派遣社員・契約社員の解雇や雇止め|違法にならないための会社側の注意点
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2020年5月12日、厚生労働省は新型コロナウイルスの影響で、解雇や雇止めの対象になった労働者が5,500人を超えたと発表しました。コロナウイルスをはじめ、様々な情勢の影響を受けながら企業が存続するためには、やむを得ず従業員を解雇しなければならない場合があります。
そのような場合、まずは非正規雇用である派遣社員や契約社員から検討するという企業も多いのではないでしょうか。正社員に比べて、非正規雇用者は解雇の制約が緩いと思われがちですが、状況によっては非正規雇用の労働者の方が解雇の条件が厳しくなるケースもあります。
そこで今回は、派遣社員や契約社員を解雇・雇止めする場合に、どのようなケースで認められるのか、違法な解雇にならないように会社が注意すべきポイントについて解説します。
契約社員や派遣社員と正社員の解雇の違い
会社では、契約社員・派遣社員と正社員を区別する際に、非正規社員、正社員と呼ぶことが多いと思います。非正規社員には契約社員、派遣社員、パート、アルバイトなどが含まれ、雇用の形態によって会社内での名称も様々です。一般的には次のような契約類型によって分類されます。
- 正社員:期間の定めのない雇用契約を締結し、基本的にフルタイムで働く労働者
- 契約社員:一般に期間の定めのある雇用契約を締結した労働者(ここでは、期間の定めのある雇用契約を締結した労働者のことを契約社員といいます)
- 派遣社員:派遣会社が雇用して、派遣先企業に派遣し、派遣先企業の指揮命令下にて就業させる労働者
正社員でも、非正規社員でも、普通解雇(従業員側に解雇されるだけの理由がある場合に行う解雇であり、懲戒解雇、整理解雇以外の解雇)・懲戒解雇(従業員が会社の秩序を著しく乱す問題行動をした場合に制裁として行う解雇)・整理解雇(従業員の人員整理をすることで会社を存続させるために行う解雇)の3つの種類があることは同じです。
ただし、非正規社員は、人員確保の必要性に対応する柔軟な雇用期間を前提としているため、一般的には正社員よりも解雇の有効性が認められやすいといえます。
また、契約社員の場合は、労働契約期間が終了した際に契約更新をしない「雇止め」という方法があります。雇止めは解雇ではなく、契約更新の拒否です。
派遣社員の場合は、派遣先会社が派遣元会社との間で派遣契約を打ち切る「派遣切り」と呼ばれる方法が取られることがあります。また、派遣社員と派遣元会社との間で契約更新が拒否される雇止めや解雇が行われうるのは契約社員と同様です。
契約社員の雇止めで注意すべき点
雇止めとは、期間を定めた労働契約において、期間が満了した時点で契約更新をしないことをいいます。契約社員のような有期労働契約では、期間満了時に契約が終了するのが原則ですが、業務内容や更新回数によっては雇止めが認められず従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係が継続するとされる可能性もあります。
1.契約期間満了のケース
契約社員の場合、契約期間の期間満了と同時に有期雇用契約も終了するのが原則です。しかし、何度も契約更新をして、働いた期間が長期になる場合や、業務内容が正社員と変わらない場合など、契約社員が契約更新を期待しているような場合は、その期待が法的に保護されるとして契約更新の拒否が認められない場合があります(労働契約法第19条)。
具体的には、以下の3つの条件を満たす場合は雇止めが認められません。
- 契約社員が契約更新の申し込みをした場合または契約期間が終了してすぐに有期労働契約の申し込みをした場合
- 過去に何度も契約更新をしていて、雇止めと正社員の解雇が社会通念上同じように捉えられるか、契約社員が契約更新を期待する合理的な理由がある場合
- 会社側が契約社員の契約更新の申し込みを拒否することに客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と言えない場合
過去の裁判例でも、電気機器の製造作業に従事する契約社員が、過去に何度も契約更新されていた事情から、契約社員は当然更新される契約を締結していたと考えられる(「あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた」)ので、雇止めは実質的に解雇にあたるとして雇止めが認められなかった例があります(最高裁判所昭和49年7月22日判決「東芝柳町工場事件」)。
2.契約期間中のケース
契約社員の有期契約期間中の解雇は、以下のように法律で厳しく規定されています。
- 労働契約法第17条1項
使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
つまり、会社としては、「やむを得ない事由」がなければ、契約期間中に契約社員を解雇することはできません。これは、正社員の解雇よりも厳しい条件ですし、やむを得ない事由が存在することを会社が証明しなければなりません。
過去の裁判例では、事業の縮小で整理解雇をする事情があったとしても、雇用契約の期間満了前に解雇しなければいけないほどの事情が必要として、整理解雇を無効とする厳しい判断が下されています(福岡地方裁判所平成16年5月11日判決「安川電機八幡工場事件」)。
派遣社員の派遣切りで注意すべき点
派遣社員は、派遣元の企業との間で雇用契約を締結し、派遣先と派遣元の労働者派遣契約に基づいて派遣先に派遣されて働いている従業員のことをいいます。派遣切りについては、以下のように派遣先と派遣元のそれぞれで注意すべき点が異なります。
1.派遣先会社との派遣切り
労働者派遣契約は派遣先と派遣元との間の合意で成立しているので、派遣先の都合で労働者派遣が終了し、派遣社員が派遣先での就労機会を失い「派遣切り」にあうことは、契約上やむを得ないことといえます。そして、派遣社員は、派遣先の企業に対して、就労する権利を要求することはできません(ただし、派遣先企業は派遣労働者の新たな就業先の確保の措置を取る等一定の法的義務が生じます)。
ただし、改正労働者派遣法により、業務内容に関係なく、同一の職場での派遣社員の受け入れ期間の上限が3年に制定され、同じ職場での勤務が3年を超える場合は派遣先企業からの直接雇用に切り替えることが必要になりました。派遣法の改正は、派遣社員の雇用の安定化を目指した反面、実際は派遣切りの増加が指摘されているところでもあります。派遣先企業としては、派遣社員の勤務期間が3年を超えそうな場合は、自社で直接雇用しうるかどうか、慎重に検討する必要があります。
2.派遣元会社との派遣切り
派遣社員が派遣元との契約で有期の雇用契約を締結している場合、上記の契約社員と同様の雇止めにあう可能性があり、これも「派遣切り」の一つとみなされています。
有期契約の期間満了時の派遣元企業による契約更新拒絶や、有期契約期間中の解雇については、契約社員と同様です。契約社員と異なる点としては、上記のように3年を越えて同じ派遣先で勤務する場合の対応です。派遣社員は、業務内容に関係なく、同一の職場での派遣社員の受け入れ期間の上限が3年になりましたが、3年を超えて働くには、派遣先企業から直接雇用されること以外に、派遣元企業から無期雇用を受ける方法があります。
これにより派遣元企業には、現在の派遣先での就労後も他社で働けるように派遣先を探して紹介する努力をすることや、派遣先が見つからず働けない場合には給料や休業補償を支払う義務が発生します。
契約社員や派遣社員の解雇で不当解雇が問題になる場合とは
正社員を解雇する場合、30日以上前に解雇する旨を従業員に伝えるか(解雇予告)、30日を切った解雇予告日から解雇日までの日数を引いた平均賃金(解雇予告手当)を支払うことなどの対応が求められています。また、解雇に「客観的に合理的な理由」がなく、「社会通念上相当」でないとされる場合は不当解雇に当たることが問題となります。
契約社員や派遣社員でも正社員と同様に不当解雇が問題になる場合について説明します。
1.途中解雇を何日前に伝えるべきか
有期の労働契約の場合、期間途中での解雇はやむを得ない事由がない限り認められません(労働契約法第17条)。また、契約期間満了により自動的に契約終了するのが原則ですが、3回以上契約更新されていたり、勤務期間が1年を超える契約社員が契約更新しない場合は、会社は30日前までに雇止めを予告しなければならないとされています。
加えて、契約更新が繰り返される等、実質的に正社員と同様の雇用形態の場合や、契約社員に契約継続を期待する合理的理由がある場合は、正社員の解雇と同様に、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当」といえる理由がない限り雇止めは認められません。
2.即日解雇ができる場合
労働者を解雇する場合について、労働基準法第20条第1項では、解雇全般について解雇予告や解雇予告手当の支払が必要と規定されています。しかし、同項ただし書では、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。」こと、同条第3項では、労働者側の帰責事由については所轄労働基準監督署長による解雇予告除外認定が必要である旨が定められており、即日解雇が可能な例外が規定されています。
天災等以外の労働者側の事由としては、就業規則などに懲戒処分事由として、会社内での犯罪行為、賭博などで職場規律を乱す場合、採用条件に経歴詐称などの虚偽があった場合、無断欠勤が続く場合などの規定があり周知されていること、解雇権の濫用に当たらないような事由があり、従業員にも弁明の機会がある等の適正な手続きが取られていることが必要です。
3.問題のある契約・派遣社員をクビにしたい場合
派遣社員に問題がある場合、派遣先企業としては派遣元企業との労働者派遣契約を解除することによって、問題社員の就労を打ち切り、実質的にクビと同様の効果を得ることが可能です(ただし、派遣先企業の都合による労働者派遣契約の解除に当たっては、派遣労働者の新たな就業先の確保、休業手当の費用負担その他の派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じる必要があります)。
契約社員の場合は、自社との直接雇用になるため、問題社員の問題の程度によって取るべき対応が異なります。契約期間中の解雇は「やむを得ない事由」がないと認められず解雇のハードルが非常に高く容易に解雇が認められないため、現実的には雇止めによって実質的にクビにできるかが問題になります。
途中解雇は厳格な反面、雇用期間の満了による雇止めは正社員の解雇ほど厳格ではなく、勤務態度の不良や健康状態に問題があった場合、不正行為があったような場合の雇止めは認められやすい傾向にあります。一方で能力不足を理由に雇止めをする場合は、勤務成績の評価が適正に行われたか等が厳しく審査され、会社側が契約社員の能力不足を理由に一方的に雇止めすることについては厳しい判断が下される傾向があります。
契約社員や派遣社員を雇う会社が解雇に備えてしておくべき5つの対応
契約社員や派遣社員は、正社員に比べて解雇要件が緩やかなように思えますが、上記のように勤務状況等によっては正社員以上に解雇が厳しく制限される場合があります。会社が不当解雇で訴えられないために、次のような対応を検討しておくことをお勧めします。
1.契約期間の検討と無期雇用への転換
有期の労働契約の期間の上限は3年が原則ですが(労働基準法第14条)、契約期間中は「やむを得ない事由」がない限り、原則途中で解雇できません。一方で、契約期間の下限については規定がありませんが、会社には必要以上に短期間で契約して更新を繰り返さないような配慮が要請されています(労働契約法第17条2項)。
会社としては、人員整理の必要が生じる可能性を考えると、短期の労働契約を更新し、期間満了時の雇止めに備える方法がありますが、一方で契約更新回数が多いと契約継続の合理的期待を抱かせ、雇止めが認められない可能性も生じます。
また、労働契約法の改正により、有期の労働契約が通算5年を超えた場合は、労働者からの申し込みを条件に、無期の労働契約(正社員)に移行する制度が導入されました。3年の契約を締結すると、最初の更新から無期転換の申し込みが可能になり、会社はこれを承諾したとみなされます。
会社としては、契約時に契約期間を何年で締結し、将来無期雇用をする可能性があるかも踏まえて十分に検討する必要があります。
2.契約を更新しない不更新条項
不更新条項とは、会社が契約社員と締結する有期労働契約において、契約を更新しない旨の条件を付けたものをいいます。1回も契約を更新しないというものだけではなく、契約回数の上限や、契約更新の上限年数を設ける場合もあります。
最初に契約する時点で不更新条項を設けている場合は、契約社員はそれを承知した上で契約するので、契約期間満了時の契約更新について合理的な期待は持たないと言えます。そのため、会社が契約更新拒絶による雇止めをすることは有効になるのが原則です。
ただし、契約時に雇用を継続するような話がある場合、業務内容が正社員と同様である場合、更新回数が多数回に及ぶような事情がある場合は、契約更新の期待があったと判断される可能性があります。
契約を更新する際に不更新条項を設けることは、契約社員の意向を無視して会社が一方的に行うことはできません。不更新条項付きの契約書に契約社員が署名押印しただけではなく、十分に話し合いをして納得した上での合意であることが必要です。
3.更新時の言動と契約内容の注意点
会社が、契約社員を雇止めする必要が生じた場合に、雇止めが制限を受けないようにするために、契約社員に契約継続の合理的な期待を抱かせないような注意が必要です。
具体的には、契約更新の際に自動更新とせずに契約書を作成すること、場合によっては不更新条項を付記すること、話し合いの際に契約を更新する可能性があると示唆するなど過度の期待を抱かせないこと、できる限り正社員が行う根本的業務ではなく臨時的・補助的業務を行わせることなどの対応が求められます。
4.雇止めの手続きの注意点
雇止めができるとしても、突然契約更新の拒絶をしてはいけません。有期労働契約が正社員の無期契約と同視できる場合や雇用継続の合理的期待がある場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、雇止めについても正社員の解雇の場合と同様の要件を備えなければならないこととされています(労働契約法第16条、雇止め法理)。雇止めの場合でも、契約期間が満了する30日前には契約更新をしない旨を伝え、契約終了の合意に至るように努めましょう。
5.派遣期間を把握する
派遣社員の派遣を受けている派遣先企業の場合、会社の事情によって派遣元との労働者派遣契約を解約し、派遣社員の就業を拒否する結果となったとしても、派遣社員から就労を強制・要求されることはありません。しかし、派遣社員の就労が同一企業で3年を超える場合は、派遣先企業との直接雇用が要請される可能性があります。直接雇用を想定していない場合は派遣社員の就労期間を把握しておきましょう。
契約社員や派遣社員の解雇を弁護士に相談するメリットデメリット
契約社員や派遣社員の解雇や雇止めは、一見正社員より緩やかに認められそうですが、勤務状況により厳しく判断されます。そのため、不当解雇で訴えられないように、契約の状況や勤務内容について十分に検討する必要があります。
弁護士に相談するメリットは、契約の段階から将来の解雇や雇止めの可能性に備えた対応や、契約更新・雇止めをする際の期間や回数などを踏まえた今後の対応についてのアドバイスを受けられることです。また、弁護士に依頼すれば、万が一契約社員等の側と争いになった場合に代理で交渉してもらうことも可能です。非正規雇用に関しては、近年法改正も多く、多数の判例が積み重ねられているため、これらを網羅して対策を講じることが重要になります。労務問題に精通した弁護士に相談・依頼することにより、最新の法規制や判例に基づいた適切な対応をとることができます。
一方で、弁護士に相談・依頼するデメリットとしては、費用面があげられます。弁護士を依頼した場合の費用については、依頼内容や事務所によって異なります。最初の相談費用は無料の場合もありますが、有料相談の場合は1時間1万円程度が相場です。不当解雇で問題になった場合や、損害賠償を請求された場合は、弁護士費用とは比にならない大きな負担を被ることになります。まずは法律相談を利用して、希望する相談内容や依頼内容から見積もりを出してもらい、検討してはいかがでしょうか。
まとめ
今回は、契約社員や派遣社員の解雇・雇止めについて解説しました。
非正規雇用者の解雇は安易に考えられがちですが、実は問題点も多く、また時勢を反映するためにトラブルになった際に報道されやすいのも特徴です。それだけに、弁護士のアドバイスを受けて、事前の段階から十分な対応を取っておくことが求められます。
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