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従業員による窃盗が発覚!会社の対応・懲戒解雇等の処分を行う際の注意点

従業員による窃盗が発覚!会社の対応・懲戒解雇等の処分を行う際の注意点
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「社内で窃盗事件があり従業員が犯人だと判明した場合、会社はどのように対処すべきなのだろうか」

「警察から連絡があり、従業員が万引の現行犯で逮捕されたと告げられたが、従業員に対してどのような処分を行うべきなのだろうか」
従業員による窃盗が発覚した際、このような疑問をお持ちになる方は多いのではないでしょうか。
今回は窃盗の定義と成立要件、従業員が窃盗した場合に会社が取るべき対応、窃盗をした従業員・会社が問われる法的責任、窃盗防止対策などについて解説します。

窃盗とは

従業員が窃盗事件を起こした際に会社がとるべき対応について解説する前に、前提知識として窃盗罪の定義と成立要件、窃盗罪の種類や罰則など、基礎的な内容について説明します。

1.窃盗罪の定義と成立要件

窃盗罪は、他人の財物を窃取することで成立する犯罪です(刑法第235条)。持ち主との合意なく自分が所有者であるかのごとく使用する行為、保管場所を移転させる行為なども該当し得るとされています。
窃盗罪が成立するには、以下の2つの主観的な要件を満たすことが求められます。

  • 故意であること:他人の物を盗んだことを認識かつ許容している状態
  • 不法領得の意思があること:権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い、これを利用処分する意思がある状態

2.窃盗の種類

窃盗は、以下の2つの種類に大別されます。

  • 侵入盗:旅館荒らし、事務所荒らし、空き巣ねらい等
  • 非侵入盗:ひったくり、すり、自動車盗、車上狙い、万引き、置き引き等

上記のうち、侵入盗、ひったくり、すり、自動車盗は重要窃盗犯として警察による重点的な捜査活動の対象となっています。

3.窃盗罪の罰則

窃盗罪の罰則は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められています。初犯の場合は不起訴処分または罰金刑で済むことが多いですが、悪質なケースでは懲役刑が科されることもあります。暴力を伴う窃盗の場合、窃盗罪の加重類型に該当する強盗罪が成立する可能性があります。強盗罪は悪質性が高いため、5年以上の有期懲役という重い法定刑が定められています(刑法第236条1項)。

従業員による窃盗が発覚する典型例

従業員による窃盗は、どのような場所や状況で発覚することが多いのでしょうか。典型的なケースについて説明します。

1.社内で発覚するケース

社内で従業員の窃盗が発覚する典型例としては以下のようなケースがあります。

  • 社内のロッカーやデスクの引き出しに入れていた財布や貴重品など従業員の私物が盗まれる
  • 工場や倉庫などに保管されていた商品の在庫が盗まれる
  • 職場で使用する備品が盗まれる

2020年7月には、大手ネット通販会社の倉庫で、従業員が約10万円相当のパソコンのCPU(中央演算処理装置)を盗んだという事件が報道されました。報道によると、この事件の犯人はギャンブルなどで借金があり、余罪について「2019年5月頃から高額商品を40~50個ほど盗んだ」と供述したそうです。

2.取引先や常駐先で発覚するケース

取引先や常駐先で従業員の窃盗が発覚するケースもあります。具体例としては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 営業職の社員が勤務中に営業先の販売店で万引き
  • 取引先に常駐していた従業員が取引先企業のパソコンを盗んで転売

2019年11月には、窃盗犯から財産を守るためのサービスを提供するはずの警備会社の社員が、顧客宅で貴金属品を盗んだという事件が報道され、話題になりました。

3.会社とは無関係な場所で発覚するケース

会社とは関係ない場所で、従業員による窃盗が発覚することもあります。典型例としては以下のようなケースがあります。

  • 従業員がコンビニで万引きして現行犯逮捕
  • 従業員が自宅付近の駐輪場で自転車を盗んだことが発覚

4.業務上横領罪が成立するケース

会社の役員や経理部等、会社の資金を保管、管理する権限を有する従業員が職務上の立場を利用して会社の資金を盗んだ場合、窃盗罪より重い業務上横領罪が成立する可能性があります。業務上横領罪は、業務上、預かっている物を横領した場合に成立する犯罪で、罰則として10年以下の懲役が定められています(刑法第253条)。窃盗罪の対象は他人の占有する財物であるのに対し、横領罪の対象は自己の占有する他人の財物です。

従業員が窃盗した場合に会社が取るべき対応

従業員による窃盗が発覚した場合、会社はどのような対応を行うべきなのでしょうか。会社が取るべき適切な対応について時系列で説明します。

1.事実関係の把握

従業員が逮捕された場合、従業員自らが会社に連絡することはできません。そのため、一般的に従業員が窃盗をしたことを会社が知るのは、警察や本人の家族あるいは本人の弁護人から連絡を受けたタイミングとなる場合が多いです。連絡を受けた後、最初にすべき事は事実関係の把握です。具体的には以下の内容について確認して下さい。

  • 犯罪行為の詳細(いつ、どこで、どのような物をどのような手口で盗んだのか)
  • 被害者は誰か
  • 業務中の事件かプライベートにおける事件か

業務中の事件の場合、会社側は使用者責任を問われ、被害者の損害に対して損害賠償義務を負う可能性があるため注意が必要です。本人と連絡が取れた場合、まずは窃盗の事実を認めているかを確認します。

本人が窃盗の事実を認めている場合、犯罪の動機、犯罪事実に対する従業員の意見、今後の社内での扱いに関する希望などを丁寧に聞き取りましょう。「なんて酷い事をやらかしてくれたんだ!」などと責めたりせずに、冷静に本人の話を聞くことが大切です。出社できない期間における有給消化の希望があるかなど事務的な内容についても忘れずに確認して下さい。
本人が窃盗の事実を認めていない場合は、誤認逮捕の可能性も否定できないので、本人が嘘をついていると決めつけないで下さい。実際、防犯カメラの映像と背格好が酷似しているという理由で誤認逮捕された事例もあります。

2.被害者への対応

従業員の窃盗が業務中に行われていた場合、会社は使用者責任を問われる可能性があります。使用者責任は、不法行為に基づく損害賠償請求の一種であり、会社は被害者に生じた財産的損害の賠償責任を問われることになります。会社はこのような請求をされた場合には、まずは被害者との間で訴訟提起前に和解をすることが可能です。和解とは、当事者が互いに譲歩してその間に存在する争いをやめることを合意することです。訴訟提起される前に和解が成立すれば、会社は訴訟対応をせずに紛争解決をすることが可能ですが、交渉が難航する場合も少なくないため、事前に弁護士に相談することをおすすめします。

3.加害者の処分

被害者への対応と共に、加害者への処分を検討する必要もあります。特に、取引先や常駐先で従業員の窃盗が発覚した場合、被害者側の企業から加害者への処分の内容について報告するよう求められる場合もあるため迅速かつ適切な対応が求められます。

処分の具体例としては、戒告、減給、降格、諭旨解雇などが挙げられます。就業規則に基づき懲戒解雇を検討する場合もありますが、懲戒解雇は従業員に与える処分の中でも特に重いものであるため慎重に検討して下さい。従業員に言い渡された懲戒解雇の有効性について争われた過去の裁判で、懲戒解雇が無効と判断された事例は少なくありません。法的リスクを避けるためには、懲戒解雇を検討する前に、論旨解雇や退職勧奨等の方法を検討するとよいでしょう。論旨解雇は、本来は就業規則に基づき懲戒解雇となる場合に、従業員自らが非を認めて納得した上で解雇するという方法です。退職勧奨は、会社が従業員に対して自主的に退職するよう促すことで、懲戒解雇や論旨解雇とは違って就業規則に規定がなくても行うことが可能です。ただし、従業員に退職勧奨に応じる以外選択肢がないと誤認させた場合などは退職強要とみなされる可能性があるため慎重に進める必要があります。

4.再発防止策の実施

今後も同様な窃盗が起きる可能性がある場合は再発防止策について検討する必要があります。例えば、社内で窃盗が起きた場合、施錠や監視体制を強化することが効果的な場合もあります。ただし、監視体制を強化するために防犯カメラを設置する場合、休憩室、更衣室、トイレ等に設置するとプライバシー侵害に問われる可能性があるため注意が必要です。また、防犯カメラを設置する際は、社内規定を策定し、明確な設置理由について全従業員に通知する等、適切な対応が求められます。

窃盗をした従業員に対して会社が追及できる法的責任

窃盗をした従業員に対して会社はどのような法的根拠に基づいて責任を追及できるのでしょうか。会社側が従業員に対して追求できる責任について説明します。

1.刑事的責任追及

前述した通り、窃盗の刑事的責任は刑法第235条に基づいて発生します。会社が従業員の窃盗により重大な被害を受けて、従業員に対して刑事的責任を追求したい場合、警察に対して告訴状を提出し、刑事告訴することができます。損害が莫大な場合や悪質性が高い場合、初犯でも実刑判決が下される可能性があります。ただし、刑事告訴されても、窃盗が軽微で悪質性が低いと判断された場合は不起訴となる可能性もあります。

2.民事的責任追及

従業員による窃盗により会社側が直接被害を受けた場合、不法行為に基づく損害賠償責任を追求することも可能です。
従業員が会社の財物を窃取したような場合、会社に対する不法行為となりますので、会社は従業員に対して、不法行為に基づいて財産上生じた損害の賠償責任を問うことができます。刑事上の責任追及とは異なり、直接的に財産上の損害の賠償を求めるものです。もし、従業員と和解ができ、従業員が任意に支払いに応じれば訴訟提起することなく損害の回復をはかることもできますが、従業員が任意に支払いに応じない場合には訴訟提起を検討することになります。訴訟提起後も和解により紛争解決に至る場合もありますが、和解が成立しない場合には判決を取得することになります。刑事告訴して仮に従業員が逮捕された場合、従業員に支払い能力がなくなり損害のの回復が困難になることも考えられますが、和解による解決ができた場合には、一定額は確実に回収が見込まれます。また、訴訟により解決した場合には従業員が支払いを拒んでも給料の差押え等の強制執行により回収できる可能性があります。
ただし、和解により解決する場合、和解金を支払う代わりに、それ以上の民事責任を問わないという合意を求められることが通常です。

会社が問われる可能性のある法的責任

従業員が窃盗をした場合に会社はどのような責任を追及される可能性があるのでしょうか。従業員の窃盗について会社が追求される可能性のある責任と法的根拠について説明します。

1.使用者責任

従業員が業務上の過程における不法行為により第三者に損害を与えた場合、被害者に対して会社は使用者責任を問われます(民法第715条)。特に被害が重大で従業員に資力がないような場合には、被害者としては資力のありそうな会社に対して使用者責任に基づいて損害賠償を請求するかもしれません。使用者責任は、他人を使用して事業を営む者は、それにより多くの利益を得ているので、それに伴って生ずる損失も負担すべきであるという報償責任原理を根拠としています。
使用者責任が認められるのは、以下の2つの要件を満たした場合です。

  • 使用関係:雇用関係の有無に関わらず、実質的に使用者が被用者を指揮監督する関係であること
  • 事業執行性:会社が業務として指示したか否かに関わらず、職務の範囲内で行われた行為であること

使用者責任は、職場の飲み会など業務時間外でも広く認められる傾向がありますが、以下の場合には免責されると定められています(民法第715条第1項)。

使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき

ただし、実際の裁判で、使用者責任の免責が認められることはほとんどありません。

2.従業員に対する求償権行使

従業員の窃盗により、使用者責任が発生して、会社が被害者に対して損害賠償金を支払った場合、会社は窃盗をした従業員に対して、求償権を行使することにより、負担した金額の支払いを求めることが可能です(民法第715条3項)。
しかし、窃盗をした従業員は多額の借金を抱えているケースもあり、十分な支払い能力がない場合も少なくありません。そのような場合は、会社が全額負担せざるを得なくなりますが、後から、財産の差押え等の強制執行により回収できる可能性はあります。

まとめ

今回は窃盗の定義とよくあるケース、従業員が窃盗した場合の従業員・会社が問われる法的責任、会社に求められる窃盗防止対策、従業員が窃盗した場合に会社が取るべき対応などについて解説しました。

従業員による窃盗を完全に防止することは現実的に難しいので、予防法務の観点から、実際に窃盗事件が発生した時に適切な対応を取れるように備えておくことが大切です。

我々東京スタートアップ法律事務所は、企業法務のスペシャリスト集団として、様々な企業のニーズに合わせた予防法務に取り組んでおります。従業員による窃盗事件が発生した際の対応、窃盗事件を起こした従業員に対する処分、就業規則や雇用契約書の見直し等に関する相談にも応じておりますので、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 -TSL -
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