人事・労務CATEGORY
人事・労務
更新日: 投稿日: 弁護士 長山 萌

パートタイム・有期雇用労働法|2020年の労働法改正で中小企業が取るべき対応と手順を解説

東京スタートアップ法律事務所は
全国14拠点!安心の全国対応

働き方改革関連法の一環として、パートタイム労働法(正式名称「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)がパートタイム・有期雇用労働法(正式名称「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)に改正されました。同法は、大企業は2020年4月1日から、中小企業は2021年4月1日から施行されます。

パートタイム・有期雇用労働法の改正では、雇用形態に関わらない公正な待遇を確保するために、社内の規定や手当の見直しが求められるなど、対応が必要となる点が少なくありません。しかし、中小企業の経営者や人事担当者の方の中には、改正の話は聞いたことがあるが具体的に何が変わるのか、どのように対策すべきかよくわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、パートタイム・有期雇用労働法の施行にあたり中小企業がどのような対応を取るべきか、注意点や対応の手順などについて解説します。

パートタイム・有期雇用労働法とはなにか

パートタイム・有期雇用労働法は、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択して、待遇に納得して働き続けられるように、働き方改革関連法の一つとして制定され、大企業は2020年4月1日から、中小企業は1年後の2021年4月1日から施行されます。

同法では、同じ会社で働く労働者は、正社員か非正規社員(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者など)かという雇用形態の違いによって、基本給やボーナス、手当、福利厚生などあらゆる待遇について、不合理な格差を設けることを禁止しています。

改正前のパートタイム労働法では、同じ会社で働く労働者の1週間の労働時間が、フルタイム従業員に比べて短いパートタイム従業員が対象だったのに対し、パートタイム・有期雇用労働法では、契約社員、派遣社員、パート、アルバイトなどの非正規社員など、雇用期間が定められた有期雇用契約の労働者が対象なのが特徴です。

2020年法改正の3つのポイント

2020年のパートタイム・有期雇用労働法改正は、正社員に比べてパートや契約社員などの有期雇用契約者の待遇が悪い状況を是正することを主眼としています。その点から、今回の法改正のポイントは以下の3つということができます。

1.同一労働同一賃金

同一労働同一賃金とは、同じ企業で同一の仕事をする正社員(無期雇用のフルタイム労働者)と非正規社員(有期雇用労働者のフルタイム労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差を解消することをいいます。原則として全ての雇用形態の労働者が対象になり、派遣社員も、派遣先の従業員と待遇差がないような対策が求められます。

同一労働同一賃金の目的は、正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差を禁止することにあるので、同一の労働に同一の賃金を必ず払わなければいけないわけではありません。不合理な待遇差かどうかは、「均衡待遇」と「均等待遇」の2つが判断基準になります。

「均衡待遇」とは、労働に違いがあれば違いに応じた賃金を支払うことをいい、①業務内容と責任の程度を考慮した職務内容、②職務内容・配置変更の範囲、③運用その他の事情の3つを考慮して判断されます。

「均等待遇」とは、労働が同じであれば待遇差を改善して同じ待遇をすることをいい、職内容と職務内容・配置変更の範囲を参考に検討します。待遇差の是正は、賃金に限らず福利厚生や教育などあらゆる待遇に及びます。

上記の待遇差の禁止によって、具体的には以下の5類型に変化が生じる可能性が高いです。

  • 基本給
  • 賞与
  • 各種手当(通勤手当、業務手当、役職手当、家族手当、住宅手当、食事手当など)
  • 福利厚生・教育訓練(施設利用、慶弔休暇、病気休職など)
  • 退職金の支給

実際に不合理な待遇かどうかの判断は個別に行う必要がありますが、基準については厚生労働省がガイドラインを策定しているので、ご確認ください。

2.労働者の待遇に関する説明義務

労働者を雇用する会社側は、雇用管理上の措置の内容及び待遇決定に際しての考慮事項に関して、有期雇用の非正規社員に説明する必要があります。

具体的には、雇入れの際に、待遇の差別的取り扱いの禁止や(パートタイム・有期雇用労働法第9条)、賃金の決定方法(同10条)、教育訓練の実施(同11条)、福利厚生施設の利用(同12条)、通常の労働者への転換を推進するための措置(同13条)について説明義務が課せられています。

また、非正規社員側も、正社員との「待遇差の内容や理由」などについて雇用主に説明を求めることができます。説明を求められた会社側は、上記の雇入れの際の説明義務の内容に加えて、労働条件の文書交付等(同6条)、収容規則の作成手続(同7条)についても説明する義務があります。加えて、会社側は、説明を求めた労働者に対して、解雇や減給、有期契約の更新拒否など不利益となる対応をしてはいけません。

3.会社側と従業員側の紛争の解決支援

パートタイム・有期雇用労働法の改正によって、不合理な待遇差や説明義務について、会社側と労働者側との間でトラブルが発生した場合は、行政による助言や指導、労使間の紛争を裁判以外の方法で解決する手続き(行政ADR)が利用できるようになりました。

非公開の紛争解決手続きがあり、裁判よりも早い解決が期待でき、かつ無料で利用できるので、紛争解決に向けた負担は大きく軽減されるといえるでしょう。

パートタイム・有期雇用労働法の改正で中小企業が取るべき対応手順と期限

パートタイム・有期雇用労働法は、大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日から施行されます。会社の賃金に関する規定を見直し、就業規則を整備し直すためには、従業員との話し合い、状況に応じた報酬体系の変更など、対策しなければならないことが多くあります。会社側が取るべき対応について、順を追って説明します。

1.会社が取り組むべき6つの項目と手順

①雇用形態の確認

まずは、自社において、正規雇用労働者(正社員)以外にどのような雇用形態の従業員が働いているのかを確認しておくことが重要です。当然のように思われるかもしれませんが、契約社員、パートタイマー、アルバイト、嘱託社員、派遣社員など、雇用形態はさまざまです。
加えて、自社の正社員と非正規社員が、どのような職務内容でどの程度の責任を負って業務にあたっているのか、雇用形態と現状も確認しておきましょう。

②待遇状況の確認

次に、正社員に支給されている賃金(ボーナス、手当、退職金など)の中で、正社員のみに支給されているもの、算出方法や金額が異なるものはないか確認します。また、食堂などをはじめとする福利厚生施設の使用や、慶弔休暇の取得内容に差がないか、詳しく確認しておきましょう。基本給、ボーナス、各種手当、退職金、福利厚生、教育訓練は特に待遇差が問題となりやすいので、現状について正確に把握することが重要です。

③待遇差の理由の確認

上記の項目等について、正社員と非正規社員の間に待遇差がある場合は、その待遇差に合理的な理由があるか確認します。例えば、正社員には繁忙期に残業が求められるのに対して非正規社員には求められない事情があるようなケースでは、求められる職務が異なると説明できるので、残業手当の支給に関する規定に待遇差があったとしても、合理的な理由があるといえます。

④待遇差が不合理でないことの確認

前述した通り、同一労働同一賃金は、正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。均衡待遇、均等待遇の2つの基準から、待遇差が不合理なものでないことを確認します。また、パートタイム・有期雇用労働法の改正によって、会社側には労働者への説明義務が課されており、雇入れ時以外にも、パートタイム労働者・有期雇用労働者から説明を求められれば説明しなければなりません(同法第14条2項)。正社員と非正規社員の待遇差の内容や理由、制度策定の際に考慮した点などを説明できるようにしておきましょう。

⑤違法な状況の早期改善

正社員と非正規社員の間の待遇差が不合理なものだった場合は、その差を解消するために早期に改善策を講じる必要があります。具体的には、賃金算定の根拠となる正規社員・非正規社員を含めた全社員の評価基準や賃金に関する雇用契約の内容の見直し、契約書や就業規則の変更にも対応することが求められます。

⑥改善計画

不合理な待遇差への対応を契機に、働き方改革に関連する各種法令や趣旨に違反しない人事制度の体制整備も併せて行うことが望ましいでしょう。具体的には、同一労働同一賃金の導入を始め、ハラスメント防止対策、長時間労働の是正、テレワークや副業許可など柔軟な働き方の実現などへの取り組みです。新たな人事制度の体制を整備したら、研修や会合などを通して全社員にしっかりと説明を行い、周知徹底を図ります。

2.無期転換した従業員との関係

正社員と有期雇用社員が、同じ会社で同じ仕事をしている場合、基本給やボーナス、手当などのあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることは禁止されます。一方で、当初有期雇用契約だった労働者が無期雇用に転換した場合、元からあった待遇差が同一労働同一賃金で是正対象になるか問題になります。

法律では、原則として無期転換当時の有期雇用契約と同じ労働条件が、無期転換後も継続すると規定されています(労働契約法第18条)。とすると、無期転換制度自体も非正規社員の待遇差を改善するものなので、元から正社員だった労働者と無期転換後に待遇差があったとしても、さらに同一労働同一賃金を適用しなくてもいいように思われます。

しかし、無期転換した労働者と元からの正社員が双方とも無期雇用になったとしても、両者の労働条件の差は有期雇用時からの待遇差であるのが通常なので、無期転換後も継続する待遇差は、同一労働同一賃金の本来の趣旨から改善されるべきと考えられます。

違反した場合の法的リスクと解決手段

1.同一労働同一賃金に違反した場合

会社側が同一労働同一賃金のルールに違反した場合の罰則規定はありません。
しかし、同一労働同一賃金のルールに違反して不合理な待遇差を放置していた場合は、非正規社員から正社員との待遇格差について損害賠償請求を受けるリスクがあります。

2.紛争に発展した場合の解決手続

今回の法改正により、会社と従業員の間で生じた不合理な待遇差や説明義務に関するトラブルは、行政による助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)を利用できます。具体的には、以下の2つの行政サービスを無料・非公開で利用することが可能です。

①都道府県労働局長の支援

都道府県労働局長が、トラブルの当事者に対して、客観的な立場から問題点を指摘して解決策を助言し、当事者間での話し合いによる解決を促す制度です。

②均等待遇調停会議の調停

弁護士や社労士などの専門家で構成される調停委員が、トラブルの当事者から事情をヒアリングして調停案をまとめ、それを受け入れるように勧めることで解決を目指す制度です。

パートタイム・有期雇用労働法対策を弁護士に相談するメリットとデメリット

パートタイム・有期雇用労働法の対策を円滑に進めるためには、労務問題に精通した弁護士に相談することが望ましいでしょう。弁護士に相談するメリットとしては、以下のような点があります。

  • 現状の待遇を把握してもらえる
    正社員と非正規社員の待遇差が合理的なものかどうか、個別の業務内容や責任の程度を踏まえて判断し、アドバイスをもらうことができます。これにより、本来合理的な差異までを改善する必要がなくなり、会社の負担を回避することが可能です。
  • 待遇差の改善のアドバイスを受けることができる
    待遇差が不合理であった場合に、どの程度差異を是正すればよいか、過去の裁判例や厚労省のガイドラインを基にアドバイスを受けることが可能です。客観的で公正な判断基準を示してもらうことで、非正規社員から不当な要求があった場合に応じるリスクを避けることができます。
  • 契約書や就業規則の改訂を任せることができる
    基本給やボーナス、手当などの待遇を変更する場合、多くのケースで契約書や就業規則の変更が必要となります。弁護士に相談・依頼することで、将来的に問題が発生しない就業規則や契約書を整備することができます。

一方で、弁護士に相談・依頼するデメリットとしては、費用がかかることがあげられます。

弁護士の相談費用は、30分5000円、1時間1万円程度が相場です。待遇差の是正の対応については、従業員との交渉やADRへの移行など状況によって異なりますが、10万円~を目安にしておくとよいでしょう。

ただし、弁護士費用については事務所によってかなり差があるので、まずは法律相談などを利用して、見積もりを依頼してみることをおすすめします。

まとめ

今回の解説では、パートタイム・有期雇用労働法の施行に際して、中小企業が取るべき対応や注意点について解説しました。

同一労働同一賃金は、従業員の関心の高い問題なので、会社への要求が強まる可能性も高い問題です。契約書や就業規則の変更も踏まえて、様々な準備と対策を取ることが企業側に求められます。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、お客様の会社の状況に合ったパートタイム・有期雇用労働法の対応についてのご相談に対応しております。また、実際に労使間トラブルが生じた場合の対応や就業規則の見直しなど、全面的なサポートが可能です。パートタイム・有期雇用労働法の対応などのご相談がございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。

画像準備中
執筆者 弁護士長山 萌 第二東京弁護士会 登録番号59435
法的な知識だけでなく、様々な分野の知識や思考方法を身に着けることが不可欠と感じ、一定の分野に偏ることなく、幅広く様々な分野に注力。 また、幼少期に中国で過ごした経験を生かし、今後関係がさらに深まるであろう日中間における個人・企業の法的支援をしてきたいと考えている。
得意分野
婚姻関係、破産関係、一般民事/刑事事件、起業関係、中国法関係、バイリンガル(日本語、中国語)
プロフィール
早稲田大学大学院法学研究科 修了 明治大学法科大学院 修了 明治大学法科大学院 教育補助講師 司法試験 合格 弁護士登録 東京スタートアップ法律事務所 入所