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更新日: 投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

新規事業・サービスの法律相談|ルールメイキングやリーガルチェックの必要性

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新規事業やビジネスモデルを展開するにあたり、法規制に抵触しないか判断が難しいという問題に直面することは多いかと思います。その際、法的リスクの確認が不十分なまま、スピード重視で進めると、事業展開後に法律違反による罰則金の支払いを命じられる、中止に追い込まれるなどのおそれもあります。

そのようなリスクを回避するためには、事前に専門家に相談してリーガルチェックを受けることが大切です。リーガルチェックの結果、現行の法規制に抵触することが判明した場合は、ルールメイキングに取り組むことで、現行の法規制の改定や規制緩和を実現できる可能性もあります。

今回は、新規事業・サービス開始前のリーガルチェックの役割、新規事業で問題になる可能性のある法規制、新規事業のリーガルチェックに活用できる制度、ルールメイキングが必要なケース、企業主導のルールメイキングに活用できる制度、リーガルチェックやルールメイキングに関する相談先などについて解説します。

【解説動画】TSL代表弁護士、中川が新規事業におけるルールメイキングやリーガルチェックの必要性や活用出来る制度、相談先について解説

新規事業・サービス開始前のリーガルチェックの役割

新規事業・新規サービスを立ち上げる際に行うリーガルチェックとはどのようなもので、なぜ必要なのでしょうか。リーガルチェックの役割、リーガルチェックが不十分な場合のリスクなどについて説明します。

1.リーガルチェックとは

リーガルチェックとは、法律の専門家である弁護士などに、自社の新規事業や新規サービスのビジネスモデルや、その際に利用する契約書などに、法規制上の問題がないか確認してもらうことをいいます。
リーガルチェックを行うことにより、想定される問題点を明らかにし、事前に修正を図ることや、対応策を用意しておくことが可能になるため、余計なトラブルを防ぐことができます

2.リーガルチェックを行わない場合のリスク

リーガルチェックを行わず、新規事業やサービスをスタートさせたものの、実は法規制に抵触していることが判明した場合、以下のようなリスクを負う可能性があります。

  • 行政指導によりサービスを停止・是正せざるを得なくなる
  • 違法な事業を行ったことに対する罰則が科される
  • サービス停止により、利用者とトラブルが発生して損害賠償責任を負う
  • 違法な事業を行ったとして会社の信用が低下する
  • 新規事業に投じた費用を回収できなくなる
  • 対策を講じるために専門家に依頼する費用が余分にかかる

また、事業そのものでなく、契約書に不備があった場合は、相手方から契約の無効を主張される、損害賠償請求をされるなどのリスクを負うおそれがあります。

新規事業で問題になる可能性の高い法規制

実際に、新規事業で問題になることが多い法規制について、事業分野別に説明します。

1.決裁システム事業

昨今、決済システムを利用した新事業が増加しています。例えば、ユーザーが企業から購入したアイテムを、いわゆる“推し”やクリエイターに送り、彼らがそれを資金化するサービスの場合、資金移動業に該当するため、金融庁への登録が必要になります。実際、登録をしていなかったために、サービス開始後に事業停止になったケースもあります。
決済システムを利用した新しい事業やサービスを検討する場合、資金決済法などの関連法規に関する理解が不可欠となるため、企業法務に精通した弁護士によるリーガルチェックを受けることが望ましいでしょう。

2.BtoC事業

会社と個人間の取引をメインにするBtoCの事業では、消費者保護が重視されるため、消費者契約法が特に問題になりやすいです。例えば、損害賠償責任についての免責条項は、企業間取引のようなBtoB取引では有効となる場合がありますが、、BtoC契約では消費者法第8条で無効とされます。
BtoCの新規事業やサービスを開始する際は、事前に企業法務に精通した弁護士に相談して、リスクを洗い出してもらった上で、必要な対策を講じておくことが大切です。

3.ゲーム事業

インターネットゲームの普及により、新たなゲームを提供する企業が増加しています。ただし、バーチャルと現実世界を融合させたゲームを提供する場合、内容によっては風営法上の営業に該当する可能性があるので、事前の調査が必要です。

4.化粧品販売事業

近年、インフルエンサーのマーケティング力を活用して、化粧品を開発・販売するケースが増えていますが、含有成分によっては薬機法(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)上の医薬品に該当することがあり、この場合は都道府県知事の許可が必要になるという点に注意が必要です。許可の要件は販売方法等により異なるため、事前にしっかり調査しましょう。

5.仲介事業

ビジネスや販売の仲介を行う場合、仲介を規制する法令は多くあります。不動産売買や賃貸の場合は宅地建物取引業法、求人の場合は職業安定法、投資情報の提供の場合は金融商品取引法などの法規制があり、必要な登録や届け出が多いので、事前にしっかり調査しましょう。
また、異性と出会うことを目的とした結婚仲介業やマッチングサービスなどの事業を開始する際は、出会い系サイト規制法にも注意が必要です。

6.食品販売事業

2020年から世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス感染拡大による影響を受け、自宅で食事をする頻度が増えたことから、インターネット上で食品を販売する企業も増えています。インターネット上で食品を販売する場合は、食品衛生責任者の資格と食品衛生法に基づく営業許可、都道府県の条例に基づく許可が必要になります。また、扱う商品によって規制が異なるので、事前にしっかり調査を行いましょう。

7.運送事業

自動車を利用した運送事業に関しては、対価の金額や支払い方法、運転手と利用者の関係などによっては、道路運搬法上の許可が必要な旅客自動車運送事業にあたる場合があります。
また、民法、会社法などの法令に加え、個人情報保護法なども問題になる場合もあります。認可が必要な事業で取得を怠ると、法規制を知っていたかどうかに関わらず、罰則の対象となるため注意が必要です。

新規事業のリーガルチェックに活用できる制度

新規事業やサービスのリーガルチェックに活用できる制度をご紹介します。

1.グレーゾーン解消制度

グレーゾーン解消制度は、2014年1月20日に施行された産業競争力強化法により導入された制度です。グレーゾーン解消制度を利用することにより、新事業が法規制に抵触するかどうかの判断が難しい場合に、事業者が作成した事業計画に即して、規制の適用の有無について規制所管省庁に確認できます。ただし、抵触が懸念される法規制について、自ら特定しなければならないので、利用する際は、企業法務に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

2.ノーアクションレター制度

ノーアクションレター制度は、グレーゾーン解消制度の導入前から利用されていた制度で、新規事業に関する具体的な行為が、法令に抵触するかを規制所管省庁に確認する制度です。適法性の確認という点ではグレーゾーン解消制度と共通しますが、確認対象は所管省庁が決めた法令に限定され、規制所管省庁に直接照会する必要があるという点で異なります。

ルールメイキングが必要なケース

新規事業やサービスを開始する際のリーガルチェックと共に、最近、重要視されているのがルールメイキングです。ルールメイキングの概要と必要となるケースについて説明します。

1.ルールメイキングとは

ルールメイキングとは、自社のビジネスを展開するために必要な規制緩和や規制改定に向けた活動のことをいいます。
具体的には、革新的な技術を用いた事業やサービスを展開する際に、既存の法規制に適応させるだけではなく、国に対して、新事業を展開するにあたり障害となる可能性のある従来の規制の改定、あるいは新しいルールの策定を求めるための活動などが挙げられます。自社が展開しようとする事業が現行法に抵触するか不明瞭な場合に、既存の法規制の解釈を明確化するための活動も含まれます。

2.ルールメイキングが必要となるケース

企業が新規事業やサービスを開始する際、既存の法規制に抵触しないかを確認するリーガルチェックの必要性を認識している方は多いと思いますが、ルールメイキングの必要性を認識されている方はまだ少ないかもしれません。しかし、昨今、AIやIoTなどの新しい技術の急速な発展や社会的ニーズの多様化に法規制の改定が追いつかない状況の中、積極的に規制緩和や改定を求めるルールメイキングが必要となるケースは増加しています。
従来の法規制の趣旨や保護法益を理解した上で、時代の変化に合わせた調整を国に対して提案していくという意識を持つことが求められているのです。

企業主導のルールメイキングに活用できる制度

企業主導のルールメイキングに活用できる制度をご紹介します。

1.新事業特例制度

新事業特例制度は、グレーゾーン解消制度と共に、産業競争力強化法により導入された制度です。新事業特例制度を利用することにより、安全性確保等の実証を実施した上で、必要な措置を講じることを条件に、企業単位で特例措置を認めてもらうことが可能です。
グレーゾーン解消制度は適法性の確認を目的としているのに対し、新事業特例制度は特例措置の創設を目的としています。
新事業特例制度は、現行の法規制を元に特例措置を求めるもので、活用するためには現行の法規制の理解が不可欠なので、利用する際は企業法務に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

2.規制のサンドボックス制度

規制のサンドボックス制度は、2018年6月に施行された生産性向上特別措置法に基づき創設された新しい制度です。新しいビジネスモデルや技術を導入する際に現行の法規制が障害となっている場合、サンドボックス制度を利用することにより、事業者が国の認定を受けて実証を行うことが可能です。実証の結果として得られた情報やデータは、今後の規制の見直しに活用されるため、将来的な規制緩和につながる可能性があります。

リーガルチェックやルールメイキングに関する相談先

リーガルチェックやルールメイキングに活用できる制度をご紹介しましたが、制度を利用するためには、現行の法規制の趣旨や保護法益を十分理解した上で、綿密な事業計画を練る必要があります。そのためには、適切な専門家に相談することが大切です。具体的な相談先について説明します。

1.コンサルタント

コンサルタントは、企業の課題を明らかにして解決・助言をする仕事です。最新の経営動向や取り組みに精通しているコンサルタントは多く、最新の経営動向を踏まえたアドバイスを得られる可能性があります。
ただし、コンサルタントには資格が必要なわけではなく、法律の専門家ではないため、法規制を十分理解しているとは限りません。リーガルチェックやルールメイキングに関してコンサルタントに相談する場合は、どの法規制が抵触する可能性があるか確認する必要があるため、弁護士資格を持つコンサルタントや、弁護士が所属しているコンサルタントファームを選ぶことが大切です。

2.金融機関

新規事業を行う際、金融機関から運転資金や設備資金の融資を受ける方は多いと思いますが、金融機関は貸したお金を回収できるよう、事業の将来性や収益性を事前に調査します。そのため、事業の法規制面との関係や、ルールメイキングに関する制度に詳しいケースは多く、会社の財務状況を理解した上でアドバイスを受けられる可能性があります。
ただし、金融機関は、お金の専門家であり法律の専門家ではありません。そのため、リーガルチェックや法規制の確認を任せることはできません。

3.行政書士・司法書士

行政書士・司法書士は法律の専門家です。ただし、それぞれ専門分野が異なり、行政書士は主に公的書類の作成と提出の専門家、司法書士は主に不動産登記の専門家です。全ての法律分野に精通した専門家ではないので、リーガルチェックやルールメイキングに関する法規制の確認を依頼したい場合には、資格上の制限から引き受けてもらえない可能性もあります。

4.弁護士

弁護士は法律の専門家です。行政書士や司法書士と異なり、扱う分野に制限がなく、法律に関する問題であれば、全て担当することができます。弁護士に相談するメリットとして、主に以下の点が挙げられます。

  • 最新の法規制や昨今の裁判例などに精通している
  • 交渉を要するときは代理人として交渉を任せられる
  • リーガルチェックの際に、事業立ち上げ後のリスク(事業拡大に伴う雇用や就業規則の制定、他社との事業協力など)を回避するためのアドバイスも受けられる
  • 弁護士とあらかじめ顧問契約を結んでおけば、個別の相談だけでなく事業全体のトータルサポートが迅速に受けられる
  • 依頼人の事業や状況を包括的に理解した上で法的アドバイスが受けられる

ただし、弁護士であれば誰もよいわけではありません。リーガルチェックやルールメイキングは、法律の分野の中でも高い専門性を要し、また企業の活動、今後の事業展開にも関わる大切な部分です。それだけに、企業法務を扱い、経験のある弁護士・法律事務所に相談することが大切です。

まとめ

今回は、新規事業・サービス開始前のリーガルチェックの役割、新規事業で問題になる可能性のある法規制、新規事業のリーガルチェックに活用できる制度、ルールメイキングが必要なケース、企業主導のルールメイキングに活用できる制度、リーガルチェックやルールメイキングに関する相談先などについて解説しました。

新しい技術を活用した分野の事業やサービスは、多くの法規制が複雑に関連するケースが少なくありません。関連する法規制を網羅して、事業の特性に適した具体的なアドバイスを受けるためには、企業法務に精通した弁護士に相談することが望ましいでしょう。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、各企業の状況や方針に応じたサポートを提供しています。AIやIoTなどの新しい技術を用いた事業やサービス、シャアリングエコノミー関連のビジネスモデル等のリーガルチェックやルールメイキングに関するご相談などにも対応しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社