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人件費削減目的のリストラが不当解雇とみなされないための条件は?

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新型コロナウイルス感染拡大による影響を受けて、業績が悪化したために人件費削減を目的としたリストラを検討する企業が増えています。リストラは効果的な人件費削減策ですが、事前の検討が不十分なままリストラを断行すると、不当解雇とみなされる場合もあるため、注意が必要です。

今回は、リストラの典型例とメリット・デメリット、整理解雇が認められるための要件、退職勧奨の違法性の判断基準などについて解説します。

【解説動画】TSL代表弁護士、中川がリストラが不当解雇とみなされないための条件を解説

リストラとは

「ある企業がリストラを断行した」など、日本の報道で多用される「リストラ」という言葉は、不採算部門の縮小等に伴う人員整理を意味している場合が大半です。そのため、「リストラ=解雇」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。
リストラ(リストラクチャリング)の本来の意味は、経営体制の構造を合理的・効率的に再構築することです。つまり、人員整理を伴わないリストラもあり得るのです。ただし、業績が悪化した際に実施されるリストラでは、人員整理を伴うケースが圧倒的に多いです。

リストラの典型例とメリット・デメリット

リストラの典型例とそれぞれのメリット・デメリットについて説明します。

1.整理解雇

労働法上の解雇は、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類に大別されますが、解雇を伴うリストラで行われるのは整理解雇です。

従業員の能力低下等を理由とする普通解雇、重大な就業規則違反等を理由とする懲戒解雇とは異なり、整理解雇の対象となる従業員には一切非がありません。そのため、整理解雇が認められるためには一定の条件を満たす必要があり、条件を満たさない場合、解雇は無効とみなされます。
整理解雇には以下のようなメリットとデメリットがあります。

  • メリット:人件費削減の効果が大きく、従業員の意思決定を必要とする退職勧奨等と比較して、スピーディーに進めることが可能
  • デメリット:法的紛争に発展した場合、解雇が無効と判断され、多額の損害賠償金等の支払いを求められるなどのリスクがある

2.退職勧奨

従業員に対して自発的な退職を促すことを退職勧奨と言います。会社側の一方的な意思表示に基づく解雇とは違い、従業員の同意を得ることが前提となるため、適切な手続を踏むことにより円満退職を実現することも可能です。

退職勧奨には以下のようなメリットとデメリットがあります。

  • メリット:解雇と比較すると法的リスクが低い
  • デメリット:従業員が退職勧奨に応じない場合、原則として退職させることはできない

実際の退職勧奨の面談では、退職勧奨になかなか応じようとしない従業員に対して、会社側が「退職しない場合は営業部に異動してもらう」などと本人が希望しない部署への異動をほのめかす発言をすることも珍しくはないようです。しかし、このような発言により従業員を心理的に追い詰めて「退職するしかない」と思わせた場合、強制的に退職を強いる退職強要と評価され、退職の合意自体が無効と判断される可能性もあります。そのため、退職勧奨の面談では不適切な発言をしないよう十分注意をする必要があります。

3.出向・転籍

出向とは、会社からの業務命令などにより従業員を他の会社で就労させることをいいます。出向には以下の2つの種類があります。

  • 在籍出向:企業が従業員との雇用関係を維持したまま他の会社で就労させる形式の出向
  • 転籍出向(移籍出向):企業が従業員との雇用関係を終了し、出向先の会社との間で新たに雇用契約を締結させる形式の出向

一般的に出向というと、大手企業が子会社やグループ会社などに在籍出向させることをイメージされる方が多いかと思いますが、最近は新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した企業が、人手不足の企業に対して社員を出向させるケースが増えているようです。

出向には以下のようなメリットとデメリットがあります。

  • メリット:整理解雇や退職勧奨とは異なり、従業員の雇用を維持しながら人件費の抑制を図ることが可能
  • デメリット:優秀な人材が流出するリスクがある

給与の支払いは出向元と出向先の企業が折半することも多く、出向先の企業にとっても、人件費を節約しながら、優れたスキルや豊富な経験を持つ人材を活用できるというメリットがあります。また、従業員にとっても、給与が保証されるというメリットがあります。
ただし、航空業界や観光業界など、新型コロナウイルス感染拡大の影響が長期化している業界では、将来に不安を感じて、出向を機に他の業種への転職を検討する方も増えるのではないかという指摘もあります。

4.配置転換

配置転換は、勤務地や担当部署などを変更する社内の人事異動のことです。事業の再構築に伴い、整理解雇を行わずに不採算部門を縮小・撤退する場合は、不採算部門に所属する従業員を他の部門に異動させることになります。また、会社全体の業績向上を目的として、人事部、総務部、経理部等の間接部門(非収益部門)の余剰人員を営業や販売等の会社の売上に直結する直接部門(収益部門)に異動させることもあります。

配置転換には以下のようなメリットとデメリットがあります。

  • メリット:従業員の雇用を維持しながら、会社全体の収益向上を図ることが可能
  • デメリット:対象となる従業員のモチベーション低下等が懸念される

全員の希望通りに配置転換を実現することは多くの場合、ほぼ不可能です。経理部門から営業部への異動など、本人の適性や希望に反した配置転換を行うと、大きなストレスを与えてしまう可能性もあります。

整理解雇が認められるための要件

リストラの典型例の中でも、特に厳格な要件を満たす必要があるのが整理解雇です。整理解雇が認められるための要件について説明します。

1.人員削減の必要性

整理解雇が認められるためには、人員削減の必要性が前提となります。必ずしも会社の存続に関わる危機が迫っている状況までは必要ないものの、単なる生産性向上や利潤追求のためというだけでは足りず、客観的に高度の経営上の困難が必要とされます(大阪地方裁判所平成7年10月20日判決など)。

財務状況の把握が不正確であった、整理解雇の実施後に多数の新規採用を行ったなど、人員削減の必要性に疑いを抱かせる事情がある場合、高度の経営上の困難があるとは認められず、不当解雇であると判断される可能性があります。

2.解雇回避措置の相当性

事業の立て直しをする場合でも、必ずしも解雇が必要ではなく、経費削減、役員報酬の減額、残業抑制、新規採用の停止等の方法をとることや、退職勧奨や転籍など整理解雇以外の方法でも人員整理を実現することは可能です。そのため、整理解雇を行う前に解雇を回避するために努力を尽くすことが求められます。人員整理が必要な状況でも、整理解雇が本当に必要不可欠か、整理解雇以外の手段で人員整理を実現できないか、十分に検討する必要があります。熟慮を経ないまま整理解雇に踏み切った場合、解雇権の濫用とみなされる可能性があります(東京地方裁判所平成24年2月29日判決など)。

3.解雇される人員選定の妥当性

整理解雇の対象者を選定する際は、勤務成績や勤続年数、企業貢献度などの客観的かつ合理的な基準に基づく必要があります。客観的な選定基準を設けずに整理解雇をした場合、人選が恣意的であると認められた場合には、不当解雇とされる可能性があります。

4.手続の妥当性

整理解雇の実施前には、解雇の必要性や時期等について従業員が理解できるよう、十分に説明する必要があります。説明が不十分なまま整理解雇を実施した場合、不当解雇と判断される可能性があります。

整理解雇の前段階として行われる希望退職者募集

整理解雇に踏み切る前段階として、希望退職者の募集を実施する企業も多いです。希望退職者の募集は、会社側が退職金の割増等の優遇退職条件を提示し、期間限定で退職希望者を募ることをいいます。前述したとおり、整理解雇が認められるためには事前に解雇を回避するために努力を尽くす必要がありますが、希望退職者の募集はその努力の一つとして認められています。

希望退職者の募集には、法的リスクを回避しながら短期間に大幅な人件費削減を実現できるというメリットがありますが、優秀な人材が流出するリスクが伴うという大きなデメリットもあります。応募条件を設けずに希望退職者を募集すると、会社が辞めてほしくない優秀な従業員が率先して応募する可能性があるため、年齢や勤続年数等に一定の条件を設けて募集するケースが多いようです。

退職勧奨の違法性の判断基準

希望退職の募集期間が満了しても応募者が想定していた人数に達しない場合、特定の従業員をターゲットとした退職勧奨が行われることがあります。退職勧奨自体は違法行為ではありませんが、実際の裁判では、違法な退職強要と判断されるケースが後を絶ちません。リーディングケースとなった裁判例(最高裁判所昭和55年7月10日判決)では、退職勧奨される者の任意の意思形成を妨げたり、名誉感情を害したりした場合、違法な退職勧奨として不法行為を構成する場合があることが示されました。

この考え方は、他の裁判例(東京地方裁判所平成23年12月28日判決など)でも概ね踏襲されています。一連の判例から導き出された基準と具体例について説明します。

1.社会通念上相当とされる限度を超える方法で行われた場合

社会通念上相当とされる限度を超える方法により退職勧奨が行われた場合は、退職を強要したとみなされ、違法と判断される可能性があります。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 長期間に渡り、何度も退職勧奨を続ける(短期間でも多数回または長時間に及ぶ場合は同様)。
  • 従業員が明確に拒否しているにもかかわらず、その後も執拗に退職勧奨を行う。
  • 個室など他人の目が届かない場所に呼び出して、人事担当者や上司数名が取り囲みながら高圧的な態度で退職を促し、正常な判断ができないようにする。

2.心理的圧迫を加えた場合

退職勧奨の面談の際に、対象者に対して大声で罵倒する、名誉感情を不当に害する言動を用いるなど心理的圧迫を加えた場合も違法な退職強要と判断される可能性があります。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 同僚の前で「無能だ」「会社にいる価値がない」などと罵倒する。
  • 退職勧奨に応じない者に対して、誰もが嫌がるような負担の大きい肉体労働や草むしり等の雑務を命じる。

3.多大な不利益を被るのではないかと錯覚させた場合

退職勧奨に応じないと多大な不利益を被るのではないかと錯覚させた場合も違法な退職強要と判断される可能性があります。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 「退職勧奨に応じないと減給する」とほのめかす。
  • 退職勧奨に応じないために昇進が困難になった前例について説明する。
  • 懲戒事由を捏造し、自主的に退職しなければ懲戒処分を下すと脅す。

退職勧奨の面談では、従業員に退職に応じてもらうために威圧的な態度を取るケースも多いようですが、従業員が退職後に会社を訴える等のトラブルに発展した場合、退職勧奨が違法と判断される可能性があるため注意が必要です。
面談で不適切な発言をしないよう、事前に伝えるべき内容をメモに整理しておき、冷静な態度で簡潔に伝えることが大切です。また、従業員が退職勧奨に応じた際は、合意に達したことを事後的に証明できるよう退職勧奨同意書の提出を求めることをおすすめします。
退職勧奨の際に交付する退職勧奨通知書と退職勧奨同意書の記載内容等についてはこちらの記事にまとめましたので、参考にしていただければと思います。

まとめ

今回は、リストラの典型例とメリット・デメリット、整理解雇が認められるための要件、退職勧奨の違法性の判断基準などについて解説しました。

固定費の中でも大きなウエイトを占める人件費の削減は収益性の向上に大きな効果を発揮しますが、リストラの対象となった従業員が退職後に訴訟を起こす等のトラブルに発展するリスクがあるため、慎重な検討が求められます。

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執筆者 -TSL -
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