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投稿日: 弁護士 内山 悠太郎

スタートアップ企業がリファラル採用を導入する際のメリットと注意点

スタートアップ企業がリファラル採用を導入する際のメリットと注意点
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コストやリソースに限りがあるスタートアップ企業にとって、優秀な人材の確保は重要な課題です。いかに少ないコストで優秀な人材を採用できるか、日々頭を悩ませている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

低コストで優秀な人材を採用できる可能性がある方法として、最近注目されているのがリファラル採用です。ミスマッチが起きにくく、採用後の定着率も比較的高いことでも知られています。そのコストパフォーマンスの高さから、昨今では、スタートアップ企業や中小企業だけでなく、大手企業の中にもリファラル採用を導入する企業が増えています。

今回は、リファラル採用がスタートアップ企業に向く理由、リファラル採用のメリットや注意点、リファラル採用の事例などについて解説します。

リファラル採用とは

リファラル採用とは、自社の従業員の紹介によって人材を採用する方法です。
縁故採用と違う点は、多くの場合、従業員全員が紹介者となり、全社で採用活動に取り組むという点です。自社のことをよく理解している従業員による紹介なので、企業と応募者の間にミスマッチが起きる可能性が低いという特徴があります。
採用広告を掲載したり人材会社を利用したりすることなく採用活動を進められるため、コストがかからないというメリットもあります。

リファラル採用がスタートアップ企業に向く理由

スタートアップ企業の採用活動には、リファラル採用が向いているといわれています。
その理由として、以下のようなことが挙げられます。

1.採用活動に割けるリソースが限られるから

スタートアップ企業は従業員数が少ないため、「人事部」など採用活動を専門的に行う部署を設けていないケースもあります。人事担当者が人事以外の業務を兼務しているケースも多く、採用活動に割けるリソースは限られています。その分、優秀な人材の確保は難しく、母集団形成もなかなか難しいでしょう。
リファラル採用なら、従業員全員がリクルーターとなり、採用活動に参加することになります。採用のチャンスが広がる分、優秀な人材と出会える可能性も高まるでしょう。

2.ミスマッチが起きる可能性を下げられるから

従業員数の少ないスタートアップ企業では、従業員一人ひとりの果たす役割が非常に大きいものです。そのため、新規採用においてミスマッチが起きると、被るダメージは一般的な企業よりも大きいといえるでしょう。
リファラル採用では、自社のことをよく理解している従業員がリクルーティング活動を行うため、採用後にミスマッチが起きる可能性を低減させられます。自社の方針や社風をよく知り、求める人物像を理解した従業員がリクルーターになるので、自社に適した人材と出会える可能性が高くなります。

3.離職率低下に有効だから

会社と応募者の間のミスマッチを防ぐことができれば、離職率が低下します。
リクルートワークス研究所が発表している「米国の従業員リファラル採用のしくみ」によると、求人求職サイト経由での採用者が入社1年未満に離職する割合が22.1%であるのに対し、リファラル採用による採用者の場合は6.8%とされており、リファラル採用による採用者の離職率が大幅に低くなっています。
入社1年以上でも、求人求職サイト経由が14.9%であるのに対し、リファラル採用では5.2%です。この結果から、リファラル採用は離職率の低下にも非常に有効だといえるでしょう。

4.転職潜在層に直接アプローチできるから

転職潜在層に直接アプローチできることもリファラル採用のメリットです。
「今すぐ転職を考えているわけではないけれど、今より働きやすい会社や条件の良い会社があるなら転職したい」などと考えている転職潜在層は、転職活動中の人よりも圧倒的に人数が多いです。また、転職市場に出ていないため、競合がいません。
転職潜在層に直接アプローチすることにより、資金力やブランド力の高い企業と競うことなく優秀な人材を確保できる可能性があるため、スタートアップ企業に向く採用手法といえるでしょう。

5.採用にかけるコストが抑えられるから

求人広告や人材会社を利用する場合、高額の費用がかかります。求人広告の掲載費用は1人あたり10~30万円程度が相場です。また、人材会社を利用した場合は、入社した従業員の年収の30%~35%程度を手数料として支払う必要があります。スタートアップ企業がこのような採用活動を行えば、かなりの負担となるでしょう。

リファラル採用なら、求人広告や人材会社を利用する必要がないため、これらの費用はかかりません。コストを大きく抑えながら自社に合う優秀な人材を採用できる可能性があるため、スタートアップ企業向きの採用方法だといえます。

リファラル採用を成功させるためのポイント

リファラル採用がスタートアップ企業向きの採用方法であるといっても、漠然と導入しただけでは成功しません。リファラル採用を成功させるために押さえておきたいポイントについて説明します。

1.採用したい人物像を明確にしておく

どのような人物を採用したいのかを明確にしておかなければ、従業員がどのような人材を紹介すればよいのか理解することができません。会社が求める人物像を理解しないまま、従業員が親しい友人や知り合いの中から転職を希望している人を選んで紹介すると、ミスマッチが起きる可能性が高くなります。
まずは、どのようなスキルや経験を持つ人物を採用したいのかを明確に整理した上で、従業員と共有することが大切です。

2.従業員全員で採用活動に取り組む

リファラル採用が成功するかどうかは、従業員の積極的な採用活動への参加が鍵となります。そのため、採用活動をプロジェクト化するなどして、従業員に「参加したい」と思わせる仕組みを作ることが大切です。

従業員のモチベーションを維持するためにも、リファラル採用を実施する理由や会社の方針を明示しましょう。また、紹介者と被紹介者へのインセンティブを準備することも、従業員のモチベーションの維持に有効です。

3.従業員への呼び掛けは継続的に

採用活動を始めても、すぐに会社が求める人材を採用できるとは限りません。求める人材が見つかるまでには、ある程度の期間を要することもあるでしょう。リファラル採用が盛り上がったのは導入当初だけで、途中から従業員のモチベーションが下がって活動が進まなくなったということがないよう、採用活動中である旨を定期的に従業員に周知することが大切です。ポスターを作成して従業員の目に留まりやすい場所に掲示する、朝礼などミーティングの場で活動報告をするなど、採用活動への継続的な参加を促しましょう。

4.従業員の満足度が向上する環境作りを心掛ける

リファラル採用は、リクルーティングをする従業員が自分の勤める会社の環境に満足していなければ成功しません。自分が不満を持っている会社を身近な人に勧めようとは誰も思わないからです。
従業員が誇りをもって自分の友人や知人へ勧めたくなるような職場環境を整えることが、リファラル採用成功のための重要な秘訣だといえるでしょう。そのため、日頃から従業員の意見を取り入れて働きやすい職場環境を整える、社内の風通しの良さをチェックするなどの配慮が必要です。

スタートアップ企業がリファラル採用で注意すべきこと

リファラル採用による採用活動を実施する際は、以下のことに注意して進めることをおすすめします。実際に進める際の注意点について説明します。

1.採用条件は従業員のバランスを考えて決める

スタートアップ企業では、さまざまなタイプの人が協力して一つのプロジェクトに取り組むことが、企業としての成長につながります。多様な考え方や観点を持つ人が集まり、意見を出し合うことで、より多くの人に支持される商品やサービスを生み出すことができるからです。そのためにも、さまざまなタイプの人材を確保することが望ましいといえるでしょう。

しかし、従業員が自分の友人や知人を紹介するリファラル採用では、どうしても似た思考や価値観を持つ人材が集まりやすくなります。その結果、社内で変革が生じにくくなり、会社が成長するどころか停滞してしまう可能性も否定できません。従業員の紹介による採用方法だからこそ、従業員全体のバランスを俯瞰的に観察し、バランスの取れた採用活動を行うことは非常に重要なポイントとなります。

2.お互いを知るための機会を設ける

人事のプロではない従業員を採用活動に巻き込むリファラル採用では、従業員の負担をへらすための工夫をすることも大切です。
まずは、会社と応募者の双方が、気軽にお互いを知るための機会を設けましょう。「どのような雰囲気の会社なのか」「どのような人たちが働いているのか」などを応募者に知ってもらえる社内イベントなどを企画することをおすすめします。職位を問わず、多くの従業員の参加を促し、気軽にコミュニケーションを取ってもらえば、お互いのことを知ることができます。「今すぐ転職するつもりがない人でも気軽に参加できます」などとアピールしておけば、転職潜在層へのアプローチもしやすくなります。
その後は会食やカジュアル面談を設けて、さらに互いの理解を深めておけば、採用後のミスマッチは大幅に減るはずです。

3.不採用時の配慮も忘れない

リファラル採用では、従業員が「自分が紹介した人が不採用になったら、お互いに気まずい」などと思い、積極的に候補者を紹介してくれない可能性もあります。そのような従業員へのフォロー体制を準備しておくことも大切です。
選考前や選考中に、応募者と紹介者の双方に、公平な選考をするため不採用の可能性もある旨を会社からしっかり伝えておくとよいでしょう。また、不採用になった場合は、その理由について応募者と紹介者に伝えるなど、丁寧なフォローも必要です。

リファラル採用の事例

最後に、リファラル採用を取り入れている企業の事例を紹介します。

1.富士通株式会社

富士通では、2018年からリファラル採用を開始しています。リクルーターは全社で約3,000人おり、開始から2年間で累計50名を採用しました。応募者が採用されて入社した場合は、紹介した従業員に対して10万円のインセンティブが支給される制度も用意されています。

2.ジャパネットグループ

ジャパネットグループでは全社的に中途採用者が増えていることから、採用方法にリファラル採用も追加しました。エントリーは全てWebサイト経由ですが、エントリーの際に経由したURLから採用担当者にはリファラル採用での応募であることがわかるようになっています。

また、紹介した従業員に対しては、リファラル採用で採用された応募者の試用期間終了後にインセンティブが支給され、採用活動における従業員の積極性を促す仕組みも整っています。人事部の実感では、リファラル採用で入社した人材の採用内定率、入社後の定着率はともに高い印象を持っているとのことです。

3.株式会社ニトリ

ニトリでは、2019 年中頃までは、中途採用の8割が人材紹介経由でしたが、複数社から内定を得ているなどのケースもあり、辞退が多いという問題を抱えていました。そこで、2019年後半から、人材紹介会社経由の採用を廃止し、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用をはじめとした潜在層へのアプローチに転換しています。
紹介した応募者が入社すれば、紹介者と被紹介者の双方に報酬金が支給されたり、紹介者と被紹介者を一堂に集めたイベントを実施したりするなど、リファラル採用制度を積極的に推進しています。

まとめ

今回は、リファラル採用がスタートアップ企業に向く理由、リファラル採用のメリットや注意点、リファラル採用の事例などについて解説しました。

リファラル採用は、低コストで優秀な人材を採用でき、ミスマッチが起きにくい採用手法です。採用率や入社後の定着率も高く、スタートアップ企業にとって最適な方法といえるでしょう。

東京スタートアップ法律事務所では、これまで数多くのスタートアップ企業をサポートしてきました。企業の方針に応じて、効果的なリファラル採用制度の導入をサポートすることも可能です。採用活動をはじめ、スタートアップ企業の事業でお悩みのことがございましたら、お気軽にご相談いただければと思います。

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執筆者 弁護士内山 悠太郎 宮崎県弁護士会 登録番号59271
私は、学生時代はアルペンスキーとサーフィンに明け暮れておりました。そんな中で、弁護士を目指すにいたったのは、社会に役に立つための知識を身につけたいという単純な思いからでした。人や企業が困っている場面で手助けできるスキルを身につけて社会に貢献したいと考え、弁護士を志すに至りました。
得意分野
ガバナンス関連、各種業法対応、社内セミナーなど企業法務
プロフィール
埼玉県出身 明治大学法学部 卒業 早稲田大学大学院法務研究科 修了 弁護士登録 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社