強制執行の段階で財産が既に処分されている場合もあります。そのため、最終的な目標である債権回収が成功しない場合も少なくありません。確実に債権回収を実現するためには、できる限り早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、支払督促の概要や法的効果、取引先に対する支払督促の申立て前に行うべきこと、支払督促の手続の流れ、支払督促完了後の強制執行手続の流れと注意点などについて解説しました。
取引先の売掛金を回収する手段を選択する際は、取引先との関係、取引先の財務状況、売掛金の金額等を考慮しながら最適な手段を検討することが大切です。判断が難しい場合は債権回収に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
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- 一般民事
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- 名古屋大学法学部法律政治学科 卒業 名古屋大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内法律事務所 勤務 東京スタートアップ法律事務所 入所