法律違反にならない解雇理由|正社員・従業員の解雇で不当解雇を避けるための条件
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記事目次
日本では、労働基準法をはじめとする法律において、労働者(従業員)の立場が雇用主(会社側)より弱いことを前提として、従業員側を保護する規定が多く定められています。
特に、従業員を解雇する際は、解雇が認められる理由や条件が厳しく定められており、気を付けなければ従業員側から会社が不当解雇で訴えられるリスクを伴います。
一方で、会社の経営上の理由や、従業員自身に起因する問題などから、解雇がやむを得ない場合もあるでしょう。
そこで今回は、従業員を解雇する際に、会社が法律違反や不当解雇で訴えられないために押さえておくべき解雇理由や解雇の条件などについて、法律の根拠をもとに解説します。
会社ができる3つの解雇の方法
会社が、従業員と締結している労働契約を一方的に解約することを「解雇」といいます。民法上、従業員が承諾しなくても会社は従業員を解雇することができるのが原則です。しかし、解雇されると従業員は収入源を失うという大きな損失を被るので、労働契約法等の法律により、従業員を保護する措置が講じられています。
解雇の方法は、以下の3つに分類することができます。
1.整理解雇(リストラ)
整理解雇は、会社の事業を継続するために従業員を人員整理して解雇する方法で、いわゆる「リストラ」と呼ばれるものです。整理解雇を行うことも原則としては会社の自由ですが、解雇権の濫用と判断される場合には、解雇は無効となります。そして、解雇権の濫用にあたるかどうかを判断する際には、次の4つの事項が考慮されます。
- 解雇する必要性があること
- 会社が解雇を回避する努力義務をしたこと
- 解雇する従業員の選任が適切であること
- 解雇の手続きを正当に行ったこと
上記の事項が満たされない場合、例えば従業員を整理解雇したのに採用を行っていたり、整理解雇したのに役員報酬は支払われていたりする場合は、解雇の必要性や解雇を避けるための努力義務を怠ったとして解雇権の濫用と判断されるおそれがあります。
2.普通解雇
普通解雇は、解雇される理由がある従業員との労働契約を、会社が一方的に解約する方法です。普通解雇も原則会社が自由に行うことができますが、解雇権の濫用と認められる場合には、例外的に無効と判断されます。
当該解雇が解雇権の濫用として無効となるかどうかは、次のように判断されます。
- 解雇の理由が「客観的に合理的」であるかどうか
従業員の勤務態度や成績が悪いこと、病気などで働けなくなったことなどで、就業規則に個別の事由がなくても構いません。 - 上記解雇理由が客観的に合理的としても、解雇の方法が「社会通念上相当」であるかどうか
解雇以外の方法では解決できないか、前例と比べて不当に重くないかなどをもとに検討されることになります。
上記の条件を満たしていれば、就業規則に普通解雇に関する規定がない場合や、解雇理由が明記されている場合に記載された理由以外の理由で解雇することも認められると考えられています。普通解雇をする際は、解雇日の30日前までに解雇予告をするか、30日以上分の解雇予告手当を支払うかを決めます。また、通常は退職金も支払います。
3.懲戒解雇
懲戒解雇は、犯罪行為や深刻な不正など、会社の秩序に違反する行為をした従業員への制裁として従業員を解雇する方法です。従業員の違反に対する処分としては最も重いものですので、懲戒解雇が解雇権の濫用として無効とならないかを慎重に判断されることになります。一般的には、次の4つの事項により判断するとされています。
- 懲戒処分について定めた規定があること
就業規則などに懲戒の理由と種類が明記され、その規定が従業員に周知されており、かつその内容が合理的であることが必要です。 - 従業員に懲戒処分に該当する事由が本当にあったこと
- 適正な手続きが取られていること
従業員に弁明の機会を与えることが必要です。その他にも就業規則等で手続きを定めている場合にはその手続きに従います。 - 法律の規定に違反しないこと
懲戒解雇をする際も、原則として普通解雇と同様、解雇日の30日前までに解雇予告をするか、30日分以上の解雇予告手当を支払うかを決めます。ただし、労働基準監督署長の認定があれば、解雇予告・解雇予告手当の支払いなしで解雇できる場合があります。また、懲戒解雇では退職金の一部または全部を支給しない会社も少なくありません。
法律違反にならないための解雇理由と解雇の条件
1.普通解雇の対象になる解雇理由
① 病気やケガによる解雇
従業員が、身体面や精神面の障害によって仕事をできる状態にないと判断される場合には、当該従業員を解雇することができます。ただし、就業規則で規定した休職期間を経過しても復職できる状態になく、休職期間後、時短勤務や負担の少ない業務に配置転換するなどの対応をしても復職できる可能性がない等という条件を満たす必要があります。休職を認めずに解雇する、復職可能との記載のある医師の診断が存在するのに解雇する、休職期間後に配置転換等の配慮をせずに解雇する等の場合には、解雇権の濫用として不当解雇にあたる可能性が高いです。
②能力不足を理由とする解雇
従業員に会社で仕事をする能力や適性がないために雇用関係を維持できないと判断され、改善の余地が認められない場合は、当該従業員を解雇することができます。ただし、能力不足で解雇する場合でも、新卒者や未経験者に十分な指導をしない、経験者に対して適切な成績評価をせずに解雇するなどの場合は、解雇権の濫用として不当解雇と判断される可能性が高いです。
③職務怠慢や勤務態度の不良を理由とする解雇
頻繁な欠勤・遅刻・早退などの勤怠不良は、普通解雇の理由となり得ます。しかし、次のような事情によっては、解雇権の濫用として解雇が無効と判断される可能性があります。
- 勤怠不良の状況(期間・回数・程度など)とその理由
- 勤怠不良が仕事に及ぼした影響の有無や程度
- 会社が注意しても改善されなかったことや先例の有無
- 勤怠不良の従業員の過去の問題や職務状況
④ 業務命令違反・職務規律違反を理由とする解雇
従業員が、日常的な業務指示や、配置転換や出向の命令に従わないなどの業務命令違反がある場合に解雇することができます。ただし、会社の業務命令が正当なものであること、従業員が命令に従うことが今後も期待できないことという条件を満たす必要があります。一方、その業務命令が従業員への嫌がらせを目的としてなされていた場合や、当該従業員を退職に追い込むことを目的としていた場合、会社の業務命令についての説明が不足していたと判断される場合には、解雇権の濫用として不当解雇にあたる可能性が高いです。
2.懲戒解雇の対象になる解雇理由
懲戒解雇は、会社の秩序を著しく損なった労働者への制裁として行う解雇ですが、普通解雇と同様に、解雇権濫用法理による規制にかかります(労働契約法第15条、第16条)。また、懲戒解雇になる理由は、あらかじめ就業規則に明記しておく必要があります。
①犯罪行為による解雇
横領、背任などの仕事が関係する経済事犯に加え、社内での盗撮行為、飲み会での強制わいせつ、社員旅行時の強制性交等罪などの性犯罪や、喧嘩で相手に怪我をさせたなどの傷害事件も犯罪行為として懲戒解雇の理由になり得ます。
②深刻な不正行為
警察沙汰になる前でも、横領や背任に該当する深刻な不正行為は懲戒解雇の理由になります。
③情報漏洩による解雇
従業員の情報漏洩は必ずしも懲戒解雇の理由になるわけではありませんが、背信的な目的で情報漏洩をした場合は、懲戒解雇が認められる可能性が高まります。反対に、情報漏洩の事実はあっても、背信目的がなく会社にも損害が発生していない場合は、懲戒解雇は重すぎるとして解雇は無効とされたケースもあります(東京地裁平成24年8月28日判決)。
④経歴詐称による解雇
従業員の学歴・職歴・前科などの経歴詐称が必ずしも懲戒解雇の理由になるわけではありません。しかし、経歴詐称が会社との信頼関係・企業の秩序を壊し、従業員の評価に影響を及ぼすような重大なものである場合は、懲戒解雇理由になり得ます。一方で、評価に影響を及ぼさない程度の経歴詐称であれば、解雇権の濫用として懲戒解雇は無効になりえます。
⑤ 無断欠勤・遅刻を理由とする解雇
従業員の長期間の無断欠勤や、度重なる遅刻・早退の態度が相当悪質といえる場合は懲戒解雇の理由になり得ます。しかし、長期の無断欠勤の理由が体調不良等にある場合は、会社側に従業員に健康診断を受けさせる、休暇を取らせるなどの対応をとることが求められ、懲戒解雇が無効になる場合もあります。
⑥セクハラ・パワハラによる解雇
セクハラ、パワハラ、スメハラ、マタハラなど、昨今様々なハラスメント行為が問題になっていますが、当該ハラスメント行為が会社の企業秩序を乱すほどの重大な場合は懲戒解雇の理由になり得ます。
⑦懲戒処分後の対応不良による解雇
懲戒解雇は懲戒処分の一つです。懲戒処分には軽いものから、口頭注意である戒告処分、始末書の提出を要する譴責処分、給料を減額する減給処分、一定期間の出勤停止処分、職位や役職を引き下げる降格処分があり、懲戒解雇は最も重い処分です。従業員の問題行為が、それだけでは懲戒解雇理由に当たらない場合でも、上記のような軽い懲戒処分を与えても改善が見られず、企業秩序を損なう場合は懲戒解雇の理由になり得ます。
不当解雇にならないために知っておくべき法律の根拠
1.労働契約法に規定された解雇の原則
解雇については、労働契約に関する基本事項を定めた「労働契約法」という法律で規定されています。労働契約法は個別の当事者の権利義務関係のルールを定めることによって円滑な労働条件の決定や変更を促すことを目的としています。
解雇について、労働契約法第16条には
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
と規定されています。
また、懲戒解雇を含む懲戒処分についても、
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
(同法第15条)と、懲戒できる場合であっても処分が権利の濫用になる場合があることが定められています。
こうした法規制をもとに解雇の運用について考えると、退職勧告などの他の方法を模索したり、当該従業員に弁明の機会を与えたりといった慎重な手順を踏むことが求められます。
2.労働基準法に規定された解雇の原則
労働基準法は、国家公務員等の一部の者を除いて、日本国内のすべての労働者に適用される法律で、労働者を保護する目的でつくられた法律です。
解雇についても、労働者保護の観点から手続に対する規制が加えられています。
①就業規則の制定(労働基準法15条1項)
会社が従業員を解雇する権利は、両者が締結する労働契約に付随する権利と考えられているので、普通解雇をする場合に就業規則の規定は不要です。しかし、常時10人以上の労働者(従業員)を雇う場合は、就業規則を定めて労働基準監督署に届け出なければなりません。就業規則を定める場合は、解雇事由は絶対的必要事項となっており、契約を結ぶ際に書面で明示しなければなりません。
②解雇予告(同法20条)
会社が従業員を解雇する場合、原則として30日前に解雇予告することが必要です。ただし、30日分相当の解雇予告手当を支払うことで、即日解雇することが可能です。
③解雇制限理由
労働基準法を含む以下の項目は、解雇禁止事由にあたり、解雇は無効になります。
- 業務上の病気やけがで休業中の期間及び復職後の30日の間(労働基準法第19条)
過去の裁判例では、業務上の病気やけがの状態が、完治したかあるいは治療を続けても回復の見込みがないと判断される「症状固定」に達した場合は、他の解雇の条件が充足されれば解雇できると判断されています(名古屋地裁平成元年7月28日判決)。
また、業務上の病気やけがで休業している従業員が、療養開始から3年が経過し労災給付金(傷病補償年金)を受給している場合、会社が打切補償を支払った場合などは、解雇できます(最高裁平成27年6月8日判決)。なお、この解雇制限期間は絶対的なもので、もし従業員が懲戒解雇事由にあたる問題行動をしたとしても、解雇予告はできるが懲戒解雇をすることはできないという裁判例があります(福岡地裁昭和31年9月13日判決)。 - 女性従業員が産前産後の休業中(産前6週間+産後8週間の休業)及び復職後30日の間(同法第19条、第65条、第119条1号)
この間の解雇は、解雇が無効になるだけでなく6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に該当するおそれもあります。 - 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(同法第3条、第119条1号)
上記と同様解雇が無効になるだけでなく6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に該当するおそれがあります。 - 内部告発(労働基準法違反等を監督署等に申告したこと)を理由とする解雇(同法第104条2項、公益通報者保護法第3条)
- 育児休業・介護休業の申出をし、又は育児休業・介護休業をしたことを理由とする解雇(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第10条)
「出産リストラ」「妊娠リストラ」の増加を受けて、厚労省が平成21年に都道府県の労働局長に3月16日付で通達を出し、法の順守を求める対応を取っています。それだけに、育休取得者が出た場合の対応は、職場全体で留意する必要があります。 - 女性であることを理由とする解雇(雇用機会均等法第6条4号)
- 女性従業員が婚姻、妊娠、出産したことを理由とする解雇(同法第9条2項、3項)
- 労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、またはこれを結成しようとしたこと、正当な組合活動をしたことを理由とする解雇(労働組合法第7条1号、憲法第28条)
解雇を法律上適正に進めるために弁護士に相談するメリット・デメリット
従業員を解雇する際は、労働契約法や労働基準法などに則って、解雇理由を確認し、解雇が解雇権の乱用として無効とならないか、客観的合理性の有無、およびその上での社会的相当性の有無により判断する必要があります。そのためには、過去の裁判例などをもとにして、当該社員ごとに検討することが重要です。弁護士に相談するメリット・デメリットとしては、次のように考えることができるでしょう。
1.弁護士に解雇の法律上の問題を相談するメリット
従業員を解雇する際に、その解雇が適法かどうか、また解雇の方法が正しいかどうかのアドバイスを受けることができます。解雇理由と解雇の方法が適切でなければ、解雇権の濫用として不当解雇と訴えられ、解雇が無効になるばかりか、その従業員から損害賠償を請求されたり、場合によっては罰則を受けたりするおそれもあります。弁護士に事前に相談しておくことで、解雇理由の適法性の判断や、解雇の方法の選択についてもアドバイスを受けることができるので、上記のようなリスクを避けることが可能になります。
社内に法務部があることで安心している経営陣もいるかもしれませんが、裁判例や通達は頻繁に更新されるので、法務部の日常業務と並行してはフォローが難しい場合があります。また、法務部職員も一社員のため、解雇権の濫用にあたらないかの判断が困難なことも考えられます。この点でも、日々労働問題を扱っている弁護士に相談するメリットは大きいといえます。
2.弁護士に解雇の法律上の問題を相談するデメリット
従業員の解雇を弁護士に相談するデメリットとしては、相談費用がかかることが最大のデメリットといえます。弁護士に法律相談を依頼した場合、1時間1~2万円というのが相談料の相場です。また、今後の相談の必要性を見越して顧問弁護を依頼した場合、会社の規模やサービス内容等によって料金は異なりますが、月額で5万円~30万円程度の費用がかかります。
まとめ
今回は、従業員の解雇と法律の関係や法律違反にならないための条件などについて解説しました。
よく耳にする労働基準法だけでなく、様々な法律が関与することに驚いた方もいらっしゃるかもしれません。
従業員を解雇する際は、解雇権の濫用と受け取られないために、解雇理由を事前に十分に精査することが重要です。会社が後々訴えられるリスクを軽減するためにも、解雇でお悩みの方は、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設