【法律的な観点から理解する】新型コロナウイルス(COVID-19):「緊急事態宣言」及び「ロックダウン」(都市封鎖)について3分で解説
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記事目次
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けて、政府は、2020年4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法(通称「新型コロナ特措法」)に基づき、「緊急事態宣言」を発令しました。
これによって、日本も中国の武漢や欧米の各都市にみられるような「ロックダウン(都市封鎖)」と呼ばれる状態になってしまうのでしょうか。
実際問題として、今回の緊急事態宣言の発令は、企業及び個人の経済活動に対してどのような影響を与えるのでしょうか。
本記事では、法律のプロフェッショナルである弁護士が、日本においてロックダウン(都市封鎖) は起こりうるのか、発令された緊急事態宣言にはどこまでの法的強制力があるのか、それによって企業及び個人の経済活動はどのような影響を受けるのかについて解説します。
※本記事は2020年4月7日現在の情報を元に執筆しています。
ロックダウンの概要と緊急事態宣言の根拠となる法律
日本国内では、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を食い止めるために、中国の武漢や欧米の各都市のようにロックダウン(都市封鎖)が必要ではないかということが議論を呼んできました。ロックダウンを敢行するために「緊急事態宣言を出すべきだ」と考えている方もいます。そこでまずは、ロックダウンの概要や緊急事態宣言の根拠となる法律について解説します。
日本におけるロックダウンの定義は明確ではない
まずは、「ロックダウン」の定義について説明します。ロックダウンには、明確な日本語的な定義がありませんが、3月19日の政府の専門家会議では、ロックダウンを「数週間の間、都市を封鎖したり、強制的な外出禁止の措置や生活必需品以外の店舗閉鎖を行う、強硬な措置」と定義しています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200402/k10012362181000.htmlより
「強制的な」、「強硬な措置」という言葉は、外出等が禁止され、それを破った場合には罰金などの罰則がある状態を指します。
しかしながら、このような「強硬な措置」は日本の法制度上認められておらず、ロックダウンをこのように定義するとすれば、「日本ではロックダウン(都市封鎖)を行うことができない」という結論になります。ロックダウンと緊急事態宣言は、似て非なる概念で、同一視すべきものではありません。
日本の現行法上、それに一番近いこととして行うことができるのが、今回行われた新型インフルエンザ等対策特別措置法(通称「新型コロナ特措法」)に基づく「緊急事態宣言」の発令でした。政府も、今回の緊急事態宣言の発令に伴い、「都市封鎖(ロックダウン)は実施しない」と明言しています。「実施しない」という言い方をしていますが、現行法上「実施することができない」のです。
緊急事態宣言の根拠となる法律
今回の緊急事態宣言の発令は、東京都をはじめとする日本各地で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数が急増していることを受けて、その感染を食い止めるためになされた措置です。緊急事態宣言とは、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」という法律に基づいて発令されます。新型インフルエンザ等対策特別措置法は、新型インフルエンザが国内で発生したことを受けて、平成24年5月11日に施行された法律です。この法律は、新型インフルエンザや全国的活急速なまん延のおそれのある新感染症に対する対策の強化を図ること、国民生命、健康を保護して生活や経済への影響が最小限にすることを目的としています(同法1条参照)。
緊急事態宣言とは、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」という法律に基づいて発令されます。新型インフルエンザ等対策特別措置法は、新型インフルエンザが国内で発生したことを受けて、平成24年5月11日に施行された法律です。この法律は、新型インフルエンザや全国的活急速なまん延のおそれのある新感染症に対する対策の強化を図ること、国民生命、健康を保護して生活や経済への影響が最小限にすることを目的としています(同法1条参照)。
この法律を、2020年3月に改正し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にも対応できるようにしたのが、マスコミ等で、「新型コロナウイルス対策の特別措置法」と呼ばれているものです。
緊急事態宣言発令のための要件、緊急事態宣言が発令された場合にどのような私権(本来国民に与えられている権利。外出などの日常生活を営む権利や、事業を営む権利など。)の制限を課すことできることについては、次の項目で詳しく解説します。
緊急事態宣言発令のための要件
新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言は、以下の要件を満たしたときに発令できるとされています。
「その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるもの」(同法32条1項)
今回の新型コロナウイルス(COVID-19)のまん延がこの要件を満たしていたのかは議論の余地があるところではありますが、とにもかくにも緊急事態宣言が発令されました。
新型コロナ特措法によれば、この場合は実施すべき期間、区域、概要を提示しなければならないとされていました(同条項1号~3号)。
今回の緊急事態宣言の発令内容を見ると、それぞれ以下のようになっています。
- 期間:2020年4月7日から5月6日までの1か月間
- 区域:東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡の7都府県
- 概要:住民に対する外出自粛要請。教育施設、運動施設、商業施設、娯楽施設などを対象とする休業の要請等
緊急事態宣言によって要請や指示ができること
新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言が発令されると、対象区域の各都道府県知事は、その都道府県の住民に対し、以下の様な要請や指示、公表をすることができます。
- 「生活の維持に必要な場合を除き・・・(途中省略)外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請すること」(同法45条1項)
- 「学校、社会福祉施設・・・(途中省略)、興行場・・・その他・・・多数の者が利用する施設を管理する者・・・に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請すること」(同条2項)
- 「施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、・・・(途中省略)当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示すること」(同条3項)
- 「特定都道府県知事は、・・・(途中省略)要請又は・・・指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない」(同条4項)
すなわち、緊急事態宣言の発令を受けた都道府県知事は、国民に対し、以下のようなことを要請・指示等ができるのです。
- 食料品の買い出しや仕事などを除く外出を自粛する旨の要請すること
- 学校や映画館・百貨店などの使用、イベントの開催を中止するよう要請すること
- ②の要請に従わない場合には法的義務のある指示を出すこと(①は指示の対象外)
- ②の要請及び③の指示を出した場合にはそのことを公表すること
なお、これらにはあくまでも「要請」や「指示」にとどまりますので、これらに従わなかったからといって罰則があるわけではありません。この点がいくつかの外国の都市で行われているロックダウン(都市封鎖)とは根本的に異なるのです。
とはいえ、多くの国民は外出自粛の要請及びイベント開催の中止の指示を出された場合にはそれに従うでしょうから、事実上の強制力がある点は否めません。
緊急事態宣言によって強制できること
緊急事態宣言下では、知事は国民に対して、以下の2点について強制力を持つことができます。
- 「臨時の医療施設を開設するため、土地、家屋又は物資・・・(途中省略)を使用する必要があると認めるときは、・・・同意を得ないで、当該土地等を使用すること」(同法49条1項2項)
- 緊急事態措置の実施に必要な物資・・・(途中省略)について、その所有者に対し、当該特定物資の売渡しを要請・・・収用・・・保管を命ずること(同法55条1項~3項)
すなわち、緊急事態宣言の発令を受けた都道府県知事は、国民に対し、以下のようなことについて強制力が持てるのです。
- 臨時の医療施設(いわゆる野戦病院)開設のための土地・家屋の使用
- 医薬品などの必要物資の売渡しの要請と収用
なお、「必要な物資」には、マスクも含まれます。緊急事態宣言が発令されれば、知事が業者に対してマスクの売り渡すよう求めることができるのです。
緊急事態宣言下においてもできないこと
緊急事態宣言が出されたとしても、新型コロナ特措法には、以下のようなことができるとは規定されていません。
外出の禁止
- 公共交通機関の停止
- 道路の封鎖
外出については自粛の要請にとどまり、指示や公表、罰則すら存在しないことから、諸外国のように強制力を持った外出禁止となることはありません。
また、そもそも通勤のための外出については「生活の維持に必要な場合」として自粛の要請対象にすら入っていませんから、通勤のために必要な公共交通機関は、本数こそ減らされる可能性はありますが、停止することなく運行されます。
さらに、「東京には一切立入り禁止」として県境にバリケードを張るような道路の封鎖も認められていません。
まとめ
以上見てきた通り、緊急事態宣言の発令は、諸外国のロックダウン(首都封鎖)の例に比べ、国民に対して法的拘束力のある制限を課す条項は少なく、私権の制限は最小限にとどまります。
しかしながら、これらの措置にも事実上の強制力があるというのは上述の通りですし、多くの国民が外出を控えることによる経済へのダメージは計り知れません。
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- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設