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是正勧告とは・適切な対処法、従わない場合のリスクについて解説

是正勧告とは・適切な対処法、従わない場合のリスクについて解説
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「労働基準監督署の定期検査後に是正勧告書が送られてきたが、どのように対処すればよいのだろうか」
「是正勧告には必ず従わなければいけないのだろうか」
このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、是正勧告の法的効力、是正勧告の対象となることが多い違反事例、是正勧告に従わない場合のリスク、是正勧告への適切な対処法、期日までに改善が間に合わない場合の対処法などについて解説します。

是正勧告とは

是正勧告とは、労働基準監督官が、企業の労働基準関係法令違反に対して是正(改善)措置を講じるよう勧告を行うことをいいます。まずは、是正勧告の法的効力、是正勧告が出されるタイミングについて説明します。

1.是正勧告の法的効力

是正勧告は、労働基準監督官による行政指導と位置づけられています。法律上の効力を有する行政処分とは違い、法的効力はありません。そのため、是正勧告に従わなくても、法律上の罰則の対象となることはありませんが。ただし、是正勧告が出されるのは、労働基準法や労働安全衛生法等に違反していると判断された場合なので、適切な是正措置を行うことが求められます。
なお、行政処分に対しては不服がある場合、行政不服審査法に基づく不服申立てを行うことが可能ですが、是正勧告に対しては不服があったとしても、不服申立や取消訴訟提起などを行うことはできません。

2.是正勧告が出されるタイミング

是正勧告が出されるのは、主に労働基準監督署による以下の調査が行われた際に、労働基準法や労働安全衛生法に違反する事項が発覚した場合です。

  • 定期監督:労働基準監督署が一定の基準の下に計画的に実施する立入調査
  • 申告監督:労働者からの申告により行われる立入調査

厚生労働省が公表している労働基準監督年報によると、平成30年度の定期監督実施件数は13万6,281件、そのうち68.2 %にあたる9万3,008件で何らかの法令違反が見つかったとのことです。
申告監督は、前年度からの繰越分を含めて2万8,874件なので、定期監督により是正勧告が出されるケースの方が圧倒的に多いということになります。

是正勧告の対象となることが多い違反事例

平成30年度の定期監督で、違反件数が2万件を超えていたのは、労働時間に関する違反と割増賃金に関する違反でした。それぞれの違反について具体的な事例を交えながら説明します。

1.労働時間に関する違反

労働基準法では、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならないと規定されています(同法第32条)。また、休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させることも禁止されています(同法第32条2項)。

労働基準法第36条に基づく労使協定を結ぶことにより、時間外労働や休日出勤が可能となりますが、協定がある場合でも、時間外労働の上限は1か月45時間・年360時間と定められています(同法第36条4項)。また、臨時の特別な事情があり労使が合意する場合においても以下の制限範囲内とする必要があります。

  • 年720時間以内(通常の場合の360時間を含む:同法第36条5項)
  • 6か月間の平均残業時間80時間以内(同法第36条6項3号)
  • 時間外労働+休日労働が付き100時間未満(同法第36条6項2号)

上記の時間外労働時間の上限規定は2019年の働き方改革関連法が施行されたのに伴い労働基準法が改正され、2020年4月から中小企業にも適用されました。

例えば、月間22日勤務の場合、一定の期間連続して毎日3時間40分を超える残業をさせ、6か月間の平均残業時間80時間以内という制限を超えれば、是正勧告の対象になる可能性があります。

2.割増賃金に関する違反

労働基準法第37条には、使用者が法定労働時間を超えて労働させた場合、法定休日に労働させた場合、午後10時から午前5時の間に深夜労働を行わせた場合は、通常の労働時間または賃金額に法所定の割増率で計算した割増賃金を支払わなければならないと定められています。

この規定に違反している企業は多く、例えば以下のような事例は違反となります。

  • 所定の終業時刻にタイムカードを打刻させた後、あるいはタイムカード打刻前に、業務上必要な作業等を行わせている
  • 固定残業制度を採用しているが、深夜や休日の労働時間に対して法律で定められた割増賃金が支払われていない
  • 労働時間を算定する際、30分単位で切り捨て計算を行っているため、実際の労働時間よりも短く算定されている

2020年9月には、全国に居酒屋を展開する大手外食チェーンに勤務する40代の女性からの申告を受け、高崎労働基準監督署はこの会社に対して残業代未払いに関する労働基準法第37条違反の是正勧告を出しました。

報道によると、この会社の2つの営業所の所長を兼任していたこの女性は、長時間労働などが原因で精神疾患を発症したそうです。女性が加盟している労働組合の話では、発症1か月前の月間残業時間は過労死ラインを大きく上回る175.5時間に及んだ上、頻繁に休日出勤をしており、27日の連続勤務もあったそうです。また、この女性は固定残業代の時間数として定められている月30時間を超えないよう、勤怠記録を自ら修正していたそうですが、記録していたはずの休日の勤怠記録を知らない間に削除されたこともあったとのことです。

この女性が労働基準監督署への申告を行った後、この女性の上司や同僚が、この女性からハラスメントを受けたとして損害賠償を請求する訴訟を提起しました。報道によると、この訴訟の原告は、会社側から貸し会議室に呼び出されて訴訟に参加するよう依頼されたと話しているそうです。上司や同僚から訴訟を提起されたことにより、さらなる精神的ダメージを負ったこの女性は、2021年3月、会社に対して訴訟を提起しています。報道の内容が真実だとすると、会社側のこの女性に対する行為は非常に悪質だといえるでしょう。

是正勧告に従わない場合のリスク

是正勧告は行政指導であるため法的な効力はありませんが、指導の原因となった違法状態が存在するのであれば、指導に従わないことは違法状態を放置することであるため、労働関係法令違反により書類送検される、従業員や元従業員から労働審判の申立てを起こされるなどのリスクがあります。具体的なリスクについて説明します。

1.書類送検される可能性がある

是正勧告を出す労働基準監督官には、特別司法警察職員としての職務権限があり、是正勧告を受けた後も違反を続けた場合、あるいは是正していないのに嘘の報告をした場合などは、書類送検等の刑事手続をとられる可能性があります。

①再監督により再度是正の機会を与えられても是正しない場合

是正勧告の全部または一部に従わない等の場合、労働基準監督署が再監督を行い、再度の是正の機会を与えます。再度の是正の機会が与えられた後も是正が行われない場合、労働基準法違反で書類送検される可能性があります。
厚生労働省が公表している平成30年労働基準監督年報によると、2018年の労働基準法違反による送検件数は896件に上っています。また、悪質と判断された場合は、営業停止命令等の厳しい行政処分が行われる可能性もあります。

②虚偽の報告をした場合

是正の事実がない、あるいは是正が不十分であるにもかかわらず、是正措置を完了したとする虚偽の報告をした場合、労働基準法第120条4号、労働安全衛生法第120条5号等の違反で送検される可能性があります。
例えば、トラックの運転者の労働時間を短縮するよう是正勧告を受けていた運送業者が、実際は短縮していないにもかかわらず運転手の運転時間を実際より少なく報告していた場合などです。

2.労働審判の申立てられる可能性もある

是正勧告に従わないということは、すなわち労働基準関係法令違反の状態を放置していることなので、従業員や元従業員から労働審判の申立てを起こされる可能性があります。
特に残業代(所定時間外労働手当、休日勤務手当、深夜労働手当)の未払いについては是正を行わなければ、労働審判を申立てられる可能性が高くなります。

また、前述した大手外食チェーンの事例のように、労働基準監督署への申告を行った従業員に対して会社が悪質な嫌がらせ等を行った場合などは、従業員から損害賠償請求等の訴訟を提起されるおそれもあります。

是正勧告への適切な対処法

是正勧告を受けた際は、会社側が違反の内容をしっかりと理解し、適切な対処を行うことが大切です。リスクを回避するための適切な対処法について説明します。

1.期日までに是正を行う

是正勧告を受けた場合は、是正勧告書に記載された是正期日までに確実に是正を行うことが求められます。
まずは、是正勧告書に記載された違反項目を確認し、労働基準監督官が問題視している点をしっかり理解した上で、改善するために必要な具体的な施策を検討します。
是正勧告書の指示に従って適切な改善が行われたことが認められた場合、調査は完了となりますが、改善が不十分な場合には、後日、再監督が実施されます。再監督が実施された場合、より厳しい調査が行われる可能性が高いため、期日内に適切な是正ができるように取り組むことが大切です。

また、未払い残業代が発生し、請求されている状況の場合、社内の労務管理体制に問題がある場合が多く、放置すると、再度是正勧告を受けるおそれがあるだけでなく、新たな未払い残業代を発生させる可能性が高くなります。そのため、早急に是正に取り組むことが大切です。
具体的にどのような是正を行うべきかわからない場合は、企業法務に精通した弁護士に相談しながら、具体的な対策について検討するとよいでしょう。

2.弁護士に調査立会いを依頼する

労働基準監督署から調査の予告があり、日程がわかっている場合は、弁護士に立会いを依頼することができます。弁護士に依頼することにより、調査官からの質問に対して法律知識に基づいた適切な回答をすることが可能になります。また、その後に是正勧告が出された場合にも適切な対処法についての助言を受けることができます。

期日までに改善が間に合わない場合の対処法

是正勧告書が交付された場合、是正勧告日から指定期日までは通常約1か月程度しかないため、企業に是正の意思があってもそれが間に合わない場合もあります。例えば未払い残業代を過去に遡って再計算しなければならない場合などは相当の時間を要するため、期日に間に合わない可能性があります。
是正が間に合わない可能性が高いと判断した場合は、直ちに労働基準監督官に報告・相談することが重要です。相談の上、監督官の承認が得られれば、指定期日に途中経過と是正完了予定日を記入した是正報告書を提出することが認められます。この場合、是正措置が期日に間に合わなかったとしても直ちに送検されることはありません。

まとめ

今回は、是正勧告の法的効力、是正勧告の対象となることが多い違反事例、是正勧告に従わない場合のリスク、是正勧告への適切な対処法、期日までに改善が間に合わない場合の対処法などについて解説しました。

平成30年度の定期監督では、対象となった企業のうち68.2 %に何らかの法令違反が見つかったことからもわかるように、労働関連法規を完全に遵守することは容易ではありません。是正勧告を受けた場合は、労働基準監督官から法令違反があると指摘されている状況なので、速やかに是正に向けた対処を行うことが大切です。具体的な対処法がわからない場合は、企業法務に精通した弁護士に相談するとよいでしょう。

東京スタートアップ法律事務所では、企業法務に関する専門知識と豊富な経験に基づいて、様々な企業のニーズや方針に合わせたサポートを提供しております。是正勧告に対する具体的な対処法等に関するご相談にも応じておりますので、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 -TSL -
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