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更新日: 投稿日: 弁護士 宮地 政和

リモートハラスメントとは?放置リスク・会社に求められる対策と注意点

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新型コロナウイルスの感染拡大防止のために在宅勤務・テレワーク制度を導入する企業が急増する中、テレワーク中にハラスメントの被害に遭ったと訴える声が相次ぎ、リモートハラスメントと呼ばれて問題視されています。

「リモートハラスメントの実態や原因について理解したい」「テレワーク中に従業員がリモートハラスメントに遭った場合、会社はどのような対応をするべきか知りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、リモートハラスメントの概要や原因、典型的な事例、リモートハラスメントを放置するリスク、会社に求められる対策と注意点などについて解説します。

【解説動画】TSL代表弁護士、中川がリモートハラスメントとは?会社に求められる対策と注意点について解説

リモートハラスメントとは

リモートハラスメント(リモハラ)は、リモートワーク中のパワハラやセクハラ等の嫌がらせ行為を意味する言葉で、テレワークハラスメント(テレハラ)とも呼ばれています。
リモートハラスメントは、文字通りリモート環境で行われるため、他人の目が届きにくく、エスカレートしやすいという特徴があります。

リモートハラスメントの典型例

リモートハラスメントの中でも特に多いのが、パワーハラスメント(パワハラ)、セクシャルハラスメント(セクハラ)、モラルハラスメント(モラハラ)に分類されるケースだといわれています。以下ではこれらの具体的な事例をご紹介します。

1.パワハラ型の典型例

パワーハラスメント(パワハラ)は、職務上の地位など職場内の優位性を利用した嫌がらせのことです。
パワハラに分類されるリモートハラスメントの典型例は、オンライン会議システム等を利用して上司が部下を四六時中監視し、数分程度、席を外しただけでも、「また仕事をさぼっていたな!給料泥棒め!」「おまえは仕事をさぼることしか考えていないだろ!」などという暴言を吐くというケースです。

また、リモートワークで利用されるコミュニケーションツールを利用したパワハラも多発していて、以下のような経験をされた方もいらっしゃるようです。

  • Chatwork(チャットワーク)というオンラインチャットツールで、数分に1回上司からメッセージが届き、すぐに返信しなければいけない状況に置かれた。
  • Slack(スラック)という業務コミュニケーションツールで、上司から「昨日頼んだ仕事はまだできてないのか?」「先週依頼した件の進捗は?」などと矢継ぎ早に報告を求めるメッセージが届き、Slackの画面を見ることに恐怖を覚えるようになった。

2.セクハラ型の典型例

セクシャルハラスメント(セクハラ)は、性的な嫌がらせのことです。
セクハラに分類されるリモートハラスメントの典型例は、Zoom(ズーム)などのWeb会議システムを利用したオンライン会議で性的な発言をするケースです。
また、例えば、オンライン会議中に「今日はスッピンなの?」、「少し太ったよね?在宅勤務が続いたからかな?」などの発言をすることや、部屋の様子や全身を写すよう求めること、業務と無関係である恋人との関係について必要以上に詮索することもリモートハラスメントに該当する可能性があるので注意が必要です。

3.モラハラ型の典型例

モラルハラスメント(モラハラ)は、倫理や道徳に反した嫌がらせのことです。
モラハラに分類されるリモートハラスメントの典型例は、オンライン会議などでプライベートに関する批判的な発言をするケースです。具体的には、「大した仕事してないくせに、いい部屋に住んでるんだな!」、「子どもがうるさいな。よくこんな環境で仕事してるな」など、オンライン会議中に画面に映るプライベート空間に関する問題発言の事例が多数報告されており、在宅環境モラハラとも呼ばれています。

リモートハラスメントの原因

直接顔を合わせないリモート環境で、なぜハラスメントが起きてしまうのでしょうか。リモートハラスメントの原因について説明します。

1.パワハラ型の原因

パワハラ型のリモートハラスメントが多発している背景には、慣れない在宅勤務で、部下をどのように管理すればよいか要領をつかめずに悩む管理職が多いという問題があると指摘されています。
リモート環境では部下の行動や仕事の進捗状況が把握しづらいため、仕事をさぼって遊んでいないか気になって仕方がないという方もいらっしゃるようです。

2.セクハラ型の原因

セクハラ型のリモートハラスメントの原因としては、オンライン会議などで画面越しに部屋の様子など相手の私生活を垣間見ることにより、仕事とプライベートの境界線が曖昧になるという点が指摘されています。仕事とプライベートの境界線が曖昧になることにより、相手との距離が近くなったような錯覚に陥りやすくなります。
また、職場とは違って周囲に目撃されることがないため、つい気が緩み、大胆な発言をしてしまう方もいらっしゃるようです。

3.モラハラ型の原因

モラハラ型のリモートハラスメントも、セクハラ型と同様に、オンライン会議などで画面越しに相手のプライベートが見えるというリモート環境特有の問題が主な原因といえるでしょう。
また、最近は新型コロナウイルス感染の不安や外出自粛などの行動制限により、ストレスを抱える方が増えているといわれています。ストレスが溜まってイライラし、職場の仲間に対して、つい暴言を吐いてしまったというケースもあるかもしれません。

リモートハラスメントを放置するリスク

リモートハラスメントは、会社外で起きるため、会社側が実態を把握することが困難です。しかし、従業員から在宅勤務中にハラスメント被害を受けたと相談があった場合、速やかに適切な対応を行わなければなりません。
このような相談を放置し、ハラスメントを受けた従業員が深刻な精神的ダメージを受けると、睡眠の質が悪化して集中力が低下し、仕事のケアレスミスや遅延を引き起こすなど業務に支障をきたす可能性や、うつ病を発症する可能性があります。
そのような事態になれば、会社は安全配慮義務違反を理由として損害賠償を請求される可能性があります(労働契約法第5条)。
したがって、従業員から「在宅勤務中にハラスメント被害に遭った」という相談を受けた場合、会社は速やかに事実確認を行い、適切な対応を行う必要があります。

従業員から相談を受けた際の対応手順と注意点

従業員から在宅勤務中に受けたハラスメント被害について相談された場合、具体的にどのような対応を行えばよいのでしょうか。対応の手順と注意点について説明します。

1.適切な対応の手順

リモートハラスメントに限らず、従業員からハラスメント被害に関する相談を受けた際に最初にやるべきことは事実確認です。被害者と加害者の双方に対して聞き取り調査を行い、できる限り正確に事実を把握するよう努めることが大切です。客観的に判断するために、メールやチャットの履歴や録音などが残っている場合は証拠として提出してもらいましょう。

聞き取り調査の結果、ハラスメントの事実を確認した場合、加害者に対して必要な注意や指導などを行い、改善を促します。その後、改善がみられない場合は降格や懲戒処分などを検討します。加害者に対する処分を検討する前に、必ず注意や指導を行うことが大切です。また、懲戒処分は就業規則等に規定がない場合は認められないので注意しましょう。

聞き取り調査の結果、ハラスメントの事実が確認されなかった場合、当事者間の誤解を解き、人間関係を改善するための働きかけをする等の対応が必要となります。

2.ハラスメント・ハラスメントに要注意

近年、ソーシャルハラスメント(ソーハラ)、時短ハラスメント(ジタハラ)など、新しい種類のハラスメントが次々と誕生しています。このような状況を見て、ハラスメントに対して過敏な反応を示す人が増えているという指摘もされています。少しでも気に入らないことを言われると、「ハラスメントだ!」と主張して相手を困らせることをハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)というそうです。
例えば、仕事上のミスを指摘しただけで「パワハラだ!」と主張されるケースもあるようです。しかし、業務上必要な指導や、ミスの適切な指摘は、当然ながらパワハラには該当しません。
そこで、ハラスメントに関する相談があった場合に事実関係を確認する際は、相談者の主張を鵜呑みにせず、当事者双方に対して丁寧な聞き取りを行い、客観的な目線で判断する必要があります。

早期発見のために効果的な対策

会社の目が届かないリモート環境で密かに行われているハラスメントを早期に発見するためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか。早期発見に役立つ対策について説明します。

1.相談窓口の設置

テレワーク中は身近に相談できる人がいないため、一人で悩みを抱えて孤立してしまいがちです。そのため、ハラスメントの被害を受けた際に気軽に相談できる窓口を設けて、周知することが大切です。周知する際は、従業員が安心して相談できるよう以下の内容を伝えるとよいでしょう。

  • ハラスメントに該当するかわからない場合でも相談が可能であること。
  • 相談したことにより不利益な扱いを受けることは一切ないこと。
  • 相談者のプライバシーは確実に保護されること。

また、相談窓口が社内の人事部やコンプライアンス部門に設置されている場合、加害者に知られてハラスメントがエスカレートすることを恐れて、利用をためらう方もいらっしゃるかもしれません。そこで、場合によっては、法律事務所や民間の専門機関など社外に相談窓口を設けることが望ましいでしょう。

2.積極的な実態把握

ハラスメントを初期の段階で発見するためには、相談窓口を設置するだけではなく、より積極的な実態把握に向けた取り組みが必要です。実態把握のためには、全従業員を対象としたアンケート調査を定期的に実施することが効果的です。アンケート調査を行う際は、実態をより正確に把握するために匿名で実施するとよいでしょう。また、実際にハラスメント被害を受けている従業員が一人で問題を抱えこまないよう、アンケート調査実施時に相談窓口を案内することも大切です。

リモートハラスメントの予防策

ハラスメントに対する事後の対応や早期発見に向けた対策について説明してきましたが、ハラスメントが起きてから対応した場合、当事者間の関係を修復するのが難しい場合もあります。そのため、ハラスメントを未然に防ぐための対策も非常に大切です。具体的な予防策について説明します。

1.会社の方針の明確化

リモートハラスメントに限らず、職場におけるハラスメントを未然に防ぐためには、会社としての方針を明確にすることが大切です。会社が、職場のハラスメント撲滅と、全従業員が安心して働ける環境の構築を目指して積極的に取り組んでいるという姿勢を示すことは、従業員一人ひとりのハラスメントへの意識を高めることにつながります。
会社としての方針を明確にするとともに、懲戒処分等、加害者への厳正な処分を就業規則に定めて周知しましょう。就業規則に厳しい規定を設けることにより、ハラスメントを未然に防ぐ抑止効果が期待できます。

2.定期的な社内教育・啓発活動

定期的にハラスメント研修などの社内教育を実施し、どのような言動がハラスメントに該当するか具体的な事例を挙げて説明すると、従業員の理解促進に繋がり、効果的です。
社内教育は、正社員だけではなく、パートや派遣社員などの非正規雇用の従業員も含めた全従業員を対象として行うべきです。管理監督者と一般従業員に分けた階層別研修も効果的だといわれていますが、会社の規模が小さい場合は合同で実施しても良いと思います。

3.テレワークに適したマネジメント方法の習得

オンライン会議システム等を利用して上司が部下を四六時中監視するようなパワハラは、管理職がテレワークのマネジメント方法について不安を抱いていることも一因です。このタイプのパワハラを根本的に解決するためには、管理職を対象としたリモートワークマネジメント研修を実施するなど、管理職がテレワーク環境におけるマネジメント方法を習得する機会を設けることが効果的です。管理職がテレワーク環境でのマネジメント方法を学ぶことにより、部下の業務の進捗状況やフォローが必要な点を的確に把握できるようになれば、監視する必要はなくなるはずです。
また、ストレスが原因のモラハラを防ぐためには、テレワーク環境で従業員がストレスを溜めないよう適切に配慮する必要があります。在宅勤務の場合、通勤がない分、オフィスでの勤務よりも長時間労働となり、ストレスを溜めてしまいがちです。長時間労働を予防するためには、従業員に対する啓蒙や適切な労務管理を行う必要があります。

まとめ

今回は、リモートハラスメントの概要や原因、典型的な事例、リモートハラスメントを放置するリスク、会社に求められる対策と注意点などについて解説しました。

テレワークは、新型コロナウイルスの感染リスク軽減や従業員のワークライフバランスの向上などメリットが多い働き方ですが、リモート環境特有の問題がハラスメントを引き起こすリスクがあるという点をしっかり認識し、必要な対策を講じましょう。

また、2019年5月29日に成立した改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)では、相談窓口の設置などのパワーハラスメント防止措置を講じることが事業者(企業)の義務として定められました。中小企業の施行時期は2022年4月1日からとなっていますが、厚生労働省は早めの対策を呼びかけています。

我々東京スタートアップ法律事務所は、企業法務のプロとして各企業の状況や方針に合うハラスメント対策のサポートを行っています。また、当事務所自身がテレワークを導入した経験を活かし、テレワーク実施時の労務管理等のサポートにも積極的に取り組んでいます。お電話やZoom等のオンライン会議システムによるご相談も受け付けていますので、ハラスメント対策などに関する相談等がございましたら、お気軽にご連絡をいただければと思います。

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執筆者 弁護士宮地 政和 第二東京弁護士会 登録番号48945
弁護士登録後、都内の法律事務所に所属し、主にマレーシアやインドネシアにおける日系企業をサポート。その後、大手信販会社や金融機関に所属し、信販・クレジットカード・リース等の業務に関する法務や国内外の子会社を含む組織全体のコンプライアンス関連の業務、発電事業のプロジェクトファイナンスに関する業務を経験している。
得意分野
企業法務・コンプライアンス関連、クレジットやリース取引、特定商取引に関するトラブルなど
プロフィール
岡山大学法学部 卒業 明治大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内の法律事務所に所属 大手信販会社にて社内弁護士として執務 大手金融機関にて社内弁護士として執務
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社