肖像権侵害とは?意味や侵害の基準、認められるケース、対処法などを解説
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記事目次
肖像権の概要
まずはこの肖像権という権利について知りましょう。
民事上の請求などの話をする際には、法律に明記された権利が根拠になっていることが多いです。
例えば、写真の問題などでよく出てくる著作権については、著作権法という法律が根拠になります。
一方、肖像権については、これを直接的に定めた法律があるわけではありませんが、憲法13条が規定している幸福追求権から導き出される権利として保護されるものと考えられており、古くは最高裁判所昭和44年12月24日京都府学連事件というデモ隊の写真撮影の適法性に関する憲法判例の文中において言及されています。
肖像権は、人格権としての「プライバシー権」と、芸能人などその氏名や容姿自体に顧客を誘引する力がある場合にその価値を守るための「パブリシティ権」とに分けて考えられています。
肖像権の権利内容については、別項で解説いたします。
肖像権の構成要素
肖像権の構成要素としては、一般に、プライバシー権とパブリシティ権の二つがあります。
以下で説明しますが、肖像権は、個人の尊厳やプライバシーを保護する一方で、商業利用という側面では経済的な権利としての意味合いも有しています。
プライバシー権
プライバシー権とは、本人が公開されたくない私生活上の情報(氏名、住所、勤務先といった個人情報等)をみだりに公開されない権利のことをいいます。
肖像権は、個人の尊厳やプライバシーを保護するための権利という側面があり、私生活を無断で写真や動画に撮影されて公開されてしまうことは、肖像権のプライバシー権としての側面の侵害にあたる可能性があります。
パブリシティ権
パブリシティ権とは、有名人等が自らの名前や写真等を商業的に利用される場合に、その使用に対する対価を求めることができる権利のことをいいます。
肖像権にはこうした財産権の側面もあり、例えば、芸能人の写真を無断で使用して商品を販売した場合等は、肖像権のパブリシティ権としての側面の侵害にあたる可能性があります。
肖像権侵害をしたときのリスク・罰則を知る
この項目では、肖像権侵害をするかもしれない側の立場から、肖像権侵害によりどのようなリスクが発生するかについてお伝えします。
1. 民事上の請求
まず、肖像権の侵害行為により、被害者から民事上の請求を受けることになります。
肖像権侵害が原因で経済的損害や精神的苦痛が発生したような場合には、民法709条を根拠とした不法行為に基づく損害賠償請求の対象となります。
当然ながら、争うと訴訟を起こされ、それでも支払いをしない場合には強制執行を申立てられ、不動産・預金や売掛金などの債権などを差し押さえられる可能性があるという事になります。
また、現にホームページ等に無断で掲載がされている場合には、掲載をしないように求める請求(差止請求)の対象になります。
なお、差止請求が裁判で認められた場合でも、裁判所が強制的に消去するわけではなく、「以後掲載1日につき◯◯万円支払え」という形での履行の強制がされることになります。
2. 刑事罰・行政処分などは法定されていない
写真を撮ること自体には、何ら刑事罰は規定されていません。
ただし、写真を撮るために住居や建物へ侵入した場合には、住居侵入罪などの犯罪が成立することがあるので、注意は必要です。
また、特定商取引法などでは違反行為に対して業務停止命令など監督官庁からの行政処分が行われるようなこともありますが、そういったものも規定されていません。
3. 社会的な責任
これは法的な責任ではないですが、自社の従業員が来店した芸能人をこっそり動画で撮影してSNSに投稿したような場合に、その書き込みが拡散してしまうと、その従業員を雇用している会社に対して社会的な非難を向けられることになります。
ニュースなどのメディアで報道される可能性もあります。
たとえば、2019年7月17日には、テレビ東京の報道番組「ゆうがたサテライト」において宗教団体「アレフ」の信者を特定できる状態で放送されたことについて、肖像権侵害を理由として放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会で審理入りを決定したと報じられています。
このようなケースからは、肖像権を侵害していると法律上評価されるかどうかということとは別に、そのような疑いのある行為自体がトラブル・損失を招くということも学び取れます。
肖像権侵害と評価できる行為の基準を知る
以上、肖像権侵害があった場合に侵害者にどのような責任が発生するかを見てきましたが、そもそも何をすれば肖像権侵害となるのでしょうか。
法律で定められているわけではないので、過去の判例の蓄積によるのですが、以下のような要素を満たす場合は肖像権を侵害している可能性が高く、注意が必要です。
- 被写体の容貌がはっきりと確認できる写真で
- 本人から公開の許可を得ていない画像・動画を
- SNSなど拡散することが容易なところへ公開すること。
1. 被写体の容貌がはっきりと確認できる写真
肖像権が保護するものは、「自分の容姿を勝手に掲載されたくないという権利」です。
とすると、ある写真が掲載されていても、それが自分だとわからないようなものに対してまで損害賠償や掲載中止を認めさせるのは行き過ぎ、ということになります。
つまり、被写体の容貌がはっきり確認できるような写真であることが必要です。
よく写真を利用する際に、顔にモザイクが入っているものを見ますが、それは肖像権侵害を主張されないために、この要件に該当しないようにするための措置です。
2. 本人から公開の許可を得ていない画像・動画
肖像権の場合、自分の意思に反して写真や動画などの公開をされないということが保護される法益であるため、本人が許可をしている場合には損害賠償や差止めを認める必要はありません。
ただし、この許可には撮影の許可のみはあっても、公開の許可はしていない、ということもありますので、許可は公開についてまで得るようにしましょう。
書面や電子メールなどを利用して、被写体の方から許可を得たことを証拠として残しておくことも有効です。
3. SNSなど拡散することが容易なところへ公開すること
肖像権は、広くいろんな人に自分が意図しない写真や動画が出回わらない、という利益を守るものですので、知人や友人に見せる程度のものなら問題ありません。
ただし、カメラマンなどがポートフォリオとして外部の人に公開する場合には、公開する先と事前に守秘義務契約(NDA)を結んでおくことが安全でしょう。
4. 肖像権侵害の実例を見てみよう
以上を念頭に入れながら、実際の肖像権侵害の実例を見てみましょう。
画像を勝手にSNSに投稿するような行為は、当然ながら肖像権の侵害にあたります。
たとえば、浅草の街並みを撮っているようなときに、浴衣の女性が風景に合うと考えて勝手に撮影をして、それをInstagramやTwitterに投稿する、というような事が挙げられます。
また、マッチングサイト等に他人の画像を勝手に利用するような行為も当然ながら肖像権侵害となります。
肖像権侵害になるケース・ならないケースは?
肖像権侵害になるか否かは、①被撮影者の社会的地位、②被撮影者の活動内容、③撮影の場所、④撮影の目的、⑤撮影・公表の態様、⑥撮影・公表の必要性等を総合考慮して、撮影によって被撮影者の権利侵害が社会生活上受任の限度を超えるか否かで判断されます。
肖像権侵害になる可能性があるケース
例えば、公開されることが前提となっていないプライベートで撮影した写真が被撮影者に無断でSNS上にアップロードされたケースでは、肖像権の侵害になる可能性があります。
肖像権侵害になる可能性が低いケース
例えば、複数人が撮られた写真等で一人一人の顔の判別ができないような場合や公園等の公共の場所で撮影された写真にたまたま自分が映り込んでいた場合等には肖像権侵害になる可能性が低いといえます。
事業者が肖像権侵害をしないためには
では、事業者が肖像権侵害をしないためにはどのような措置が必要でしょうか。
1. しっかり肖像権について周知・教育を行う
まずは、写真や動画コンテンツを扱う担当者が、どのような事をすると肖像権侵害となるのかをきちんと把握しておくが必要です。
たとえば、本人の同意は撮影のみならず公開の許可まで得る必要がある、など細かい部分まで知っておく必要はあるでしょう。
同時に、新しくその部署や事業部門に配属された社員への研修や理解度確認テストを行うなども必要かもしれません。
2. 会社として肖像権に違反しない体制を敷く
会社の従業員と一括りに言っても、様々な立場で人が関わっている場合がありますので、全員が完全に肖像権や著作権などについて正確に理解できるようにする、というのは現実的には難しい場合があります。
そのため、会社として肖像権侵害をしないような業務体制を整えておくことが必要です。
たとえば、写真の取扱いに関して、肖像権侵害に関する事項をチェックリストにして検査をクリアしたもののみ利用する、公開業務を行うスタッフは肖像権侵害のチェックが済んでいない画像ファイルが入ったフォルダにはアクセスできないようにするなど、業務フローの中で肖像権侵害をしないような体制を構築することも重要です。
肖像権侵害をされた場合の対処法
次は、肖像権を侵害された側として、どのような方法で肖像権侵害者に画像の削除や損害賠償を求めていくのかを見ていきたいと思います。
1. 肖像権侵害をされた場合にできること
肖像権侵害が発生している場合、被害者側にはどのようなことができるのでしょうか。
この場合、被害者は、侵害をした人(企業)に対し、民法709条に所定されている不法行為に基づく損害賠償請求権を有している可能性があります。
また、侵害行為の差止請求ができる場合もあります。
このように肖像権侵害があった場合には、損害賠償請求(金銭的な解決)を行い、差止請求(侵害状態の解消)を行うことができる場合があります。
2. 手続を知る
それでは、不法行為に基づく損害賠償請求や、差止請求はどのように行うのでしょうか。
交渉
相手に民事の請求となると「裁判」というイメージを持っている方も多くいらっしゃると思うのですが、実際にはいきなり裁判をするケースは多くありません。
多くの場合、内容証明郵便の送付や電話・対面による交渉によって、画像や動画コンテンツの掲載の削除や損害賠償請求を求めます。
ただし、掲載の取下げに応じることはあっても、裁判外で任意に交渉しても損害賠償の支払いには応じないケースが多くあります。
というのも、肖像権侵害が発生していたとしても損害額の算定が難しいからです。
肖像権を侵害された方がご自身で電話をかけたり訪問をしたりしても「担当者からあらためてお電話させます」といった対応でたらいまわしにされるなど、相手が全く応じないようなケースの場合には、本格的に請求することを示唆するために内容証明郵便を利用して削除等を請求することがあります。
内容証明郵便とは、郵便法に規定のある郵便物で、文書の内容を証明してもらうために利用する郵便です。
送った文書の内容を証明でき、配達証明をつけると相手に到達したことを証明してくれる、というものなのですが、本格的に法的な請求を行うという場合にはよく使われます。
請求した内容と到達した日が記録される上、改まった形式での請求となることから、請求した事実を残すことができ、相手方への心理的プレッシャーを与える効果もあります。
内容証明郵便は、1枚あたりにつきどれだけの文字数を入れるか、どのような文字を使うことができるか、送付にあたっての差出人・受取人などの名称をどのようにするか、どのように提出するかなどのルールが決まっているので、郵便局のホームページで確認しましょう。
参考:内容証明|郵便局
記載する内容としては、具体的に相手のどのような行為が肖像権の侵害をしているのか、求める損害賠償金額及びその根拠、掲載の削除・中止を求めること、その対応をいつまでにするべきか(例「本書面到着1週間以内に…」)、対応がない場合には法的な手段も辞さないこと、などを記載します。
裁判の提起
上記の対応がなかったような場合には民事裁判の提起をします。
損害賠償の請求を求めるのであれば、140万円を超える請求をする場合には管轄の地方裁判所に、140万円以下の場合には管轄の簡易裁判所に提起することになります。
掲載の差止めも求める場合には、地方裁判所に申立てをします。
裁判手続は、訴訟の場合ですとまずは訴状を作成します。作成した訴状に訴額に応じた金額の印紙を貼り、それを裁判所に提出します。
裁判と言うと判決で白黒はっきり決着をつけるイメージですが、裁判の終わり方として一番多いのが「和解」という話合いでの解決です。
裁判外で和解をして、相手が肖像権侵害の損害賠償を和解金の支払いという形で行い、画像の掲載を止めたら訴訟を取り下げるというような方法で行われることもあれば、訴訟の中で和解をするということもあります。
最後まで相手が争うような場合には「判決」(裁判所が下す命令)という形になります。
判決が出ても相手が支払をしない場合には、相手の財産を差し押さえてそこから強制的に回収を行う強制執行手続を行うことも視野に入れなければなりません。
肖像権侵害が認められた事例
① 東京地判令和2年9月24日
夫が妻を飲食店内で撮影した動画をインスタグラムに投稿したところ、第三者が当該動画の一部を画像として保存し、当該夫妻に無断でインターネット上に投稿した事案で、裁判所は肖像権侵害を認めました。
② 最判平成17年11月10日
和歌山カレー事件の被告人が法廷で手錠や腰縄を付けた状態でいるところを、マスコミの記者が裁判所の許可を得ずに隠し撮りして週刊誌に掲載した事案で、裁判所は肖像権侵害を認めました。
③ 東京地判平成17年9月27日
胸部に大きく赤い文字で「SEX」というデザインが施された衣服を着て銀座の横断歩道上を歩く女性の全身像をその容貌がはっきり分かる形で撮影し、東京の最先端のストリートファッションを紹介する目的でファッション協会が運営するウェブサイトに掲載した事案で、裁判所は肖像権侵害を認めました。
弁護士などの専門家を活用しよう
このような紛争になる場合には、弁護士への依頼を念頭に置かなければなりません。
この項目では、弁護士に肖像権侵害に関する相談・依頼することについてお伝えします。
1. 弁護士に相談するメリット・デメリット
まずは弁護士に相談するメリット・デメリットを整理しましょう。
弁護士に相談するメリット
弁護士に相談するメリットの一つは、法的な判断や手続に関する助力を受けられることです。
肖像権侵害にあたるのか、あたるとしてどの程度の違法性があるものなのか、どの程度の請求ができるのか、などの法的な判断・見通しをしてもらうことができます。
また、内容証明の作成や訴訟手続などの法的手続の一連のフローもことができます。
さらに、弁護士に相談・依頼をすることで、冷静で効果的な行動・対応をすることができます。
紛争に発展している場合に当事者同士が面と向かって交渉をすると、感情面での対立が原因で、かえって解決から遠ざかってしまうこともあります。
法律の専門家である弁護士が介入することで、侵害行為の差止めや損害賠償のために合理的な行動を選択できます。
弁護士に依頼するデメリット
弁護士に相談・依頼するにあたっては費用がかかります。
近年では無料相談をやっている法律事務所が多くなってきましたが、1時間1万円〜数万円程度の相談料がかかることが多く、依頼となると着手金や成功報酬が発生します。
2. 肖像権侵害に関して弁護士ができること
肖像権侵害をされた場合、弁護士ができることはどのようなことでしょうか。
交渉や裁判手続など、すべての法律行為を金額に関係なく本人の代理人として行うことができるのは弁護士だけです。
肖像権侵害については、損害賠償だけというような単純な交渉ではありませんので、すべてを任せてしまいたい場合には弁護士に相談・依頼するのがベストであるといえるでしょう。
ただ、弁護士といっても様々な専門領域を持っている人がいるので、肖像権の問題は現在ではインターネットと切っても切り離せない問題なので、インターネット問題に詳しい弁護士を探すのが良いでしょう。
まとめ
このページでは肖像権侵害についてお伝えしてきました。
明確な法律上の規定がないため、判例等にベースのある難しい権利なのですが、近年では重要な権利として認識されています。
肖像権が問題になりうる事業を行う事業者の方々は概要だけでも把握しておき、必要に応じて弁護士と相談しながら、肖像権侵害をしないように注意をしましょう。
- 得意分野
- 企業法務・コンプライアンス関連、クレジットやリース取引、特定商取引に関するトラブルなど
- プロフィール
- 岡山大学法学部 卒業 明治大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内の法律事務所に所属 大手信販会社にて社内弁護士として執務 大手金融機関にて社内弁護士として執務