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更新日: 投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

中小企業の働き方改革関連法対策・最低限知っておくべき基礎知識

中小企業の働き方改革関連法対策・最低限知っておくべき基礎知識
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2020年4月から中小企業でも働き方改革関連法が本格的に施行されました。しかし、働き方改革関連法について漠然と知っていても、具体的にどのような対策が求められているのかよくわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、働き方改革関連法の概要や罰則規定、特に注意が必要なポイント、中小企業における働き方改革関連法対策の問題点と注意点などについて解説します。

働き方改革関連法とは

最初に、2018年6月に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下、「働き方改革関連法」という。)の概要と主な目的、施行時期など基本的な内容について説明します。

1.働き方改革関連法の概要と目的

働き方改革関連法は、労働基準法をはじめ、労働安全衛生法、労働契約法、雇用対策法等、8つの労働関連法を改正するために制定された法律です。
働き方改革関連法の主な目的は以下のとおりです。

  • 長時間労働の是正
  • 雇用形態による不合理な待遇差の是正
  • 柔軟な働き方の実現

特に長時間労働の是正は、厚生労働省が目標として掲げる過労死ゼロの実現のために重要だと考えられており、働き方改革関連法の要とも言われています。

2.中小企業における施行時期

働き方改革関連法は2019年4月から順次適用されましたが、改正項目ごとに適用時期が異なります。中小企業には時間的な猶予が与えられ、大企業よりも遅れて適用となる項目もあります。働き方改革関連法の中でも注目されている残業時間の上限規制は大企業より1年遅れとなる2020年4月から適用されました。

ただし、勤務間インターバル制度の努力義務等、大企業と同じタイミングで適用されている項目もあります。「中小企業は猶予期間があるから、まだ大丈夫なはず」などと悠長に構えていると、対応が遅れてしまうので注意が必要です。

中小企業で働き方改革を阻む要因

中小企業では「働き方改革の必要性は認識しているけれど、実際に取り組むのは難しい」という声も挙がっています。中小企業における働き方改革を阻む要因について説明します。

1.人手不足で余裕がない

中小企業で働き方改革が進まない一番の要因は人手不足の問題だといわれています。中小企業の多くは、限られた人数の従業員で日々の業務を行っています。また、業務量のわりに従業員の人数が少ない、能力やスキルを持つ一部の従業員に依存している等、人的資源に関する問題を抱える中小企業も少なくありません。
そのため、経営者が「働き方改革を推進して、従業員にとって魅力的な職場にしたい」という思いを持っていても、現実的には実現が困難な状況なケースも多いのです。

2.取引先との関係を考慮すると困難

中小企業の中には、取引先との関係を維持するために、従業員に対して残業や休日出勤を強いることを余儀なくされているケースもあるようです。中小企業は下請けという立場で仕事を請け負うことも多く、取引先からの要望に応えなければ次の仕事がもらえないかもしれないという不安を抱えているため、「これ以上従業員に負荷をかけたくないので、納期を延長して下さい」とは言い出せない状況なのかもしれません。

働き方改革関連法について中小企業が注意すべき点

中小企業における働き方改革を阻む要因を踏まえた上で、働き方改革関連法について中小企業が特に注意すべき点について説明します。

1.時間外労働の上限規制

働き方改革関連法では、時間外労働時間の上限は原則として月45時間、年360時間とされています。時間外労働時間の上限は、大企業では2019年4月、中小企業では2020年4月から適用されました。法改正以前も、月45時間、年360時間という残業時間の上限は設けられていましたが、特別な事情があり、届け出が行われていれば、それ以上の残業が可能でした。つまり、実質的には時間外労働時間の上限が設定されていないのと変わらないといっても過言ではない状況だったのです。

法改正後も、臨時的に特別な事情がある場合は特例として月45時間、年360時間以上の時間外労働が認められますが、年720時間までという上限を必ず守らなければいけません。また、特別な事情がある場合でも、月45時間以上の時間外労働が認められるのは年間6ヶ月までという制限が設けられました。一般的に6ヶ月間に渡り、平均45時間以上の時間外労働が行われると、健康障害を発症しやすくなり過労死につながるリスクも高まると考えられています。労働者の健康を守り、過労死等の事故を確実に防ぐために、このような厳格な制限が設けられたのです。
月45時間を営業日数で換算すると、1日平均2時間程度となります。人手不足で、1日2時間程度の残業は当たり前という状況の場合、法律に抵触する可能性があるため、早急に対策を講じる必要があります。

2.年5日間の年次有給休暇取得の義務化

働き方改革関連法では、基準日から1年の間に有給休暇消化日数が5日未満の従業員に対して年5日の年次有給休暇を取得させることが使用者の義務として定められています。こちらは、大企業、中小企業ともに2019年4月から適用されました。年5日の年次有給休暇は使用者が時季を指定して取得させることとされています。対象となる10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者には、正社員だけではなく、一定の条件を満たすパート職員も含まれますので、対象者を正確に把握しておくことが大切です。

また、年次有給休暇を取得した時季、日数、基準日を労働者ごとに記録した有給休暇管理簿等の書類またはデータを作成し、当該期間の満了後3年間保管することが求められます。有給休暇の取得については従業員各自の調整に任せていたという中小企業は多いかもしれませんが、各自の調整に任せていると、対象者全員が年5日の有給休暇を取得できない可能性もあります。働き方改革関連法を遵守するためには、対象となる従業員全員が確実に時季を指定して年5日の年次有給休暇を取得できるよう厳密に管理し、正確に記録できるような仕組みを構築する必要があります。

3.同一労働同一賃金の適用

同一労働同一賃金は、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を目的とした制度で、働き方改革関連法の主軸の一つです。大企業では2020年4月、中小企業では2021年4月から適用となります。同一労働同一賃金により、企業には、正規社員と非正規社員の間の不合理な待遇差を解消して非正規社員の処遇を改善することが求められます。従来の派遣法では努力義務でしたが、働き方改革関連法により、以下のいずれかの方式により対応することが義務化されました。

  • 派遣先均等・均衡方式:派遣社員と派遣先の正社員の待遇が均衡になるよう定める方式
  • 労使協定方式:一定の要件を満たす労使協定により待遇を定める方式

労使協定方式を採用するためには、労使協定が適切な内容で定められていること等の要件を満たす必要があり、要件を満たさない場合は派遣先均等・均衡方式が適用されます。

派遣先均等・均衡方式を採用する場合、同等の経験や能力を持つ派遣社員と正社員の待遇に格差があると労働者派遣法に抵触する可能性があるので注意が必要です。基本給や賞与だけではなく、残業手当や住宅手当等の各種手当、教育訓練や食堂の利用などの福利厚生も同等であることが求められます。各種手当や福利厚生を含めた待遇に不合理な格差が生じていないかをしっかり確認し、必要に応じて是正しましょう。

4.勤務間インターバル制度

勤務間インターバル制度は、残業時間を含めた業務終業時刻から次の始業時刻までに一定時間以上の休息時間を設ける制度で、企業の規模に関わらず2019年4月から適用されています。一定時間以上の休息時間を確保することにより、健康維持に必要な睡眠をとることが可能になります。日本人は世界の中でも平均的な睡眠時間が短いことで知られていますが、睡眠不足は、脳・心臓疾患や精神障害などに陥るリスクを高めます。また、睡眠不足による神経系統の不調により、命に関わる重大な事故を引き起こす可能性もあります。

厚生労働省は、勤務間インターバルの導入により、労働時間等の設定改善に取り組む企業を対象に、働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)を支給しています。支給の基準として、9時間以上の勤務間インターバルの導入が求められます。ただし、勤務間インターバルの先駆けとして知られるEU(欧州連合)では、11時間以上の勤務間インターバルを設けることが法的に義務付けられています。睡眠時間だけではなく、食事や入浴のための時間や通勤時間を考慮すると、11時間以上の勤務間インターバルを設けることが望ましいでしょう。

勤務間インターバル制度は、交代制勤務等の勤務形態で働く従業員がいる場合や繁忙期に業務量が増える場合、特に注意が必要です。常に11時間以上の勤務間インターバルを確保することは現実的に難しいという場合、11時間を努力義務として設定し、11時間確保できない場合には必ず9時間の確保を義務とする等の制度にしてもよいでしょう。

5.労働時間の把握義務

働き方改革関連法により、2019年4月から労働時間の把握が事業者の義務として規定されました。主な目的は、適切な勤怠・労務管理を行うことにより、過重労働を防止し、従業員の健康を守ることです。

新型コロナウイルスの影響で、テレワークや在宅勤務制度を導入する企業が増加しましたが、テレワークで自由な働き方ができるよう事業場外みなし労働時間制を採用した場合も労働時間の把握は必要です。テレワークの際にも、適切な勤怠管理が行えるシステムや制度を導入する必要があるという点はしっかり認識しておきましょう。

働き方改革関連法の罰則規定

働き方改革関連法に違反するとどのようなペナルティを受けることになるのでしょうか。働き方改革関連法に違反した場合の罰則規定について説明します。

1.法改正前より厳しい罰則規定

時間外労働の上限規制と年5日間の年次有給休暇取得の義務化については、違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という法改正前より厳しい罰則規定が設けられています。ただし、通常は違反行為が発覚した際には労働基準監督官から是正勧告が出され、その勧告に従えばペナルティを受けることはありません。労働基準監督官は、企業が労働関連法を遵守しているか調査を行い、必要に応じて指導や是正勧告を行う特別司法警察職員で、「労働Gメン」とも呼ばれています。初期段階では、行政官として企業に対して丁寧な指導を行いますが、企業が指導に従わない場合は司法警察員として書類送検や逮捕を行う権限も持っています。書類送検や逮捕、ひいては裁判において有罪判決を受けてしまうようなことを避けるためにも、労働基準監督官から指導や是正勧告を受けた場合は必ず従わなければいけないという点はしっかり認識しておきましょう。

2.努力義務を軽視してはいけない理由

働き方改革関連法には、勤務間インターバル制度や同一労働同一賃金など、罰則規定が設けられていない項目もあります。しかし、努力義務も罰則規定がないからといって、軽視してよいわけではありません。特に、勤務間インターバル制度は過労死防止の切り札とも言われる重要な制度です。従業員の健康を守り、過労死などの重大な事故を起こさないためにも、積極的に導入を検討しましょう。
罰則規定がない項目に関しても、明らかな違反が認められ、従業員が健康被害等を受けたとして会社を訴えた場合、多額の損害賠償を請求される可能性もあります。

中小企業の働き方改革関連法対策の問題点と注意点

中小企業が働き方改革関連法の対策に取り組む際、どのような点が問題になりやすいのでしょうか。問題になりやすい点と注意すべき点について説明します。

1.生産性向上とセットで取り組むこと

前述した通り、中小企業における働き方改革を阻む要因の一つは人手不足の問題です。人手不足の問題を放置したまま働き方改革関連法の対策に取り組もうとしても、現場からは「業務量が多すぎて休みなんて取れるわけがない」「納期に間に合わせるためには、毎日3時間以上の残業は必要だ」などという不満の声が挙がる可能性が高いです。そのような事態を防ぐためには、自社の業務の進め方を抜本的に見直し、業務の効率化を図る必要があります。そのためには、全ての業務の工程を丁寧にチェックし、非効率な部分がないか徹底的に確認しましょう。無駄な工程は可能な限り省き、システム導入等により効率化が可能な業務についてはシステムの導入も検討しましょう。一つひとつの工程を細かく丁寧に確認することが、全体的な業務の効率化につながり、結果的に一人ひとりの従業員にかかる負荷の軽減が実現されます。業務の効率化により、残業時間も自然と削減され、有給休暇も取りやすくなるため、働き方改革関連法対策が推進しやすくなると同時に従業員のワークライフバランスも改善されます。

2.個々のケースごとに丁寧に対応すること

中小企業が働き方改革関連法の対策に取り組む際、勤怠管理システムの導入や就業規則の整備等の形式的な対応も求められますが、個々のケースごとに問題点は異なるため、個別対応に積極的に取り組むことも不可欠です。

多くの中小企業では少数精鋭の体制で業務を進めていて、従業員一人ひとりが重要な役割を果たしています。少数精鋭というと響きはよいですが、人的資源に余裕がないため、一人ひとりにかかる負荷は高いです。専門的な業務が属人化されて、「あの人が休むと誰も代わりができない」という状況に陥っているケースも散見されます。属人化が原因で休めないという場合は、詳細な手順や注意点を記載したマニュアルを作成し、同等のスキルを持つ従業員に対して教育を行う等の対応が必要です。また、少人数の部署では、能力が高く人柄の良い従業員が、他の従業員から仕事を押し付けられて過剰な業務量をこなしているケースもあります。この場合は、管理職に対して各メンバーに最適な仕事量を分配するマネジメント教育を行う必要があります。
このように、中小企業で働き方改革を実現するためには、個々のケースの問題点を分析した上で、適切な対応を行うことが大切です。

まとめ

今回は、働き方改革関連法の概要や罰則規定、特に注意が必要なポイント、中小企業における働き方改革関連法対策の問題点と注意点について解説しました。

働き方改革関連法対策への取り組みは、従業員のワークライフバランスや企業全体の生産性の向上にもつながります。中小企業では推進を阻む壁も多いですが、個別の問題点を丁寧に分析すれば必ず解決策は見つかるはずです。

東京スタートアップ法律事務所では、労務問題の解決実績を豊富に持つ専門家が、様々な企業のニーズに合わせたサポートを提供しております。お電話やオンライン会議システムによるご相談も受け付けていますので、労務問題や企業法務に関する相談等がございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社