解雇理由証明書とは?交付が必要な場合の書き方や注意点を解説
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記事目次
従業員を解雇した際に解雇理由証明書を求められて戸惑った経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
解雇理由証明書は、従業員が解雇に対して不満を抱いている場合に請求されることが多く、記載する内容に問題があると、後から不当解雇を主張される、復職を迫られる等のトラブルに発展する可能性もあるため、慎重な対応が求められます。
今回は、従業員を解雇した際に解雇理由証明書が必要となるケース、解雇理由証明書のひな型と書き方の注意点、解雇予告通知書などの類似書類との相違点などについて解説します。
解雇理由証明書とは
解雇理由証明書とは、会社が従業員をどのような理由で解雇したのかについて記した書類のことをいい、解雇理由書と呼ばれることもあります。
労働基準法第22条により、従業員から請求があった場合の交付が義務付けられおり、交付しない場合は罰則の適用があります。
解雇理由証明書は交付する義務がある
解雇理由証明書は、どのような場合に交付しなければならないのでしょうか。
解雇理由証明書の交付が必要となるケース、その根拠となる法律の条文、解雇理由証明書の請求期限などについて説明します。
労働基準法の規定
解雇理由証明書は、従業員からの請求がなければ、会社側が交付する義務はありません。しかし、請求があった場合は、解雇理由証明書を交付することが法律で義務付けられています。労働基準法第22条2項には、以下のように規定されています。
労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
「遅滞なく」とは可及的速やかにという意味ですが、具体的な期間については特に定められていません。しかし、解雇が不当だとして争いになった場合、解雇理由証明書の交付に応じない会社の姿勢がマイナス評価を受けるおそれがあります。実際、過去の裁判例でも、会社が解雇予告をする際に解雇理由を示さなかったことが解雇の態様の判断材料として考慮され、従業員からの慰謝料請求(30万円)が認められたケースがあります(大阪地方裁判所平成22年7月15日判決)。
解雇理由証明書の交付期限
先述の通り労働基準法第22条では、従業員から解雇理由証明書を請求された場合、「遅滞なく交付しなければならない」と義務付けています。
法的紛争の場面で会社が不利な立場に陥らないためにも、従業員から請求されてから2~3日程度で交付することが望ましいでしょう。
解雇理由証明書は、解雇予告をされた従業員が、解雇予告をされた日から解雇される日までの間に会社に対して請求できるので、従業員の退職前であっても、請求があれば会社は遅滞なく作成して渡さなければいけません。
なお、会社が解雇予告をした日以降に、従業員が解雇理由以外の理由で退職した場合は、退職日以降に解雇理由証明書を交付する義務はありません。
アルバイトやパートでも交付は必要
アルバイトやパート職員等の非正規雇用の従業員から解雇理由証明書を請求された場合も、会社は解雇理由証明書を交付しなければいけません。
解雇理由証明書の交付義務を定めた労働基準法第22条の「労働者」は、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用されて賃金を支払われる者を指すとされているからです(同法第9条)。
従って、契約社員、パート、アルバイト、試用期間中の従業員などから請求された場合でも、会社は解雇理由証明書を交付する必要があります。
解雇理由証明書と似た書面との違い
解雇予告通知書
解雇予告通知書とは、会社が従業員との雇用契約を解除して解雇することを事前に通知する書面のことです。解雇予告通知は書面で行うことは義務付けられておらず、口頭で行ってもよいとされています。
退職証明書
退職証明書は、従業員が退職する時に、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の理由を会社が証明する書面のことです。
退職証明書は、従業員が再就職先で提出を求められた、社会保険を国民健康保険に切り替える際に必要となった等の理由で請求されることが多いです。
退職証明書も、解雇理由証明書と同様に、従業員から請求があれば交付することが義務付けられています(労働基準法第22条1項)。
記載内容 | 発行の義務 | 交付時期 | |
---|---|---|---|
解雇理由証明書 | 解雇理由の詳細 | あり 従業員の請求がある場合 |
従業員の請求から遅延なく交付 (従業員は解雇予告をされた日から解雇される日までの間に会社に対して請求可能) |
解雇予告通知書 | 解雇すること自体を通知する | なし | 解雇の30日前 |
退職証明書 | 勤務中の従業員の地位を証明する | あり 従業員の請求がある場合 |
退職時 (従業員は退職してから2年間請求可能) |
解雇理由証明書の交付が不要なケース
解雇理由証明書の交付が必要ない場合もあります。以下にて具体的なケースについて紹介します。
従業員に請求されていない場合
解雇理由証明書は、従業員からの請求によって発行義務が発生するため、そもそも従業員が求めていない場合は交付の必要はありません。
従業員が解雇理由以外の理由で退職した場合
解雇を予告した後に従業員が自己都合退職をするなど、解雇予告期間内に解雇以外の理由によって従業員が退職した場合は、解雇理由証明書を交付する必要はありません。
ただし、このような場合も従業員の請求があった際は退職証明書の交付が必要です。
解雇理由証明書の請求期限が切れている場合
解雇理由証明書を請求する権利は、退職時から2年で消滅時効にかかります(同法第115条)。
従って、従業員を解雇してから2年以内は請求があれば交付しなければいけませんが、2年以上経過した後は、従業員から解雇理由証明書を請求されても交付に応じる必要はありません。
解雇理由証明書の書き方は?
解雇理由証明書には、特に決まった形式はありませんが、従業員とのトラブルを避けるためにも慎重に作成する必要があります。
解雇する従業員の名前、解雇を通知した日付、解雇理由証明書の発行日、会社の代表者や人事の責任者の署名押印、解雇理由を記入するのが一般的です。
解雇理由の記載
解雇理由証明書で最も重要な解雇の根拠については具体的に示すことが必要です。
例えば就業規則を根拠に解雇をする場合は、従業員のどういった行為が就業規則のどの条文に該当しているのかまで明確に記載しましょう。
事実関係の記載
前述の「解雇理由」に関連して、事実関係についても具体的に記載することが必要です。
問題行動への指導等も含め、一つ一つの問題行動を掘り下げ、解雇に至るまでの経緯をまとめましょう。
どういった事実を重視して解雇に至ったのか等、解雇の判断をするまでの過程も記載することで、不当解雇をめぐってのトラブルを回避する効果が高まるでしょう。
解雇理由証明書の記載例とひな型
解雇理由証明書のひな型や記載内容を知りたいという方もいらっしゃるかと思います。
解雇理由証明書は就業規則がある場合とない場合では記載内容が異なるので、就業規則がある場合とない場合に分けて説明します。
なお、いずれの場合も、労働者が請求しない事項を記入してはいけません。
1.就業規則がある場合
こちらは就業規則がある場合の解雇理由証明書のひな型です。
解雇理由証明書
●●●●殿
当社が、××年×月×付であなたに予告した解雇については、以下の理由であることを証明します。
記
1.就業規則の該当条項
あなたの行為が就業規則第●条第●項●号の懲戒事由に該当したため、同第▲条▲項▲号を適用し、解雇の予告を行いました。 2.上記就業規則第●条第●項●号に該当する具体的な行為は以下の通りです。
・あなたが××年×月×日に××××をしたこと ・あなたが××年×月×日に××××をしたこと ・あなたが××年×月×日に××××をしたこと 以上
●●年●月●●日
事業署名 ×××××
代表取締役 ××××××印 |
就業規則がある会社で解雇理由証明書を作成する場合、従業員のどのような行為が、就業規則の何条に該当するかを、具体的な問題行動と該当条文を照らし合わせて記載する必要があります。就業規則の条文を記載するだけでは不十分なので注意しましょう。
解雇理由証明書(就業規則有)
2.就業規則がない場合
こちらは就業規則がない場合の解雇理由証明書のひな型です。
解雇理由証明書
●●●●殿
当社が、××年×月×付であなたに予告した解雇については、以下の理由であることを証明します。
記
1.天災その他やむを得ない理由による解雇(具体的には、▲▲▲▲により事業の継続が不可能になったことによる解雇) 2.事業縮小等当社の都合による解雇(具体的には、▲▲▲▲になったこと) 3.職務命令に対する重大な違反行為があったことによる解雇(具体的には、あなたが××年×月×日に××××をしたこと) 4.業務について不正な行為があったことによる解雇(具体的には、あなたが××年×月×日に××××をしたこと) 5.勤務態度不良または勤務成績不良による解雇(具体的には、あなたが××年×月×日に××××をしたこと) 6.その他の理由による解雇(具体的には、あなたが××年×月×日に××××をしたこと) 以上
●●年●月●●日
事業署名 ×××××
代表取締役 ××××××印 |
就業理由証明書(就業規則無)
就業規則がない会社で解雇理由証明書を作成する場合は、あらかじめ解雇理由の例示を示し、その中で該当する理由を示すのが一般的です。
該当するものに〇を付け、具体的な理由を()内に記載します。
解雇理由となる個別具体的な内容について、日時を示して客観的な事実を記すことが大切です。
解雇理由証明書を記載する際の注意点
解雇理由証明書は、従業員が解雇に対して不満を抱いている場合に請求されることが多いため、トラブルに発展しないよう、記載の内容には十分注意する必要があります。具体的な注意点について説明します。
解雇の理由が会社都合・事業縮小の場合
解雇理由証明書の交付の際に特に問題になりやすいのが、解雇理由が会社都合や事業縮小の場合です。
新型コロナウイルス感染拡大の影響から、会社都合で従業員を解雇せざるを得ない状況に陥る企業が増えています。
しかし、会社都合による解雇を行うと、雇用関係の助成金を受けることができません。
国が支給する雇用関係の助成金は、雇用を安定させることを主な目的としているため、会社都合による解雇は助成金の趣旨に反する行為とみなされます。
解雇と助成金受給のタイミングによっては、既に受給した助成金の返還を求められる可能性もあります。
そのため、会社都合や事業縮小による解雇理由を書面にして、証拠として残るような形にしたくないという方も少なくありません。
しかし、従業員からの解雇理由証明書の請求があれば、会社は交付することが義務付けられており、拒否あるいは意図的に交付を遅らせた場合は30万円以下の罰金に処せられる可能性もあります(労働基準法第120条1号)。
また、既述のとおり解雇理由証明書に「会社の事業縮小のため」という会社都合の理由を記載し、その後、不当解雇だとして訴えられる等のトラブルに発展した際に解雇理由証明書に記載しなかった従業員の問題行動を追記した場合、裁判所の心証は悪くなるでしょう。
トラブルに発展した後に理由を追記すべきではないという点はしっかり認識しておきましょう。
不当解雇とされないために
解雇に不満を持つ従業員の中には、解雇理由証明書を証拠として提示し、不当解雇を争う方も少なからず存在します。
そのような場合、不当解雇と認定されないために、解雇理由はできるだけ詳細に事実を示して記載することが重要です。
例えば、就業規則の条項に該当することを理由に解雇する場合、就業規則の条項と内容、その条項に該当すると判断した経緯を記載する必要があります。
記載する際は、以下の点に注意しましょう。
- 解雇理由に該当すると判断した具体的な事実や出来事を整理して全て記載する
- 解雇の根拠になる就業規則の条文と上記の事実・出来事を関連付ける
- 他に解雇理由がないか精査する
解雇理由はトラブルになった後から追加すべきではありません。
解雇理由証明書を交付する段階で、漏れがないように十分確認しておきましょう。
解雇理由証明書交付後のトラブル
従業員が解雇理由に納得がいっていない場合、労働審判や訴訟を起こしたり、労働組合へ加入し団体交渉を求めて来たり、弁護士を通じて解雇の撤回や金銭の請求をされる可能性があります。
仮に裁判所で不当解雇だと認められてしまうと、解雇は無効となり、さらに会社は従業員に対してバックペイを支払う必要が出てきてしまいます。
不当解雇については以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご確認ください。
解雇理由証明書について弁護士に相談するメリット
解雇理由証明書の交付を請求する従業員は、解雇されたことや解雇理由に対して不満を抱いていることが多いので、将来的なトラブルを防ぐためにも弁護士に相談しながら慎重に対応することが望ましいでしょう。弁護士に相談するメリットについて具体的に説明します。
1.リーガルチェックを受けられる
解雇理由証明書には、従業員を解雇する理由をできるだけ詳細に記すことが必要です。この点が不十分だと、不当解雇として訴えられた場合に会社が不利な立場に陥る可能性があります。
解雇する理由は従業員によって異なるため、どのように記載すればよいか判断が難しい場合もあります。弁護士に相談することにより、根拠や事実を網羅した適切な解雇理由証明書を作成することが可能となり、従業員を納得させられる可能性が高まります。社内で解雇理由証明書を作成した場合でも、交付前に弁護士のリーガルチェックを受けることにより事後のトラブル発生のリスクを大幅に軽減できる場合があります。
2.トラブルに発展した場合に対応を任せられる
解雇理由証明書自体に問題がない場合でも、従業員との間で解雇を巡るトラブルを避けられないことも珍しくありません。弁護士は会社や代表者の代理人として交渉ができるので、トラブルに際して従業員との対応を全て任せることが可能です。解雇に関するトラブルに適切に対応するためには、昨今法改正が続く労働関連法規に関する理解、過去の裁判例との整合性等の専門的知識が不可欠です。会社に法務部がある場合でも、複数の会社と顧問契約を結び数多くの労使間トラブルを扱っている弁護士の方が知見のアップデートが早いため、重大なトラブルに発展する可能性のある案件については企業法務を専門とする外部の弁護士に相談する企業も多いです。
まとめ
今回は、従業員を解雇する際に解雇理由証明書が必要となるケース、解雇理由証明書のひな型と書き方、解雇予告通知書などの類似書類との相違点などについて解説しました。
解雇理由証明書は、不満を抱える従業員が請求するケースが多いことから、作成の際に十分な注意を払うことが求められます。逆に、的確に事実を示した解雇理由証明書を作成できれば、従業員を納得させることが可能になり、トラブル防止につながります。従業員にとって解雇は生活基盤を失う大きな問題なので感情的になりがちですが、専門家を交えることにより冷静な話し合いができるケースも少なくありません。
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