人事・労務CATEGORY
人事・労務
更新日: 投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

解雇した元従業員から「不当解雇だ!」と言われた際の対処方法

東京スタートアップ法律事務所は
全国14拠点!安心の全国対応

働き方改革が進む中で、労働問題に年々注目が集まっていますよね。

IT業界は他の業種と比較して離職率が高いのは事実であり、その原因が労働環境の過酷さにあるケースも多いようです。

また、業績によっては人員整理しなければならないケースもありますが、これを行った結果、不当解雇を理由に訴えられることもあります。

では、実際に不当解雇を理由に訴えられた場合には、会社側はどのような対処をすればよいのでしょうか?
今回は、不当解雇を理由に訴えられた場合の対処法について詳しく解説します。

不当解雇とは?

不当解雇について考える前提として、そもそも「解雇」とは一体どのようなものなのかについて解説します。

1. 解雇とは?

一般的に、会社は雇用条件等を記載した雇用契約書を従業員との合意のうえ交わします。
雇用契約書の作成は会社の義務とはされていませんが、労働条件通知書については労働者に交付する義務があります。

企業側では就業規則を作成していることが多く、就業規則には懲戒に関する規定が盛り込まれているのが一般的です。
企業の秩序を維持するという目的から、使用者に対しては懲戒権が認められており、その基準を就業規則内で規定するという形になっています。

一般的に、懲戒に相当する行動と考えられているのは、以下のようなものです。

  • 遅刻、欠勤を繰り返す
  • 就業時間内に無断外出する
  • 機密情報を外部に漏らす
  • 就業時間内に副業を行う
  • 会社に損害を与える行動を取る

従業員にこれらの行動がみられる場合でも、もちろんケースによって重大さが異なりますので、遅刻欠勤を繰り返す従業員がいる場合はいきなり厳罰ではなく最初は懲戒の内容も軽いものを適用して、それでも改善がみられない場合は重い懲戒を適用するのが一般的です。

懲戒については、以下のような内容のものが規定されることが多いです。

戒告 当人に、いましめを言いわたすもの(口頭での注意レベル)
譴責 悪い行いや過失などをいましめて責めること(より重い口頭での注意)
減給 一定の期間で一定の割合において賃金、俸給等を減額する処分。労働基準法第91条では、1日分の給与額の半額が限度額と規定されている
出勤停止 労働契約を継続しながら労働者の就労を一定期間禁止する処分。停止中は私生活までは制限できないが兼業は禁止できる
降格 役職や職位を引き下げる
諭旨解雇 企業側と従業員が話し合った上で両者が納得した上で解雇を受け入れてもらう方法
懲戒解雇 解雇予告なしで即時解雇する。退職金は支払われないことが多い

この中で、最も重い処分である懲戒解雇は労働問題に発展する可能性が高いです。

通常の解雇であれば、企業側が30日前に解雇予告をしてから解雇するのですが、懲戒解雇は予告なしでいきなり解雇することになります。

したがって、労働者側が、処分が厳しすぎると感じた結果労働問題に発展することも多いです。

解雇には、他にも普通解雇、整理解雇があります。
整理解雇とは、業績不振などで人員整理を行う際に実施する解雇です。
また、普通解雇については、基本的には懲戒解雇と整理解雇以外の解雇が該当します。

2. 解雇の要件とは?

まず、懲戒解雇や整理解雇、普通解雇を実施するために満たすべき要件や要素について述べていきます。
懲戒解雇の場合は、以下の要件を満たす場合に有効とされます。

  • 就業規則等における根拠規定の存在及び周知
  • 懲戒事由該当性
  • 処分の相当性

前述の通り、懲戒解雇は労働者の受ける不利益が非常に大きいため、有効性が厳格に判断される傾向にあります。
整理解雇の場合は、以下の4要件(要素)を満たす場合に有効とされます。

  • 整理解雇を行う必要性が明確であること
  • 整理解雇を回避するための努力を尽くしていること(賃金カット、経営努力など)
  • 解雇の人選基準が客観的かつ合理的な基準となっていて、適正にその基準を運用したこと
  • 解雇する時に労働者への説明や協議を行うなど解雇の手続が妥当であること

これらは、整理解雇を有効に行うための要件であるという考えもありますが、近時の裁判例においてはこれらを全て充足するかという視点ではなく、判断要素として用いているものも散見されます。

普通解雇は、主に成績が伴わない場合や協調性がなく業務に支障が発生している場合などに行われることが多いです。
普通解雇については、以下の4つの要件を満たす場合にのみ実施できます。

  • 就業規則などの根拠となる定めがあること
  • 解雇予告を行い解雇予告手当の支払いをすること
  • 法令上の解雇制限に違反しないこと
  • 解雇権濫用に該当しないこと

「法令上の解雇制限に違反しないこと」という要件についてですが、基本的に以下の解雇制限に該当する方は解雇することはできません。

  • 仕事上での怪我や病気での治療期間中(入院や通院で休業する期間と再出社日から30日間)
  • 産前産後休業期間中(産前休業6週間と出産後の産業休業8週間、その後30日間)

なお、解雇制限があっても、第81条の規定を適用すると打切補償を支払った場合や天災事変などやむを得ない事由により事業の継続ができなくなる場合は、その限りではありません。

3. 不当解雇とは?

これまで述べたように、従業員を解雇するにあたっては、解雇の種類に応じて満たさなければならない要件(要素)が複数あり、これらを満たさない解雇は基本的に不当解雇ということになります。
ケースによっては、要件を満たすかどうか微妙なこともあり、会社と従業員との間で事実の認識の齟齬がある場合もありますので、安易に解雇を行うことは非常にリスキーです。

不当解雇を理由に訴えられることがあるの?

解雇は会社との労働契約を解消することを意味しており、それによって労働者は収入が途絶えてしまうという重大な不利益を受けます。
よって、解雇を撤回してもらい継続して働き続けたいと考える労働者も多くいます。

また、解雇は失業手当の給付日数や支給制限の有無にも大きく影響を与えますので、結果的に退職するにしても解雇ではない形とするために、労働者が不当解雇の主張をすることがあります。
不当解雇の疑いがある場合、労働者が労働基準監督署や都道府県労働局などで相談するケース、労働組合に相談するケース、弁護士に相談するケース等があります。

労働基準監督署は、相談には応じてくれることが多いですし、違法行為を行っている企業に対して指導を行うこともあります。しかし、労働基準監督署は、労働者が企業に対して個人的に法的な請求をすることについてまでサポートをする機関ではありません。

また、都道府県労働局については紛争調整委員会のあっせんにより紛争解決できる可能性がありますが、こちらも有効的な解決につながる可能性は低いです。
所属している労働組合に対応を依頼することもできますが、必ずしも解決につながるとは限りません。

そこで、最終手段としては弁護士に依頼して協議や裁判を行うことで会社に解雇を撤回させる、もしくは会社に対し慰謝料を請求するという形が取られることが多いです。

不当解雇の問題が発生した場合の対処の仕方/まずは話合いでの解決を模索

もし不当解雇を理由に従業員と対立が発生した場合、企業側としてはどのように対処すべきなのでしょうか?
まずは、その従業員との話合いによる解決の道を模索することが重要です。

これには主に2つの理由があります。

1つ目はコストの問題です。裁判手続で争う場合、解決まで時間がかかったり、裁判費用がかかったりと、時間的・経済的なコストが発生します。

もう1つの理由は、企業イメージの問題です。
もし裁判となると世間一般にその事実が知られてしまう可能性があり、企業イメージが毀損されるおそれがあります。

以上のような理由から、まずはしっかりと労働者と話合いをし、解雇を撤回することはできないとしても、会社は辞めてもらいつつも一定額の解決金を支払うといった解決ができないかを模索します。

裁判手続を行うまではしないにしても、問題への対処の仕方を事前に弁護士に確認しておくことは必要ですし、話合いによる解決の段階で弁護士に介入してもらうという方法もあります。弁護士というと裁判のイメージが強いですが、話合いの時点でも弁護士に相談、依頼することはできます。

これらの方法ですと、裁判手続を依頼する場合に比べて低い時間的・経済的コストでの解決が可能です。
ただ、それでも解決が図れないというケースは多分にして発生します。その場合は労働審判や訴訟という、裁判所が利用した手続。

不当解雇の裁判(労働審判/訴訟)はどのような形で行われる?

不当解雇で争いが生じ、当事者同士の話合いでの解決が困難な場合、裁判所を利用した手続を行うことになります。不当解雇を争う裁判手続には、「訴訟」と「労働審判」がありますが、概ね以下のような形で手続が進行していきます。

1. 労働審判について

不当解雇に関する裁判は、訴訟とは少し異なる「労働審判」という手続で行われることも多いです。
労働審判では、労働者と企業との間で起きた労働問題について、労働審判官1名と労働審判員2名が審理しますが、訴訟よりも迅速な解決が図られます。
労働審判は2006年4月から行われていて、まだ歴史の浅い制度となっています。

労働審判手続においては、原則として3回以内の期日で審理を行うことになりますが、途中で和解が成立した場合は調停調書が作成され、その時点で手続は終了することになります。

概ね、第2回目までの期日で解決するのが一般的ですが、残念ながら和解に至らず平行線をたどった場合は労働審判が下されます。
労働審判の結果に納得がいかない場合は、当事者は異議を出すことができます。異議が出された場合、事件が通常の訴訟手続に移行することになります。
ただ、審判の内容が訴訟で覆るケースは多くはなく、費用面でも大きな負担となります。

2. 訴訟について

労働事件についても、他の事件と同様に労働審判ではなく通常の訴訟手続で争われることが少なくありません。
前記のように労働審判に対して異議が出され、結果として訴訟になるというケースもあれば、最初から労働審判ではなく訴訟手続を選択するケースもあります。
例えば、労働者と企業の対立が深刻であり、双方の歩み寄りが見込まれない場合などには、労働審判を提起したとしても、最終的に訴訟に移行する可能性が非常に高いため、初めから訴訟を選択するという考えもありうるかと思います。

不当解雇に関する判例を紹介

実際に労働者が不当解雇を争ったケースについて、判例を紹介します。
具体的な事例をある程度把握しておくことで、不当解雇を未然に防止することができるかと思います。

1. 日本食塩製造事件

1975年の事件であり、労働組合から除名処分を受けたことによって、ユニオンショップ協定にしたがって解雇された従業員が起こした裁判です。
ユニオンショップとは、企業に採用された後に労働組合に加入しない場合や、労働組合から脱退しもしくは除名された場合は解雇されるという内容の協定のことです。

この事件では、除名処分が無効であるとして労働者側が会社に対し、雇用関係の存在確認と賃金支払を請求していました。
判決においては、使用者の解雇権の行使においても、それが客観的に合理的な理由を欠いて社会通念上相当として是認することができない場合においては、権利の濫用として無効になると解するのが相当であるとした上で、労働組合から除名された労働者に対しユニオンショップ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として使用者が行う解雇は、ユニオンショップ協定によって使用者に解雇義務が発生している場合にかぎり、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして是認することができるのであり、右除名が無効な場合には、前記のように使用者に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効であるといわなければならないという判断が示されました。

2. セガ・エンタープライゼス事件

1999年に発生した当問題は、平成二年に大学院卒の正社員として採用された従業員が、労働能率が劣って向上の見込みがない、また積極性がなく自己中心的で協調性がないという理由で解雇されたことに対して、解雇を無効として地位保全と賃金仮払いの仮処分を申し立てました。

本件では、従業員が平均的な水準に達していないという事情があったとしても、そのことのみで直ちに本件解雇が有効となるわけではないと示されました。
就業規則におけるその他の解雇事由として、「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」などの限定的な事由のみが規定されていることから考えれば、「労働能力が劣り,向上の見込みがない」ことを理由として有効に解雇を行うためには、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であると述べられました。

また、「労働能率が劣り,向上の見込みがない」という要件については、相対評価を前提とするものと解するのは相当でない旨述べられました。その理由として、この要件について社内における相対評価を前提とするものと考えた場合、毎年一定割合の従業員を解雇することが可能となってしまうことなど挙げています。

3. トラストシステム事件

システムエンジニアが、派遣先において繰り返し行った長時間にわたる電子メールの私的使用、要員派遣業務のあっせん行為が服務規律と職務専念義務に違反していたとして解雇されたことについて、会社の解雇権の濫用であるという理由で起こした裁判です。

この裁判では、私用メールなどについては服務規律や職務専念義務に違反するところがあるといわざるを得なないという見解が示されましたが、そのことを解雇理由として過大に評価するのは不当であり、要員の私的あっせん行為についても、そのような事実が窺われるとする余地はあるが認めるには足りず、結果として服務規律違反、職務専念義務違反については、解雇を可能ならしめるほどに重大なものとまで言い切ることはできないと判断されました。
能力不足についても、解雇の理由となるほどまでに能力を欠いているとは認め難く、以上の事情を総合すると、本件解雇は解雇権の濫用として、その効力を生じないものといわざるを得ないと判断されました。

以上のことからも、企業側が解雇を行う際には、就業規則等で明確に基準が定められているか、要件を満たしているか、解雇権の濫用にあたらないかといった点を精査してから解雇の判断を行う必要があります。

不当解雇で訴えられないように円満解決する方法は?

企業側としては、従業員を解雇する場合には解雇の種類、方法などをしっかりと確認してから行うことが重要です。
また、解雇にあたっては、感情的にならずに冷静に進めること、他の従業員への影響を考慮して行動すること、情報漏えいに注意することを念頭に置くことが重要です。

慎重に進めなければならない一方で、解雇すると決断した以上はある程度勇気をもって解雇を実行して、問題を長期化させないことも重要となります。
もし不当解雇であると指摘された場合は、とにかく話し合いをもって企業側の正当性を丁寧に説明して納得してもらうことが重要です。
この場合も、感情的にならず冷静に対処することが円満な解決への近道かと思われます。

まとめ

今回は不当解雇で訴えられた時の対処法について紹介しました。
労働審判制度が導入されてからは、訴訟まで移行するケースは減っていますが、昨今は労働問題に対しての関心が高まっておりますので、今後も不当解雇を理由に会社が訴えられるケースは後を絶たないかと思われます。
まずは、社内において解雇の基準を明確にして、適切に対応することが重要ですし、もし解雇の不当性を指摘された場合には、円満解決する方法を検討することが必要かと思います。

東京スタートアップ法律事務所は、企業の労務問題に重点的に取り組んでいます。就業規則の作成・レビューやその周知、雇用契約書の作成・レビュー、解雇に関するアドバイス、万が一不当解雇の紛争に発展してしまった場合の協議や裁判対応など、あらゆる労務問題に取り組んでいます。
ぜひお気軽にご相談ください。

画像準備中
執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社