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更新日: 投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

商標権譲渡契約書のひな型と記載事項|契約前の確認事項と注意点も解説

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ビジネスを展開する際に、商標権を譲り渡す、あるいは譲り受けることを検討する場面もあるかと思います。双方の合意内容が曖昧なまま商標権の譲渡が行われると、譲渡後に商標権を有効活用できない等の思わぬトラブルが生じるおそれがあります。そのようなトラブルを回避するためには、双方の合意内容を明確にした上で、商標権譲渡契約書を作成し、契約を締結することが大切です。

今回は、商標権譲渡契約をする前の確認事項、商標権譲渡の対価、商標権譲渡契約書の記載項目とひな型、商標権譲渡契約書に必要な印紙代、契約時の注意点などについて解説します。

商標権譲渡契約をする前の確認事項

商標権は財産権の一種なので譲渡することが可能です。例えば、ある企業がブランド戦略の選択と集中を行う一環として、第三者に自社の商標の一部を譲渡するようなケースが典型的です。この場合、議論としては、譲渡する側の「事業」を譲渡するケースとは切り離して、商標のみが譲渡の対象とできる点に注意してください(事業譲渡≠商標権譲渡)。

・ 使用権の有無の確認

すでに設定されている商標権を利用したい場合に、商標権譲渡契約を結んで商標権そのものを取得する方法以外に、商標の使用権を設定してもらう方法があります。

これは、海外ブランドが日本の特定業者に独占的に商標の利用を認める場合や、チェーン店のフランチャイズ展開などに利用されることが多く、「ライセンス契約」などと呼ばれることもあります(商標権の使用を許諾する側を「ライセンサー」、商標の使用許諾を受ける側を「ライセンシー」などと呼無ことが多いです。)

使用権には、権利を設定してもらった人だけが商標を利用できる専用使用権と、複数の人が商標を利用できる通常使用権があります。専用使用権は、設定されると、元々の商標権者でさえその商標を利用できなくなる、極めて強力な権利です。

つまり、商標権の譲渡契約前に専用使用権が設定されているケースでは、商標権譲渡契約を締結して商標権を手に入れても専用使用権を設定されているライセンシーよりも立場が劣るため、その商標を利用することができません。また、契約締結前に他社に通常使用権が設定されていた場合は、商標を利用することはできても独占できないので、ビジネス上のメリットが小さくなってしまうおそれがあります。

専用使用権は、特許庁に対して登録が義務付けられており、通常使用権も、登録を義務付けられてまではいませんが、登録が第三者対抗要件になるため、登録されているかどうかが非常に重要であることから、商標権譲渡契約を締結する前に、その商標権に使用権が設定されているかどうかを調べておく必要があります。

専用使用権など登録された商標は、登録されると特許庁の商標登録原簿に記載されるため、商標登録原簿の閲覧を申請して確認することが可能です。商標登録原簿の「乙区」欄に「専用使用権の設定」という記載がある場合は、専用使用権が設定されていることになります。

通常使用権については、商標登録原簿に記載しなくても効力が発生するため、商標登録原簿を閲覧しても確認できない場合があります。そのため、商標権の譲渡契約を締結する際には、商標権者に通常使用権が設定されていないことを確認し、契約書に「使用権を設定していない」旨を盛り込み、通常使用権がほかに設定されていないことを確認しておくことが大切です。

商標権譲渡の対価

商標権を譲渡する際は、有償でも無償でも問題ありません。また、商標権を有償で譲渡する場合、価格の相場に関する法律の規定やルールはありません。価格は、その商標を譲り受けたい会社のニーズや、市場の全体のニーズなどによっても変わります。
具体的には、以下のような算定方法で価格を決定することになります。

  • コストアプローチ:商標の更新費用などに基づいて計算する方法
  • マーケットアプロ―チ:類似の商標権譲渡のケースを参考に市場価格から計算する方法
  • インカムアプローチ:商標権を譲り受けたことで今後得られると予想される利益から計算する方法

価格を決定する際は、商標が持つブランド力や市場でのマーケットの大きさ等も考慮されます。
過去に行われた高額の商標権譲渡の事例としては、住友ゴムが『ダンロップ』ブランドの商標権を約161億円で買い取ったケース、味の素がコーヒーブランド『ブレンディ』や『マキシム』等の商標権を約259億円で買い取ったケースなどがあります。

商標権譲渡契約書の記載項目とひな型

商標権譲渡の契約書に規定すべき主な項目について説明します。

1.商標権譲渡契約書の記載項目

商標権の移転後にトラブルが発生することを防ぐためには、以下の点を明確にした上で、契約書に漏れなく記載することが重要です。

  • 商標権の表示:譲渡する商標権の対象となる商標を明示します。
  • 商標登録番号:商標権を識別する商標登録番号は、譲渡の際に必須の項目です。
  • 商品の区分:商標権の一部譲渡(複数の商標が対象になる場合に範囲を指定して譲渡する方法)の場合、対象を明示します。
  • 指定商品・指定役務:上記と同様に、一つの商標権のうち一部の商品や役務だけ譲渡する場合は対象の内容を記載します。
  • 対価・支払方法:当事者同士の契約内容として、対価や支払方法を記載します。
  • 権利移転手続・費用分担:商標権の移転手続を誰が行うか、費用分担も記載します。

2.商標権譲渡契約書のひな型

商標権譲渡契約書には、法律等により定められたフォーマットはありません。記載すべき内容は権利の内容によっても異なりますが、参考までに簡易なひな型をご紹介しますので、参考にしていただければと思います。

商標権譲渡契約書

A社(以下「甲」という。)とB社(以下「乙」という。)は、「●●」の商標権譲渡につき、以下のとおり、契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(商標権譲渡)
甲は、乙に対し、下記の商標権(以下「本商標権」という。)を譲渡する。
1.商標登録 第×××号
2.商品の区分 第×類
3.指定商品・指定役務 ●●(第○類)
第2条(対価)
乙は、甲に対し、本契約における商標権譲渡の対価として令和●●年●●月●●日限り、金●●万円(消費税別)を支払う。
第3条(移転登録の手続)
甲は、前条で定める対価の受取と引き換えに、本商標権の移転登録および名義変更のために必要な書類を収集し、これらを乙に対して直ちに交付する。
第4条(保証)
1.甲は、乙に対し、甲が本商標権について必要な権限を適法かつ有効に有していることを保証する。
2.甲は、乙に対し、本商標権にかかる使用権を第三者に許諾していないことを保証する。
3.甲は、乙に対し、本商標権が第三者の知的財産権を侵害していないことを保証する。
4.甲は、乙に対し、前記1ないし3項の保証違反に起因または関連して乙に損害が生じた場合には、かかる損害を賠償する。
第5条(解除)
乙が第2条で定める対価を同条で定めた期日までに支払わず、かつ、甲が相当の期間を定めて催告をしたにもかかわらず、なお対価の支払いがされないときは、甲は、本契約を解除できる。
2.前項のほか、相手方が本契約の各条項に違反した場合、本契約を解除できる。
第6条(裁判管轄)
甲および乙は、本契約について紛争が発生した場合、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所にすることを合意する。
第7条(協議事項)
本契約で規定していない事項や、規定事項に関する解釈で疑義が発生したものについては、その都度協議を行って解決するものとする。

本契約の成立を証するため、本書2通を作成し1通ずつ保有するものとする。

令和●●年●●月●●日
甲 株式会社××××
代表取締役××××
住所××××乙 株式会社▲▲▲▲
代表取締役▲▲▲▲
住所▲▲▲▲

商標権譲渡契約書に必要な印紙代

商標権譲渡契約書には収入印紙を貼る必要があります。印紙代(印紙税額)は、契約書に記載された契約金額に対応して、以下の金額がかかります。

契約金額1万円未満 印紙税非課税
同1万円以上10万円以下 200円
同10万円を超え50万円以下 400円
同50万円を超え100万円以下 1,000円
同100万円を超え500万円以下 2,000円
同500万円を超え1,000万円以下 1万円
同1,000万円を超え5,000万円以下 2万円
同5,000万円を超え1億円以下 6万円
同1億円を超え5億円以下 10万円
同5億円を超え10億円以下 20万円
同10億円を超え50億円以下 40万円
同50億円を超える場合 60万円
契約金額の記載のないもの 200円

(特許庁ホームページ(https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/iten/inshizei_bassui.html)からの引用)

商標権譲渡契約時の注意点

商標権譲渡契約を結ぶ際、権利を譲り渡す側と譲り受ける側でそれぞれ注意すべき点があります。それぞれの注意点について説明します。

1.商標権を譲渡する側の注意点

商標権を譲渡した場合、特に以下の3点について譲受会社と合意できているか、その内容を契約書に盛り込んでいるか確認しましょう。

① 譲渡対象となる商標と類似関係にある商標を保有していないか

商標権を譲り渡す側に、譲渡対象となる商標と類似する商標が存在しているようなケースでは、商標権を譲渡した後に、自社に残った類似商標について使用が阻害されるおそれがあります。そのため、残存した商標の使用が続けられるようあらかじめ契約条項に入れておいた方が良いでしょう

② 対価・支払い方法・支払い期限・権利移転について

商標権は、通常、対価の支払いと引き換えに譲渡されます。しかし、不誠実な相手の場合、対価をいつまでも払わないケースや、対価を払っても商標権を移転しないケースもあります。そのようなトラブルを防止するために、いつまでにどのような方法で対価を支払い、権利の譲渡はいつ行うか、どのような条件で解除ができるかという点を契約書に明記しておきましょう。

③ 第三者への再譲渡・使用許諾について

商標権の譲渡契約後、譲受会社が第三者に商標権を再譲渡する、あるいは使用許諾を行う場合もあります。商標権が移転した以上は関与できないようにも思えますが、むやみに認めると、譲渡会社のイメージを低下させるリスクがあります。そのような事態を防ぐには、「第三者への権利移転に関する条項」として、再譲渡や第三者への使用許諾を禁止する旨を記載しておきましょう。

2.商標権を譲り受ける側の注意点

一方、譲り受ける場合は、特に以下の3点が合意できているか、契約書に記載があるか確認しましょう。

① 商標権の有効性について

商標権を譲り受ける場合、特許庁で「商標登録原簿」を閲覧して、譲り受けようとしている商標権が有効かどうか確認しましょう。

② 商標権に担保権が設定されておらず、第三者の権利を侵害していないことの保証

譲り受けた商標権が、他の権利に抵触している場合、せっかく商標権を取得しても利用できない恐れがありますので、前述のとおり、契約書に、譲渡会社が、他の権利との抵触がないことを保証する旨の記載を設け、合意段階でも十分に確認しておくとともに、これに伴う損害について損害賠償責任の内容を明示しておくことが重要です。

③ 商標権移転のための書類対応の義務について

商標権の移転が有効と言えるためには、契約で譲渡してもらった上、特許庁での移転登録が必要です。そのためには、いくつもの書類が必要ですが、譲渡会社の協力が非常に重要であるため、商標権の移転を迅速に進めるためにも、契約において、譲渡側に移転登録に必要な書類対応を義務付ける条項を設け、きちんと履行してもらえるようにしましょう。

商標権譲渡契約後に行う手続

通常、権利の移転は、当事者間の合意(権利によっては書面の作成)だけで成立します。しかし、商標権の場合は、当事者同士の合意だけでは商標権は移転の効力が生じず、特許庁に書類提出して移転登録手続をすることで商標権の移転が有効になります(商標法第35条、特許法第98条1号)。

手続としては、特許庁に「商標権移転登録申請書」を提出します。商標権の移転の場合、一区分につき収入印紙30,000円が必要です。商標権移転登録申請書を提出する際、「譲渡証書」という、譲受人、譲渡人、対象となる商標登録番号などを記載した書面も提出します。商標権登録番号が違うなどの不備があると、申請が却下されるので、十分確認して作成しましょう。

これらの手続には、通常1~2か月程度かかります。権利の内容によっては長期間かかることもあるので、急いで権利移転をしたい場合は逆算して手続を進めましょう。

商標権譲渡契約に強い弁護士の探し方と費用の目安

商標権譲渡契約を締結する際は、前述した通り、譲渡する権利の対象範囲をはじめ、検討すべき内容や精査すべき点が非常に多くあります。また、合意内容が曖昧な場合は、契約後に商標権を有効に活用できない可能性や、特許庁への申請が却下される可能性があります。

このような事態を防ぐには、商標権譲渡契約に強い弁護士に相談し、アドバイスや契約書のリーガルチェックを受けることをおすすめします。しかし、商標権譲渡契約は専門的な分野であるだけに、弁護士であれば誰でも対応できるというわけではありません。弁護士に相談する場合は、以下の点を確認しましょう。

  • 企業法務を扱っている弁護士/法律事務所であるか
  • 商標権や特許権等を扱った経験があるか
  • 商標権が侵害された場合にも対応してもらえるか
  • 費用の見積りが明確か

実際に弁護士にリーガルチェックなどの対応を依頼した場合の費用の目安としては、着手金10~50万円、報酬金が商標権の譲渡金額の10~30%程度が相場です。顧問契約を結んでいる場合は、別途考慮してもらえることも多いです。商標権は、権利の内容や市場情勢などによって、金額が大きく変わるため、弁護士費用もかなり幅があります。

初回の相談時に、実際にリーガルチェックや契約対応を依頼した場合の費用の見積もりを依頼し、内容が明確で納得できるか確認しましょう。

まとめ

今回は、商標権譲渡契約をする前の確認事項、商標権譲渡の対価、商標権譲渡契約書の記載項目とひな型、商標権譲渡契約書に必要な印紙代、契約時の注意点などについて解説しました。

商標権は、会社がビジネスを行う上で非常に重要な権利です。それだけに、権利の内容によっては、契約時に大きな金額が動きます。将来発生する可能性のあるリスクを回避し、商標権譲渡契約をスムーズに進めるためには、商標権の譲渡を検討する段階から、弁護士に相談することをおすすめします。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、お客様の会社の状況に合った商標権譲渡契約に関するご相談に対応しております。また、商標権譲渡契約の契約書の作成から、契約交渉の代行、その後の特許手続、万が一権利侵害が問題になった場合の対応など、全面的なサポートが可能です。商標権譲渡契約をはじめとする相談等がございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社