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投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

スタートアップ創業時の給与水準・決定時の注意点

スタートアップ企業の創業者の方の中には、自社の役員や社員の給与をどのくらいに設定すべきか、他のベンチャー企業の役員や社員の給与水準はどの程度なのか、気になる方も多いのではないでしょうか。自社の役員や社員の給与設定は、今後の企業の成長のために重要な要素の一つといえます。

そこで今回は、創業時のCEOの給与水準、役員報酬の決定方法、役員報酬と法人税の関係、従業員の給料の決め方などについて解説します。

スタートアップ創業時のCEOの給与水準

他企業の年収の相場は、企業を創業したばかりの方、創業に向けて準備を進めている方が自社の給与水準を検討する上での目安として参考になります。

1.スタートアップ創業者の年収相場

全世界の会社を対象にした統計(COMPASS社)によると、11,160社のうち71%にあたる7,964社の創業者の給与は年収約500万円以下に設定されており、年収1,000万円を超える創業者は11%程度だそうです。

国内では、国税庁の調査によると、資本金2000万円未満の会社におけるCEOを含む役員報酬の平均は約566万円となっています。一方で、資本金が2000万円以上5000万円未満の役員報酬の平均は約796万円、5000万円以上では約979万円と増額していきます。

これらのデータから、創業当所の役員報酬は一般企業の平均年収(433万円、令和2年)と大きく変わらないものの、事業の拡大に伴い、役員報酬が上がる傾向があることがわかります。

2.年収1000万円以上に設定する場合の注意点

スタートアップ企業のCEOの給与や役員報酬を、年収1,000万円以上に設定することも可能です。ただし、以下の2つの点に注意が必要です。

①税金や社会保険料が高くなる

一つは、役員報酬が増えると、税金や社会保険料が高くなり、負担が増えるという点です。役員報酬が増えると、役員個人の所得税額が高くなります。また、社会保険料は年収に連動するため、役員報酬の額が高いほど社会保険料も増額します。社会保険料は、個人と会社が折半するため、会社の負担も増え、資金繰りの悪化を招くおそれがあります。

②税務署の調査が入る可能性がある

もう一つは、役員報酬を会社の損金に含めると節税ができる反面、リスクも伴うという点です。役員報酬は会社の損金に組み込むことができるため、役員報酬が増えれば会社は法人税の支払いを減らすことができます。ただし、役員報酬が不相当に高額と判断されると、税務署の調査が入り、損金に含めることが認められないこともあるので注意が必要です。

創業時の役員報酬の決定方法

役員報酬の決め方を誤ると、後から無効とされるなどのリスクがあるため、注意が必要です。役員報酬の概要や役員報酬を決める手続きについて説明します。

1.役員報酬とは

役員報酬とは、会社が役員に対して支払う報酬のことをいいます。具体的には、役員に含まれる次の3つの役職の人に対する報酬のことです。

  • 取締役:株式会社において業務執行に関する意思決定をする役員
  • 監査役:株主総会で選任される、取締役の職務を調査して報告する役員
  • 会計参与:税理士や公認会計士の資格を持ち、会計書類等を作成・保管等をする役員

2.役員報酬を決める手続

役員報酬は、社長個人が自由に決められるものではなく、定款または株主総会で決めなければいけません。

定款は、会社の設立時に作成する、会社の基本ルールを定めた書面です。会社の基本事項を定めたもので、後から変更するのが大変なので、役員報酬は定款ではなく株主総会で決めるのが一般的です。

株主総会は、株主が集まって会社の経営等を決定する会議のことです。役員報酬に関しては、その総額を決め、役員同士で好き勝手に増額する「お手盛り」をさせないようにします。役員報酬の総額を株主総会で決め、取締役会で各役員への配分を決めるのが通常の流れです。

スタートアップ企業の役員報酬と法人税の関係

従業員の給料は、基本的に全額を損金として税務上の費用に含ませることができますが、役員報酬を損金として扱うためには条件があります。適切に税金対策をするためには、役員報酬の扱いを知っておくことが大切です。

1.損金に算入できる役員報酬の3つの払い方

役員報酬を、法人税法上の損金として扱うためには、「あらかじめ決めた一定額を毎月支払う」というルールを守らなければいけません。また、損金算入できる役員報酬は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動型給与のいずれかに限られています。

①定期同額給与

固定の額を、毎月一定の時期に支払う方法です。各事業年度で支払われる報酬金額が同額となり、税務署への特別な届け出は必要ありません。

②事前確定届出給与

いわゆる賞与・ボーナスのようなものです。事前に税務署に届出を行い、その届け出の支給日に記載した金額を支払うことで、損金として扱うことが可能になります。

なお、届け出は、新しく法人を設立した場合は設立後2か月以内に、通常は株主総会の決議の日か、会計期間開始の日から4か月以内にする必要があります。

③業績連動型給与

会社の業績に応じて、役員報酬の支払いの有無、支払う場合は金額を決める方法です。

この方法は、同族会社以外の会社しか利用できません。株主が社長1人の会社や、社長が立ち上げた別会社が出資した会社の場合は同族会社に該当するため利用できません。

スタートアップ企業の場合、賞与を払う見通しを立てることが難しく、また創業者である代表取締役1人でスタートすることも多いため、事前確定届出給与や業績連動型給与を採用できないことが通常です。そのため、定期同額報酬を採用するスタートアップ企業が多いです。

2.法人税との関係で役員報酬を決める際の2つの注意点

役員報酬を決める際は、法人税との関係を踏まえて検討することが大切です。

①今後の売上予測を立てること

役員報酬を検討する際は、以下の手順で行うとよいでしょう。

  1. 会社の事業活動から売上予測を立てる
  2. 事業活動のために使用した費用、オフィスの家賃や光熱費などの固定費、従業員の給料などを差し引き、利益額を計算する
  3. 利益額から納税額を予測しながら、適切な役員報酬額を決定

この際、損益の予測を間違えると、予想外の税金がかかることがあるので注意が必要です。売上が増えるとその分利益が増え、納税額も増えます。売上の入金が先になる場合、納税時に手元にお金がないという事態に陥る可能性があります。そのため、役員報酬で利益額を抑えて調整する必要があります。

逆に金融機関からの融資を受ける場合、会社の利益を増やすために役員報酬を抑えるなど、状況に合わせた調整が求められます。

②法人税の支払いを考えること

法人税は、会社の所得に対してかかる税金のことです。法人税は、以下の計算式で算出できます。

法人税=会社の所得×法人税率

会社の所得=益金(売り上げなど会社が稼いだ収益)ー損金(原価・販売費・損失などの費用)

役員報酬は損金に含めることができるので、役員報酬を増やすことにより、法人税の額を抑えることができます。

ただし、役員報酬を増やすと、役員個人が支払う所得税や、社会保険料が高くなります。また、不相当に高額な役員報酬は損金に含むことが認められない可能性もあります。「不相当に高額」と判断される基準は明示されておらず、税務署の担当者が、会社の収益、株主総会の決議などで定められた役員報酬の限度額、役員の職務内容、同業他社の一般的な役員報酬額などを目安に判断することになります。

反対に役員報酬が低すぎると、社会保険に加入できないなどの弊害も生じるので、会社の運営、法人税の支払い、役員の生活のバランスを取りつつ、適切な役員報酬額を決定することが大切です。

3.役員報酬を変えたい場合

定期同額給与と事前確定届出給与の場合、役員報酬を変更するには期限があり、それを過ぎると損金に算入できなくなるなどの影響が生じます。

①役員報酬の水準を変えるタイミング

役員報酬を決めた後、変更したい場合は、以下の期限内であれば一回に限り変更することが可能です。

  • 定期同額給与の場合:原則として事業年度開始の日から3か月以内
  • 事前確定届出給与の場合:定時株主総会決議から1か月以内または事業年度開始の日から4か月以内のいずれか早い日

事業年度を基準に一度しか役員報酬を変更できない理由は、税金制度の公平な運用のためです。会社の利益が上がれば法人税も上がりますが、法人税を減らすために役員報酬を変えられると、その会社の利益を役員が享受することになり、不公平が生じます。そこで、役員報酬を変更できる期間を定め、それ以降は役員報酬の変更ができなくなっているのです。

②例外的に役員報酬を変えられる2つのケース

例外的に、以下のいずれかに該当する場合は、事業年度から3か月を経過しても役員報酬を変更することが認められています。

  • 一般社員が役員に就任する、役員が一般社員に降格するなど、役員の地位や職務に大きな変更があった場合
  • 倒産の危機に瀕している等の社内事情に加え、取引先との関係も含めた経営状況の悪化により、やむをえず役員の報酬を減額する場合

スタートアップ企業の従業員の給料の決め方

スタートアップ企業においては、役員報酬だけでなく、従業員の給与も決める必要があります。採用時の優秀な人材の確保やその後の定着にも関わるため、慎重に検討することが求められます。

1.従業員の給与体系

日本の企業では、給与体系に以下のような複数の種類の給与が含まれることが一般的です。

  • 基本給:所定労働時間の業務に対して支払われる賃金
  • 職務給:職務内容の重さや難易度に応じて支払われる賃金
  • 能力給:専門スキルや資格に対して支払われる賃金
  • 賞与:業績に応じて年1回から4回程度支払われる賃金
  • 成果給:インセンティブと言われる個人の業績に応じて支払われる賃金
  • 諸手当:時間外手当、通勤手当、住宅手当など、所定の条件に応じて支払われるもの

上記の全てを含める必要はなく、必要に応じて組み合わせて給与体系を決めることになります。

2.従業員の給与水準を決める際の注意点

従業員の給与水準を決める際は、以下のような観点からバランスを図るとよいでしょう。

①職務給や能力給でバランスを図る

毎月支給する月次給与においては、基本給、職務給、能力給のバランスを考慮することが大切です。

例えば、全体の底上げは難しいけれど、特定の社員のスキルがスタートアップに不可欠だという場合、基本給を据え置いて、職務給や能力給を加算する等、調整してもよいでしょう。

②賞与でバランスを図る

創業当初は売上予測を立てるのが難しいため、月次給与はできる限り低めに抑えておきたいところです。期の途中で大きく業績が上がった場合は、賞与やインセンティブで調整を図ることで、社員のモチベーションを維持し、離職率を抑えることが期待できます。

③同業他社の水準とのバランスを図る

求職者は、転職サイトなどで同業他社の給与を調べることが多いです。スタートアップ企業では一般企業と同程度の給与額を支払うことが難しい場合も多いですが、あまりに水準と乖離していると、優秀な人材を獲得できない可能性があります。特に専門的なスキルを持つエンジニアの給与は高額な傾向があります。自社のニーズと他社水準の両方を踏まえて給与額を決定しましょう。

まとめ

今回は、創業時のCEOの給与水準、役員報酬の決定方法、役員報酬と法人税の関係、従業員の給料の決め方などについて解説しました。

役員報酬を決定する際は、今後の事業活動や法人税なども考慮した入念なシミュレーションを行った上で、適切な手順を経て、決定することが大切です。また、従業員の給与についても、優秀な人材の確保とその後の定着を図るために、慎重に検討することが望ましいでしょう。

東京スタートアップ法律事務所では、多くのスタートアップ支援の経験に基づき、主に法律の側面から、クライアント様の状況や方針に合わせた幅広いサポートを提供しています。お気軽にご相談いただければと思います。

代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。弁護士法人東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。

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