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投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

業務委託契約書とは?記載条項や作成方法、注意点について解説

業務委託契約書とは?記載条項や作成方法、注意点について解説
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業務の効率化や人件費の最適化を課題とする企業では、業務委託を活用する場面も多いでしょう。

その際、委託者と受託者の双方にとって大切なのは、適正な業務委託契約書を作成して締結することです。

業務委託契約書を締結することは、トラブルの発生を最小限に抑えることにつながります。

今回は、業務委託契約書の概要、業務委託契約書が必要な理由と作成しない場合のリスク、業務委託契約書の記載事項、作成時の注意点などについて解説します。

業務委託契約書とは何か?

業務委託契約書とは、業務を委託する者と受託する者との間で交わされる契約書です。

業務の内容と範囲、報酬などを明記します。

業務委託契約書は、企業が特定の業務を外部の業者やフリーランスなどに委託する際に締結されます。

業務委託契約は口頭での受発注だけでも成立しますが、業務委託契約書は委託者と受託者双方の利益を保護するために重要な役割を果たします

後から「納品された成果物が依頼していた内容と違う」「約束していたはずの報酬が支払われていない」などのトラブルが発生することを防ぐためにも、契約書を作成して、委託条件に双方が合意した証拠を残しておくことが大切です。

そもそも業務委託とは?

業務委託とは、外部の業者に仕事を発注し、仕事の成果物を得る、または役務の提供を受けることをいいます。

雇用契約とは異なり、委託者と受託者は対等の立場で受発注をします。

業務委託には、主に請負契約・委任契約・準委任契約の3つの種類があります。

1.請負契約について

請負契約とは仕事の受託者と委託者がそれぞれ以下の内容を約束する契約のことをいいます。

  • 受託者:契約時に依頼された仕事を完成させること
  • 委託者:仕事の結果(成果物の納品など)に対して報酬を支払うこと

請負契約については、民法第632条で以下のように規定されています。

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

2.委任契約について

委任契約は、受託者が法律行為を行うことに対して報酬が支払われる契約であり、主に弁護士や司法書士などとの間で締結します。

委託する内容は、請負契約のように成果物の完成ではなく、実務の遂行であり、どのように遂行するかについては受任者に任されます。

委任契約については、民法第643条で以下のように規定されています。

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

3.準委任契約について

準委任契約も、委任契約と同様に、受任者が業務を遂行することに対して報酬が支払われる契約です。業務の内容が法律行為以外である点が委任契約との違いです。

準委任契約は、さまざまな業界で用いられています。例えば、以下のような場面で準委任契約を締結することが多いです。

  • 企業が外部のコンサルタントにコンサルティングを依頼する際
  • 企業がシステム開発やソフトウェアの保守・運用を外部のIT企業に委託する際

4.雇用契約と何が違う?

雇用契約とは、民法第623条で以下のように定められた契約です。

雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

雇用契約は、成果物の完成や業務の遂行に対してではなく、労働に対して報酬を支払う契約です。

企業の正社員や契約社員、アルバイト、パートなどの被雇用者と雇用主との間で締結され、雇用契約に定められた時間、場所、条件で労働することが報酬の対価です。

業務委託契約では委託者と受託者が対等の立場にあるのに対し、雇用契約では被雇用者は雇用者から指揮や命令を受ける立場にあります。

また、労働基準法が適用され、労働保険や社会保険の加入が義務づけられるほか、有給休暇を取得する権利が付与されるなど、被雇用者は労働関係法令によって保護されています。

雇用契約では、使用者(企業)は被雇用者の安全に配慮する安全配慮義務(労働契約法第5条)を負いますが、業務委託契約では、企業が受託者の安全管理に関する責任を負うことはありません。

参考:三井住友銀行 Business Navi
業務委託契約書とは?記載事項と作成時に注意したいポイント

業務委託契約書が必要な理由とない場合のリスク

1.委託者に業務委託契約書が必要な理由は?

委託者側に業務委託契約書が必要な理由として、以下の3点が挙げられます。

  • 受託者が委託業務を適切に遂行しなかった場合のリスクに備えるため
  • 制作物の著作権が、受託者に留まると不便であるため
  • 業務委託契約書を作成しないのは違法行為であるため

業務の内容を契約書に定めておけば、適切に遂行されなかった場合、受託者に対して契約書の内容に沿った対応を求めることができます。

また、契約解除や損害賠償について明らかにしておくことで、受託者が適切に業務を遂行しなかった場合のリスクに備えられます。

著作権についての合意を双方で確認しておくことも、業務委託契約書を作成する重要な意義の一つです。

一般的に、成果物の著作権の帰属を明らかにしておかなければ、受託者に帰属すると判断される傾向にあるため、納品後に修正や変更の必要が生じた際、その都度受託者の承諾を得なければなりません。

さらに、委託業務の内容を書面で明確にする必要があることは下請法で定められています。

業務委託を行う際に業務委託契約書を作成しなければ違法行為となるのです。

2.受託者に業務委託契約書が必要な理由は?

業務委託契約書がなければ、受託者は委託された業務の内容や求められる品質基準を把握することができません。

成果物の評価基準が曖昧なために、何度も修正などの対応をしなければならない可能性もあります。

具体的な業務内容や求められる品質基準を業務委託契約書に明記することで、受託者は必要な情報を得て効率的に業務を進めることができます。

また、報酬の支払い方法や期間も業務委託契約書に明示され、受託者は適切な報酬を受け取ることができます。

受託者が報酬に見合わない工数を費やされるなどの不利益を被らないためにも、業務委託契約書で受託業務の詳細を明確化しておくことは非常に重要です。

業務委託契約書の作成方法と依頼先

1.会社が作成する場合

業務委託契約書は自社で用意することが望ましいでしょう。

自社の業界の特性や自社の方針に合う契約書の雛形(テンプレート)を用意しておくことをおすすめします。

雛形を用意しておけば、必要な時にすぐに雛形を提示することができるため、取引先から信頼を得ることにもつながります。

雛形は、法規制の改正やビジネス環境の変化に応じて改良を加えていくべきです。

作成当初には予測できなかったリスクやトラブルを避けるためにも、定期的に見直しを行い、アップデートしましょう。

また、業務委託契約書を自社で作成すれば、自社の意向を契約書に反映できます。

相手側からの要望に応えなければならないこともありますが、ベースとなる契約書を自社で作成している分、自社の意向に沿った内容を契約書に盛り込める可能性が高くなります。

2.弁護士に依頼する場合

適切な業務委託契約書を作成するためには法律の専門知識が必要なので、自社に法務担当者がいない場合、適切な業務委託契約書を作成することは非常に困難です。

そのため、自社で契約書の雛形を作成することが難しい場合は、弁護士に依頼することをおすすめします。

企業法務に精通した弁護士に依頼すれば、業務内容や会社の事情、要望などをヒアリングした上で、自社の意向を反映した契約書を作成してもらえます。

弁護士に業務委託契約書の作成を依頼する場合の基本的な流れは以下の通りです。

  1. 相談者が務委託契約書の作成について弁護士に相談
  2. 弁護士が相談者の状況や希望などをヒアリング
  3. 弁護士が契約書のドラフトを相談者に提示
  4. 相談者の要望をドラフトに反映して契約書を完成させる

業務委託契約書に記載する主な項目

業務委託契約書には、一般的に以下の項目を記載します。

記載項目 概要
業務内容 委託する業務の内容
報酬 委託業務に対して支払われる報酬
支払条件 報酬の支払い時期、支払い方法
成果物の権利 納品後の成果物の著作権、知的財産権について
再委託 受託者が委託した業務を第三者に委託することを許可するかどうかについて(許可する場合は、再委託する際の条件についても記載)
秘密保持 業務を行う上で知り得た情報を第三者に漏らさない旨
契約解除 契約の違反や不履行があった際の対応
契約期間 契約の始期、終期、自動更新や中途解約について
禁止事項 業務を行うにあたり、受託者に禁止する事柄
契約不適合責任 契約内容と異なる成果物や、品質上問題のある成果物が納品された場合の責任
管轄裁判所 委託者と受託者の間で、トラブルになり、裁判になった場合に係属する裁判所
反社会的勢力の排除 委託者、受託者が反社会勢力だったり、反社会勢力と関係があったりした場合は契約を解除する旨

各項目の内容について説明します。

1.業務内容

業務委託契約書には、委託者と受託者の間で合意した具体的な業務内容を明記します。

業務内容には、受託者が担当する業務や作業の範囲、要件、提供するサービスや製品の仕様などが含まれます。

トラブルを避けるためにも、可能な限り明確に記載しましょう。

2.報酬

業務委託契約書には、報酬の金額、支払いのタイミングなど、報酬に関する具体的な事項を明記します。

成功報酬などの場合は、要件と算出方法についても定めておきます。

これにより、委託者と受託者の間で報酬についての合意が明確化され、受託者は適切な報酬を受け取ることができます。

3.支払条件

業務委託契約書には、報酬の金額や支払いのタイミングだけではなく、支払条件についても明確に記載する必要があります。

支払条件の明確化は双方の利益を守り、円滑な取引を確保するためにも重要です。

4.成果物の権利

納品後の成果物の著作権、知的財産権について定めます。

実務では、委託者に帰属させるケースが一般的です。

特に著作物の制作や研究を委託する場合は、知的財産権の帰属が曖昧なままでは後からトラブルに発展する可能性があるため、明確に定めておきましょう。

また、「著作権法27条及び28条に規定する権利も譲渡の対象とする」、「受託者は著作権人格権を行使しない」旨は必ず含めてください。

5.再委託

再委託(受託者が第三者に業務をさらに委託すること)を認めるかどうかについて記載します。

再委託を認める場合は、再委託を認める範囲や再委託先の責任などについても明確に定めておく必要があります。

6.秘密保持

個人情報や知的財産に関する情報など、業務を遂行するにあたって知り得た情報を外部に漏らさないことを受託者に約束させる項目です。

具体的には以下の内容を記載しましょう。

  • 第三者への秘密情報の開示は原則禁止
  • 例外的に情報の開示を認める場合の要件
  • 秘密情報の目的外の利用の禁止
  • 契約終了時の対応
  • 秘密情報の開示や漏洩が発覚した場合の対応

7.契約解除

業務委託契約の当事者に契約違反や契約の不履行などがあった場合は、期間の途中でも契約を解除できる旨について明記します。

これは、契約の信頼性と実効性を保つために非常に重要な規定です。

8.契約期間

業務委託契約の効力が生じる期間について記載します。

具体的な期間を定めるのが難しい場合は、成果物の完成、納品をもって終期とするなど、契約期間を明確にするための定義を記載します。

9.禁止事項

業務を行うにあたり、受託者に禁止したい事項がある場合はここで定めます。

一般的には違法行為を禁止する旨を記載するケースが多いでしょう。

業務の遂行方法などを記載すると偽装請負とみなされる可能性もあるため注意が必要です。

10.契約不適合責任

契約不適合責任は、2020年4月の民法改正によって新たに規定されたものです。

民法改正以前は、瑕疵担保責任として定められていました。

納品された成果物が契約内容と異なる場合や、品質に問題がある場合などに、追完、損害賠償請求、契約解除など、委託者が受託者に対して求める責任について記載します。

11.管轄裁判所

業務委託契約の委託者と受託者の間でトラブルが発生して裁判を行う場合の係属裁判所を明記します。

特に委託者と受託者が遠方である場合は、裁判所に出向くための交通費や時間がかかる可能性があるため、事前に定めておくことが大切です。

12.反社会的勢力の排除

委託者および受託者が反社会的勢力であった場合、または反社会的勢力と関係があった場合には契約を解除する旨を定めます。

暴力団排除条例の施行以降、ほぼ全ての契約書で記載されるようになった項目です。

業務委託契約書作成時の注意点

1.収入印紙は必要?

「請負に関する契約書」、「継続的取引の基本となる契約書」の場合は印紙の貼付が必要です。

「請負に関する契約書」とは、工事請負契約書・物品加工契約書・広告契約書・会計監査契約書など、成果物の完成をもって報酬が発生する請負契約についての契約書のことです。

「継続的取引の基本となる契約書」とは、業務委託取引を継続的に行う場合に作成されるもので、取引の基本について定めたものです。

それぞれの場合の収入印紙の額は以下の通りです。

①請負に関する契約書の場合

契約金額 収入印紙の金額
1万円未満 なし
1万円以上100万円以下 200円
100万円を超え200万円以下 400円
200万円を超え300万円以下 1,000円
300万円を超え500万円以下 2,000円
500万円を超え1,000万円以下 1万円
1,000万円を超え5,000万円以下 2万円
5,000万円を超え1億円以下 6万円
1億円を超え5億円以下 10万円
5億円を超え10億円以下 20万円
10億円を超え50億円以下 40万円
50億円を超える 60万円
記載なし 200万円

②継続的取引の基本となる契約書の場合

4,000円
ただし、契約期間が3ヵ月以内で、更新の定めがない場合は除く。

2.割印は必要?

業務委託契約書を締結する際に割印は絶対に必要というわけではありませんが、重要な契約書の場合は割印をすることが望ましいといえます。

割印をすることによって、契約書の偽造を防止することができるからです。

割印を偽造することは非常に困難です。そのため、割印がされている契約書は信頼性が高く、裁判などの法的紛争の際にも証拠として有効なものとして認められています。

割印は契約書の重要性を示すために使用されることもあります。

ただし、割印をするかどうかは契約当事者の判断に委ねられています。

3.電子契約の場合は?

最近は、業務委託契約書を電子契約で締結するケースも増えています。

電子契約の場合、使用するソフトウェアなどに特に決まりはありませんが、改ざんのリスクを考慮する必要があります。

例えば、Wordやテキストエディタなどを使用して契約書を作成することも可能ですが、その場合、改ざんされる可能性があります。

改ざんのリスクを最小限に抑え、契約書の安全性と信頼性を確保するためには、有効な電子署名を使用する必要があります。

万全なセキュリティ対策を行っている信頼性の高い電子署名サービスや認証機関を利用することが望ましいでしょう。

4.英語で作成する場合は?

業務委託契約書を英語で作成する場合も、日本語で作成する場合と特に変わりはありません。

ただし、海外企業と取引をする場合は、準拠法(適用される法律)がどこの国のものになるかを確認し、準拠法に則した契約書を作成する必要があります。

契約書はその国の法律に基づいて解釈されるため、法的効力のある契約書を作成するためには、準拠法に則した内容にする必要があるからです。

また、相手国の商習慣に合わせた表現や条項を適切に盛り込むことも求められます。

相手国の準拠法や商習慣について不明な点がある場合は、海外企業との取引に詳しい弁護士に相談しながら進めるとよいでしょう。

業務委託契約書に関するよくある質問

1.収入印紙は誰が負担する?

印紙税法では契約書の作成者が収入印紙代を負担すると定められています。

実務では、委託者分は委託者が、受託者分は受託者がそれぞれ負担するケースが多いです

契約書は当事者双方に利益をもたらす取引に関する文書であり、双方が公平に収入印紙代を負担することが合理的だと考えられているからです。

原本を1通のみ作成して、もう1通はコピーで対応する場合は、一般的に原本を保管する側が収入印紙代を負担します。

2.業務委託契約書は行政書士に作成してもらえる?

行政書士は、権利義務に関する書類の作成を専門としています。

例えば、会社の設立や登記手続き、相続手続きなど、法律上の手続きに関わる書類を作成することができます。

しかし、契約書の作成には行政書士は関与することができません。

契約書は法律事務に該当し、専門的な法的知識と経験が必要だからです。

契約書は当事者間の権利義務を明確にするための重要な文書なので、行政書士ではなく弁護士に依頼しましょう。

3.フリーランスとの契約時の注意点は?

フリーランスと業務委託契約書を締結する際は、下請法を適用されること、雇用契約と区別することに注意しましょう。

下請法では、業務委託契約書を必ず発行すること、報酬の支払いは成果物の納品から60日以内に行うことなどが義務付けられています。

また、業務委託契約書を交わしていても、業務途中で契約を解除したり、事故が起きたりした際には、フリーランスから雇用契約だと主張されるケースがあります。

このようなトラブルを防ぐためにも、業務委託契約書の作成は、弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。

まとめ

今回は、業務委託契約書の概要、業務委託契約書が必要な理由と作成しない場合のリスク、業務委託契約書の記載事項、作成時の注意点などについて解説しました。

業務委託契約書は、委託者と受託者との間で起こり得る法律トラブルを防ぐためにも適切に作成することが大切です。

法務担当者がいない場合や契約書の書き方がわからない場合は、弁護士に作成を依頼することをおすすめします。

法律の専門家である弁護士に依頼すれば、将来起きる可能性のあるトラブルを踏まえた上で適切な内容の契約書を作成してもらえます。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づき、各企業の状況や方針に応じたサポートを提供しております。

業務委託契約書の作成や、内容のチェック、業務委託契約を巡ってトラブルが発生した場合の相談などにも応じておりますので、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社