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更新日: 投稿日: 弁護士 後藤 亜由夢

賃料減額請求の手順と書式・交渉成功のためのポイントも解説

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響を受けて、店舗やオフィスを賃借している事業者が毎月の固定費の中でも大きな比率を占める賃料を削減するために、賃料減額請求を行うケースが急増したといわれています。

このような中で、「賃料減額請求の具体的な手順や書式を知りたい」「賃料減額の交渉を成功させるためのポイントについて知りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、賃料減額請求の可否の確認方法、賃料減額の交渉に必要な準備、賃料減額請求の書式や手順、賃料減額請求時の注意点や交渉が難航しそうな場合の相談先などについて解説します。

賃料減額請求の可否を契約書で確認

そもそも、賃料減額請求が認められるか否かは、賃貸借契約書の内容による場合もあるため、賃料減額請求を行う前に賃貸借契約書の内容を確認することが大切です。賃貸借契約書の中でも特に重要なポイントについて説明します。

1.賃料不減額特約の有無をチェック

賃貸借契約書で最初に確認すべき点は賃料不減額特約の有無です。賃料不減額特約とは、一定の期間賃料を減額しない旨の特約のことです。賃貸契約書の中に賃料不減額特約の規定がある場合、賃料減額を請求しても、貸主は特約の存在を理由に減額の交渉に応じてくれない可能性があります。もっとも、後述のように、賃料不減額特約があったとしても、賃料減額請求を行うことは原則として可能です。

2.自動増額特約の有無もチェック

一定の期間が経過するごとに賃料を増額する旨を規定した自動増額特約の有無についても確認しましょう。例えば、3年毎に賃料を3%アップする等の自動増額特約が設けられている場合があります。自動増額特約が定められている場合、増額を前提としていて減額は想定外なので、減額請求の交渉には応じてもらえない可能性があります。もっとも、この場合も賃料減額請求を行うことは原則として可能です。

3.特約に関わらず減額請求は可能

賃貸借契約書に賃料不減額特約や自動増額特約が定められていた場合でも、賃料減額請求を行うことは可能です。賃料減額請求権を規定する借地借家法第32条第1項に「契約の条件にかかわらず(中略)請求することができる」と記載されているからです。この「契約の条件にかかわらず」という文言により、借地借家法第32条第1項は強行法規と解釈されています。強行法規は、当事者の意思に関わらず強制的に適用されるので、賃貸借契約書の特約よりも減額請求権が優先されることになります。そして、訴訟で争う場合は、賃料不減額特約は無効と解されているため、貸主は賃料不減額特約を借主に主張できません。ただし、賃料不減額特約や自動増額特約の定めがある場合は、貸主としては賃料を減額したくないという意思が強いものと考えられるため、減額請求の交渉は難しくなる可能性が高いという点は認識しておきましょう。

賃料減額請求の交渉に向けた準備と心構え

賃料減額請求の交渉をスムーズに進めるためには、事前の準備も重要です。交渉成立の可能性を高めるための準備と心構えについて説明します。

1.交渉相手の確認

入居している物件が管理会社に委託された物件の場合は、賃料減額請求の交渉の相手は、物件の所有者であるオーナー(大家さん)ではなく管理会社となる場合があるので注意が必要です。複数の不動産を所有するオーナーの多くは、家賃交渉を含む物件の管理を全て管理会社に一任しています。管理会社が間に入っているかわからないという場合は賃貸借契約書に管理会社の名称が記載されているか確認してみるとよいでしょう。
とはいえ、法的な貸主はあくまでオーナー(大家さん)であるのが通常であるため、後述のように賃料減額請求の意思表示として内容証明郵便を送る場合は、(いきなり送るかはさておき)送り先はオーナー(大家さん)にするべきです。

2.客観的な根拠を示すことが必要

賃料減額請求の交渉を行う際は、客観的な根拠を提示するための資料を用意することが非常に大切です。減額請求を希望する理由に応じて、理由の裏付けとなるような客観的な根拠を示す資料を準備しましょう。賃料減額請求では以下のような資料が用いられることが多いです。

  • 経済事情の変動を示す資料:公的機関が公表している消費者物価指数や失業率に関する資料、東京商工リサーチなどの民間調査機関による「全国企業倒産白書」等
  • 近隣同種の家賃相場の減少を示す資料:不動産会社が公表している近隣の家賃相場の資料や、不動産鑑定士が作成した適正家賃評価額の算定資料

周辺の賃料相場の下落を理由として減額請求を行う場合は、建物の種類や規模により賃料の動向が異なるため、建物の種類や規模に合わせた資料を用意しましょう。

3.誠実な態度で交渉に望むことも大切

賃料減額請求の交渉を行う際は、自分の都合を一方的に伝えて要求を呑ませようとしてはいけません。減額請求を希望する理由とそれを裏付ける客観的な根拠をわかりやすく説明し、「適正な金額について相談させていただけないでしょうか」と真摯な姿勢で臨むことが大切です。

交渉時には誠実な態度を心がけ、貸主との信頼関係を壊さないよう十分に配慮しましょう。なお、賃料減額請求を行うこと自体は法的には違法性はないため、賃料減額請求を行ったこと自体により立ち退きが強制されることはありません。

賃料減額請求の書式と記載事項

賃料増減請求は相手方に対して意思表示(通知)が到達することにより効果が生じます。意思表示は書面だけではなく口頭でも有効ですが、通常は証拠を残すために配達証明付内容証明郵便で送付しましょう。配達証明付内容証明郵便で送付する理由、記載事項や記載時の注意事項について説明します。

1.配達証明付内容証明郵便で送付する理由

内容証明郵便は、いつ誰がどのような内容の文書を誰宛に送付したかを日本郵便が証明するシステムです。内容証明郵便自体に特別な法的効力はありませんが、訴訟等では証拠として認められるため、法的措置をとる前に送付することが多いです。

賃料増減請求の場合、意思表示が相手方貸主に到達した時点から法的な効果が発生するため、意思表示が到達した日を記録として残すことは非常に大切です。内容証明郵便に配達証明を付けた場合、相手に到着した日が記載された葉書が配達局から送付され、その葉書によって意思表示が到達した日を証明できます。そのため、賃料増減請求の際は、一般的に配達証明付内容証明郵便が用いられるのです。

とはいえ、後述のとおり、内容証明郵便は相手方に対するインパクトが大きいため、まずは電話や手紙などで賃料を減額してほしい旨を伝えるのがよいと思います。

2.内容証明の書式と文字数

内容証明郵便には、特に指定されたフォーマットはなく、一般的な手紙と同様に自由に記載できます。また、後述のように、電子内容証明郵便を使用して、オンラインで送付することもできます。

3.記載事項と注意点

内容証明に記載する項目は以下のようなことが考えられます。

  • 送付する日付
  • 貸主の住所と氏名
  • 借主の住所と氏名
  • 減額を希望する理由
  • 賃料の減額開始の希望月(書面が届く日以降)
  • 減額期間(期間を限定する場合のみ)
  • 減額後の希望賃料
  • 減額請求を行う対象物件の所在地

賃料増減請求の送付先は、賃貸借契約書の貸主(大家、オーナー)です。入居している物件が管理会社に委託された物件の場合、名義上の貸主は管理会社のパターンもありうるため、必ず賃貸借契約書を確認しましょう。
賃料増減請求は過去に遡って行うことはできないので、賃料の減額開始の希望月は必ず書面が届く日以降を指定して下さい。
また、弁護士に作成を依頼する場合、弁護士は内容証明郵便を借地借家法第32条第1項の要件に沿うように作成してくれます。そのため、交渉が決裂した場合に訴訟等まで見越している場合は、内容証明郵便を送る段階で弁護士に依頼するのをおすすめします。

内容証明郵便自体が相手に心理的なプレッシャーを与えるものなので、記載する文章はできる限り威圧的にならないよう表現を工夫することが大切です。「○年○月から月額○円に減額させていただきます。」だけでは、一方的な要求を押し付けるような印象を与えてしまう可能性があります。威圧的な印象を与えないためにも、減額請求の理由を簡潔に記載した上で、「○年○月から月額○円へ減額請求させていただきます。勝手な申出となり大変恐縮ですが、ご検討いただけますようお願い申し上げます。」等、丁寧な表現を用いるとよいでしょう。

賃料減額請求の手順と注意点

賃料減額請求を行うためには、具体的にどのような手続を踏む必要があるのでしょうか。賃料減額請求の手順について順を追って説明します。

1.意思表示

前述の通り、賃料減額請求は相手に対して意思表示(通知)が到達した時点から将来に向かって効果が発生するため、できる限り早く内容証明郵便を送付することが望ましいでしょう。電子内容証明(e内容証明)を利用すれば、郵便局に行かなくても、インターネット上でいつでも内容証明郵便を送付することが可能です。

内容証明郵便を送る際は、受け取った相手がどのように感じるかという点も十分に考慮することが大切です。内容証明郵便を突然受け取ると、心理的なプレッシャーを感じて、身構えてしまう可能性があるため、事前に内容証明郵便を送ることを伝えておくことをおすすめします。電話やメールなどで事前にできる限りソフトな表現で伝えておけば、相手が内容証明郵便を受け取った時のプレッシャーを和らげることにつながります。
入居している物件が管理会社に委託された物件で賃貸借契約書の貸主は物件の所有者である場合は、内容証明郵便を送る前に管理会社に連絡をして、内容証明郵便の内容を伝えた上で、「賃料減額についてはオーナーと直接交渉してもよろしいでしょうか?」と確認するのもいいでしょう。オーナーが家賃交渉を含めて管理会社に一任している場合は、交渉の相手が管理会社になる可能性もあります。もっともその場合でも、内容証明郵便はあくまで賃貸借契約の当事者である貸主の住所に送る必要があります。

2.当事者間での交渉

内容証明郵便を送付した後は、当事者間で賃料について話し合いの場を設けます。話し合いの場では、内容証明郵便に記載した以下の事項について、裏付けとなる資料を見せながら説明します。

  • 減額を希望する理由
  • 減額後の希望賃料

客観的な資料を元に説明した上で、お互いが納得できる適正な賃料について話し合います。賃料について合意できた場合は、減額を開始する月、減額期間(一時的に減額する場合のみ)についても話し合いで決定します。これらの内容について合意できた場合、賃料減額の交渉は成立となります。合意した賃料、減額開始月、減額期間は、必ず書面などにまとめて双方の押印の上、保管しておきましょう。

当事者間での交渉は、貸主が、「入居者の状況に応じて減額交渉にも柔軟に応じたい」という考えであれば、比較的スムーズに進むかと思います。ただし、貸主が「減額交渉には応じたくない」という考えの場合、当事者間の話し合いで合意するのは難しいでしょう。当事者間の話し合いで合意に至らなかった場合は、法的措置による解決を検討することになります。

3.調停

賃料増減請求は、原則として、調停前置主義に基づき、訴訟を提起する前に簡易裁判所に対して民事調停の申立を行う必要があります(民事調停法第24条の2第1項)。調停前置主義とは、当事者が話し合いにより妥協点を探ることが望ましい事案について、訴訟の前に調停で話し合うことを義務付ける制度のことです。賃貸借契約は、一般的に長期間に渡り継続し、貸主と借主の信頼関係が重要であると考えられています。そのため、賃料増減についても当事者間の話し合いによる解決が望ましいという理由から調停前置主義が採用されています。

調停は原則として物件の所在地を管轄する簡易裁判所に対して申し立てます。調停の場では、調停委員と呼ばれる民間の有識者が、貸主と借主の双方の意見を聞いて仲介・調整を行い、円満な解決を目指します。賃料増減請求に関する調停では、調停委員として不動産鑑定士が選任されるケースも多いです。調停委員が第三者的な立場で双方から事情を聴取すると同時に、客観的な資料に基づいて適正な賃料について助言することにより、双方が互いに譲歩して合意に至る場合もあります。当事者間で合意に至った場合は調停成立となり、調停調書に合意内容を記録して完了となります。ただし、どちらかが譲歩できなかったため、調停では決着がつかずに不成立という結果で終わることもあります。

4.訴訟

調停は不成立だったけれど、どうしても賃料を減額してほしいという場合、賃料増減請求の訴訟を提起することが可能です。ただし、訴訟を提起した場合は多額な費用が必要となり、結果的に採算が取れない可能性もあるという点は認識しておきましょう。
訴訟では、賃料の減額を請求する当事者が適正賃料額を立証する責任を負います。適正賃料額は通常、裁判所が選任した不動産鑑定士による鑑定評価書の評価額に基づいて決定されます。その際の鑑定費用は、最低でも30万円程度かかり、原則として賃料減額を求める側が負担する必要があるのです。
鑑定評価書の評価額を合理的に調整した賃料で和解勧告されて、和解が成立するケースもあります。和解が成立しない場合、最終的には裁判所の判決によって適正な賃料が決定されます。

訴訟では、賃貸借契約書の特約の効力等が争点となる場合もあり、長期化することもあります。訴訟が長期化すると、費用面だけではなく、時間的・精神的な負担も大きくなります。訴訟にはそのようなリスクがあるという点を考慮し、訴訟を提起するかについては慎重に判断するようにしましょう。

賃料減額が認められた場合の差額の調整

当事者間の話し合いでは賃料減額が認められず、調停や訴訟に発展した場合、賃料が確定するまでに時間がかかります。賃料減額請求を行ってから賃料が確定するまでの間は、借主が「相当と認める額」として、従来どおりの賃料相当額を支払う必要がある(借地借家法第32条第3項)という点はしっかり認識しておきましょう。賃料減額がまだ認められていないのに、借主自身が勝手な判断で減額した賃料を支払った場合、債務の一部不履行とみなされます。暫定的に支払った賃料の超過分については賃料確定後に清算し、超過額には年1割の利息を付けて返還されます。

賃料減額請求に関する相談先

賃料減額請求は貸主と借主の利害が対立するため、貸主が、「借主の事情に応じて賃料減額交渉に応じてもかまわない」という柔軟な考えを持っていない場合は、交渉が難航する可能性が高いです。
賃料増減請求をする際は当事者間における様々な事情を総合的に考慮する必要があり、円滑に進めるためには高度な交渉力と法律の専門知識が求められます。当事者間での交渉が難航しそうな場合は、貸主との信頼関係を壊さないためにも早めに不動産案件の実績を豊富に持つ弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

今回は、賃料減額請求の可否の確認方法、賃料減額の交渉に必要な準備、賃料減額請求の書式や手順、賃料減額請求時の注意点や相談先などについて解説しました。

繰り返しになりますが、賃料減額請求は、貸主との信頼関係を極力壊さないよう慎重に進めることが大切です。

我々東京スタートアップ法律事務所は、法務・経営・会計のスペシャリストとして、中小企業やスタートアップ企業のサポートに取り組んでいます。お電話やオンライン会議システムによるご相談も受け付けていますので、賃料増減請求や資金繰り等に関する問題を抱えていらっしゃる方はお気軽にご相談いただければと思います。

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執筆者 弁護士後藤 亜由夢 東京弁護士会 登録番号57923
2007年早稲田大学卒業、公認会計士試験合格、有限責任監査法人トーマツ入所。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録。監査法人での経験(会計・内部統制等)を生かしてベンチャー支援に取り組んでいる。
得意分野
企業法務、会計・内部統制コンサルティングなど
プロフィール
青森県出身 早稲田大学商学部 卒業 公認会計士試験 合格 有限責任監査法人トーマツ 入所 早稲田大学大学院法務研究科 修了 司法試験 合格(租税法選択) 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社