人事・労務CATEGORY
人事・労務
更新日: 投稿日: 弁護士 宮地 政和

副業禁止規定は違法?就業規則見直しの必要性と副業解禁に関する注意点

東京スタートアップ法律事務所は
全国14拠点!安心の全国対応

終身雇用・年功序列型賃金という従来の雇用慣行から成果主義型の雇用制度への移行が進む中、政府は、働き方改革の一環として、副業を推進しています。副業元年として知られている2018年以降、大手企業をはじめとした多くの企業が副業解禁に踏み切りましたが、依然として「副業禁止の方針を変えたくない」という考えをお持ちの経営陣の方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、「就業規則の副業禁止規定を見直すべきか迷っている」という方もいらっしゃるかと思います。

今回は、企業が副業を禁止する理由、副業を容認する企業の割合と傾向、副業・兼業の普及を推進する政府の方針、副業禁止規定の見直しが必要なケースと留意点、副業を解禁する場合に注意すべきポイントなどについて解説します。

【解説動画】TSL代表弁護士、中川が副業禁止は違法?副業解禁に関する注意点ついて解説

企業が副業を禁止する理由

これまで、日本のほとんどの企業は、原則として副業や兼業を禁止していました。特に複数の企業に雇用されることは、二重就業、二重就職などとも呼ばれ、全面的な禁止が当然だとも考えられていました。まずは、その理由について考えてみたいと思います。

1.本業に支障をきたすおそれがある

会社の経営陣として、従業員に対して、自社の業務に専念してほしいと考えるのは当然のことでしょう。副業を認めると、従業員は自社の業務以外の仕事に時間や労力を費やすことになり、疲労や睡眠不足等により業務効率が低下することが懸念されます。自社の業務に支障をきたさないために副業や兼業の時間を制限したいと考えても、従業員がどの程度の時間や労力を副業や兼業に費やしているかを正確に把握することは非常に難しいため、副業や兼業を全面的に禁止するのが妥当だと考えられていたのです。

2.情報漏洩のリスクがある

多くの人は副業を選ぶ際、自分が持つスキル、経験、知識を活かしたいと考えます。他方で、その中には、会社が独自に開発した技術や営業秘密が含まれている可能性もあります。そのため、従業員が副業をすることには、会社独自の技術や営業秘密が他社に漏洩してしまうリスクがあるといえます。

3.人材流出のリスクがある

副業を始めたことが、転職を考えるきっかけとなる場合もあります。優秀な人材が、本業よりも副業に魅力を感じる等の理由で転職してしまうと、会社は大きなダメージを受ける可能性があります。また、副業を始めた従業員が次々と転職するといった事態になれば、人材が不足し、業務に支障をきたすおそれすらあります。

副業を容認する企業の割合と傾向

上記のような懸念事項があるにも関わらず、副業・兼業を容認する企業は年々増えています。副業・兼業を認めている企業の割合と最近の傾向について説明します。

1.副業を容認する企業の割合

リクルートキャリアが発表した『兼業・副業に対する企業の意識調査』によれば、近年、従業員の兼業や副業を認める企業の割合は以下のように増加傾向にあります。
2017年度 22.9%
2018年度 28.8%
2019年度 30.9%
この調査は、新型コロナウイルスの感染が始まる以前に実施されたものなので、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受ける前から、副業を容認する企業は増加傾向にあったことがわかります。

2.新型コロナウイルス感染拡大の影響でさらに増加

2020年には、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、企業が従業員の副業を認める動きが加速したといわれています。マイナビが2020年10月に発表した『働き方、副業・兼業に関するレポート(2020年)』では、副業・兼業を認めている企業は49.6%、将来的に認めたり拡充したりする予定の企業は57.0%という結果でした。副業・兼業を認める理由として多かった回答は以下の5つです。

  • 社員の収入を補填するため:43.4%
  • 社員のモチベーションを上げるため:37.5%
  • 社員にスキルアップしてもらうため:33.8%
  • 優秀な人材を確保するため:28.0%
  • 新たな知見や人脈を獲得するため:26.1%

最も多かった回答が「社員の収入を補填するため」ということは、新型コロナウイルス感染拡大による影響を受けて業績が悪化し、従業員の収入を補うために、やむを得ずに副業容認に踏み切ったという企業が多かったことを示していると考えられます。
一方で、従業員のスキルアップや優秀な人材の確保等、ポジティブな理由から副業を認める方針に切り替えた企業も多いことがわかります。例えば、自分のスキルや経験を活かした副業を行うことにより、貴重な実務経験を積むことができて知見が広がります。また、自身のスキルアップを実感することで、本業へのモチベーションも高まり、離職率の低下につながるとも言われています。

副業・兼業の普及を推進する政府の方針

副業を容認する企業が増加傾向にある背景には、政府の方針と施策があります。副業の普及を推進する政府の方針や施策の具体的な内容について説明します。

1.政府は副業・兼業の普及を推進

政府は働き方改革の一環として、副業・兼業の普及を図るという方向性を明確に示しています。政府が副業・兼業を推進する目的は、多様な働き方へのニーズに対応し、経済の活性化を図ることです。
副業・兼業を促進することにより、以下のような効果が期待できると考えられています。

  • 多様で柔軟な働き方の実現
  • 生涯賃金の増収
  • 会社の倒産等により職を失った際のリスクの軽減
  • 新しい技術の開発の促進
  • オープンイノベーション(社外から新たな技術やアイデアを取り入れて革新的で新しい価値を創出すること)の促進

2.『モデル就業規則』の副業禁止規定も撤廃

2018年1月には、厚生労働省が公開している『モデル就業規則』の副業禁止規定が撤廃され、副業を認めることを示す以下の規定が新設されました。

“労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。“
引用元:『モデル就業規則』(厚生労働省公式サイト)

また、同月、厚生労働省が、副業容認に伴う企業側の懸念点に対する解決策を提示した『副業・兼業の促進に関するガイドライン』(以下「ガイドライン」といいます。)を公開しました。その後、このガイドラインは、2020年9月に改定され、副業・兼業の場合における労働時間管理と健康管理に関するルールが明確化されました。

副業禁止規定の見直しが必要なケースと留意点

現状、就業規則では未だ副業禁止が規定されているという企業も少なくないと思います。しかし、上記のような流れから、ガイドラインでは、副業禁止規定の見直しが推奨されています。そこで、こうした見直しが推奨されている理由、見直しが必要となるケース、就業規則を見直す際の留意点などについて説明します。

1.副業禁止・一律許可制の規定は見直しが必要

ガイドラインには、以下のように記載されています。

“副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとされており、裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが適当です。“
引用元:『副業・兼業の促進に関するガイドライン』(厚生労働省公式サイト)

つまり、法的な紛争の場で副業禁止規定の有効性が争点となった場合、副業禁止規定は無効と判断される可能性があるといえます。
さらに、ガイドラインでは、就業規則等で副業・兼業を禁止または一律許可制にしている企業については、原則として副業・兼業を認める方向で見直すことが推奨されています。

2.副業禁止規定を見直す際の留意点

ガイドラインでは、副業・兼業を原則認めることが推奨されています。ただし、前述したとおり、会社にとっては、副業を認めることには一定のリスクがあります。
そこで、そうしたリスクに配慮し、以下のいずれかに該当する場合は、副業・兼業を禁止または制限する規定を就業規則等に定めることが望ましいとされています。

  • 労務提供上の支障がある場合
  • 業務上の秘密が漏洩する場合
  • 競業により自社の利益が害される場合
  • 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

副業を解禁する場合に注意すべきポイント

最後に、ガイドラインに従って副業を解禁する場合に注意すべきポイントについて説明します。

1.労働時間の通算管理と健康管理

従業員が副業を始めると、当然のことながら業務量が増え、長時間労働となる可能性が高くなります。他方で、使用者である会社は、長時間労働により従業員が心身の健康を害さないように適切な労務管理を行うことが求められます。そこで、副業の有無や業務内容を把握するために、届出制などの仕組みを設けることが望ましいとされています。
また、労働基準法第38条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されています。つまり、従業員が他の会社から雇用される形で副業を行う場合、原則として、自社と副業先の労働時間を通算して管理する必要があります。
しかし、自社と副業先の労働時間を通算して管理することは、企業に負担がかかるため、ガイドラインでは、簡便な労働時間管理の方法として、管理モデルと呼ばれる方法を推奨しています。管理モデルは、副業の開始前に、自社と副業先での労働時間の合計が時間外労働の上限規制を超えないように、それぞれの上限を設定し、事前に労使間で合意するという仕組みです。管理モデルを導入することにより、企業は、副業先における実労働時間を把握しなくてもよいとされています。管理モデルの内容や導入方法について詳しく知りたい場合、厚生労働省が公開しているこちらの資料が参考になるかと思います。

2.情報漏洩リスク回避のための秘密保持義務

前述した通り、従業員の副業を認めると、会社の営業秘密や独自の技術情報が他社に漏洩するリスクが高まります。情報漏洩が起きると、元の状態に戻すことはほぼ不可能なので、未然に防ぐことは非常に重要です。
情報漏洩を防ぐためには、副業を開始する際に、従業員と秘密保持契約を締結することも有効です。秘密保持契約書を作成する際のポイントや従業員と秘密保持契約を締結する際の留意点について知りたい方はこちらの記事を参考にしていただければと思います。

3.自社の利益を守るための競業避止義務

従業員が副業先として、同業他社を選択した場合、ライバル企業に顧客を奪われるなど、自社が不利益を被る可能性があります。一般的に従業員は労働契約の付随義務として競業避止義務(使用者と競合する業務を行わない義務)を負うと解されています。そのため、会社は、自社の利益に損害を与える可能性がある同業他社での副業を禁止または制限することが可能です。ただし、職業選択の自由(憲法第22条第1項)の観点から、必要以上に厳しい競業避止義務は無効と判断される可能性があるという点には留意する必要があります。
競業避止義務は、企業側に保護すべき利益があることが前提となり、社内の営業秘密や重要な技術情報に触れる機会がほとんどない従業員に対して、同業他社での副業を一切認めない場合などは、競業避止義務は無効と判断される可能性があります。競業避止義務について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしていただければと思います。

4.自由に副業に取り組める環境の整備

副業を解禁する際は、従業員が自由に副業に取り組める環境を整備することも大切です。例えば、就業規則には副業を原則として容認する規定があるものの、実際には社内で副業をしている人が誰もいないような場合や、上司が「副業をするのは会社への忠誠心が足りない奴だ」などと副業に対してネガティブな発言をしている場合等は、副業を希望する従業員が会社に内緒で副業を始める可能性もあります。そこで、副業を解禁するからには、経営陣が副業を組織に浸透させる努力をすることが望ましいともいえます。
副業の解禁に成功している企業では、平日の業務時間中に月間20時間を本業以外に利用できる制度が導入されていたり、副業に関する勉強会が開催される等の積極的な取り組みが行われていたりします。例えば、経済産業省が公開している『兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集』には、様々な企業の取り組み事例が掲載されていますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回は、企業が副業を禁止する理由、副業を容認する企業の割合と傾向、副業・兼業の普及を推進する政府の方針、副業禁止規定の見直しが必要なケースと留意点、副業を解禁する場合に注意すべきポイントなどについて解説しました。

副業禁止規定を見直して、副業・兼業を解禁する際は、各企業の実情に応じて、どの程度の範囲と条件で副業・兼業を認めるか、届け出制度等の手続はどうするか、具体的に検討することが大切です。従業員が複数の企業で雇用される形態の副業・兼業の労働時間の管理については、法制度の整備が不十分だと指摘する声もあります。今後、法整備が進む可能性もあるので、最新の法規制の動向を注視しておくとよいでしょう。副業禁止規定を見直したいけれど、どのような点に注意すべきかわからないという場合は、企業法務に精通した弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。

東京スタートアップ法律事務所では、企業法務に関する専門知識と豊富な経験に基づいて、各企業の状況や方針に応じたサポートを提供しています。副業禁止規定の見直し、副業を解禁する際の届け出・申請制度等の設計などに関するご相談にも対応しておりますので、是非お気軽にご相談いただければと思います。

画像準備中
執筆者 弁護士宮地 政和 第二東京弁護士会 登録番号48945
弁護士登録後、都内の法律事務所に所属し、主にマレーシアやインドネシアにおける日系企業をサポート。その後、大手信販会社や金融機関に所属し、信販・クレジットカード・リース等の業務に関する法務や国内外の子会社を含む組織全体のコンプライアンス関連の業務、発電事業のプロジェクトファイナンスに関する業務を経験している。
得意分野
企業法務・コンプライアンス関連、クレジットやリース取引、特定商取引に関するトラブルなど
プロフィール
岡山大学法学部 卒業 明治大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内の法律事務所に所属 大手信販会社にて社内弁護士として執務 大手金融機関にて社内弁護士として執務
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社