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投稿日: 弁護士 中村 望

適応障害の従業員に対して退職勧奨を行う場合の注意点

「適応障害の従業員が、遅刻や無断欠勤を繰り返して困っている」
「適応障害と診断されて休職していた従業員が職場に復帰したけれど、情緒不安定で周りの従業員にストレスを与えているので、できれば退職してもらいたい」
そのような悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

適応障害の従業員に対する対応に苦慮する会社は多く、退職勧奨を検討されるケースは少なくありませんが、退職勧奨以外の方法で問題を解決できる場合もあります。

今回は、適応障害に関する基礎知識、退職勧奨を行う前に検討すべきこと、適応障害の従業員に退職勧奨を行う場合の注意点などについて解説します。

適応障害に関する基礎知識

本題に入る前に、適応障害の定義や症状、うつ病との違いなど、基本的な内容について簡単に説明します。

1.適応障害とは

適応障害は、日常生活や職場における強い心理的ストレスが原因で、心身の不調が起きるストレス性の精神疾患の一つです。
どのような状況が強い心理的ストレスとなるかは個人差がありますが、一般的に、ストレスが原因となり、著しい精神的苦痛や社会的機能の障害が生じている場合は適応障害と診断されます。

2.適応障害の症状

適応障害の症状は人それぞれ異なりますが、情緒面の症状としては主に以下のような症状が出現することが多いようです。

  • 感情の高ぶり
  • 強い不安感や焦燥感
  • 集中力の低下

上記の症状により、不眠、動悸、めまい、吐き気、震えなどの身体症状が現れることもあります。
適応障害は周りから見ると些細な事が原因となり発症することもありますが、本人は周りから見た原因の大きさとは不釣り合いなほど激しい身体症状に苦しむことも少なくないといわれています。

3.適応障害とうつ病の違い

適応障害はうつ病と混同されやすいですが、両者の明確な違いは、ストレスの原因から離れることにより症状が改善するか否かという点です。
うつ病の場合はストレスの原因から離れても改善しないことが多いですが、適応障害の場合はストレスに対する反応の要素が強いため、一般的には、ストレス原因から離れることにより症状が改善します。
ただし、適応障害からうつ病に移行するケースや、適応障害と診断された後にうつ病に近い状態になるケースも多く、適応障害はうつ病の予備軍だともいわれています

退職勧奨を行う前に検討すべきこと

適応障害の従業員は、周りの従業員に対して負荷をかける場合もあるため、本人の合意を得た上で退職してもらいたいと考える方もいらっしゃるようです。しかし、他の方法により問題を解決できる場合も少なくありません。退職を促す前に検討すべき方法について具体的に説明します。

1.本人の特性に適した働き方を検討する

職場で適応障害を発症する方の中には、本人や周囲が気付いていない軽度の発達障害を抱えている方も多いようです。

発達障害は、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠陥・多動性障害(ADHD)に大別されます。人によってはその両方の傾向を持っている場合もあります。アスペルガー症候群など知的発達に遅れを伴わないASDや比較的軽度のADHDの場合、本人や周囲が発達障害であることを認識していない場合も多くあります。

発達障害である場合、そのことを本人や周囲が自覚していないことによって、本人ができること・できないことを理解していなかったり、コミュニケーションのすれ違いが起きたり、自己評価と周囲からの評価が乖離して怒られたりすることによってストレスを感じ、適応障害を発症することがあります。このように発達障害を抱えていることが適応障害の背景になっていると考えられる場合には、現在担当している業務や職場環境の中から、ストレスの原因を探り、その原因を取り除くことにより、適応障害の症状が改善され、本来の能力を発揮できる可能性があります。

発達障害の中でも、例えば、ASDの場合、一般的に耳で聞いた複雑な情報を整理することが苦手であるため、口頭で言われた内容に基づいて仕事を進めることが難しく、大きなストレスを感じる可能性が高いです。他方で、視覚情報に対しては高度の理解力や集中力を発揮するので、口頭ではなく文書や画像で指示することにより、本人が本来持つ能力を発揮できる可能性があります。
また、ASDやADHDの場合、時間厳守や場の空気を読むなど、一般的な職場で求められる基本的なことを困難に感じて、強いストレスを感じる傾向にあります。この傾向が認められた場合、リモートワークに切り替える等の工夫をすることにより、ストレスの原因を取り除くことができ、症状改善とパフォーマンス向上につながる可能性もあります。

発達障害の有無については専門的な診察による診断確定が必要ですが、可能性がある場合は必要に応じて専門医の診断を得た上で、本人の特性に合った働き方を検討するとよいでしょう。

2.本人の適性に合う部署への配置転換を検討する

従業員の適応障害の原因が、現在の部署での業務にあると考えられる場合は、本人の適性に合う部署への配置転換を検討することも一つの方法です。
例えば、同じ事務系の仕事でも、経理部と商品開発部では求められる適性が大きく異なります。適性に合う部署に異動することにより、適応障害の原因となっていたストレスを受けることなく、本人が本来持つ能力を発揮できる可能性もあります。
ただし、配置転換を行う際は、業務上の必要性や従業員の被る不利益などを考慮する必要があるという点には注意が必要です。具体的な注意点などについてはこちらの記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。

3.うつ病の場合は休職も検討すること

前述した通り、適応障害からうつ病に移行するケースは少なくありません。職場に関連するストレスが原因でうつ病を発症した従業員に対して、会社が適切な対応を行うことを怠った場合、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。安全配慮義務とは、会社が従業員の健康を守るために配慮すべき義務のことをいいます(労働契約法第5条)。
そのため、うつ病の兆候がある従業員に対しては、精神科の受診を促し、うつ病と診断された場合は休職させるなど適切な対処を行うことが大切です。
うつ病の兆候がある従業員に対して精神科の受診を促す際の注意点、休職期間の目安と復職の判断基準などについては、こちらの記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。

適応障害の従業員に退職勧奨を行う場合の注意点

適応障害の従業員に対して前述した検討を十分に行った上で、これ以上従業員として働き続けてもらうことが難しいと判断した場合は、やむなく退職勧奨を行うこととなります。
退職勧奨は、解雇とは異なり、従業員の自主的な退職を促すものなので、適切に行えば法律上の問題はありません。

しかし、適応障害という精神疾患に苦しむ従業員にとって、会社を退職するというのは重大な選択となります。会社から退職を促されることにより、大きなショックを受けて、症状が悪化するおそれもあります。そのため、退職勧奨を行う際は慎重に進める必要があります。具体的にどのような点に注意すべきか説明します。

1.会社が提示する条件等を明確化する

まずは、退職勧奨を行う具体的な理由や会社が提示する条件等、従業員との面談で会社側が示すべき事項を明確化します。
適応障害を患っている従業員は退職後の生活を不安に感じる可能性が高いので、不安を解消して、退職勧奨を円満に進めるために、特別退職金を支払うことを検討してもよいでしょう。
十分な成果を上げられず、周囲にとって負担となっている場合のある適応障害の従業員に対して、なぜ特別退職金のような金銭を支払わなければならないのかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。適応障害の従業員がいることで、会社や周りの従業員がその従業員の対応に苦慮していることがあり、対象者が退職することで周囲にとって仕事の効率が上がる場合もあるため、お金を払っても退職してもらう合理性がある場合があるのです。
また、退職日は、給与支払いの対象期限、退職金の支払い条件充足の有無などに影響するため注意が必要です。特に退職金を中小企業退職金共済により支払う場合は支払い条件が定められているため、事前に確認するようにして下さい。

2.退職勧奨通知書等の書類を用意する

退職勧奨は、解雇とは異なり、従業員本人の同意を得る必要があります。退職勧奨を行った際、従業員が素直に応じた場合でも、従業員が退職後に会社の対応に問題があったとして、会社に対して労働審判や訴訟などの法的措置をとる等のトラブルに発展するケースは珍しくありません。そのような場合に、本人の同意を得て実施したことを証明できるよう、退職勧奨の経緯と合意した内容を書面に残しておくことが大切です。
退職勧奨通知書等の書面の作成方法については、こちらの記事にまとめましたので、参考にしていただければと思います。

3.退職勧奨の面談で注意すべきこと

退職勧奨の面談は、1回だけで完了することはほとんどなく、複数回に渡り行うことになります。1回の面談時間が長すぎると、退職強要とみなされる可能性もあるので、1回の面談時間は長くても30分程度にすることが望ましいでしょう。

また、面談では、退職勧奨を行うに至る経緯を説明して、本人の意思を確認します。その際、本人を責めるような言い方は避け、できる限り本人を傷つけないよう配慮しましょう。
仕事が原因で適応障害になった対象従業員に対して伝える退職勧奨の理由には、どうしても対象従業員の仕事上の行動に対するネガティブな評価が多くなることは避けられません。
しかし、対象従業員は他の仕事や職場であれば適応障害の症状がなくなり、能力を発揮できる可能性もあります。そこで、退職後の次の仕事につなげるために、会社側が対象従業員に対してプラス評価していた点を具体的に伝えることが望まれます。

本人が退職に合意した場合は、退職勧奨同意書等の書面を渡して署名捺印を求めます。本人が迷っている場合は、ゆっくり考える時間を与えることが大切です。その場合は、次回の面談の日程を決めて、速やかに終了しましょう。
退職勧奨への同意が、会社担当者の威圧的な面談や発言、態度によってなされたものであるとされないためにも、十分な配慮をして行う必要があります。
退職勧奨の進め方や注意点については、こちらの記事にまとめましたので、参考にしていただければと思います。

まとめ

今回は、適応障害に関する基礎知識、退職勧奨を行う前に検討すべきこと、適応障害の従業員に退職勧奨を行う場合の注意点などについて解説しました。

近年では、企業の安全配慮義務の観点から、精神疾患の中でも発症しやすい適応障害に対する企業側の理解や適切な対処が求められています。やむを得ず退職勧奨を行う場合は、円満な退職につなげるために慎重な対応を検討することが大切です。対応に問題があると、会社側に重大な損害を与えるリスクもあるため、労働問題に精通した弁護士に相談しながら、個別の事案に応じて適切な対応と行うことが望ましいでしょう。

我々東京スタートアップ法律事務所は、豊富な労働法務の経験を活かし、数多くの企業の顧問弁護士として、人事労務問題の対応や労務管理のサポートを提供しています。適応障害やうつ病等の精神疾患を発症した従業員に対する個別対応に関するアドバイスも行っておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

弁護士中村 望 東京弁護士会
現在弁護士数が増え続けている中で、問題解決のクオリティが非常に重要。依頼者の方からの連絡に迅速に対応したり、何でも気軽に相談できる雰囲気づくりをしたりすることで、依頼者の方との信頼関係を築き、依頼者の方の希望に沿った問題解決をできるように心がけている。