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投稿日: 弁護士 林 洋輔

リーガルチェックとはどういう意味?メリットや必要性、実施の流れについて解説

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記事目次

リーガルチェックとは何か?

リーガルチェックは契約書の内容を法的な視点で検証することです。

ビジネスにおいて契約書は多くの取引で使用されますが、専門家でなければ理解が難しい部分もあります。

リーガルチェックは契約書が違法な内容になっていないかどうかや、無効な条項が含まれていないか等を確認するために、弁護士や法務部門などによって行われます。

ビジネスにおいては重要な手続きであり、トラブルを未然に防ぐために欠かせません。

リーガルチェックの目的は合意内容の明確さや意図した効果の実現、書面からの予期せぬリスクの特定など、法的な視点から契約書をチェックすることです。

リーガルチェックが重要な理由

リーガルチェックを怠った場合、深刻なトラブルが発生する恐れがあります。

契約書作成時に法的な専門家の助言を得ずに進めると、法令違反や無効な条項が含まれるリスクが存在します。

これによって取引相手との信頼関係が損なわれ、契約の有効性にも影響が及ぶ可能性があります。

また、既存のテンプレートに依存していても安心はできません。

法律は絶えず変化しており、古いテンプレートの使用によって不備やリスクが生じることも考えられます。

さらに、相手から提供された契約書に対してリーガルチェックを怠ると、不利益な条件での契約締結や重大な損害を被る可能性があります。

一方的な不利益を受け入れることになり、自社の利益や権益が損なわれるかもしれません。

リーガルチェックは法的視点から契約書を検証する重要な手続きであり、トラブルを未然に防ぐために欠かせません。

専門家の助言を受けることで、違法行為やリスクを回避し、健全かつ安全なビジネス取引を実現することが求められます。

リーガルチェックを実施するメリットは?

1. 実際の取引状況に対応した契約書が作成できる

リーガルチェックを通じて、取引の具体的な状況に基づいた契約書を作成することが可能となり、これによりリスクを事前に回避できます。

一般的なひな型の契約書では、取引の詳細に対応できない場合があります。

支払条件なども、標準的な表現ではなく、取引の状況に合わせて調整することが適切な場合があります。

取引の実情に基づいた契約書を作成しないと、取引の流れが不明確になり、取引中に発生する問題に対応できないリスクが高まる可能性があります。

2. 契約が無効になることを防止できる

リーガルチェックを実施することで、違法や無効な条項を見つけて修正し、契約が無効になるリスクを避けることが可能です。

公序良俗に反する行為や、消費者契約法や借地借家法などの強行法規に違反すると、契約全体または一部が無効になる可能性があります。

契約が無効になると、当事者にとって予想外の結果をもたらし、相手方とのトラブルを避けることができなくなります。

そのため、リーガルチェックを行い、事前にこれらの問題を防ぐことが重要です。

3. 自社に不利な条項や欠けている条項を早期発見し、修正提案ができる

リーガルチェックを活用することで、自社に不利益となる契約条項を事前に特定することが可能です。

相手方から提出される契約書には、しばしば相手方に有利な条項が含まれていることがあります。

リーガルチェックでは、これら自社にとって不利な条項を発見し、合理的な理由を添えて修正案を提示することで、契約交渉を助けます。これにより、自社の利益を守ることができます。

4. 当事者間の認識の食い違いを早期に発見し、紛争を回避できる

リーガルチェックを通じて、法務担当者や弁護士が不明確な点を部署担当者や相手方に問い合わせることで、契約内容の曖昧さを解消できます。

リーガルチェックを行うことで、不明瞭な表現や誤解を招く用語のチェック、そして理解の共有を通じたコミュニケーションが生まれます。

これにより、当事者間の認識の違いから生じる紛争のリスクを事前に回避することが可能となります。

リーガルチェックの一連の流れ

リーガルチェックの手続きは以下の通りです。

  1. リーガルチェックの依頼を受ける
  2. 契約内容を理解する
  3. 契約書ドラフトの修正点を特定する
  4. チェック結果を担当部署に報告する
  5. 契約を締結する

自社の法務部門で完結させることも可能ですが、新規の契約や相手方が作成した契約については、安全のため外部の弁護士にもチェックを依頼することが推奨されます。

①リーガルチェックの依頼を受ける

リーガルチェックは、営業部門などからの契約書チェック依頼から始まります。

受け取った案件は、業務の状況や過去の経験を考慮し、適切な法務担当者に割り振ります。

効率的な割り振りのために、リーガルチェックの受付窓口を一元化することが推奨されます。

依頼を受けた際には、担当部署から案件の概要を聞き出す必要があります。

具体的には、取引の目的と背景を理解することが重要です。

これは、取引の目的や背景により、必要な修正コメントが変わる可能性があるからです。

効率的なヒアリングのために、契約審査依頼用のフォーマットやデータベースを作成し、必要な情報を記入してもらうことも有効です。

適切なリーガルチェック受付方法は、会社の状況により異なるため、最適なフローを見つけることが重要です。

②契約内容を理解する

リーガルチェックを行う法務担当者は、まず契約内容を理解する必要があります。

ただ読み進めるのではなく、重要なポイントを把握し、契約全体の概要を理解することが重要です。

具体的な手順は以下の通りです。

  1. 契約に基づく取引内容の確認(例:プログラム制作の業務委託契約)
  2. 取引要素の記載条項の確認(例:委託業務内容、発注・受注方法、納期、報酬の決定方法等)
  3. 当事者の権利義務の記載条項の確認(例:受託者の義務に関する条項)
  4. 一般条項の確認(例:契約期間、損害賠償、秘密保持義務、反社会的勢力の排除、合意管轄等)

また、過去の関連契約がある場合は、その契約との関連性を理解するためにも早めに確認しておくことが推奨されます。

③契約書ドラフトの修正点を特定する

契約書の全体像を理解した後、修正が必要なポイントを特定します。主な修正ポイントは以下の通りです。

  1. 明らかに自社に不利な条項:法律や実務スタンダードに基づき、自社に不利な条項は修正を要求します。
  2. 自社のひな形と異なる内容・水準の条項:オペレーションの一貫性を保つため、自社のひな形と異なる条項は修正が望ましいです。
  3. 法令違反の条項:強行規定に違反する条項は無効となるため修正が必要です。また、業法による義務事項が欠けている、または不正確な場合も修正が必要です。
  4. 形式的な不備:誤字・脱字、表記揺れ、条項のズレ、段落の不整合などは、気付いた方が修正します。

相手方の反発が予想される修正については、その理由を詳細に記述します。

理由が合理的であれば、相手方も受け入れやすくなります。

④チェック結果を担当部署に報告する

修正コメントが完了したら、結果を担当部署に報告します。

営業担当者などは法的な知識が必ずしも豊富でないため、修正が必要な理由を、法的な背景を理解していない人でも分かるように説明することが重要です。

通常、契約交渉は法務部門ではなく担当部署が行います。

そのため、相手方にどのように修正を依頼するかについても、法務担当者から具体的な提案をすることが望ましいです。

リーガルチェックでは、相手方向けの修正コメントと担当部署向けの確認コメントを使い分け、担当部署とのコミュニケーションを通じて、返送するファイルを完成させます。

契約書を相手方に返送する前に、法務部門と担当部署間での認識の齟齬を解消することが必要です。

⑤契約を締結する

コメントのやり取りを経て全体的な合意に達したら、最終版の契約書を作成します。

最終版では、誤記や表記揺れなどの形式的な不備を含め、完全な契約書を作成する必要があります。

法務部門と担当部署が丁寧にチェックし、不備がないことを確認します。

また、交渉段階のファイルと混同しないよう、ファイル名などを工夫し適切にバージョン管理を行います。

契約締結は、署名や電子署名を用いるなど、方法は様々です。どの方法を選択するかは、営業担当者を通じて相手方と調整します。

契約締結後の契約書は適切に保管・保存します。

書面でも電子契約でも、アクセス可能な範囲を最小限にし、情報セキュリティを確保します。

リーガルチェックの際の注意点とリスク

①不明確な用語の確認

リーガルチェックを行う際、法務担当者は曖昧な専門用語や業界用語を明確な表現に修正することが重要です。

契約書には特定の業界や企業固有の用語が含まれることがあります。

しかし、これらの用語が明確でない場合、当事者間の合意内容に誤解が生じ、契約の対象となるサービスや製品についての認識にも違いが生じる可能性があります。

これらの誤解は、代金の未払い、製品の引き渡し拒否、さらには訴訟などのトラブルを引き起こす可能性があります。

複雑な業界用語は「なんとなく理解した」と進めてしまうこともありますが、リスク管理の観点から、曖昧な理解は避けるべきです。

②法令や判例の調査

リーガルチェックには、関連する法令や判例の調査が不可欠です。

契約条項に明記されていない事項は、法令や判例に基づいて処理されます。

したがって、取引に適用可能な法令や判例を理解しておくことは重要です。

また、法令に違反する契約条項がある場合は修正が必要となるため、法令や判例の調査は大切です。

自社の製品やサービスについては、ひな形作成時にこれらの調査を行いますが、相手方から提供された契約書については、受領後に詳細なチェックが必要です。

③不利な条項や抜け漏れのチェック

ベンダーや専門業者から提供される契約書は、多くの場合、相手方に有利な条項が含まれています。

そのため、自社にとって不利で不合理な条項を確認し、必要に応じて修正や削除を行い、取引条件が公平になるようにすることが重要です。

さらに、契約書の条項に不足や抜け漏れがないかを確認し、取引条件を明確に記述するべき箇所が省略されていないか、法令や判例に基づいて記述すべき条件が適切に含まれているかを確認し、必要に応じて追記します。

④関連契約書との整合性の確認

新たな契約を締結する際には、過去に結ばれた関連契約との間に矛盾がないかを確認することが重要です。

関連契約と内容が衝突する、または過去の契約変更を見落としてしまうと、業務遂行に問題が生じる可能性があります。

また、業界によっては法律違反のリスクも生じることがあります。

したがって、新規契約書のリーガルチェックを行う際には、過去に締結した関連契約全てを確認し、整合性を保つことが求められます。

⑤トラブル予防の視点を持つ

リーガルチェックの際には、将来的なトラブルを予見し、それを防ぐための視点が必要です。

損害賠償条項や契約解除・途中解約条項、機密保持義務の範囲等は、トラブルを未然に防ぐために重要な要素です。

また、万が一トラブルが発生した場合の対応手順も明確に契約書に記載しておくことが重要です。

機密保持契約、売買契約、ライセンス契約など、契約の種類に応じて、トラブルの予防と対応の観点から契約内容を確認し、適切な内容になっているかをチェックしましょう。

⑥取引の目的と実態に合致した内容か確認する

契約書が自社の目的や取引の実態に即した内容になっているかを確認することが重要です。

これには、関係部署からの十分な情報収集やヒアリングが必要です。

取引の目的や実態と契約内容が一致していないと、取引の進行に曖昧さが生じ、トラブルが発生した際に適切な対応ができない可能性があります。

契約内容と取引の目的・実態との間に疑問がある場合は、関係部署に対して詳細なヒアリングを行い、問題を解決しましょう。

リーガルチェックを実施する契約書の例

秘密保持契約書

秘密保持契約書は、ビジネスの中で重要な役割を果たします。

この契約書は、企業間の取引やパートナーシップ、新製品の開発、従業員との関係など、機密情報が関与するさまざまな状況で使用されます。

契約書には、どの情報が機密であるか、その情報をどのように取り扱うべきか、情報が漏洩した場合の対処法などが詳細に記載されます。

また、情報の使用目的を明確に定め、その目的以外での使用を禁止する条項が含まれます。

これにより、情報の不適切な使用や漏洩を防ぎ、ビジネスの安全性と信頼性を保つことができます。

売買契約書

売買契約書は、売主と買主間で商品やサービス等の売買取引を行う際に作成する重要な文書です。

この契約書は、取引の目的、価格、危険負担や保険、引き渡し方法など、売買に関する詳細な条件を明確に定めます。

契約書の内容が不十分であると、取引が実行できなくなる可能性があるため、これらの条件に抜けや漏れがないか、しっかりとチェックする必要があります。

また、契約書は、取引の内容を事前に明らかにし、トラブルを未然に防ぐ、またはトラブルが発生したときのリスクを最小限に抑えるという役割も果たします。

特に、取引金額が高額である場合や企業間の取引では、売買契約書を必ず作成するのが一般的です。

業務委託契約書

業務委託契約書は、特定のサービスを提供するための契約書で、ソフトウェア開発、コンサルティング、販売、人材紹介、研修などの業務を委託する際に使用されます。

サービスの種類は多岐にわたるため、サービスの性質に応じた条項が適切に設けられているか、また、業務委託に伴う著作権の帰属など、重要な内容が明確に記述されているかが重要なポイントとなります。

これらの要素が不明確な場合、契約の適用やトラブルの解決が困難になる可能性があります。

基本契約書

基本契約書は、反復取引の基本条件を定める契約書で、資材取引やサービス提供などの基本条件を明記します。

基本契約書があると、個別の取引は簡略な個別契約書で進行可能となり、取引がスムーズになります。

基本契約書は長期的な取引の条件を決めるため、作成や受け入れ時には入念なチェックが必要です。

また、個別契約書のレビューでは、基本契約書との関係性も重要なレビューポイントとなります。

リーガルチェックの依頼先について

社内法務部

自社の法務部門や法務担当者は、企業の法的な問題を取り扱う重要な役割を果たします。

具体的には、契約書の作成やチェック、取引先との交渉、法的な問題が起きたときの対応などを行います。

また、自社の事業内容や取引を深く理解しているため、情報共有やリーガルチェックが迅速に行えます。

さらに、緊急の対応が必要な場合でも、法務部門はビジネスの要求に即した対応を可能にします。

しかし、法規制への対応や新ビジネスの論点整理など、法的に難しいポイントを含む場合や、M&Aなどの複雑で多額の取引の場合などは、法務部門だけでなく、外部の弁護士のレビューを受けることも一般的です。

また、法務部門では、自分の部門だけでなく、他部署との連携や弁護士との協力も必要とされます。

そのため、法律の知識だけでなく、コミュニケーション能力も求められます。

外部の弁護士へ依頼

外部弁護士にリーガルチェックを依頼することは、法律の専門家からの客観的な視点でのアドバイスを得られる大きなメリットがあります。

これにより、契約書の有効性が高まり、潜在的なトラブルを未然に防ぐことが可能となります。

また、社内に法務部がない場合や、契約内容が複雑な場合には、外部弁護士に契約書レビューを依頼することで、適切な法的対応を確保できます。

これらのメリットを活かすことで、ビジネスの進行をよりスムーズに、そして安全に進めることが可能となります。

リーガルチェックを弁護士へ依頼するメリット

1. 自社の法務機能を強化できる

リーガルチェックは企業の法務機能を強化する重要な手段です。

法令の専門知識を持つ我々弁護士が契約書のチェックを行うことで、法令の最新の変更に対応し、企業の法務部門が抱えるリスクを軽減します。

また、弁護士が法務部門と連携することで、企業の法務機能全体が強化され、企業のビジネス戦略に対する法的な支援をより効果的に提供できます。

2. 必要なときだけ依頼できる

法務部門の業務量は一定ではなく、時期によって変動します。

弁護士にリーガルチェックを依頼することで、企業は必要なときだけ専門的な法的支援を得ることができます。

これにより、企業は人員の確保や教育にかかるコストを削減し、そのリソースを他の重要な業務に集中することができます。

3. 一定水準の法務審査が担保される

弁護士がリーガルチェックを行うことで、一定の品質と専門性が保証されます。

契約書のチェックには専門的な知識と経験が必要であり、弁護士はその両方を持っています。

したがって、弁護士にリーガルチェックを依頼することで、企業は契約書が法令に適合していること、または法的な問題を事前に特定し対処することが保証されます。

4. トラブル発生時の対応がスムーズとなる

弁護士は法的なトラブル解決の専門家です。

したがって、法務部の役割を弁護士にアウトソーシングすることで、トラブルが発生した場合の対応がスムーズになります。

弁護士は、法的な問題を解決するための戦略を立て、適切な法的手段を選択する能力を持っています。

これにより、企業は法的な問題を迅速かつ効果的に解決することができます。

リーガルチェックを弁護士に依頼する際の費用相場

リーガルチェックの費用は契約内容や依頼する弁護士により変動しますが、一般的には1件あたり5~15万円程度が相場です。

基本的な契約書の場合、費用は約5万円ですが、業務委託契約書など複雑な契約書では10~15万円程度かかることがあります。

しかし、弁護士と顧問契約を結べば、毎月の顧問料と引き換えにリーガルチェックの費用を抑えることが可能です。

顧問契約の相場は月額5万円程度で、リーガルチェックの費用は月10件まで3~10万円、月10~20件で10~20万円程度です。

継続的にリーガルチェックが必要な場合は、顧問契約がおすすめです。

まとめ

「リーガルチェック」は、契約書の法的確認とアドバイスを提供する重要なプロセスです。

違法や無効な契約は企業の信頼を損なうため、トラブルを未然に防ぐためには専門家によるチェックが必要です。

日本企業の契約書には「誠実に協議して解決を図る」条項が多く見られますが、これでは責任や賠償義務が不明確で、裁判に発展することもあります。

企業が信頼を獲得し、ビジネスをスムーズに進めるためには、リーガルチェックにより契約書に防止策や解決策を盛り込むことが重要です。

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執筆者 弁護士林 洋輔 福岡県弁護士会 登録番号58414
弁護士になる以前はジャズの演奏家として活動していたが、より多くの方々の人生やビジネスに直接関わる仕事をしたいと感じるようになり、心機一転して弁護士を目指す。弁護士登録後は都内の法律事務所でベンチャー・スタートアップ支援を中心とする企業法務全般をメインとしつつ、家事事件や一般民事等についても多様な案件を扱う。これまでの経験を通じて「本当に求めていることは何なのか」を明確にしていくことに注力している。
得意分野
企業法務、スタートアップ・ベンチャー法務、男女問題、一般民事
プロフィール
福岡県出身 九州大学法学部 卒業 九州大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社