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更新日: 投稿日: 弁護士 高島 宏彰

会社倒産手続きと経営者や従業員への影響・倒産回避策と合わせて解説

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日本には、業歴100年以上の歴史を持つ老舗企業も多く、その数は世界でもトップクラスだそうです。しかし、その一方で、中小企業の約3割は10年以内に倒産するとも言われています。

「会社が倒産に陥る原因を知りたい」、「会社が倒産した場合、経営者、従業員、取引先にはどのような影響があるのか理解しておきたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

今回は、会社が倒産する原因、倒産の危機回避の可能性と判断基準、会社の倒産手続の種類、経営者・従業員・取引先への影響やトラブルを回避するための注意点などについて解説します。

会社が倒産する原因

中小企業庁が公開している中小企業の倒産状況に関する調査結果によると、2018年度の倒産の原因のトップは「販売不振」で約7割を占めていました。次に多い原因は「既往のしわよせ」(11.7%)、次いで「放漫経営」(4.9%)、「連鎖倒産」(4.5%)、「過少資本」(4.1%)と続いています。それぞれの原因について詳しくみていきましょう。

1. 販売不振

倒産の原因として最も多いのが販売不振ですが、販売不振には様々な要因があります。中でも多いのは業界自体の衰退です。出版物の電子化により、出版業界や印刷業界は年々、売上高が減少しているようです。また、最近は、キャッシュレス化や金融とAIなどの技術が融合したフィンテックの台頭により、金融業界も衰退傾向にあります。AIやロボットなど新しい技術の普及が進んでいるため、既存の製品・サービスがそれらに置き換えられることによって、今後も衰退する業種は増えることが予想されます

業界自体の衰退以外の原因として、競合他社に顧客を奪われる、大口の得意先の方針転換、風評被害などによる顧客離れなどが挙げられます。また、個人情報漏洩などの不祥事が発覚して顧客からの信用を失い、販売不振に陥るケースもあります。

2. 既往のしわよせ

2018年度の倒産の原因として販売不振の次に多かった「既往(きおう)のしわよせ」は、業績が悪化して赤字決算が続いている状態なのに対策を講じないまま放置したせいで、徐々に財務状況の悪化が進み、最終的には倒産せざるを得ない状態に陥ることを意味します。赤字が続く原因は、必ずしも経営者の怠慢にあるわけではありません。業界全体が衰退したり、強力なライバル企業が現れたりなど、外部的な要因により業績が悪化する場合も多々あるのです。経営陣が財務状況を把握し、なんとか経営を立て直そうとしたものの打つ手が見つからず、経営が加速度的に悪化して倒産に追い込まれるというケースも珍しくはありません。

3. 放漫経営

「放漫経営」は、経営能力や資質に問題がある経営者が財政的にずさんな経営を続けることを意味します。典型的なパターンとしては、社長のワンマン経営や小規模の同族企業で創業者一族が会社を私物化しているケースが挙げられます。同族企業では親族が事業を承継しますが、2代目社長が就任した途端、経営が傾くことも少なくありません。また、経営者個人のスキルや人脈に大きく依存する小規模の企業では、経営者が突然体調不良などで働けなくなったことをきっかけとして経営難に陥る場合もあります。

4. 連鎖倒産

「連鎖倒産」とは、他社が倒産した影響を受けて、下請け先や取引先の会社が倒産することです。大口の取引先が倒産したため売掛金が回収できず、急激に財務状況が悪化してしまうケースなどがあります。

連鎖倒産を防ぐことを目的とした制度として、中小企業倒産防止共済法に基づき創設された経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)という共済制度があります。取引先の倒産という不測の事態による被害額は数千万円という高額に上る場合もありますが、2011年10月1日に中小企業倒産防止共済法施行規則が一部改正され、共済金の貸付限度額が3,200万円から8,000万円に引き上げられたことで、無担保、無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れができることになりました。この共済制度に加盟する企業も増えているため、連鎖倒産の件数は減少傾向にあります。

5. 過小資本

「過小資本」は文字通り、資本金が少なすぎるという意味です。
資本金は多ければ多いほど、当然、財務基盤も強くなりますが、資本金が少ないと、些細なトラブルなどの影響を受けやすく、急激な勢いで経営難に追い込まれることも珍しくはありません。

以前は、株式会社を設立するためには最低1,000万円(有限会社の場合は300万円)の資本金を用意する必要がありましたが、現在は資本金1円からでも株式会社を設立できるようになったため、資本の不足により倒産に追い込まれる企業は増加しています。

倒産の危機回避の可能性と判断基準

会社の財務状況が悪化し、倒産の危機に瀕していると思われる場合でも、倒産を回避できる可能性があるケースもあります。倒産の危機回避の可能性を探る手順や判断基準について説明します。

1. 現状分析による判断

まずは、現在の会社の財務状況を正確に把握する必要があります。通常、債権債務の状況を確認するために損益計算書で経常赤字が生じているか、貸借対照表で純資産がマイナスになっているか等を確認します。

倒産を検討している場合、清算貸借対照表を作成してみても良いでしょう。清算貸借対照表は、会社の清算をする際に作成する貸借対照表のことです。清算貸借対照表には、通常の貸借対照表には計上されない簿外の資産や負債、会社を清算する場合に従業員に支払う解雇予告手当や退職金なども全て計上するため、会社の財務状況の全体像を把握して、現状分析するためには非常に役立ちます。
債務超過に陥っている場合、固定費の中に無駄がないかを見直すことも大切です。無駄な固定費を削減することで黒字化できる可能性はないか検討してみましょう。

2. M&Aや事業譲渡も検討

複数の事業を展開していて、一部の事業の業績が悪いために、全体の業績の足を引っ張っている場合、その事業を廃止するという決断により経営を立て直せる可能性があります。
また、本業の業績が順調である前提にはありますが、本業以外の事業に過剰投資して負債が増えているという状況の場合も、本業以外の事業からの撤退が経営再建に役立つでしょう。

事業の廃止を決断した場合、事業譲渡を検討しても良いでしょう。事業譲渡は会社の一部または全部を売買するM&A(企業の合併・買収)手法の一つです。不採算事業であっても、他社からみると業務ノウハウの蓄積や得意先や顧客リストなど潜在的な価値が評価される場合があり、事業譲渡が実現する可能性があります。事業譲渡が実現すれば、利益が得られるだけではなく、従業員を転籍させることができる可能性もありますし、蓄積してきたノウハウが受け継がれるというメリットもあります。

会社の倒産手続の種類

倒産の危機回避の可能性がないと判断した場合、倒産の手続を行うことになります。倒産する際の手続は、大きく分類すると清算型と再建型の2種類の手続があります。それぞれの手続について説明します。

1. 清算型

清算型の倒産手続は、会社の財産や債務を清算して会社を消滅させるための手続です。裁判所の管轄下で行われる清算型の倒産手続には、法人の種類を問わず利用できる破産手続と株式会社のみが利用できる特別清算手続があります。

また、裁判所の管轄下ではなく債務者である企業と債権者との話し合いによる合意によって債務を整理する任意整理という方法がとられる場合もあります。任意整理は、裁判所が関与しない分、柔軟な対応が可能というメリットがある反面、債権者間の公平が保たれなくなる可能性があるというデメリットもあります。

2. 再建型

再建型の倒産手続は、経営破綻状態の会社を再建するための手続です。法人の種類を問わず利用できる民事再生法による再生手続と、株式会社のみが利用できる会社更生法による更生手続があります。

再建型の手続を成功させるためには、債権者や従業員の協力が不可欠です。また、黒字化を目指すための事業計画書、資金繰り表などが必要となり、かなりハードルが高い手続です。財務状況が壊滅的な状態に陥ってからでは手遅れなので、再建型を検討したい場合はできる限り早めに決断し、事業再建の実績を持つ法律事務所など専門家に相談することが必要です。

経営者個人の財産や生活への影響

以前の日本では、企業が銀行から融資を受ける際、ほとんどの場合は経営者が連帯保証人になるよう求められていました。そのため、会社の破産手続を行う際には、経営者個人の自己破産手続も同時に行う必要があり、経営者や経営者の家族への影響は非常に大きなものでした。
しかし、2014年に政府が発表した「経営者保証に関するガイドライン」により無保証融資を促進する方針が示されてからは、経営者が連帯保証人にならなくても融資が受けられるケースが増えています。そのため、会社の破産手続を行う際に、経営者個人の自己破産をする必要がないケースも増えています。

従業員への影響と対応の注意点

会社の倒産は、従業員にとって働く場所が奪われることを意味し、生活にも大きな影響を及ぼします。経営者側としても従業員とその家族の生活をなんとか守りたいという気持ちが大きいのではないでしょうか。

従業員の将来を考えて、早めに倒産する計画を伝えようと考える方もいらっしゃるかと思いますが、従業員に伝えると倒産の事実が取引先などにも知れ渡る可能性があり、混乱を招く危険性があります。そのため、倒産を公表する直前に全従業員に通知するという方法が取られることもよくあります。

資金力不足で従業員に給料や退職金を支払えない場合、労働者健康安全機構が運営する「未払賃金立替払制度」という制度を利用する方法があります。「未払賃金立替払制度」は労働者とその家族の生活の安定を図ることを目的とした制度で、倒産した企業に代わり、従業員への給料や退職の支払いの一部を立替払いしてもらうことが可能です。
また、従業員にとって一番大きな問題は再就職でしょう。年齢的に再就職が難しいと感じている従業員もいるかもしれません。同業他社の求人情報を収集して、再就職を支援することも検討するべきです。

取引先への影響と対応の注意点

企業の倒産は、取引先にも影響を及ぼします。取引先としては、現在、受注・発注している業務や予定していた取引がどうなるのか気になるはずです。事業を継続できない場合は、できるかぎり迷惑をかけないように最大限努力することが必要です。早急に新規の取引ができない旨を伝え、倒産の決断に至るまでの経緯についても説明しましょう。必要に応じて、同業者の中から新規の取引先を紹介できないかどうかも検討すると良いでしょう。
また、全ての取引先に対して、書面で倒産の事実を通知することも必要です。主要な取引先に対しては、書面での通知だけではなく、直接訪問して、謝罪や今までの取引に対する感謝の気持ちを伝えましょう。お世話になった取引先に対しては最後まで誠実な対応を行う姿勢が大切です。

まとめ

今回は、会社が倒産する原因、倒産の危機回避の可能性と判断基準、会社の倒産手続の種類、経営者・従業員・取引先への影響やトラブルを回避するための注意点について解説しました。

経営者が「いよいよ倒産するしかない」と思い詰めていても、専門家が総合的に分析を行った結果、事業譲渡などによる会社再建の道が見つかる場合も珍しいことではありません。

東京スタートアップ法律事務所では、多くの企業を法律面・会計面からサポートしてきた実績から、倒産の危機に直面しているけど事業を存続させたいという経営者をサポートしています。

また、東京スタートアップ法律事務所では、会社を倒産させざるを得ない状況にある、会社を倒産させるという決断をされた経営者の方についても、極力会社関係者へのダメージが少ないような形で手続を遂行させていただくことを是としております。

財務状況が悪化して倒産の危機に瀕しているけれど本当は事業を継続したいという経営者の方、会社を倒産させざるを得ないという経営者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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執筆者 弁護士高島 宏彰 神奈川県弁護士会
2012年筑波大学法科大学院卒。2017年弁護士登録。BtoC、CtoC取引等の法分野(消費者契約法・特定商取引法・資金決済法等)に明るく、企業法務全般に取り組んでいる。