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更新日: 投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

業務提携契約とは?メリットや注意すべきポイントも解説

業務提携契約とは?メリットや注意すべきポイントも解説
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業務提携契約は、自社にない経営資源を持つ他の会社と協力することで、特定の業務を遂行し、パートナー企業とWin-Winの関係を築くことを目的とした契約です。業務提携契約を締結することにより、他社の技術やノウハウを活用して低コストで事業を行うことが可能となります。ただし、契約内容が法律で明確に規定されていないため、万が一トラブルに発展した場合に備えて、契約書の内容を十分に精査しておく必要があります。

今回は、業務提携契約の締結を検討している方に向けて、業務提携契約の概要、業務委託契約等の類似する契約との違い、契約書に記載する項目等について解説します。

業務提携契約の概要

1.業務提携契約とは

業務提携契約とは、2社以上の企業が協力し合って業務を遂行し、利益を追求するために締結する契約をいいます。「企業間提携契約」、あるいは単に「提携契約」と呼ばれることもあります。異なる経営資源を持つ会社が、信頼関係に基づいて手を組むことによって、お互いの強みを生かし、相乗効果(シナジー)をもたらすことを目的として締結されます。
新たな事業を立ち上げる際や、新製品を開発しようとする際には、技術、ノウハウ、人材、資金など様々な経営資源が必要となります。しかし、自社がこれらの経営資源を有しているとは限りません。また、一から技術開発や採用活動を行えば大変な時間と労力がかかります。そのようなときに業務委託やM&Aなどと並んで選択肢の一つとなるのが、既に経営資源を有している企業と業務提携契約を結ぶという方法です。

2.業務提携契約の法的性質

売買契約、請負契約などのいわゆる典型契約と異なり、業務提携契約は、民法などの法律によって定義されているものではありません。そのため、定型的な形式はなく、法律的には売買契約、請負契約、委任契約などの要素を併せ持つものであるとされています。業務提携契約の細かな内容は、当事者の合意によって決められます。
したがって、業務提携契約を巡ってトラブルが生じたときには、契約書を元に当事者の合意内容を認定し、他の契約に関する民法上の規定などを参考にしながら妥当な解決を目指すことになります。そのため、業務提携契約を締結する際には契約書の内容を十分に精査することが重要です。

業務提携契約の種類

業務提携契約には、大きく分けて、生産提携、技術提携、販売提携の3つの種類があります。種類ごとの目的や注意点について説明します。

1.生産提携

生産提携契約は、企業が開発した商品の生産・製造を他の企業に委託する契約です。製品の需要が急速に伸び、自社での生産・製造が追いつかない状況の時などに、能力を有する他の企業に製造仕様書などを渡して生産・製造の一部または全部を委託する際に用いられます。他社が製造する製品に自社の商標やロゴを付けて販売するOEM契約も、生産提携の一種です。他社が製造する製品を自社の製品として販売することになるので、製造する品質レベルの保持、不良品が出た場合の責任の所在などが問題となり得ます

2.技術提携

技術提携契約は、自社と他社が有する技術やノウハウを持ち寄ることにより相乗効果を狙う契約です。例えば、薄型の液晶ディスプレイの開発について、高い技術力を有する会社とパソコンメーカーが提携し、コンパクトで軽量なノートパソコンの開発を行うようなケースが考えられます。特許などの知的財産権を有する者が、相手方の企業に一定の範囲で利用を許諾するライセンス契約も技術提携の一種です。

技術提携は相手方の企業に自社の技術やノウハウを必然的に提供することになるため、自社独自の技術やノウハウが流出するリスクが伴います。そのため、技術提携契約を締結する際には、提携先を吟味し、秘密保持契約を結ぶなど十分な対策が必要となります。

3.販売提携

販売提携契約は、自社が製造した製品や提供するサービスの販売・営業を、他社に委託する契約です。例えば、ソフトウェアやシステムの開発を行っているが、販売チャネルや営業スキルを持ち合わせていない会社が、それを得意とする会社と提携するケースが考えられます。また、海外など未開拓の商圏を開拓するために、現地の会社と提携して販路の開拓を行うケースもあります。
販売提携では、適切な手数料を設定し、自社だけでなく相手企業の利益を確保できるような仕組みを作ることが重要です。

業務提携契約と他の契約との違い

1.業務委託契約との違い

業務提携契約に類似する契約として、業務委託契約があります。業務提携契約は2社以上の企業が協力して業務を遂行する契約であるのに対して、業務委託契約は、一方の会社がもう一方の会社に業務を委託し、その対価を支払うという契約です。業務提携契約では、双方の会社がお互いの強みを生かして協働し、費用や報酬を折半します。それに対して、業務委託契約では、委託料を支払って業務を発注する側と、委託された業務を遂行して対価を受け取る側に分かれます
業務委託契約は、法的性質としては、民法が規定する請負契約か委任契約、あるいはこれらが混在したものであるとされています。業務委託契約が請負契約だとすると、受託者は成果物を納品する必要があり、委託者が期待したとおりの成果物が納品されなければ、委託者が対価を支払う義務は発生しません。
つまり、単に自社でできない業務を外注したい場合には、業務提携契約ではなく業務委託契約を締結し、契約書の中で成果物に対して対価を支払う旨を明記する方が、相手方に確実に履行を求めることができるため、望ましいと考えられます。業務提携契約は両当事者が協力し合って一つの業務を遂行するという性質が強いので、相手方に対する履行の請求という面では効力が薄くなる可能性があります。
業務委託契約を活用して自社ではできない業務を他社に外注するのか、あるいは業務提携契約を締結して自社の経営資源を共有しつつ、他社とより深い協力関係を築くことを狙うのかは、自社が最終的に達成したいゴールに応じて判断するとよいでしょう。

2.M&Aとの違い

M&AとはMerger and Acquisitionの略で、ある会社が他の会社を買収し、一つの会社に統合することをいいます。例えば、優れた繊維加工の技術を持つ企業が、デザイン技術と販路を有するアパレルメーカーを買収し、経営の多角化を狙うようなケースです。
業務提携契約とM&Aは、他社とのシナジー効果を狙うために用いられるという点では共通していますが、法律的な手法は大きく異なります。吸収される側の会社が消滅してしまうM&Aと異なり、業務提携契約はあくまで当事者企業が存続することを前提とした手続だからです。
M&Aは、一方の企業がもう一方の企業を吸収する契約なので、デュー・デリジェンスと呼ばれる買収先の調査など十分な準備が必要です。そのため、時間や労力がかかります。業務提携契約は、M&Aほど複雑な手続を経ることがありませんので、時間的にも費用的にも手軽にシナジー効果を実現することができます。

3.業務提携契約のメリット

業務提携契約の最大のメリットは、他社と協力関係を構築することにより、シナジー効果を生み出すことができる点です。シナジー効果とは、複数の組織が持つスキルやノウハウが相互に作用することにより、生産性や製品の性能等を高め、より大きな付加価値と収益を生み出せるようになることをいいます。
前述した通り、M&Aも複数の企業のシナジー効果を狙う法的手段ですが、業務提携契約には、他の手段と比較して、他社との協力関係をよりスピーディに、かつ低コストで実現しつつ、自社の独立性を維持することができるというメリットがあります。M&Aと異なり一方の企業が消滅してしまうことはありませんし、時間的にも費用的にも低コストで目的を実現することができます。

業務提携契約書に記載すべき主な事項

業務提携契約書には、どのような規定を設けるべきなのでしょうか。業務提携契約書に記載する必要がある主な項目について説明します。

1.目的

まず、何のために、当事者が業務提携契約を締結するのかを明記します。契約の目的は様々ですが、たとえば「●●の開発について、両当事者が有する経営資源及び経営ノウハウを有効活用し、協力して利益拡大をもたらすことを目的とする」など、具体的な目的を明記します。

2.提携する業務の内容と範囲

どのような業務の遂行において両当事者が提携するのか、その内容と範囲を特定します。目的を達成するために各当事者がどのような分野で強みを活かせるのか十分に検討した上で、業務の範囲と内容を具体的に決定することが大切です。
この部分は契約内容の根幹をなす重要な規定であり、内容が不明確な場合は、後々トラブルの火種となる可能性があるため、注意が必要です。

3. 利益や知的財産権の帰属

業務提携契約によって利益が生じたときに、その利益を両当事者にどのように配分するのか規定します。また、技術的な領域で業務提携を行う場合には、開発された成果物の知的財産権(特許権等)がどちらの企業に帰属するのか規定しておく必要があります。
利益の配分や知的財産権については、業務提携契約に基づいて実際に開発された成果物によって収益が生じた後に紛争になることが多いため、契約締結時に十分検討し、契約書に明確に定めておくべきです。

4. 競業避止義務

業務提携契約の継続期間中、あるいは契約終了後に、相手方の企業が独自に同種の事業を行うことを防ぐために、同種の事業を当事者が行わない旨の規定を設けることがあります。これを「競業避止義務」といいます。
競業避止義務は、相手方が行う事業内容を一定程度制限する性質を持つ条項です。適用される地域、期間、事業の範囲が不明確だと、相手方の事業を不当に制限するおそれがありますので、これらを明確に定めておく必要があります。

5. 秘密保持義務

業務提携契約を遂行するためには、相手方に対して、自社が有する技術やノウハウに関する情報を一部公開する必要が生じます。また、顧客情報など個人情報の保護性が高い情報を共有しなければいけない場合もあります。このような情報が、第三者に漏れた場合、自社に深刻な影響が起こることは避けられません。

そこで、事業を遂行する上で知り得た情報を外部に漏らさない旨の取り決めが必須となります。これを「秘密保持義務」といいます。自社の情報だけでなく、相手方が提供した情報の自社における取り扱いについても、十分に注意が必要となります。

6. 費用負担

業務提携契約を遂行するためには、両当事者が費用の支出を強いられることがあります。これを両当事者で案分するのか、あるいは各自が負担するのかを定めます。

7. 契約期間

業務提携契約には、一定の契約期間が設定されることが一般的です。
ただし、提携の必要性がなくなった場合や信頼関係が破壊されたような場合には、契約を解除することができ、また契約期間を延長する必要性が生じたときには延長できる余地を残しておくことが望ましいでしょう。

8. 契約の解除

両当事者の合意により契約を解除できることは当然ですが、トラブルを未然に防ぐため、契約を解除する前には一定の期間(3か月等)より前に申し入れを行うものとする旨が定められることがあります。
また、一方当事者に契約違反があったときや、一方当事者が業務に協力しない場合、契約当事者間の信頼関係が破壊された場合などに、一方的な解除を認める規定を設けることもあります。

まとめ

今回は、業務提携契約の概要、類似する契約との違い、契約書に記載する項目などについて解説しました。

業務提携契約は、複数の企業がお互いに協力することにより、自社の強みを活かしながらシナジー効果を生み出し、単独ではできない業務や事業の遂行を実現するものです。他方で、提携する業務の範囲、権利の帰属、秘密情報の管理などでトラブルに発展しやすい契約でもあります。そのようなトラブルを未然に防ぐためには、事前に起こり得るトラブルを想定し、契約書の内容を入念に精査しておくことが重要です。

業務提携契約のような重要な契約を締結する際には、専門家の助言を受けながら、相手方と十分に交渉を行った上で、契約書を作成することをおすすめします。

東京スタートアップ法律事務所では、業務提携契約のチェックはもちろん、法律・会計・経営のプロとして、各企業の目的や方針に合わせた業務提携について総合的なサポートを行っております。お電話やオンライン会議システムによるご相談も受け付けていますので、お気軽にご相談いただければと思います。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社