新型コロナウイルスの影響で賃料減額交渉は可能?成功の秘訣も解説
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記事目次
新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の影響により、収入が激減して資金繰りが苦しくなった経営者が増えました。こうした中、毎月の固定費の中でも大きな比率を占める賃料の減額を求めて、オーナーと交渉する経営者が急増しています。
「自治体から休業要請を受けた場合に、賃料の減額や支払猶予が認められるのか知りたい」「休業要請の対象外でも、賃料減額を請求できるのか知りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は、休業要請により休業した場合の賃料減額の可否、休業要請を受けていない場合の賃料減額の可否、政府による賃料補助や支払猶予等の支援策、賃料減額以外の固定費削減方法などについて解説します。
新型コロナウイルスの影響により賃料減額交渉が急増
最初に、新型コロナウイルス感染拡大の影響により賃料減額を求める事業者が急増した背景や、賃料減額が認められる可能性について説明します。
1.賃料減額交渉が急増した背景
新型コロナウイルスの経済活動への影響は非常に大きく、「戦後最大の危機」とも言われています。飲食店や商業施設を始め、多くの小規模事業者が大きな打撃を受けています。2020年3月以降は、売上が前年同月比の5割以上減少した事業者が続出しました。4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という)に基づき、緊急事態宣言が発令された後は、外出自粛要請や休業要請の影響により、さらに状況が悪化しています。
そのような状況の中、経営をなんとか維持するために、毎月発生する固定費の支払いを減らしたいと考える方は多いかと思います。固定費の中でも特に高い割合を占める賃料は、負担が大きいため、賃料の減額交渉を検討する方が急増しているようです。
2.賃料減額が認められる可能性
「賃料減額なんて、そう簡単には認められないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、新型コロナウイルスの影響によって、資金繰りに苦しむ事業者が増えていることは周知の事実です。借主が直面している厳しい状況については、貸主も理解しているため、交渉に応じてもらえる可能性は高いです。2020年3月31日には、国土交通省が不動産賃貸事業を営む事業者に対して、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて賃料の支払いが困難な事情があるテナントから要請を受けた場合は、支払い猶予等の柔軟な対応を行うよう業界団体を通じて要請しました。
その後、緊急事態宣言が発令されて、さらに経済活動への影響が深刻化したことを受けて、4月17日には、不動産業社がテナントからの賃料減額や猶予を受け入れやすくするための支援策も発表されました。支援策の対象と内容は、以下のとおりです。
- 対象:月収が前年同月比で20%以上減って納税が難しくなったビル所有者
- 内容:2021年1月までに納入期限を迎える国税、地方税、社会保険料を1年間猶予
政府の施策の趣旨や内容を理解することは、貸主との賃料減額請求や、支払い猶予の交渉にも役立ちます。交渉に応じた場合の貸主側のメリットについてわかりやすく説明することができれば、交渉がスムーズに進む可能性が高まるからです。
現在、賃料の減額交渉を検討中で、減額交渉の手順や注意点について知りたいという方は、こちらの記事を参考にしていただければと思います。
要請を受けて休業した場合の賃料減額請求の可否
都道府県知事から休業や営業自粛の要請・指示を受けて、休業または営業時間の短縮を行った場合は、賃料の減額請求が認められる可能性が高いです。都道府県知事からの要請や指示を受けて休業した場合の賃料減額請求の可否について、法的根拠を踏まえながら説明します。
1.賃貸契約書との関係
賃料減額請求の可否を検討する際は、最初に賃貸契約書の内容を確認する必要があります。
賃貸契約書の中に定められている賃料増減請求や協議に関する規定の内容を確認しましょう。
一定の期間賃料を減額しない旨を規定した賃料不減額特約が定められている場合、賃料減額請求は難しいかもしれません。ただし、建物の賃料増減請求権を定めた借地借家法第32条1項は、当事者の意思に左右されずに強制的に適用される強行法規と解釈されています。そのため、賃料不減額特約は無効とみなされ、賃料減額請求が認められる可能性もあります。
2.改正民法の規定との関係
2020年4月に施行された改正民法では、賃貸物件が賃借人の責めに帰することができない事由により使用及び収益できなくなった場合、賃料の減額が認められると規定されています(改正民法第611条1項)。民法改正前は、同条に賃料減額の条件として記載されていた事由は、賃借物の一部滅失のみでした。しかし、改正後は、使用及び収益できなくなった場合にも、減額が認められると明記されたのです。
賃借人の責めに帰することができない事由の典型例は、地震や台風などの自然災害により建物の使用が不可能な状態となった場合です。新型コロナウイルス感染拡大の影響も、自然災害と同様に賃借人の責任とは無関係な不可抗力にあたるので、同条に基づく賃料減額が認められる可能性があります。
3.特措法の規定との関係
緊急事態宣言の法的根拠である特措法には、都道府県知事が感染拡大の原因となり得る施設に対して、以下のように段階的な要請・指示を出せる旨が定められています。
- 第24条9項に基づく入場制限や休業要請
- 第45条2項に基づく施設の使用停止(休業)の要請
- 第45条3項に基づく施設の使用停止(休業)の指示
要請や指示に従わなかった場合の罰則はありませんが、従わない場合は社会的な批判の対象となる可能性が高いため、一定の強制力を持つ規定といえるでしょう。実際、都道府県からの休業要請に従わなかったパチンコ店の店名が、都道府県の公式サイト上で公開された事例もあります。
緊急事態宣言に基づく都道府県からの要請により、休業や営業時間の短縮を余儀なくされた場合は、不可抗力に該当すると考えられるため、改正民法に基づく賃料減額が認められる可能性が高いでしょう。
休業要請を受けていない場合の賃料減額の可能性
特措法に基づく要請や、指示を受けていない場合も、賃料減額は可能なのでしょうか?
感染拡大防止のため、自主的に営業を自粛した場合や新型コロナウイルスが持ち込まれた場合の賃料減額請求について説明します。
1.借主の判断による休業の場合
特措法の休業要請等は受けていないけれど、借主の判断により自主的に休業または営業時間の短縮を行った場合は、改正民法第611条1項の「賃借人の責めに帰することができない事由」に該当すると認められる可能性は、低いかもしれません。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、自主的に営業を自粛することは、事業者としての社会的な責任を果たすための、正当な判断といえるのではないでしょうか。法律に基づく賃料減額請求が認められないとしても、貸主との交渉により賃料減額請求が認められる可能性はありますので、諦めずに交渉してみましょう。
2.新型コロナウイルスが持ち込まれた場合
建物内に新型コロナウイルスの感染者が立ち入り、ウイルスが持ち込まれた場合は、民法に基づく賃料減額請求が認められる可能性があります。建物内にウイルスが持ち込まれた場合は、感染防止策として、建物全体または一部を消毒・清掃するために一時的に閉鎖するケースが多いです。その場合は借主の意思とは無関係の不可抗力により、営業ができなくなるため、「賃借人の責めに帰することができない事由」に該当すると認められる可能性が高いです。
政府による賃料補助等の支援策
新型コロナウイルスの影響を受け、資金繰りに苦しむ小規模事業者や中小企業にとって、賃料等の固定経費が多大な負担となっています。そのような声を受け、政府は支援策の策定を進めています。2020年5月15日現在、詳細が決定されていない点もありますが、現時点までに報道された内容に基づいて支援策の内容を説明します。
1.特別家賃支援給付金
2020年5月8日、自民・公明両党は賃料の支払いが困難になっている事業者に対し、賃料の3分の2を給付するという支援策(仮称:特別家賃支援給付金)を正式にまとめたという報道がありました。報道によると、対象となる条件は以下の2つのうちいずれかに該当することです。
- 収入が50%以上減少した月がある
- 3ヶ月間の平均収入が30%以上減少した
給付額の上限は、小規模事業者と中小企業は月50万円、個人事業主は月25万円です。
2.家賃支払い猶予法案
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて売上が激減したために、賃料の支払いが困難になった事業者を支援するため、野党5党は、家賃支払い猶予法案を国会に共同提出したそうです。法案には、前年比で1カ月当たり20%以上収入が減った事業者等を対象として、賃料の支払いを一定期間猶予することや、賃貸人が賃料を減額した場合に国が一部を補助する等の内容が盛り込まれているとのことです。ただし、2020年5月時点では、この法案が最終的にいつどのような形で実現するかについての見通しは立っていません。
3.事業者が本当に望む支援策を盛り込んだ法案
政府は資金繰りに苦しむ事業者を支援するために様々な施策を進めていますが、事業者からは、「スピードが遅すぎる」、「もっと即効性のある支援策が必要」、「このままでは廃業を余儀なくされる」等の声も上っています。特に厳しい状況に置かれている外食産業では、「外食産業の声」という有志の会が結成されました。2020年4月7日、東京都内の会場で「外食産業の声」が「家賃支払いモラトリアム法」という法案の早期実現を求める記者発表会を行いました。「家賃支払いモラトリアム法」には以下のような内容が盛り込まれています。
- 不動産オーナーが飲食店からの交渉に応じることを義務化
- 家賃の減免交渉に応じてもらうことを義務化
- 不動産オーナーが銀行からの融資等により猶予・減免ができない場合は、政府系金融機関が家賃の立て替えを行う
事業者が本当に求めているのは、このようにシンプルで即効性のある支援策なのかもしれません。
賃料減額以外の固定費削減方法
月々の固定費の中で大きな割合を占めるのは賃料ですが、賃料以外にも削減可能な固定費が存在します。賃料以外の固定費を削減する方法について説明します。
1.光熱費や通信費の支払い猶予
2020年3月18日付で、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が公表した「生活不安に対応するための緊急措置」という文書に基づき、経済産業書は新型コロナウイルスの影響により収入が減少した方の水道代、電気代、ガス代、スマホ代等の通信費、生命保険等の保険料の支払いを猶予するよう要請を出しました。いずれも本人による申請が必要となりますが、支払期日を延期することにより、当面の資金繰り改善に役立ちます。固定費の割合が大きいものから順番に申請してみてはいかがでしょうか。
また、電力自由化に伴い、新電力と呼ばれる電力会社が増加して価格競争が進んでいるため、電気事業者の変更が、月額の固定費削減につながる場合もあります。電力自由化後、まだ見直しを行っていない方は、この機会に見直してみてもよいでしょう。
2.税金は延滞税なしで最大1年間の猶予が可能
税金についても、2020年2月以降の任意の期間(1か月以上)における収入が前年同期に比べて約20%以上減少し、納税を行うことが一時的に困難な事業者を対象として、最大1年間の猶予を受けられます。対象となる税金は以下の通りです。
- 所得税
- 住民税
- 法人税
- 消費税
- 固定資産税
従来の納税猶予制度では年利14.6%の延滞税の支払いや担保が必要とされていました。しかし、新型コロナウイルスの影響により収入が激減した方に向けて創設された特例猶予制度では、延滞税も担保も不要です。
納税猶予の申請は、猶予を受けたい国税の納付期限までに所轄の税務署に申請する必要があります。申請方法等の詳細を知りたい方は国税庁の公式サイトでご確認下さい。
住民税については自治体により対応が異なりますので、詳しく知りたい方は、住民票所在地である自治体の公式サイトでご確認下さい。
まとめ
今回は、休業要請により休業した場合の賃料減額の可否、休業要請の対象外の業種の賃料減額の可否、政府による賃料補助等の支援策、賃料減額以外の固定費削減方法などについて解説しました。
新型コロナウイルスの経済活動への影響はいつまで続くか不透明な状況です。しかし、5月14日には39県の緊急事態宣言が、5月25日には一都三県を含む全都道府県の緊急事態宣言が解除され、経済活動再開の兆しが見えてきました。しかしながら、これは地域の感染状況や感染拡大のリスクを勘案しながら、外出自粛やイベントの開催制限などを少しずつ緩和していく「段階的緩和」であり、多くの事業者にとっては依然として厳しい状況が続くことが想定されます。
賃料減額交渉、賃料以外の固定費の支払猶予申請等を積極的に行い、なんとかこの苦境を乗り切りましょう。
我々東京スタートアップ法律事務所は、新型コロナウイルスの影響を受けて資金繰り等に苦しむ中小企業のサポートに全力で取り組んでいます。お電話やオンライン会議システムによるご相談も受け付けていますので、資金繰り改善策や経営再建策を模索中という方はお気軽にご相談いただければと思います。
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設