中小企業の企業再生の方法と手順・新型コロナの影響を受けた企業の経営再建成功の秘訣
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新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、中小企業を取り巻く経営環境は急激に悪化しています。先が見通せない状況の中、「なんとか経営を立て直したいが、どうすればよいかわからない」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は、財務状況が悪化している中小企業の企業再生方法や手順、中小企業が経営再建を成功させる秘訣などについて解説します。
新型コロナウイルスの打撃を受けた中小企業の倒産状況
帝国データバンクの調査によると、新型コロナウイルスの影響により、一千万円以上の負債を抱えて破産等の法的手続を行った企業は2020年4月21日時点で50件を超えています。また、事業を停止して法的手続の準備を進めている企業も増え続けているようです。
倒産件数が目立って多い業種は、外国人観光客激減の影響を受けた宿泊業、外出自粛や休業要請の影響を直に受けた飲食業・観光業ですが、アパレル業やパチンコ店を含む幅広い業種に新型コロナウイルスによる悪影響は広がっています。
政府や自治体は、新型コロナウイルスにより打撃を受けた中小企業の資金繰りを支援するために様々な助成金や融資制度の整備を進めています。
中小企業が経営再建を成功させる秘訣とは
経営難に追い込まれている小規模事業者や中小企業の経営者の方々は、赤字状態が続く中、「もう破産するしかないかも」と絶望的な気持ちになることもあるかもしれません。しかし、小規模事業者や中小企業の事業再生を得意とする経営コンサルタントである大森 雅美氏によると、経営者の方が「破産しかない」と思いつめるような状況でも、正面から現実に向き合っていくことにより倒産を回避できる可能性は十分にあるそうです。
大森氏の指南を受けて自身の事業の再建に成功した高世 仁氏との対談形式の『あきらめるのは早すぎる 大森雅美の目からウロコの事業再生術』という書籍の中で、大森氏は中小企業が経営再建を成功させるためには、以下の二つの点が最も大切だと述べています。
- 罪悪感を持たないこと
- 逃げないこと
経営状況が悪化して賃料等の支払いや金融機関への返済が困難な状況に陥ると、ほとんどの方は、罪悪感に悩まされ、精神的に追い詰められるかと思います。しかし、まずは、罪悪感を捨てて、平常心で正面から問題に向き合うことが大切だとのことです。経営再建を成功させるためには、まずは経営者自身の気持ちを立て直して「今は苦しい状況だけど、必ず打破できる」という前向きな気持ちを持つことが必要です。
企業再生には現状把握が不可欠
企業再生を成功させるためには、自社の財務状況をできる限り正確に把握することも不可欠です。財務状況を把握するための方法について説明します。
1.財務デューデリジェンス
財務状況を正しく把握するためには、財務デューデリジェンスが有効です。デューデリジェンス(Due Diligence)は、M&Aや投資の際に対象となる企業の価値を正当に評価するために行われる調査のことです。財務デューデリジェンスを行うことにより、会社の財務状況の全体像を把握して現状を正しく分析することが可能になります。財務デューデリジェンスには、高度な専門知識が必要となるため、通常は公認会計士等の専門家に依頼して行います。
専門家が分析することより、意外な財務状況の改善策や経営再建に向けた打開策が見つかるケースも珍しくありません。専門家に依頼する費用を支払う余裕はないという方もいらっしゃるかもしれませんが、企業再生のための必要経費だと考えて、思い切って専門家に依頼してみてはいかがでしょうか。
2.清算貸借対照表の作成
費用をかけずに現状の財務状況を把握したい方には、清算貸借対照表を作成することをおすすめします。清算貸借対照表は、会社の清算をする際に作成する貸借対照表のことです。清算貸借対照表には、通常の貸借対照表には計上されない簿外債務や会社の純資産が明らかになるため、会社の財務状況の全体像を把握して現状を分析するために役立ちます。清算貸借対照表は経理の基礎知識をお持ちの方なら比較的簡単に作ることができます。「清算貸借対照表 作り方」等のキーワードでネット検索をすると作り方について解説された記事を見つけることができるかと思います。
従業員をリストラする前に雇用助成金の活用を検討
経営状態が悪化した際の対処法として、従業員をリストラすることによる経費削減を考える方がいらっしゃるかもしれません。たしかに、人件費の削減は経費削減の中でも大きな効果が期待できるかもしれませんが、従業員は事業の運営に欠かせない最も重要な資産です。また、従業員を解雇する際はリスクも伴うため注意が必要です。従業員の解雇に伴うリスクや雇用維持のために活用できる助成金について説明します。
1.従業員の解雇にはリスクが伴う
法律上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、解雇権の濫用とみなされ、無効になります(労働契約法第16条)。解雇された従業員から「不当解雇だ!」などと訴えられた場合、多額の損害賠償を請求される可能性もあります。
もっとも、いわゆる「リストラ」は通常解雇とは異なり、法的には「整理解雇」という概念になります。整理解雇であっても解雇である以上客観的な合理性などが必要ですが、整理解雇を行う企業は、経営状態が悪かったり、会社を維持するためにやむを得なかったりすることが多いため、通常解雇とは異なる観点からもその有効性を検証する必要があります。例えば裁判例では、整理解雇の必要性があるのか、解雇回避措置(他の経費削減など)を行ったのか、解雇はやむを得ないとしても人選は合理的か、手続きは適切かなどの要素も検討すべきとするものがあります。
2.解雇予告手当とは
従業員を解雇する際は、原則として従業員に対して30日前に解雇予告をする必要があり、30日前に解雇予告をしない場合は解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと定められています(労働基準法第20条1項)。
従業員を解雇する場面でトラブルが生じることは少なくありませんので、従業員を解雇する場合は適切な手順等について事前にしっかり確認しておきましょう。
3.雇用調整助成金を活用
解雇は従業員の生活に大きな影響を及ぼすということを忘れてはいけません。経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が従業員の雇用を守るために利用できる雇用調整助成金など国の制度も整備されているので、上手に活用して雇用維持に努めましょう。
雇用調整助成金の支給要件と申請方法の詳細については厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
融資返済のリスケジュールで資金繰りを改善
事業の継続に必要な人件費等の経費より金融機関への返済を優先している場合、金融機関からの融資のリスケジュールを行うことにより資金繰りを大幅に改善できる可能性が高いです。リスケジュールの概要と具体的な方法について説明します。
1.リスケジュール(リスケ)とは
リスケジュールとは、資金繰りが厳しい際に、金融機関に相談して返済計画や貸付条件の変更を求めることで、リスケとも呼ばれています。
日本人の経営者の多くは真面目で律儀な性格の持ち主なので、金融機関に対して「資金繰りが苦しいので返済を待ってほしい」などと相談することに抵抗を感じる方は多いと思います。しかし、取引先企業の相談に乗りながら、返済計画を見直すことは金融機関の大切な仕事の一つです。金融機関にとっても、貸付先の企業が倒産して融資額を回収できなくなるのは大きなリスクです。貸付先の企業が経営を立て直して全額返済できるようにリスケに応じることは、金融機関側のリスク回避のためにも有効なのです。
2.リスケが認められる可能性
「厳しい条件をクリアしなければリスケを認めてもらえないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。以前はリスケの相談をしても断られるケースが多かったようですが、2009年に「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(以下、「中小企業金融円滑化法」という)が制定されてからは徐々に状況が改善されています。「中小企業金融円滑化法」は通称、「返済猶予法」とも呼ばれ、金融機関が貸付先の企業から返済条件の変更(リスケ)に関する相談を受けた際に可能な限り応じるよう努力義務を課した法律です。この法律は期限の定めがある時限法で、2013年3月に期限を迎えましたが、金融庁の公式サイトには以下のように記載されています。
金融機関が引き続き円滑な資金供給や貸付条件の変更等に努めるべきということは、今後も何ら変わりません。
また、経済産業省は、新型コロナウイルスによる影響を受けた企業を支援するために、金融機関に対して、既存の融資の条件変更について各企業の状況に応じて柔軟に対応するよう要請しています。このような背景から、リスケは以前よりも認められやすい状況になっていますので、資金繰り改善のために必要な場合は躊躇なく相談してみましょう。
3.リスケによる資金繰り改善を実現する方法
リスケの効果を最大限に得て資金繰りを改善するためには、1年間程度、元金分の返済をストップして利息分のみの返済にしてもらうよう交渉するのが理想的です。1年間、元金分の返済をストップすれば、人件費や仕入れ資金等、事業の継続に必要な経費に充てる資金が確保でき、資金繰りが大幅に改善される可能性が高いからです。
リスケの交渉を成功させるためには、経営改善策をまとめた経営改善計画書やその後の事業計画書を用意することが大切です。経営改善計画書には、将来的に借金返済が可能であることを示す根拠とともに実行可能な計画を記載します。金融機関の担当者は経営改善計画書を元に経営者と会話をしながら、総合的に会社再生の可能性、リスケに応じた場合にその会社から貸付金を回収していくことができるかがあるかを判断します。融資担当者は、経営改善計画書の内容だけではなく、経営者自身の状態もしっかりチェックしているので、「絶対に会社を再建する」という前向きな姿勢で交渉に臨むことも大切です。また、経営破綻寸前の状態ではリスケが認められる可能性が低くなるので、リスケの交渉はできる限り早めに行うことが望ましいでしょう。
信用保証協会の保証制度を活用
資金繰りを改善するためには、信用保証協会の保証制度を活用するのも一つの方法です。信用保証協会は、中小企業の資金繰りを円滑にすることを目的として設立された公的機関で、47都道府県と横浜市、川崎市、名古屋市、岐阜市に拠点があり、地域に密着した活動を行っています。金融機関のように直接、貸付を行う機関ではありませんが、中小企業や小規模事業者が金融機関から融資を受ける際に保証人となることにより、融資が通りやすくなるよう支援しています。
信用保証協会には、資金繰りに苦しむ中小企業に対する様々な保証制度が用意されています。代表的な保証制度の一部をご紹介します。
- 経営安定関連保証(セーフティネット保証):新型コロナウイルスによる影響や取引先の倒産などの外的要因により売上減少等に陥った企業をサポートするための保証制度
- 危機関連保証:大規模な経済危機・災害等により金融取引に支障をきたしており、正常化を図るために資金調達を必要としている企業で、かつ一定の割合の売上減少と将来一定割合の売上減少が見込まれる企業に対する保証制度
- 借換保証:複数の借入口をまとめることにより月々の返済負担の削減および中小企業の資金繰りの円滑化を目的とした保証制度
保証を受けるためには一定の要件を満たす必要があり、事前に信用保証協会の担当窓口で認定を受ける必要があります。信用保証協会の保証制度を利用したい方は、最寄りの信用保証協会で相談しましょう。
中小企業再生支援協議会への相談
資金繰り改善のために様々な手を尽くしたけれど改善の目処が立たないという方は、中小企業の再生支援を行っている専門家に相談することをおすすめします。絶体絶命のピンチに陥っているように思えたとしても、豊富な経験を持つ専門家のアドバイスを受けることにより打開策が見つかるケースは少なくありません。
各都道府県に設置されている中小企業再生支援協議会では、企業再生に関する知識と経験を持つ弁護士、公認会計士、中小企業診断士、金融機関経験者等の専門家から、中小企業の経営に関するアドバイスを無料で受けることが可能です。中小企業再生支援協議会は、産業競争力強化法に基づき、中小企業の再生に向けた取り組みの支援を目的として設立された公的機関です。各地域の地域性を踏まえ、再生に向けた計画策定等のサポートを行っているそうです。
中小企業再生支援協議会について詳しく知りたい方はこちらの公式サイトをご確認下さい。
まとめ
今回は、中小企業の企業再生の方法や手順、中小企業が経営再建を成功させる秘訣について解説しました。
企業再生を成功させるためには、経営者の前向きな姿勢が不可欠です。しかし、そうは言っても、一人で深刻な悩みを抱え続けていると、ポジティブな思考ができなくなる時もあるかと思います。企業再生に向けた長い道のりを乗り越えるためには、いつでも、どんなことでも相談できる専門家をそばに置くことも大切です。
私たち東京スタートアップ法律事務所では、中小企業の資金繰り改善や経営再建に関するサポートに積極的に取り組んでいます。各企業の状況をしっかりとヒアリングした上で法務・経営・会計のプロの視点からアドバイスをさせていただき、経営再建への道のりを二人三脚で歩むべく全力でサポート致します。資金繰りなどでお悩みの方はお気軽にご相談いただければと思います。