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投稿日: 弁護士 内山 悠太郎

新規事業を行う際の市場分析及び競合分析の手順と役立つフレームワーク

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新規事業を行う際、市場分析及び競合分析を行うことは非常に重要です。市場及び競合他社の分析をすることで、業界内でのポジション、自社の強み・弱みを把握し、他社との差別化を図り効果的な戦略の立案を図ることが可能になります。

しかし、市場分析及び競合分析を始めるにあたり、具体的な方法や手順がよくわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、新規事業を行う際に市場分析及び競合分析を行う目的、分析を進める具体的な手順、新規事業立ち上げ時の市場分析及び競合分析に役立つフレームワーク、競合分析を行う際の注意点などについて解説したいと思います。

新規事業を行う際に競合分析を行う目的

まずは、新規事業を行う際に市場分析及び競合分析を行う目的について説明します。

1.自社の強みと弱みを知り戦略を立てるため

新規事業を行う際に競合分析を行う主な目的は、自社の強みと弱み、業界内での自社のポジションを知ることです。

競合他社の商品やサービスの内容や特徴、市場シェアなどを分析し、自社と比較することにより、自社の強みと弱みや、業界内でのポジションが明確になります。それらを知ることにより、他社との差別化を図ることや、効果的なマーケティング戦略の立案が可能になります。

2.市場のニーズや動向を把握するため

市場のニーズや動向を把握するとともに競合他社の市場シェアや動向などを分析することにより、自ずと業界全体の構図やトレンドなどが見えてきます。業界全体を把握することで、今後の営業活動やマーケティング活動のプランを立てやすくなります。

市場分析及び競合分析を進める具体的な手順

市場分析及び競合分析は、どのような手順で進めればよいのでしょうか。具体的な手順について説明します。

1.分析対象の選定

まず、競合分析の対象とする企業を選びます。比較対象の数は、既存企業による業界シェアの状況によって異なりますが、3~10社程度が適当でしょう。

一般的には、以下のような企業を対象とします。

  • 自社の商品・サービスと類似している商品・サービスを扱う企業
  • 市場シェアの上位企業
  • ターゲットとする顧客が重複する企業

商品やサービス自体は類似していなくても、ターゲットとする顧客が重複しているケースもあるので、幅広い視点で比較対象を選定することが大切です。

2.調査

競合分析の対象とする企業を選定したら、調査項目に従って、調査を実施します。

一般的な調査項目として、以下のようなものが挙げられます。

  • 商品・サービスの仕様や特徴
  • 価格設定
  • アフターフォロー等のサービスの内容
  • ターゲット顧客の属性
  • 現在の市場シェア
  • 企業規模
  • マーケティング戦略
  • 顧客・利用者からの評価

上記の項目について、各企業の公式サイトをチェックする、実際に商品やサービスを購入する、パンフレットや資料を取り寄せる、ネットやSNSの情報を検索する、アンケート調査を実施するなどの方法により、調査を行います。これらの方法で十分な情報を得られない場合、市場調査会社に依頼することを検討してもよいでしょう。

調査した結果は、比較表などにまとめておくと、分析の際に役立ちます。

3.分析と戦略立案

市場調査及び競合他社の調査結果を元に、新規事業の分析を行います。

新規事業の分析により、業界の全体像、自社の商品やサービス独自の強みや弱み、自社が抱える課題などが明確になります。それにより、マーケティング戦略の立案、適切な価格設定、適切なリソースの配分などが可能になります。また、課題を整理して、自社の商品やサービスの改善につなげることもできます。

市場分析や競合分析に役立つフレームワーク

実際に、マーケティング戦略の立案を行う際は、以下のようなフレームワークを活用し、市場分析や競合分析をしていくとスムーズです。

1.3C分析 事業の方向性を決める

3C分析とは、企業のマーケティング環境を分析し、当該市場における自社のポジションを把握するためのフレームワークで、以下の3つの要素を詳しく分析します

  • Customer(顧客・市場):顧客の属性、ニーズ、環境、市場規模、市場の成長性など
  • Company(自社):企業理念、ビジョン、業界での立ち位置、自社の強み・弱み、特徴など
  • Competitor(競合他社):競合他社のシェア率、顧客の評価、マーケティング戦略、リソースなど

3C分析を行うことにより、自社が成功するための要因を探ることができます。

2.5forces分析 業界の構造を分析する

5forces分析は、自社を取り巻く外部環境を分析するためのフレームワークで、以下の5つの脅威(force)について分析します

  • 業界内での競争:競合他社の数、競合他社の資本や技術力による脅威
  • 買い手の交渉力:顧客の値引き交渉等による脅威
  • 売り手の交渉力:供給業者の交渉力による脅威
  • 新規参入の脅威:業界への新規参入者による脅威
  • 代替品の脅威:顧客のニーズを満たす代替品が登場することによる脅威

上記の5つの脅威を分析することにより、業界全体の構造や収益性を把握することができます。

3.SWOT分析 自社の置かれた状況を把握する

SWOT分析は、自社の競争力や外部環境を分析し、自社の市場における優位性を検討するフレームワークで、以下の4つの要素を分析します。

  • Strengths:競合他社に対する自社の強み(自社独自の技術力、生産力等)
  • Weakness:競合他社に対する自社の弱み(資金の少なさ、知名度の低さ、販路の少なさ等)
  • Opportunities:外部環境のポジティブな要素(市場規模の拡大、景気回復等)
  • Threats:外部環境のネガティブな要素(競合他社のシェア拡大、景気後退、原材料費の高騰等)

3C分析や5forces分析で収集した情報を元にSWOT分析を行うことにより、業界全体の中の自社のポジションや、自社の弱みと強みを把握し、広い視野で効果的な戦略を立案することが可能になります。

4.リーンキャンパス分析 ビジネスモデルの分析

リーンキャンパス分析は、自社の事業を可視化するためのフレームワークです。

自社のビジネスモデルを以下の9の要素に分類し、相互の関連性を分析します。

  • 課題:顧客が抱えている課題
  • ソリューション:顧客が抱えている課題の解決策
  • 主要指標:ビジネスが成功したかどうかを測定するための主要な指標
  • 独自の価値提案:自社の商品やサービスが顧客に提供できる独自の価値
  • 圧倒的優位性:他社が真似できない自社独自の強み
  • チャネル:顧客に商品やサービスを届ける方法
  • 顧客セグメント:自社の商品やサービスのターゲットとなる顧客層
  • コスト構造:商品やサービスの流通、マーケティング等にかかるコスト
  • 収益の流れ:収益源や収益モデル

A4サイズ1枚の紙面上にビジネスモデルの要点を整理することができるため、社内で共通認識を深めることができるというメリットがあります。

リーンキャンパスは、ビジネスモデルキャンバスと呼ばれるフレームワークをスタートアップ企業向けにアレンジしたものなので、スタートアップ企業が事業計画書を作成する準備段階で活用されることも多いです。

5.バリューチェーン分析 ビジネスのモデルの分析

バリューチェーン分析は、原材料の調達から、商品やサービスを顧客に届けるまでの商流を「価値の連鎖」として捉え、どの工程で付加価値が生じているのかを分析し、コストを投じるべき場所を分析するフレームワークです。

バリューチェーン分析では、企業の活動を以下の2つに分類します。

  • 主活動:直接的な価値を生む活動(購買、製造、物流、販売、サービス)
  • 支援活動:主活動を支えるための活動(全般管理、人事管理、技術開発、調達活動)

企業活動を細分化して分析できるため、ヒト(人)、モノ(物)、カネ(資金)などの限られた経営資源をどこに配分するべきかを明確にすることができ、差別化戦略の立案にも役立ちます。

6.4P分析 企業側視点で事業を分析

4P分析は、企業側からの目線で「何を」「いくらで」「どこで」「どのようにして」販売するのかという具体的な戦略を立案するためのフレームワークで、以下の4つの要素を分析します。

  • Product(製品・サービス):商品やサービスの品質、機能・性能、デザインなど
  • Price(価格):商品の販売価格やサービスの提供価格など
  • Place(販売場所・提供方法):商品の販売場所やエリア、流通ルートの種類、納品に要する時間など
  • Promotion(販促活動):商品の販売促進のためのPR、宣伝方法、ターゲット顧客との接点など

4P分析は、他のフレームワークで分析した結果を元に、具体的な施策を立案する際に活用できます。4つの要素は、自社内で調整できるため、分析により改善点を見つけることができれば、改善を実現しやすいというメリットがあります。

7.4C 分析 顧客視点で事業を分析

企業側の視点に立った分析である4P分析を、顧客の視点から行うのが4C分析です。

4C分析では、以下の4つの要素を分析します。

  • Customer Value(顧客価値):商品やサービスが顧客にもたらす価値
  • Customer Cost(コスト):顧客が商品やサービスを利用するために必要なコスト
  • Convenience(利便性):購入や利用のしやすさ
  • Communication(コミュニケーション):カスタマーサポート等の企業と顧客との接点

4P分析と4C分析の両方を行うことにより、企業と顧客の両方の視点から、他社との差別化を図ることが可能になります。

8.ジョブ理論分析

ジョブ理論は、4C分析よりさらに本質的な顧客のニーズを掴むためのフレームワークです。

ハーバードビジネススクールの教授であるクレイトン・クリステンセン氏によって提唱され、画期的な概念として最近注目されています。

ジョブ理論では、顧客は解決したい課題(“ジョブ”)のために、商品やサービスを利用(“雇用”)すると考え、顧客の購買行動を以下のようなストーリーに沿って分析します。

  • その人が成し遂げたい目的は何か
  • どんな状況に苦労しているのか
  • 目的を成し遂げることを阻むものは何か
  • 不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動を取ってないか
  • その人にとってよりよい解決策をもたらすものは何か

このようなストーリーに沿って顧客の購買行動を分析することにより、顧客の本質的なニーズを的確に掴み、自社の商品やサービスの改善に役立てることができます。

競合分析を行う際の注意点

上記のフレームワークを活用しながら競合分析や戦略の立案を行う際に、特に注意すべきポイントについて説明します。

1.具体的な戦略を立案して実行すること

実際に市場分析や競合分析を行う際、調査や分析に時間がかかり、分析した結果をまとめるだけで満足してしまいがちですが、競合分析の目的は、自社の強みや他社との差別化ポイントを把握し、具体的な戦略を立案し、実行することです。市場分析や競合分析に時間をかけすぎないということも重要であるといえます。

そのためには、上記のフレームワークの中から、目的に合うものを組み合わせて活用し、分析結果を元に具体的な戦略に落とし込む必要があります。

フレームワークにはそれぞれ特徴がありますが、万能なものはありません。また、フレームワークに当てはめることにより、思考が固まってしまう傾向があるという点にも注意が必要です。そのため、一つのフレームワークだけで考えるのではなく、複数のフレームワークを組み合わせて活用することが大切なポイントとなります。

例えば、3C分析で自社と外部要因の分析を行い、SWOT分析で自社の強みと弱み、業界内でのポジションを把握し、4P分析・4C分析で具体的な施策を立案するというのも一つの方法です。

2.定期的に実施すること

競合分析は、新規事業に参入する際に一度だけ行えばよいというものではありません。将来、新たな企業が参入する可能性や、競合他社が画期的な新製品を発売する可能性なども視野に入れ、状況の変化に応じて定期的に行うことが大切です。

新規事業参入後も定期的に競合分析を行い、マーケティング戦略を見直すことは、時代の変化やトレンドに合わせた効果的な施策で他社との差別化を図り、顧客から選ばれ続けることにつながります。

まとめ

今回は、新規事業に参入する際に競合分析を行う目的、競合分析を進める具体的な手順、新規事業立ち上げ時の競合分析に役立つフレームワーク、競合分析を行う際の注意点などについて解説しました。

新規事業に参入する際、競合分析を行うことは、自社の優位性や課題を明確化し、精度の高いマーケティング戦略を立案するために非常に重要です。また、競合分析だけではなく、新規参入する業界に関連する法規制を理解し、対策を講じることも重要なポイントとなります。

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執筆者 弁護士内山 悠太郎 宮崎県弁護士会 登録番号59271
私は、学生時代はアルペンスキーとサーフィンに明け暮れておりました。そんな中で、弁護士を目指すにいたったのは、社会に役に立つための知識を身につけたいという単純な思いからでした。人や企業が困っている場面で手助けできるスキルを身につけて社会に貢献したいと考え、弁護士を志すに至りました。
得意分野
ガバナンス関連、各種業法対応、社内セミナーなど企業法務
プロフィール
埼玉県出身 明治大学法学部 卒業 早稲田大学大学院法務研究科 修了 弁護士登録 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社