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更新日: 投稿日: 弁護士 高島 宏彰

会社の破産手続の流れと注意点・法人破産後の経営者の生活や従業員への対応は?

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最近は人手不足関連の倒産が増加していて、東京商工リサーチの「全国企業倒産状況」によると、平成20年以降減少傾向にあった倒産件数が、2019年度は年度上半期として2年ぶりに前年同期を上回ったそうです。

会社の財務状況が悪化して倒産する際、一般的に破産手続を行うことが多いですが、手続の流れや費用などについて理解しておきたいという方もいらっしゃるのではないでしょうか?

今回は、会社の破産手続の概要、法人破産手続の方法や流れ、手続にかかる費用、経営者の私生活への影響、従業員への対応や注意点などについて解説します。

会社の破産手続とは

会社の破産手続について漠然と知っているけど、実はよく理解していないという方もいらっしゃるかと思います。まずは、会社の破産手続の定義や意義などの基本について簡単に説明します。

1.法人破産手続の定義

法人の破産手続は、経済的な危機に陥り、経営を続けていくことが困難になった法人の全財産を整理して適正かつ公平な清算を図る法的制度です。法人が破産手続の申立てを行い、裁判所により破産手続開始原因があると認められた場合に破産手続が開始されます。法人の破産手続開始原因は以下の2つとなります。

  • 支払不能(破産法第15条1項):支払能力を欠くために、債務のうち弁済期にあるものについて、一般的かつ継続的に弁済できない経済状態(同法第2条11項)
  • 債務超過(同法第16条1項):負債額の総計が資産額の総計を超過している状態

裁判所が破産手続開始決定を行うと、破産手続を申請した法人は財産の管理処分権を失い、裁判所が選定した破産管財人に財産の管理処分権が専属します(同法第78条1項)。破産管財人は、破産会社の全財産を調査して、換金可能な財産は換金して、各債権者に対して平等に配当を行なう管財業務と呼ばれる業務を行ないます。この管財業務が終了し、破産手続が終結すると、法人格は消滅し、破産手続により、企業が抱えていた買掛金や借入金、滞納していた税金や社会保険料なども含むすべての債務について、支払義務が消滅します。なお、破産手続が終結するまでの間は、破産管財人による管財業務に必要な限度で法人格は存続します。

2. 破産手続のメリットとデメリット

法人の破産手続には、会社経営者の経済的再生の機会の確保を図るという意義もあります。破産手続を行うことにより、個々の債権者による差押えなどの強制執行、仮差押え、仮処分など個別の権利行使は禁止されます。財務状況が悪化して取引先への支払いが遅れると、債権者から催促の電話が繰り返しかかってくるなど厳しい状況が続く場合も多いですが、破産手続により会社の債務の支払義務が消滅するため、債権者から執拗に支払いを要求されることがなくなります。債権者からの催促がなくなることで、債務者の精神的な負担や不安が軽減されるというメリットがあります。一方で、破産手続を開始すると同時に全財産の管理処分権は失われ、経営の継続が事実上不可能になるという大きなデメリットもあります。

清算型と再建型の違い

会社の財務状況が悪化して非常に厳しい状況だけど、なんとか会社の経営を続けていきたいという方もいらっしゃるかと思います。倒産手続には、破産手続に代表される「清算型」の手続の他、窮地に陥った法人の経営を維持し、その再生・更生を目的とした「再建型」と呼ばれる手続があります。清算型と再建型の違いについて説明します。

1.一般的に行われる倒産手続は清算型

清算型の倒産手続は、倒産する企業の全財産を換価して債権者に配当し、会社を消滅させる手続です。資金繰りが悪化して取引先への支払いが滞っている状態の場合、ほとんどが清算型の手続を行うことになります。
裁判所の管轄下で行われる清算型手続には以下の2種類があります。

  • 破産手続
  • 特別清算手続

破産手続は法人の種類を問わず利用できるのに対し、特別清算手続を利用できるのは清算中の株式会社のみです。破産手続は前述の通り、裁判所が選定した破産管財人が全財産を管理することになりますが、特別清算の場合は裁判所によって特別清算人が選任されて裁判所の後見的な監督の下で進められる手続ですが、一般的に会社の元取締役代表者が特別清算人となる点、債権者の多数決によって可決された協定に基づいて弁済されるため、債権者の同意が重要となることといった点で違いがあります。

2.再建型手続の種類と条件

再建型の倒産手続には、法人の種類を問わず利用できる一般法としての民事再生法による再生手続と、株式会社のみが利用できる会社更生法による更生手続があります。再生と更生の違いは、再生が債務の減額や免除又は債務の支払いを猶予してもらう方法による再建であるのに対し、更生は会社の資本構成を変更する方法による再建です。

更生手続は比較的規模の大きい会社向きで、手続は厳格で長い期間がかかります。再建型の倒産手続は清算型の倒産手続と比較して高額な費用がかかります。

再建型の手続を成功させるためには、黒字化に向けた実現可能な事業計画、従業員の理解、取引先との良好な関係性、手続に必要な費用など、様々な要素が必要となります。また、再建型の手続の際には、事業計画書、資金繰り表、貸借対照表など多くの書類を作成しなければなりません。再建型の手続を成功させたい場合は、事業再建の豊富な実績を持つ法律事務所に相談して自社に最適な手続についてアドバイスを受けた上で書類作成のサポートを受けることをおすすめします。

破産手続に踏み切るタイミング

財務状況が悪化して赤字が続き、黒字化の見込みが立たない場合、従業員や取引先に迷惑をかけないためにも速やかに破産手続や再建型の倒産手続を検討することが大切です。しかし、破産手続を行う企業の多くは、資金繰りが厳しい中で必死に自転車操業を続けて、従業員への給料の支払いさえも難しいという深刻な状況に陥ってはじめて破産手続を検討するような状況です。
裁判所の管轄下で行われる倒産手続を行うためには費用がかかりますので、資金を使い果たしてからでは手遅れになる可能性もあります。赤字が続いていて3ヵ月以内に取引先への支払いができなくなる可能性がある場合や、長期に渡って税金や社会保険料を滞納している場合は、できるだけ早く破産手続を検討しましょう。

法人破産手続に必要な費用

破産手続を検討する際、どの程度の費用がかかるのかという点も非常に気になるかと思います。破産手続に必要な費用について説明します。

1.予納金と弁護士費用

破産手続の主な費用として、裁判所に対して支払う予納金と申立の際の弁護士費用があります。
予納金は破産手続を行うための費用として、必ず必要です。金額は裁判所によって異なり、債務総額や債権者数に比例して予納金も高額になる裁判所もありますが、東京地方裁判所のように一定の事件については一律20万円に設定している裁判所もあります。

破産の申立ては弁護士に依頼せずに個人で行うことも可能ですので、申立ての際の弁護士費用は必ず必要ということではありませんが、取引先などとの法律関係の整理や、申立書類の作成等の必要があるため、一般的には弁護士に依頼をして進めます。申立ての際の弁護士費用は通常、着手金と実費がかかります。金額は弁護士事務所によって異なりますが、債務総額や債権者数に応じて変動することが多いです。また、経営者が会社の連帯保証をしている場合などは、経営者も会社と同時に自己破産や個人再生の申立てを行うことがほとんどですので、その場合は個人の手続を行う分の追加費用が必要になります。

2.予納金を払えない場合は?

ただでさえ財務状況が苦しい中、予納金を払うことはできないという場合もあるかと思います。その場合、まずは売掛金の回収やすぐに換価できる会社資産の処分などにより予納金を用意できないか検討してみましょう。
また、申立ての際の弁護士費用については分割払いに対応している法律事務所もありますので相談してみると良いでしょう。
このような状態に陥る前に、事業に見切りをつけて破産手続に着手することをお勧めします。

法人破産手続の流れ

破産手続が具体的にどのように進むのか知りたいという方もいらっしゃるかと思いますので、手続の流れについて説明します。

1. 破産申立て

破産手続は破産しようとする会社が裁判所に申立てを行うことにより開始されます。破産の申立てを行う裁判所は、原則として会社の本店所在地を管轄する地方裁判所となります。申立てに必要な帳簿や書類等を用意した上で破産申立書を作成し、管轄裁判所に提出します。
破産手続に必要な書類は裁判所によって異なりますが、基本的には以下のような書類が必要となります。

  • 破産手続開始申立書
  • 債権者一覧表
  • 債務者一覧表
  • 財産目録
  • 法人登記の全部事項証明書
  • 決算書類(貸借対照表、損益計算書、税金の申告書控え、減価償却資産目録など)
  • 会計帳簿類(勘定元帳、売掛金明細、買掛金明細など)
  • 資産関係の書類(会社名義不動産の不動産登記の全部事項証明書、賃借している物件や駐車場等の賃貸借契約書、預貯金通帳のコピー、会社名義で契約している生命保険・損害保険の保険証券など)
  • 負債関係の書類(借入金に関する金銭消費貸借契約書など)
  • 従業員に関する書類(従業員名簿、就業規則、賃金規程など)

2.破産手続開始決定

裁判所に申立てを行い、裁判官において破産手続開始原因があると認められた場合、破産手続開始決定が出され、破産管財人が選任されます。破産管財人は破産した会社の全財産を管理する権限を持つことになります。破産管財人の選任により、申立人は財産に対する管理処分権を失い、破産管財人等に対し、破産に関する説明義務や財産を開示する義務を負います

3. 債権者集会の開催

破産手続開始決定日から数ヶ月後、債権者に対して破産会社の資産の状況等を説明する債権者集会(財産状況報告集会)が開催されます。この集会には破産申立てを行った会社の代表者の出席が義務付けられ、破産管財人から管財業務の進捗状況について報告がなされます。破産会社の財産の換価が完了し、債権者へ配当可能な原資が確保できた場合、債権者への配当の手続に移ります。管財業務が未了の場合、次回の債権者集会の日程を決定します。

4. 債権者への配当

破産手続で取り扱う債権には、破産手続に服さない財団債権と破産手続に服する破産債権という2つに大きく分類されます。後者には以下の4種類があり、上から順番に配当での優先順位が高く設定されています。

  1. 優先的破産債権
  2. 一般の破産債権
  3. 劣後的破産債権
  4. 約定劣後破産債権

従業員の給料は、破産手続開始前3ヵ月分は財団債権、それ以前の未払い分は優先的破産債権に該当します。

経営者の私生活への影響

会社が破産手続をすると経営者の私生活にも大きな影響が及ぶというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、最近は状況が改善されています。破産手続が経営者の私生活に及ぼす影響について説明します。

1. 経営者が連帯保証人になるのは当たり前?

以前の日本では、企業が銀行から融資を受ける際、当然のように経営者が連帯保証人になることが求められていました。経営者が連帯保証人となることは、銀行側が企業に融資をする際のリスク軽減策として当然だと考えられていたのです。

経営者が連帯保証人になっている場合、企業の財務状況が悪化すると、個人の資産も強制執行の対象となりました。そのため、会社の破産手続を行う際は同時に経営者個人の自己破産手続も行わざるを得ないケースが多くみられました。

2. 「経営者保証に関するガイドライン」による改善

しかし、2014年に政府が発表した「経営者保証に関するガイドライン」により無保証融資を促進する方針が示されたため、最近は経営者が連帯保証人にならなくても融資が受けられるケースが増えています。

金融庁はガイドラインに基づく経営者の連帯保証を不要とする融資慣行の浸透・定着に取り組んでおり、地域銀行などでも、原則として経営者保証を要求しない取り組みが積極的に行われています。
会社の代表者が連帯保証人にならずに融資が受けられることにより、会社の破産手続をした場合でも、その会社の代表者が個人として自己破産をする必要はなくなります。経営者が再度新しいビジネスにチャレンジしやすくなるという意味でも画期的な取り組みと言えるのではないでしょうか。

従業員への対応

従業員に対して申し訳ない気持ちが大きいが故に破産に踏み切れないという経営者の方も多いようです。実際、会社の破産手続は従業員の生活に多大な影響を及ぼします。破産手続に伴う従業員への対応や給料が支払えない場合の救済措置について説明します。

1. 解雇を言い渡すタイミング

破産手続が終結すると法人格は消滅するため、従業員を解雇する必要があります。従業員を解雇するタイミングについては、従業員の転職活動等を考慮して、できるかぎり早い方が良いと考える方もいらっしゃるかと思います。しかし、全従業員に対して通知することで取引先にも破産申立て予定であるという情報が漏れて、売掛金の回収を求める取引先が殺到するなどトラブルに発展する可能性もあります。とりわけ、社会保険料や税金等の滞納がある場合、通知を受けた従業員から役所等に知られ、売掛金や預金等の会社資産の差押えがすぐに実行されるおそれがありますので、破産申立費用等の確保といったことも考慮しながら通知のタイミングを決める必要があります。破産手続が開始された後も従業員を解雇しない会社もありますが、その場合、破産管財人により全従業員が解雇されることになります。

2. 給料が払えない場合の救済措置

資金力不足で従業員に給料の支払いができない場合、労働者健康安全機構が運営する「未払賃金立替払制度」を利用する方法があります。「未払賃金立替払制度」は、倒産時に従業員へ給料等の支払いができない企業に代わり未払賃金の一部を立替払する制度で、労働者とその家族の生活の安定を図ることを目的としています。
ただし、この制度で立替払の対象となるのは、労働基準法第24条2項で規定された定期賃金と退職金で、未払賃金総額の8割が支払対象となります(ただし、年齢による限度額があります。)

法人破産手続を検討する際の注意点

できるかぎり取引先や従業員に迷惑をかけないで破産手続を行うためにはどのような点に注意すればよいのでしょうか?法人破産手続の注意点について解説します。

1. 早めの行動を心がける

破産する企業の多くは、黒字化の目処が立たないまま赤字経営を続けて、負債額が大きくなって初めて破産を検討します。経営難に陥って資金繰りが悪化しても、なんとか会社を存続させたいと考えるのは経営者として当然かもしれませんが、早めに行動を起こすことで破産手続ではなく通常清算により廃業できる可能性も高まります。通常清算なら、全債権者に対して満額の弁済が可能なので、破産手続のように取引先や従業員に対して多大な迷惑をかけることなく廃業できるのです。また、通常清算ができずに破産手続を余儀なくされる場合でも、早めの決断が取引先や従業員に与えるダメージを抑えることにつながります。

2. 総合的・客観的に自社の状況を判断する

経営難が続いて破産を検討しなければいけない状況なのは理解しているけれど、どうしても会社経営を続けたいという場合、総合的・客観的な視点で自社の現状を把握することをおすすめします。全ての資産と負債額、経営難に陥った原因、現在展開している各事業の採算性や展望、取引先や従業員の動向など全てを洗い出し、現状分析を行ないましょう。不採算事業を廃止する、採算性のある事業の事業譲渡を行うなどの方法で黒字化できる可能性がある場合は、それらも含めて検討すると良いでしょう。実際、倒産の危機に追い込まれていても、不採算部門の閉鎖や事業譲渡により、経営の立て直しに成功した会社も存在します。

また将来黒字化できる見込みはあるものの現時点では金融機関への返済が遅延しているという状況の場合、融資を受けている金融機関に対して、返済時期や利率等の条件変更(リスケジュール)を依頼するという方法もあります。

まとめ

今回は、会社の破産手続の概要、法人破産手続の方法や流れ、手続にかかる費用、経営者の私生活への影響、従業員への対応や注意点について解説しました。

経営者が「もう破産するしか道がない」と追い詰められた状況であっても、専門家が総合的に分析を行った結果、会社再建の道が見つかるという場合も少なくはありません。

経営難が続いて破産を検討しているけれど本当は経営を続けたいという経営者の方は、事業再建や倒産の法分野に精通し、会社経営そのものに対する理解も有する法律事務所に相談してみてはいかがでしょうか。

東京スタートアップ法律事務所では、多くの企業を法律面・会計面からサポートしてきた実績から、事業理解のある弁護士・会計士といったプロフェッショナルが在籍しています。事業を行うに際してお困りのことがあれば、ぜひ我々にご相談ください。

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執筆者 弁護士高島 宏彰 神奈川県弁護士会
2012年筑波大学法科大学院卒。2017年弁護士登録。BtoC、CtoC取引等の法分野(消費者契約法・特定商取引法・資金決済法等)に明るく、企業法務全般に取り組んでいる。