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更新日: 投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

模倣品被害の実情とは・中小企業のための模倣品対策を解説

模倣品被害の実情とは・中小企業のための模倣品対策を解説
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経済のグローバル化に伴い、日本企業が生産した商品を海外に輸出する企業、海外の工場で生産した商品を直接海外の市場に流通させる企業が増えています。その裏では、既存の商品のデザインや技術を真似た違法な模倣品の被害が拡大しています。正規品と比べて性能や安全性に劣り、より安価で市場に流通することが多い模倣品は、自社のブランドイメージを毀損させ、消費者の安全を脅かす恐れがあります。

今回は、模倣品被害の現状、模倣品対策の必要性、模倣品による被害を防ぐために企業が取り組むべきポイント、自社の模倣品を発見した場合の対処法について解説します。

模倣品とは

模倣品とは、既に市場に流通している他社の商品の商標、デザイン、機能、技術などを模倣した商品のことです。「海賊版」「偽造品」「偽ブランド商品」などと呼ばれることもあります。模倣品は、権利者の同意を得た上で製造されるレプリカとは異なり、元の商品の権利者が有する特許権、実用新案権、意匠権、商標権等の知的財産権を侵害する違法な商品です。日本では模倣品を製造・流通させると刑事罰、差止請求、損害賠償請求の対象となるほか、関税法により輸入が禁じられています。

模倣品被害の現状

特許庁は2019年度に模倣品被害の実態に関する調査結果をまとめた「模倣被害実態調査報告書」を公表しています。この調査結果によると、日本で特許権、実用新案権、意匠権、商標権を保有する調査対象企業のうち、2018年度中に模倣被害を受けた企業の数は13,758法人で、全体の7.0%となっています。模倣品の製造国および販売国は中国と回答した企業が圧倒的に多く、中国における対策の必要性が浮き彫りになっています

また、調査対象企業のうち模倣品対策を実施している企業の数は約38,000法人、インターネット上での模倣品対策をしている企業の数が約6,600法人で、残りの158,846もの法人が模倣被害対策をしていないと回答しています。

近年、海外から直接消費者に販売することが可能なインターネット上の販売サイトやオークションサイトにおいて模倣品が多く流通し、被害が増加しています。特許庁の政府模倣品・海賊版対策総合窓口には、2015年度に575件の情報提供と334件の相談があり、そのうちインターネットに関するものは情報提供が457件、相談が175件で全体の70%を占めました。

また、インターネットオークションを通じて海外から購入された模倣品が国内で再販売されるケースも増えています。海外における模倣品の製造・販売の手口はより巧妙化しており、対策が困難になる要因となっています。例えば、中国でノーブランドの模倣品を製造し、知的財産権の保護水準が低い別の国で模倣ラベルを貼って販売するという国際的な分業体制による手口も確認されています。

模倣品が企業にもたらす脅威

模倣品は企業に対してどのような脅威をもたらすのでしょうか。模倣品が企業にもたらす脅威について説明します。

1.売上の低下とブランドイメージの毀損

模倣品は正規品よりも安価で市場に出回ることが多いため、正規品と誤認されて正規品の売上に大きな悪影響を及ぼします。また、品質の面で正規品に劣ることが多い模倣品が市場に出回ることで、商品や企業のブランドイメージは著しく毀損されます。
模倣品の中には、商品名やデザインまで精緻にコピーすることにより、正規品との違いを外観で見分けることが困難な商品も存在します。このような商品を「デッドコピー品」といいます。デッドコピー品は正規品と誤認されるリスクが大きく、企業にもたらすダメージはより甚大になります。

2.消費者に危険が及ぶ可能性も

模倣品は消費者に対して重大な危険を及ぼすこともあります。模倣品は最終製品だけでなく部品にも及んでおり、ブレーキが効かなくなる恐れのあるブレーキパッド、発熱や加熱のおそれのある充電器などが流通することもあります。そのような場合は、消費者の生命や身体に危険が及ぶ可能性もあるのです。

模倣品による被害を防ぐために企業が取り組むべきこと

模倣品による被害を受けないためには、具体的にどのような対策を講じればよいのでしょうか。企業が取り組むべき対策について説明します。

1.展示会に出品する際の注意点

海外での展示会は自社の新商品を現地の企業にアピールできる貴重な機会ですが、海外の展示会がきっかけで、デザインや技術などが流出して模倣品が出回る場合もあるため注意が必要です。デザインや技術等の情報を盗むことを目的とする来場者に自社の利益を不当に害されないよう、海外展示会に出品する際には十分に準備し、対策を講じることが大切です。
技術やデザインの盗用を狙う来場者は、展示会場で写真を撮影する、サンプルを入手する等の行為により情報を盗み、模倣品の製造を試みます。そのような行為による被害を回避するためには、以下のような対策を講じるとよいでしょう。

  • 写真撮影を禁止する
  • 情報が流出する恐れのある商品についてはサンプルの配布を控える
  • 怪しい挙動をする来場者がいないか監視する

また、展示会に商品を出品する前に現地で特許権、実用新案権、意匠権、商標権等の権利出願を行っておくことも有効な対策の一つです。権利出願は国ごとに行う必要があるため、日本でこれらの権利出願を済ませていたとしても、現地での出願を怠れば模倣品の被害を防ぐための対策として十分ではありません。事前に現地の知的財産法に精通した専門家に委託するなどの方法で出願を行っておくことが必要となります。
技術やデザインが多くの人に知られてしまい、新規性が失われることを「公知になる」といいます。出願前に公知になってしまった技術やデザインについて権利取得することは認められないため、権利出願前に情報を公にすることがないよう十分に注意すべきです。

他社による権利侵害だけでなく、自社が知らないうちに現地の企業の権利を侵害する可能性にも注意する必要があります。日本では新規性がある技術やデザインも、現地では他社が既に権利を取得している可能性があります。他社の知的財産権を侵害すると、差止請求や多額の損害賠償請求を受ける可能性があります。自社が展開しようとしている技術やデザインについて現地の他社が権利取得していないかどうか、現地の専門家に相談するなどして確認しておく必要があります。

2.商品を海外に輸出する際の注意点

海外で販売するために商品を輸出する際にも注意が必要です。企業が取り扱う商品・サービスを、他社のものと区別するために使用するマークのことを「商標」といいます。会社や商品のロゴを想像していただくとわかりやすいでしょう。マークやロゴは技術やデザインと比べて模倣が容易なため、模倣品が出回るリスクはより高くなります

商標権は登録した国でのみ有効なので、商品を展開する各国で登録を受ける必要があります。日本ではよく知られている会社や商品の名称であったとしても、海外で知られていなければ第三者によって商標登録されてしまう恐れがあります。会社名や商品名が他の企業によって先に商標登録されてしまうと、たとえ自社が本家本元であったとしても、その国では会社名や商品名を使用することができなくなってしまいます。

海外で商標権を取得する際には、日本と現地の法制度の違いに注意しなければいけません。例えば、中国では、平仮名、カタカナは文字ではなく図形に分類され、漢字とその読み方は「非類似」、すなわち別々のものとして扱われます。したがって、漢字、アルファベット等の表記形態ごとに商標権を取得する必要があります。商標権は「早い者勝ち」ですので、現地の商標権はできるだけ早めに取得するに越したことはありませんが、遅くとも輸出前には取得しておきましょう。

3.営業秘密を守るためにすべきこと

海外で製品を製造・販売する際には、海外企業との取引が必要不可欠です。海外企業との商談や業務委託を行う際や、現地の工場で製品を製造する際に、技術やノウハウなど自社の営業秘密を取り扱う場面があります。このような場面で営業秘密を適切に取り扱わなかったことが、模倣品が流通するきっかけになるケースもあるため、注意が必要です。

対策の一つは、情報を知り得る従業員、取引先などと秘密保持契約を結んでおくことです。 秘密保持契約は「NDA(Non-disclosure agreement)」とも呼ばれ、取引を行う際に営業秘密や個人情報など業務に関して知った秘密を第三者に開示しないことを約する契約のことをいいます。秘密保持契約を締結することにより、関係者による情報流出を抑止する効果が期待できるとともに万が一情報流出が発生したときに損害賠償請求などを行うことが可能になります。秘密保持契約を締結する際には対象となる情報の範囲や有効期限を明確にしておきましょう。

事業所内で秘密情報の持ち出しを防ぐための対策を講じることも重要です。具体的な対策としては以下のようなものがあります。

  • 事業所の出入口は施錠し、関係者しか入退室できないようにする
  • 重要なファイルにはパスワードをかけ、関係者以外はダウンロードできないようにする
  • 不要となった紙の資料はシュレッダーにかけるか、焼却処分する
  • 秘密情報には『丸秘』『部外秘』などと付し、秘密情報であることが客観的に認識できるようにする

日本の不正競争防止法では、企業が持つ営業秘密が不正に持ち出されるなどの被害に遭った場合に、民事上・刑事上の措置をとることができると定めています。技術やノウハウが営業秘密に該当するためには、以下の3つの要件を満たしている必要があるとされています。

  • 有用性:その情報を利用することによって経費の節約や経営効率の改善等に役立つものであることをいいます。
  • 非公知性:その情報が一般に入手できないことをいいます。
  • 秘密管理性:その情報を有する企業が、秘密管理意思を従業員に対して明確に示し、秘密管理意思に対する従業員の認識可能性が確保されることをいいます。

中国でも、営業秘密に該当するための要件として、上記とほぼ同じ内容が定められています。

自社の模倣品を発見した場合の対処法

自社の模倣品を発見した場合はどうすればよいのでしょうか。被害を最小限に食い止めるための対処法について、時系列で説明します。

1.自社の知的財産権を確認

まずは、自社が知的財産権を有しているか確認しましょう。当然のことですが、模倣品に対して法的措置をとるためには自社が特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの知的財産権を有している必要があります。これらの権利があれば、権利を行使して、模倣品の製造、販売、輸入に対して差止めを行うことにより被害を回避できる可能性があります。海外で模倣品が出回っている場合には、その国における自社の権利取得の状況を確認する必要があります

2.模倣品の製造元を調査

次に、模倣品がどこで製造され、どのように流通したかについて調査を試みましょう。模倣品の被害を食い止めるためには、製造元を突き止めて製造をストップさせることが最も効果的です。製造元をすぐに見つけることができなくても、流通元を辿ることにより製造元が判明する場合もあります。インターネット上で模倣品が流出している際は、販売者あるいは出品者に関する情報をできるだけ詳しく取得しましょう。

模倣品の現物を入手できる場合は、現物を手に入れておくことが大切です。模倣品の現物を入手して調査することにより、製造元が判明する可能性が高まります。また、模倣品が自社のどのような権利を侵害しているのか、あるいはしていないのかを把握することが可能になります。さらに、後に訴訟に発展した際に権利侵害の証拠とすることができます。

3.被害を回避するための対応

自社の権利が侵害されている事実が明らかになったら、いよいよ被害を食い止めるための手段を講じることになります。具体的な手段として、当事者に通知を送付して警告を行う、調停、仲裁、裁判などを利用する、警察に被害届を提出して刑事責任を追及するなどが考えられます。
特許庁の国際協力課模倣品対策室には「政府模倣品・海賊版対策総合窓口」と呼ばれる模倣品に関する相談窓口が設けられていますので、どのように対処すればよいかわからない場合はこのような公の窓口に相談してもよいでしょう。

まとめ

今回は、企業が模倣品対策を行うべき理由や、模倣品による被害を防ぐために企業が取り組むべきこと、自社の模倣品を発見した場合の対処法について解説しました。

模倣品は企業の利益を著しく侵害し、大きな損失をもたらします。模倣品が出回ることを防ぐためには、特許権を出願するなどの法的手段のほか、悪意を持った第三者に営業秘密が渡らないように情報管理を徹底することが肝要です。また、自社の模倣品を発見した際は、市場に出回って被害が拡大するのを防ぐために一刻も早く適切な措置を講じましょう。

東京スタートアップ法律事務所では、企業法務に関する知識と実績を持つ専門家が、様々な企業のニーズに合わせたサポートを提供しております。お電話やオンライン会議システムによるご相談も受け付けていますので、模倣品の問題や対策、その他の企業法務全般に関する相談がございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社