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投稿日: 弁護士 森 哲宏

システム保守契約書の主な項目・開発ベンダー以外に委託する場合の注意点も解説

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業務に用いるシステムの開発をベンダーに委託した場合、一般的に、システム納品後に、システム開発を担当したベンダーとの間でシステム保守契約を締結することが多いかと思います。
システム保守契約は、システム稼働直前の多忙な時期に締結されることが多く、十分な精査が行われないまま締結されることも多いようですが、システム保守の作業範囲や対応時間等について当事者間の認識が異なり、後からトラブルに発展する可能性があるため、注意が必要です。

今回は、システム保守作業の内容、システム保守の必要性、システム保守契約書の主な項目と注意点、開発ベンダー以外とシステム保守契約を締結する場合の注意点などについて解説します。

システム保守とは

システム保守には、具体的にどのような作業が含まれるのでしょうか。まずは、システム保守の主な作業内容や必要性について説明します。

1.システム保守作業の主な内容

システム保守とは、システムが稼働中に発生した問題への対処や、システムの一部を改良する作業のことをいいます。実務上は、前者がほとんどの割合を占めるケースが多いです。具体的な作業としては以下のようなものが挙げられます。

  • システム障害発生時の復旧作業
  • 不正アクセス等のトラブル発生時の原因究明

システムの保守と運用は混同されることもありますが、システムの運用が日常的にシステムを正常稼働させるためのルーティーン作業であるのに対し、保守は突発的に発生する障害やトラブルに対処する作業です。そのため、作業は不定期に発生し、作業時間についても、数時間程度から数週間程度かかるものまで様々です。

2.システム保守の必要性

「完璧なシステムを開発すれば、保守なんて必要ないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、どれほど完璧に思えるシステムにも、潜在的なリスクは必ず存在します。将来に渡り、保守が全く必要ないほど完璧なシステムは、ほぼ存在しないと考えた方がよいでしょう。

ビジネスの根幹に関わるシステムにトラブルが生じた際に、適切な保守を行えない場合、システムが正常に稼働していれば得られたはずの利益を失うだけでなく、取引先に迷惑をかけて信頼を失う可能性もあります。そのようなリスクを未然に防ぐためにも、システム保守は不可欠です。

システム保守契約の主な項目と注意点

システム開発が完了後、本番環境での稼働が開始するにあたり、システムを開発したベンダーとユーザー側の企業間で、システム保守契約を締結することは多いと思います。実際にシステム保守契約を締結する際に、規定すべき主な項目や注意点について説明します。

1.契約形態

保守の内容が、エンドユーザー(システム利用者)からの問合せ対応や障害発生時の復旧作業のみである場合、システム保守契約は準委任契約とすることが多いです。ただし、システムの改修作業など仕事の完成を目的とする作業を含む場合は、請負契約とする場合もあります。
契約書のタイトルからは、準委任契約か請負契約なのか判断できない場合も多いので、双方の認識を合致させるためにも、契約形態を明記することが大切です。

2.保守業務の対象範囲

システム開発の保守業務の範囲は非常に幅広く、契約後に想定外の作業が発生する可能性もあります。システム開発を委託したユーザー側の企業は、保守契約さえ締結しておけば、システムに関する問題はどんなことでも対応してもらえると考えているかもしれません。また、システム開発を受託したベンダー側の企業は、「業界の常識から考えて、保守業務の範囲はこの程度」などと勝手に線引きしているかもしれません。このように、ユーザー側の企業とベンダー側の企業が考える保守業務の内容は、大きく異なる場合も多いです。お互いの認識に大きな隔たりがあると、将来的にトラブルが発生するおそれがあります。そのため、保守業務の対象範囲を明確にして、契約書に記載しておくことは非常に重要です。
具体的には、以下の内容を記載することが多いです。

 ユーザーからの問合せ対応
 システム障害発生時の原因の調査・切り分け

ユーザー側の企業としては、「システム障害発生時の修復作業」も含めておきたいとこですが、修復作業については注意が必要です。システム障害が発生する原因が、必ずしも保守対象のシステムにあるとは限らないからです。実際、ユーザー側の企業が、ベンダーに断りもなく、OSのバージョンアップ等をしたことが原因で、障害が発生する場合も珍しくありません。そのため、保守業務の対象範囲に、システム障害発生時の修復作業を含めると、システム障害の原因が様々あるため,それに対応するベンダー側が大きなリスクを負う可能性があるのです。

3.保守業務の対応可能日と時間帯

システム保守契約では、保守業務の対応可能日と時間帯について当事者間で合意し、契約書に明記することは非常に大切です。営業時間外の対応に対して割増料金が発生する場合はその旨も明記しておきましょう。

システム障害やトラブルは、いつ発生する予測できません。ユーザー側の企業は、「システムは24時間365日稼働しているのだから、深夜や休日にトラブルが発生した場合も、即時に対応してもらえるのが当たり前」と思っているかもしれません。たしかに、深夜や休日に発生したシステム障害に迅速に対応する必要があるシステムの場合は、24時間365日、即時に対応可能な保守が必要となるでしょう。しかし、ベンダーは、必ずしも24時間365日対応できる体制を取れるわけではありません。また、そのような体制を取る場合、人件費がかかるため、必然的に保守料金も高額になります。そのため、即時対応の必要性と費用のバランス、ベンダー側の保守体制などを考慮して、保守業務の対応可能日と時間帯を決めることになります。

4.報酬の額と支払い時期

保守業務の対価となる報酬について、その金額を明記しましょう。システム保守契約では、月額定額料金とする場合が多いですが、保守業務に要した時間と人数に応じて算出するケース、作業項目ごとに料金を設定するケース等もあります。
また、金額だけではなく、支払い時期も明記しましょう。一般的には、当月分の報酬を翌月末に支払うという内容が多いですが、翌々月末払いというケースもあります。

5.契約の更新

システム保守契約では、一年契約を原則とし、当事者のいずれかによる申し出がない限り、自動更新とする場合が多いです。ただし、ユーザー側の企業としては、途中解約が可能な方が都合が良い場合もあるので、途中契約を可能とし、途中解約の条件を定めてもよいでしょう。

開発ベンダー以外とシステム保守契約を締結する場合の注意点

システム保守契約は、システムを開発したベンダーと締結するのが一般的ですが、開発ベンダー以外と締結することもあります。開発ベンダー以外とシステム保守契約を締結する場合の注意点について説明します。

1.開発ベンダー以外と契約するリスク

前述した通り、システム保守作業は、運用とは違い、突発的なトラブルに対応する場面が多いです。システム障害が発生した際の業務への支障を最小限に抑えるためには、システム稼働後に想定外のトラブルが発生した場合も、迅速に対応する必要があります。そのため、システム保守の担当者は、保守対象となるシステムの仕様やプログラムの内容、システムの動作環境、ネットワーク環境などに関する幅広い知識とスキルを持つことが求められます。

保守対象となるシステムの仕様やプログラムの内容について最も深く理解しているのは、当然のことながら、そのシステムを開発したベンダーの担当者です。そのため、基本的には、システム保守契約は、システムを開発したベンダーと締結することが望ましいといえます。開発ベンダー以外の会社にシステム保守を委託する場合、保守対象となるシステムに関する理解不足から、システム障害の復旧作業が遅延する、根本的な解決が望めない等の結果が生じるリスクがあるという点は注意しておきましょう。

2.依頼する会社を選ぶ際の注意点

システムを開発したベンダーの規模が小さく、24時間365日の即時対応が求められるのに、必要な保守体制を整えることができないという場合もあるかと思います。その場合、システムを開発したベンダー以外に、システム保守を委託することを検討することになりますが、委託先は慎重に選ぶ必要があります。

システム保守を専門とする企業であれば、システム保守作業に求められる専門的で幅広いスキルを持つ人材が揃っている可能性が高いです。また、24時間365日の即時対応が必要な場合も、対応できる体制を整えてもらえる可能性があります。システム保守を専門とする企業の中から、いくつかの会社に見積もりを依頼して、比較検討してもよいでしょう。
ただし、システム保守を専門とする会社であっても、保守対象となるシステムの要件定義書、基本設計書、詳細設計書、プログラミング設計書等のドキュメントが揃っていないと断られる場合もあります。ドキュメントが揃っていない場合は、その旨も伝えた上で、見積もりを依頼するとよいでしょう。また、ドキュメントが揃っていない場合は、システムの仕様や動作環境などについて、十分に説明して、理解をしてもらった上で、保守契約を締結することが大切です。

まとめ

今回は、システム保守作業の内容、システム保守の必要性、システム保守契約書の主な項目と注意点、開発ベンダー以外とシステム保守契約を締結する場合の注意点などについて解説しました。

システムが稼働する中で、突発的なトラブルが発生することは珍しいことではありません。トラブル発生時に迅速な復旧を図るためにも、システム保守契約は重要な役割を果たします。システム保守特有の問題に適切に対処するためには、IT業界に精通した弁護士に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。

東京スタートアップ法律事務所では、IT業界の商慣習や法律問題に精通した弁護士が、様々な企業のニーズを丁寧にヒアリングした上で適切なサポートを提供しております。契約書等に関する相談がございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 弁護士森 哲宏 第二東京弁護士会 登録番号52817
日常生活に関わる様々な問題に携わり、相談者の方と同じ目線に立って問題を解決することが大切であることを学ぶ。また、企業の法務部では、コンプライアンス関係の仕事を中心に担当。国内外のグループ会社において、様々な法分野に関する規程作り、モニタリング、教育研修など法令遵守のための体制作りに携わる。こうした経験を踏まえ、問題解決においては、相談者の方との密なコミュニケーションが何より大切だと考える。話しやすく親しみやすい弁護士であることをモットーにしている。
得意分野
借金・債務整理、遺産相続、交通事故等一般民事、人事労務問題、個人情報等企業法務一般
プロフィール
東京都出身 中央大学法学部 卒業 明治大学大学院法務研究科 修了 弁護士登録 都内法律事務所 入所 民間企業にて社内弁護士として執務 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社