ジョブ型雇用はスタートアップ企業に適した雇用方法?導入方法と注意点も解説
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記事目次
従業員一人一人の果たす役割が大きいスタートアップ企業にとって、優秀かつ即戦力となる従業員の確保は非常に重要な課題です。即戦力となる人材を確保するためにジョブ型雇用の導入を検討中の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ジョブ型雇用とは、即戦力となる人材を、特定の職務領域での活躍のみを約束して雇用する方法です。スペシャリストを確保しやすい、人員の調整をしやすいなどのメリットがあり、スタートアップ向きの方法といえるでしょう。
今回は、ジョブ型雇用の概要、メンバーシップ雇用との違い、ジョブ型雇用のメリットとスタートアップ企業に向く理由、ジョブ型雇用を導入する方法と注意点などについて解説します。
ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型雇用との違い
まずは、ジョブ型雇用の概要や、従来の雇用方法であるメンバーシップ雇用との違いについて説明します。
それぞれの特徴や両者の違いを知って、ジョブ型雇用についての理解を深めましょう。
1.ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用には、以下のような特徴があります。
- 職務内容を明確に定義した上で採用活動を実施するため、職務に見合った経験やスキルを備えた人を採用できる
- 採用は欠員補充や新規ポジションが生じたタイミングで行う
- 勤務時間や勤務地などの勤務条件を明確に提示したうえで雇用契約を結ぶ
- 報酬は職務内容によって決まる
- 昇給や昇格は年次ではなく実績に応じて適宜行う
ジョブ型雇用は、特定の仕事に対して人材を割り当てる方法なので、人件費の無駄を省くことにもつながります。
2.メンバーシップ型雇用とは
メンバーシップ型雇用には、以下のような特徴があります。
- 新卒採用による定期的な採用活動が中心
- スキルや資格などはあまり重視されない
- 会社都合による転勤や異動も起こり得る
- 昇給や昇格には勤続年数や年齢が重視される
メンバーシップ型雇用は、ジョブ型とは対照的に、従業員に対して仕事を割り当てる方法です。日本の一般的な企業で長い間採用されていた方法でもあり、「日本型雇用システム」とも呼ばれています。
ジョブ型雇用のメリットとスタートアップ企業に向く理由
ジョブ型雇用には、以下のようなメリットがあります。これらは全てスタートアップ企業に向く理由ともいえるでしょう。
1.即戦力となる人材を雇用できる
ジョブ型雇用では、あらかじめ職務内容を明確に提示した上で募集を行い、基本的に、採用後に異動や職務内容の変更などはありません。そのため、専門性の高い人材が集まりやすく、即戦力となる人材を確保しやすいという点は、大きなメリットといえるでしょう。人を育てる余力がまだ十分にないスタートアップ企業にも適しているといえます。
2.人員を最適化しやすい
ジョブ型雇用では職務内容が決められているため、あらかじめ契約で定めた職務がなくなれば、その人材との契約を終了することもできます。柔軟に人員を増減して最適化しやすく、無駄な人件費を削減できます。
人件費の抑制が重要な課題の一つといえるスタートアップ企業にとって、人件費を調整しやすいジョブ型雇用はメリットの大きい方法といえるでしょう。
3.スペシャリストの育成がしやすい
職務内容が定まったジョブ型雇用では、基本的にジョブローテーションや部署異動がありません。そのため、専門分野におけるスキルを高めやすく、スペシャリストの育成もしやすいでしょう。このような環境は、従業員のモチベーションを高く保つことにもつながりやすく、従業員全員に高いモチベーションが求められるスタートアップ企業に向いているといえます。
ジョブ型雇用のデメリット
ジョブ型雇用にはメリットだけでなく、以下のようなデメリットもあります。導入を検討する際には、デメリットについてもよく理解しておきましょう。
1.優秀な人材が転職する可能性がある
ジョブ型雇用では、専門性の高い即戦力となる人材を雇用できる一方、優秀な人材は他の会社に転職する可能性があります。そのような事態を避けるためには、定期的に転職市場をチェックして自社の待遇が他の会社の待遇と比べて劣っていないか確認することが大切です。また、定期的な面談を通じて本人に不満はないかなどをヒアリングすることも有効な対策となるでしょう。
2.想定外の業務が発生した際に対応できない
ジョブ型雇用は、専門性の高い人材を確保できる可能性が高い方法です。しかし、それゆえ専門分野以外の業務には対応できないケースもあるでしょう。そのため、全く分野の異なる新しい業務が発生した際に対応できない可能性があります。
3.転勤や異動が難しい
ジョブ型雇用では、基本的に雇用契約で定められた職務内容や勤務地を遵守しなければなりません。そのため、ジョブ型雇用で採用したメンバーに会社都合による異動や転勤に応じてもらうことは難しいでしょう。突然、他部署や他の事業所で欠員が出たとしても、ジョブ型雇用で採用した人を補充に回すことはできません。
ジョブ型雇用を導入する方法と注意点
実際にジョブ型雇用によって採用をする場合の具体的な方法を説明します。
1.導入範囲を決定
まずは、自社に必要な人材が、どのようなスキルや知識を持つ人材なのかをよく検討します。既存の職務や役職を分析し、担当してもらう職務の内容や範囲を明確にしましょう。
2.ジョブディスクリプションを作成
職務の内容や範囲が決まったら、ジョブディスクリプションを作成します。
ジョブディスクリプションとは、職務内容や担当業務の範囲、必要なスキルや資格についてまとめたものです。人材選定の基となるため、明確かつ簡潔に作成する必要があります。具体的な項目例は以下の通りです。
- 職種や職務名
- 職務内容
- 目標や期待されるミッション
- 責任、権限の範囲
- 雇用形態
- 勤務地
- 勤務時間
- 必要とされる知識やスキル、資格
- 待遇
ジョブ型雇用を導入する際の注意点
ジョブ型雇用を導入する際には以下の点に注意が必要です。
1.ジョブディスクリプションは定期的に見直すこと
自社の経営状況や事業の変化などによって、職務内容が変化することも少なくありません。そのため、ジョブディスクリプションの内容は定期的に見直しましょう。具体的には、面談を行うなどして、最初にジョブディスクリプションで定めた内容と、実際の業務とがかけ離れていないかをチェックします。乖離が生じたまま長い間放置すると従業員との間でトラブルに発展する可能性があります。定期的にチェックして、必要に応じて更新しましょう。
2.ジョブディスクリプションはよく見せようとしすぎない
ジョブディスクリプションは実情に即した内容を記載しましょう。優秀な人材を獲得したいからなどという理由で、実情とは異なる魅力的な内容を記載してはいけません。入社後にミスマッチが起こるなどのトラブルにつながる可能性があるからです。現場からヒアリングを行い、実情に即した内容にすることが大切です。
3.採用コストは高くなることを想定しておく
ジョブ型雇用では、通常の採用活動よりも採用コストが高くなる傾向にあります。
人材紹介会社エンワールド・ジャパン株式会社が2020年に発表した調査結果によると、ジョブ型雇用での全体的な採用コストは「高くなる」と回答した企業は、全体の約41%でした。一方、「変わらない」または「低くなる」と回答した企業は全体の50%以上と、「高くなる」と回答した企業の割合よりも優勢でした。しかし、「高くなる」と回答した企業も少ないとはいえず、その理由には、「専門性の高い優秀な人材の取り合いとなる分、条件を良くする必要がある」、「追加費用が必要となる」など、ジョブ型採用の特性ゆえに生じる理由が挙げられました。業界や業種によっては、通常の採用活動よりもコストが高くなる可能性もあると考えておいた方がよいでしょう。
スタートアップ企業がジョブ型雇用を導入する際のポイント
スタートアップ企業がジョブ型雇用を導入する際のポイントについて説明します。
1.メンバーシップ型雇用でも採用する
ジョブ型雇用で採用した従業員は、専門性が高く、非常に大きな貢献が期待できる反面、活躍できる分野が限られます。そのため、全従業員をジョブ型雇用にすると、想定外の業務が発生した際に対応できません。幅広く柔軟に対応できる従業員も確保しておくことが大切です。そのため、ジョブ型雇用と併せて、メンバーシップ型雇用の採用も行うことをおすすめします。
2.評価基準を明確にし、正社員と同様に評価する
ジョブ型雇用で成功しているスタートアップ企業は、評価基準を明確に定めています。成果基準や評価方法、給与改定のプロセスを明示することは、メンバーのモチベーション維持に効果的だからです。
また、副業人材を採用した場合は、評価やフィードバックを正社員と同様に行うようにしましょう。外部の人間であると意識させるような評価方法では、正当な評価を受けているのか疑問を抱いたり疎外感を感じたりすることでモチベーションが下がる可能性もあります。
3.メンバー同士のコミュニケーションを活性化する
ジョブ型雇用では、メンバー同士のコミュニケーションがあまり活発に行われていない現場も多くあります。しかし、特にスタートアップ企業では、メンバー全員で一丸となって同じ方向を向くことが非常に大切です。情報共有はしっかり行い、コミュニケーションの場を積極的に作るよう心がけましょう。オンライン会議やチャットなどICTツールを活用するのも効果的です。
4.組織全体に導入の意図を説明して無理のないペースで進める
これまでメンバーシップ型雇用などの方法で採用活動を行ってきた場合、いきなり全ての職務や役職にジョブ型雇用を導入することはおすすめしません。現場で混乱が生じ、うまくいかない可能性が高いからです。特に、メンバー一人ひとりの意識が大切なスタートアップ企業では、企業のミッションやビジョンなどを現場にしっかり浸透させる必要があります。まずは、組織全体にジョブ型雇用導入の意図を説明して現場の理解を得た上で、無理のないペースで進めることをおすすめします。
スタートアップ企業のジョブ型雇用の導入事例
ジョブ型雇用を既に取り入れ、成功しているスタートアップ企業も多くあります。ここではジョブ型雇用を上手に活用しているスタートアップ企業を紹介します。
1.株式会社overflow
エンジニアやデザイナーなどプロダクト開発に携わる人材に特化した副業・転職サービス「Offers」を運営する株式会社overflow は、2017年の創業以来、時間や場所に縛られない自由な働き方を推奨している会社です。エンジニアやデザイナーなど専門的なスキルを持つ従業員が多く在籍していますが、その多くは業務委託で家やカフェなど好きな場所で仕事をしています。
メンバーの情報は正社員、業務委託に差をつけず一元管理しており、的確な業務のアサインに役立てています。評価・報酬制度も明確に定められており、雇用形態に関わらず適用されるため、メンバーのモチベーションも保ちやすくなっています。
2.株式会社カウシェ
シェア買いアプリ「KAUCHE(カウシェ)」を運営する株式会社カウシェは、全従業員の8~9割近くが副業で働くメンバーで構成される企業です。副業で働くメンバーも正社員と同様に、半期ごとに設定した目標の達成度合いや業務改善の程度に応じて評価、昇給が検討されます。
2021年3月に「KAUCHE de WORK(カウシェ デ ワーク)」という人事制度を導入し、雇用形態に関係なく新たな分野での挑戦の機会や、成長実感を得られる環境を提供しています。
まとめ
今回は、ジョブ型雇用の概要、メンバーシップ雇用との違い、ジョブ型雇用のメリットとスタートアップ企業に向く理由、ジョブ型雇用を導入する方法と注意点などについて解説しました。
専門性の高いメンバーを採用しやすく、柔軟に人員の調整ができるジョブ型雇用は、スタートアップ企業に適した採用方法といえます。ただし、デメリットもあるため、導入する際はデメリットについても理解した上で、慎重に進めることが大切です。
東京スタートアップ法律事務所では、これまで数多くのスタートアップ企業をサポートしてきました。企業の方針や状況に応じて、効果的なジョブ型雇用の導入をサポートすることも可能です。採用活動をはじめ、スタートアップ企業の事業でお悩みのことがございましたら、お気軽にご相談いただければと思います。
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設