著作権譲渡契約の必要性と契約書に記載すべき内容を解説
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記事目次
著作権譲渡契約は、商品のプロモーションに使用するキャラクターデザイン、イラスト、ロゴ、テーマソングなどの楽曲等の制作を外部のデザイナーに依頼する際などに締結することがある契約です。ビジネスの場では頻繁に締結されていますが、契約書の内容に不備があったために後々権利関係を巡るトラブルに発展するケースが多い契約の一つです。
イラストや楽曲などの制作を発注する際に著作権譲渡契約を締結することになったけど契約書にどのような内容を記載すればよいのかわからない、そもそも著作権譲渡とはどのようなことを意味するのか理解できていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで今回は、著作権譲渡の定義、著作権譲渡契約の必要性、著作権譲渡契約書に記載すべき内容や注意事項などについて解説します。
著作権譲渡とは
著作権譲渡契約について解説する前に、まずは著作権譲渡の定義や特徴について簡単に説明します。
1.著作権は譲渡が可能
著作権は以下の2つの権利から構成されています。
- 著作者人格権:著作物を創作した者の人格的利益
- (狭義の)著作権:著作物から経済的な利益を得る財産権
2つの権利のうち、著作者人格権は創作者自身の人格や名誉を保護する一身専属権なので、他人に譲渡したり放棄したりすることはできません。一方、狭義の著作権については、著作者の判断により自由に他人に譲渡することが可能です(著作権法第60条1項)。
2.一部の支分権のみの譲渡も可能
著作権は複製権、公衆送信権、上演権、演奏権、上映権、展示権、二次的著作物の利用権など利用方法ごとに細分化されていて、各権利のことを支分権といいます。
全ての支分権を譲渡することも可能ですが、必要な支分権のみを譲渡することも可能です。
また、著作権を譲渡する際は、有効期限を設けて期間を限定したり、特定の地域を指定してその地域のみでの利用に限定したりすることもできます。
著作権譲渡契約の必要性
ビジネスの場で頻繁に締結される著作権譲渡契約ですが、契約を締結する趣旨がいま一つ理解できていない、そもそも本当に必要な契約なのかわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ここでは、著作権譲渡契約の必要性や締結しないことによるリスクについて説明します。
自らが著作者でない著作物について、複製や改変等を行うためには、原則として著作権者の承諾を得る必要があります。著作権自体は著作者が有したまま、著作物の利用について著作者から許諾を受けるということは広く行われており、このような利用許諾は一般的な方法と言えます。
著作権譲渡契約は、上記のような利用許諾とは異なり、著作権自体が著作者から契約の相手方に移転しますので、著作者は著作権者ではなくなるという点に大きな違いがあります。
著作物の利用については利用許諾契約のみで足りるという場合も多くありますが、権利自体について譲渡を受けた方がより安定的に著作物を利用できます。
著作権譲渡契約書に記載すべき内容と注意点
著作権譲渡契約を締結する際、インターネット上で検索して見つけた雛形を流用している方もいらっしゃるようですが、これらの雛形は必要な内容が漏れている場合もあるので注意が必要です。
著作権譲渡契約書に記載すべき内容や注意点について解説します。
1.第27条と第28条に要注意
著作権譲渡契約書を作成する際に重要なポイントの一つとして、著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)と第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に関する記載があります。
同法第61条2項には
著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。
と定められています。
特掲というのは特別に定められていることを意味し、その要件を満たすためには「全ての著作権を譲渡する」という記載では不十分で、著作権法27条及び28条の権利も譲渡対象に含むことを契約書に明記しなければいけないとされています。
第61条第2項の規定については、著作権法に関する知識がないと契約締結時に見落とされてしまいがちなため、廃止すべきだという声も上がっていますが、2019年12月現在、廃止の予定はありません。
2.著作者人格権の行使に関する条項
将来的に、納品されたイラストや画像、動画などの一部を修正する可能性がある場合、「著作者は著作者人格権を行使しない」という趣旨の規定を必ず含めましょう。
著作者人格権には、公表権(著作権法第18条1項)、氏名表示権(同法第19条1項)、同一性保持権(同法第20条1項)の3つの権利がありますが、トラブルに発展することが多いのが同一性保持権に関する問題です。同一性保持権は文字通り著作物の同一性を保持する著作者の権利で、著作者の意に反して著作物が改変されると同一性保持権の侵害となります。そのため、イラストなどを加工したり、色を修正したりするなどの改変を加える際は基本的には著作者の承諾が必要です。著作者が同一性保持権を行使できる状態ですと、実務上は非常に不便です。
例えば、販促物の用途に合わせてキャラクターの表情やイラストの色を少し変えたいという場合でも、その都度、著作者の許可をもらう必要があります。また、著作者が一度は改変に承諾したものの、改変後に「自分がイメージしていた改変と違うので元に戻してほしい」と言い始める可能性もあります。既に改変したデザインで大量の販促物を制作していた場合、その費用が全て無駄になってしまいます。そのようなリスクを避けるためにも、著作者は著作者人格権を行使しないという規定を定めることは大切です。
3.損害賠償責任に関する条項も必要
著作権譲渡契約後に発生する可能性のある損害に関する損害賠償責任の条項も重要な項目の一つです。万一、納品物が他人の著作物の盗作だったなど第三者の著作権を侵害していたことが発覚して著作権侵害で訴訟を起こされた場合に損害賠償を請求することができるよう明確に規定しておきましょう。
著作権侵害で訴えられた場合、著作物を使用できなくなる可能性が高く、著作物を使用した制作物なども使用できなくなるというリスクがありますが、損害賠償の規定を盛り込むことにより、権利の譲渡人に損害賠償を請求できるため、自社が被る損害を最小限に抑えることができます。
著作権譲渡に関する裁判例
著作権譲渡に関する裁判例として、メディアなどにも取り上げられ話題になった滋賀県岸根市のキャラクター・ひこにゃんの著作権を巡る紛争について解説します。
1.ひこにゃんの著作権を巡る裁判
ゆるキャラの火付け役とも言われ、全国で大人気の滋賀県彦根市のキャラクター・ひこにゃんの著作権を巡る裁判は、著作権譲渡契約を締結していたにも関わらず著作権を巡り長期間に渡って争われた事例として知られています。
ひこにゃんは彦根城の400年祭記念事業のキャラクターを公募した際に選ばれた猫のキャラクターです。記念事業の実行委員会は、ひこにゃんのイラストを制作した著作者から著作権を譲り受けました。著作者が制作したのはひこにゃんが正面を向いた3パターンのイラストのみでしたが、実行委員会が無償での商品化を許可したことにより、ポーズや表情が原作と異なっていたり、ぬいぐるみとして立体化されていたりする商品が数多く市場に出回りました。
キャラクターグッズの販売により知名度が一気に上がり、全国レベルでひこにゃん人気が高まる中、2007年11月、著作者である男性は同一性保持権(著作者人格権)の侵害を主張し、彦根市に対して民事調停を申し立てました。その後、5年以上に渡る長い紛争を経て、和解が成立しています。
2.著作権譲渡契約の不備が原因
彦根市はひこにゃんのブランドイメージを守るために商標登録まで行っていたのに、なぜこのような紛争が起きてしまったのでしょうか。その原因の一つとして、彦根市がひこにゃんの著作権を譲り受ける際に著作者と締結した著作権譲渡契約の不備があります。
彦根市と著作者が締結した著作権譲渡契約書には、著作者は著作者人格権を行使しないという規定がありませんでした。そのため、著作者は、自分が制作したイラストとは異なるポーズや表情のひこにゃんグッズの制作に対して、著作者人格権の一つである同一性保持権の侵害を主張することができたのです。
また、この契約書には、第27条(翻訳権、翻案権等)と第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に関する記載もありませんでした。ひこにゃんのイラストをアレンジしたキャラクターグッスの中には二次的著作物に該当する商品も多く、二次的著作物の利用権も問題となりました。
ひこにゃんの著作権を巡る紛争は、著作権譲渡契約書における条項の内容の重要さに関する教訓となる事件だといえるのではないでしょうか。
著作権譲渡に関するよくある質問と回答
著作権譲渡に関するよくある質問と回答をご紹介します。
1.収入印紙は必要か
著作権は無体財産権(知的財産権)の一つです。著作権譲渡契約書は、印紙税法別表第一(第1号文書)の無体財産権の譲渡に関する契約書に該当し、譲渡金額に応じた印紙税が課税されますので、課税金額の収入印紙を貼る必要があります。
契約金額に関する記載がない場合の印紙税は、一律200円です。
2.有効期間は定めるべきか
著作物を利用する期間が予めある程度わかっている場合は、期間を定めておくとよいでしょう。例えば、コンテストなどの応募作品の著作権の場合、展示や広報活動に使用するために期限を限定した著作権譲渡契約を締結することが多いです。
契約期間を定めないと契約の終了時期を巡るトラブルに発展する可能性もあるため注意が必要です。
3.登録は必要か
著作権を登録すると、将来、著作権が二重譲渡されて、同じ著作物の著作権を主張する第三者が現れた場合に対抗することが可能です。
二重譲渡が懸念されるような場合や、譲渡を受けた著作権のビジネス上の重要度が高い場合には登録制度の利用も検討する必要があるかと思います。著作権登録の詳細については文末に記載している文化庁のウェブサイトをご確認ください。
まとめ
今回は、著作権譲渡の定義、著作権譲渡契約の必要性、著作権譲渡契約書に記載すべき内容や注意事項などについて解説しました。
著作権譲渡契約書を締結する際は、将来起こり得るリスクを想定し、そのリスクを回避するための規定を契約書に盛り込むことが大切です。
そのためには著作権法などの法律の専門知識も必要となりますので、社内の判断では不十分だと思われた場合は著作権法に精通した法律の専門家のリーガルチェックを受けることをおすすめします。
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設