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投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

スタートアップに必要な人材は?集め方も解説

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スタートアップ企業は、資金面や人材面といった経営資源の観点で、上場企業等に比べてリソースが限られます。そのため、スタートアップ企業の採用においては、ターゲット相違やミスマッチによる失敗を避け、必要な人材を、無駄なコストを抑えて集める必要があります。

今回は、スタートアップ企業に必要な人材や、効果的な人材の集め方などについて解説します。

スタートアップ企業に人材が重要な理由

企業活動においては、従来から「ヒト、モノ、カネ」の3つが経営資源の核となるといわれてきました。昨今は、新たに「情報、時間、知的財産」という3つを加え、これら6つの経営資源を適時に適切に配分していくことが、効果的な会社経営に重要だと言われています。

その中でも「ヒト」は経営資源の核であると同時に、その他の経営資源を配分するという重要な役割を担う立場でもあります。それだけに、スタートアップ企業では、どのような「ヒト」を集めるかが、今後の企業活動を左右するといっても過言ではありません。

スタートアップ企業が立てるべき人材戦略

スタートアップ企業では、少数精鋭で、企業経営を軌道に乗せるための人材獲得の戦略を立てることが求められます。採用に際しては、次の3つの点を中心に分析することから始めるとよいでしょう。

(1)自社の既存の人材を把握する

まずは、スタートアップ時点の今現在、自社にどのような人材がいるか把握しましょう。例えば、リーダータイプの人材が既にいて適切なリーダーシップを発揮しているのに、更に起業意欲のあるリーダータイプの人材を採用しても、会社の方針がぶれたり、無用な衝突を招きかねません。

一方で、スタートアップ企業の場合、大人数を採用することは、採用コストや給与等の負担を考えても適切ではありません。そんなことをすると、たちまち資金が底をつき倒産の淵に追い込まれます。

そこでまずは、今自社にどういう人材がいて、どういう人材が足りないのかを把握することから始めましょう。

(2)企業のフェーズを把握する

今、自社が属している成長フェーズを把握することで、どのような人材が自分の会社にとって良い働きをしてくれるかという目安を知ることができます。

①シード期

創業者自らがプロダクト開発から営業・カスタマーサクセスまで行うことが多いので、経営陣のみか少数のエンジニア兼デザイナーなど、最低限の人数で足りますし、そうであるべきと考えます。

②アーリー期

多少の資金調達ができていたり、事業が軌道に乗りかけていたりすることも想定されますが、やはりこの時期も、会社に多額の資金があることは想定すべきではなく、少数のメンバーで企業活動を行うことが求められます。したがって、様々な業務に対応できるゼネラリストタイプの人材が活躍することが多いでしょう。

③ミドル期

すでにPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を達成していたり、多額の資金調達を達成したりしていて、まさに事業の拡大期にあることが多いのがこの段階です。この段階では、創業者の役割も大きく変化し、創業者がメンバー全員のケアができなくなっている可能性が高いので、創業者に代わって組織を作り等を行う、ミドルマネジメントができる人材が必要となります。

④レイター期

いわゆるイグジット(IPOやM &A)に向けた準備をするのがこの期間になります。監査役や社外取締役などに財務・会計・法務等に強いスペシャリスト人材を揃えていく期間になります。

(3)必要な人材は相棒か助手か

スタートアップ企業が人材を採用する際は、どのような人材に何をお願いしたいのかを見極めましょう。それによって、雇用形態(雇用契約か業務委託契約かなど)や採用方法(ダイレクトリクルーティングや人材紹介か求人広告かなど)も変わってきます。

必要な人材の分析は、採用コストを考える上でも前提となるので、求める役割や働き方をあらかじめしっかり検討しておきましょう。

スタートアップで集めたい人材の5つの要素

スタートアップ企業の場合、限られた人数で企業活動を行い、会社を成長させていかなければいけません。そのためには、企業活動に不可欠の要素を担える人材を、バランスよく集めることが重要になります。どのようなスキルを持つ人材を集めるべきか具体的に説明します。

(1)リーダー人材

企業でいう代表取締役、CEOやCOOと呼ばれる人材です。スタートアップにおけるCEOは多くの場合創業者自身ですし、COOは一緒に起業した仲間が担うことが多いです。この記事をお読みの方ご自身が、これらの役割を果たしている場合も多いと思います。

また、自分はエンジニアであり、開発業務に特化したいという理由で、代わりに会社の舵取り(採用や資金調達、顧客やメンバーとのコミュニケーション等)をしてくれるリーダー人材を求めるケースもあります。その場合は、会社のビジョンを共有できる人、業務全般を把握できる人、信頼に値する人を選ぶことが重要です。前職でマネジメント経験がある人などがターゲットになるでしょう。

(2)セールス・マーケティング人材

企業は何らかのサービス・商品(プロダクト)を持っているものです。しかしながら、それらを持っているだけでは収益になりません。それらを市場に認知してもらい、消費者からの購買行動を惹起する必要があります。

ここで「セールス」や「マーケティング」が必要になってきます。

具体的には、市場の動向を把握し、自社のポジションを分析し、会社の商品やサービスを発信し、それらを消費者に購買してもらえるように働きかけていきます。

「営業」や「マーケッター」と呼ばれる人材を採用する必要が出てくるのですが、シード・アーリー期のスタートアップにおいては、これらの専門部隊はおらず、CEOやCOO等が自身で積極的に行っていくことが多いものです。

(3)エンジニア人材

2000年代以降のスタートアップにおいて、エンジニアは欠かせない存在になっています。ほとんどのスタートアップが、Webサービスやスマートフォンアプリの開発を行い、それを自社サービスとして展開しているからです。

まず開発を行ってプロダクトをローンチするところまで持っていなければ事業は始まりませんし、ローンチ後もユーザーの声を聞きながら随時機能改善をしていくことが求められます。新たなサービス開発も必要なタイミングが訪れます。

したがって、スタートアップにおいてエンジニア人材は必要不可欠です。

(4)ディフェンシブ人材

昨今、企業活動に関連する法改正が続き、適宜対応しなければ行政処分等を受けるリスクが高まっています。また、役員や従業員の不祥事により、企業が大きなダメージを受けるケースも少なくありません。そのようなリスクを回避するためには、人事、労務、法務、経理といった企業の内部を統制する守りの部門において、法改正や社内管理に対応できるディフェンシブスキルを持った人材が必要です。

前職での法務、人事、経理などの経験に加え、法律や税務等の知識を持つ人材を確保できると安心です。最近はCHO(チーフHRオフィサー)として人事の最高責任者を置く企業も増えています。

ただ、創業初期のスタートアップにおいて例えば社内弁護士を雇用するというのは現実的ではありませんから、適宜顧問弁護士等の外注サービスを検討すると良いでしょう。

(5)事務系人材

会社の業務を円滑に進めるためには、サポート役となる人材も必要です。備品の整備や書類の整理、データの入力など、企業活動を進める上では、いわゆる雑務も必ず発生します。

前述したような専門知識を発揮してコア業務を行いつつ、雑務も同時に行うのはなかなか難しいものです。事務スキルのあるサポート人材を確保することで、会社の業務全体が回りやすくなるという効果が期待できます。

こちらについても、創業初期の段階では会社のボードメンバーが自ら行い、手いっぱいになってきた段階でも専用人材を雇用するのではなく、昨今は外注できるサービスがありますから、まずはそちらの活用を検討してみるべきでしょう。

スタートアップに適した6つの採用手法

人材採用の手法にはいくつかのルートがあります。スタートアップ企業の場合、一般企業に比べてかけられるコストに限りがあり、知名度も低いので、自社のかけられるコスト、時間、人材を見極めて、より効果的な方法を選択することが重要です。

(1)自社サイト内広告

自社のホームページやSNSに求人広告を掲載する方法です。

自社のPR、求める人材、採用条件などを自由に打ち出すことができ、コストも安いというメリットがある反面、自社サイト内広告だけでは、求職者に情報が届きにくいというデメリットがあります。

自社サイトだけで採用することが難しくても、採用情報を自社サイトで掲載することは自社PRにもつながります。特にスタートアップ企業においては、社員とのビジョンの共有が不可欠なので、自社サイトでしっかりと打ち出しておくことが重要です。

(2)リファラル採用

リファラル採用とは、自社の社員に人材を紹介してもらう採用のことをいいます。

メリットとしては、ある程度人物像が把握できる点、採用コストがかからない点があります。デメリットとしては、選考対象が限られるため人材を比較検討しにくい点、紹介した社員との関係性によっては冷静な人事評価が難しくなる可能性がある点が考えられます。

選考体制を整えること自体が難しいスタートアップ時点では、リファラル採用は効果的です。しかし、リファラル採用に頼っていると、必要な人員数を確保できない場合もあります。また、「類は友を呼ぶ」と言われるように似たような人材が集まり、会社の発展が期待できない可能性もあります。初期段階ではリファラル採用を取りつつ、新たな採用手法も検討しておくとよいでしょう。

(3)求人広告

転職サイトに求人広告を掲載して、応募者を集める採用手法です。

応募者数が多く比較検討しやすいことや、多様な経験を持つ人材の応募が期待できるというメリットがある反面、採用コストが高いというデメリットがあります。掲載する広告のランク(サイズ、写真添付の有無、表示順など)によって変わりますが、1か月の掲載で15~50万円かかるのが通常です。

転職サイトによって、第二新卒が多い、エンジニアが多い、事務職希望者が多いなどの特徴があります。予算や特徴を踏まえて、適した媒体を選ぶのが採用成功のポイントです。

(4)ダイレクトリクルーティング

ダイレクトリクルーティングとは、企業が、求人サイトの登録者の中から絞ったターゲットにスカウトをかける採用手法です。求人サイトの利用料をあらかじめ払う方法や、採用に至った場合に一定金額を支払う方法などがあります。

対象者を絞っているので比較的短期間で結果が出やすいことや、「良い会社があれば転職したい」と考えている潜在的な求職者にもアプローチできるというメリットがあります。他方、対象者を選び、連絡をしていくので、手間や時間がかかるという点がデメリットです。双方のニーズが一致すれば、良い結果につながりやすい採用手法です。

(5)人材紹介

人材紹介会社に求職者を紹介してもらい、採用に至った場合に紹介会社に報酬を支払う採用手法です。会社と求職者がそれぞれの希望を伝え、人材紹介会社が引き合わせてくれる、いわばお見合いのような方法です。

メリットとしては、双方の希望が事前にわかっているのでミスマッチが少ないこと、当初の採用コストがかからないことがあります。デメリットとしては、人材紹介会社の担当者次第で紹介される人材が左右される点、成功報酬が30~35%程度なので報酬が高額になりやすい点が挙げられます。専門職に特化した紹介会社もあり、ニーズに合致しやすい反面、成功報酬も高額になりやすいので、採用コストとのバランスを考慮することが大切です。

(6)ハローワーク・就職支援制度

ハローワークでは、無料で求人情報を掲載できます。また、厚生労働省が中心となって各都道府県で行っている就職支援制度では、就職訓練などを受けた求職者を採用すると、企業側に一定の費用が支払われる制度もあります。

低コストで採用活動ができるというメリットがある反面、応募者のスキルの幅が大きく、必要な人材に会えるまでに時間がかかる可能性が高いというデメリットがあります。

ハローワーク1本に絞るのではなく、他の採用手法と並行して利用するとよいでしょう。

スタートアップで採用する際の注意点

スタートアップ企業では、コストを抑えるためにも、採用の失敗はできる限り避けたいものです。採用の失敗を避けるために、特に注意すべきポイントについて説明します。

(1)採用基準の明確化

採用基準はあらかじめ明確にしておきましょう。学歴、社歴、資格などはわかりやすいですが、交通費や住宅費を会社が負担する場合は、住所地なども確認しておきましょう。人物像など抽象的な基準は、面接時に「面接シート」を作成し、採用基準を点数化して担当者間で認識を共有しておくとスムーズです。

また、各種スキルに関しては、自己申告と実際の実力に乖離があるケースが多いです。実績の提出を求める、面接の場でデモンストレーションを行うなどの工夫をしておくと、採用後に能力不足だったという失敗を避けることにつながります。

さらに、海外では、「リファレンスチェック」という身元確認が行われることが通常です。応募者の前職や現職の上司・同僚に対して勤務態度や経歴、人物像を確認することを指します。日本ではまだ一般的ではありませんが、徐々に広がってきています。リファレンスチェックを行うためのサービスも存在していますので、検討してみる価値はあるでしょう。

(2)採用条件の合意

採用後に特にトラブルになりやすい以下の採用条件については、入社予定者と「合意書」を交わして、署名押印を得ておくことをおすすめします。

①雇用形態

採用後、入社時から正社員雇用をするのではなく、まず契約社員として雇用し、一定期間を経て正社員に移行するのが無難です。その場合、契約社員として働く期間の長さ、業務内容、給与基準などを合意しておきます。採用後に問題社員であることが発覚した場合、契約満了による契約終了とできるよう、正社員登用しない可能性もあることも含めて書面化しておきましょう。

②給与

契約社員期間・正社員登用後などの給与、賞与・手当の支給、社会保険など、お金にかかわる内容はできるだけ書面化して後日トラブルにならないようにしましょう。

③勤務時間

残業の有無、勤務時間は後々トラブルになりやすい問題です。残業するケースがあるのか、みなし残業制かどうかなど、勤務時間や残業に関するルールはできる限り明確に説明しましょう。

④有給休暇

有給制度は労働者にとって大きな関心事です。会社の繁忙期に休まれると困る場合は、有給取得の時季指定をする等、あらかじめ会社側で対処しておくことをおすすめします。

(3)気を付けるべき人材の特徴

問題社員は、どの企業でも大きなリスクとなりますが、人的資源が限られるスタートアップ企業ではその影響は甚大です。そこで、採用時に、できる限り問題社員を避ける必要があります。

書類選考や面接時に、転職回数(キャリアの変遷に一貫性があるか)、転職理由、病気の既往歴がある場合は業務に耐えられるかなどを確認しましょう。転職理由を質問した際に前職の問題点を露呈する人は、次の転職時にも同じことを繰り返す可能性があるため、避けた方が無難でしょう。

社外の人材を活用するという方法も

スタートアップ企業では、成長のタイミングを逃さないためにも、外部の人材を活用することが有効な場合もあります。

(1)外部人材との業務委託契約

外部人材の有効活用の方法の一つが、業務委託契約を締結することです。特定の業務を外部業者や個人のフリーランスに委託する方法などが典型的です。特にコロナ禍で働き方が多様化し、雇用契約から業務委託契約に切り替える会社も増えてきました。

フリーランス人材は、実務経験を豊富に持っている場合が多いので、即戦力として活躍してくれる可能性が高いというメリットがあります。特にエンジニアなど、任せたい業務内容がある程度決まっている業務と親和性があります。

契約を結ぶ場合は、期限と報酬を明確に決めること、守秘義務等に留意することが大切です。また、再委託の禁止等のルールについても細かく決めて合意しておきましょう。

(2)高度な専門知識を持つ人材との顧問契約

前述した通り、リスクマネジメントの観点からも会社にはディフェンシブスキルが重要です。しかし、高度な専門知識を有する人材を社内で揃えることは難しく、採用コストもかかります。

そのような場合は、外部の専門家と顧問契約を結ぶという方法もあります。特にスタートアップ企業では、事業の適法性チェックやプライバシーポリシー等の作成など、法律の専門知識が必要な問題に直面する場面は多いです。スタートアップ支援に強い弁護士・法律事務所と顧問契約を締結し、自社のビジネスの内容や方針を理解してもらった上で、法律に関する問題や課題のサポートを受けることにより、安心して本来の業務に専念できるようになります。

まとめ

今回は、スタートアップ企業に必要な人材や、効果的な人材の集め方などについて解説しました。

スタートアップ企業が人材を集める際は、自社の成長フェーズに応じて活躍してくれる人材を厳選して採用することが重要です。また、採用が難しい場合は、外部の専門家を活用することも企業の成長促進につながります。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富なスタートアップ企業支援の経験に基づいて、お客様の会社の状況や方針に合わせたサポートを提供しています。必要な人材や採用手法等に関するアドバイスはもちろん、人材を採用した後の就業規則などの整備や人事労務体制の構築など、必要に応じて幅広い業務をサポートさせていただくことが可能ですので、お気軽にご相談ください。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社