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更新日: 投稿日: 弁護士 後藤 亜由夢

賃料減額請求とは?法的根拠・効果発生時期・交渉時の注意点も解説

賃料減額請求とは?法的根拠・効果発生時期・交渉時の注意点も解説
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響を受け、毎月の固定費を削減するために賃料減額請求を行う会社や個人事業主が急増しています。

「来月から賃料を減額してもらえるようにオーナーと交渉したいけれど、交渉をスムーズに進めるために賃料減額請求の法的根拠などについて理解しておきたい」「交渉が成立した場合は過去に遡って賃料が減額されるのか知りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、賃料増減請求権の意義と法的根拠、賃料減額請求が認められる条件、賃料減額請求を行う際の賃貸借契約書のチェックポイント、賃料増減効果の発生時期、賃料減額請求をめぐる裁判例、賃料減額交渉時の注意点や相談先などについて解説します。

賃料増減請求権の意義と法的根拠

賃料減額請求とはどのような意味を持つのか、どのような法律を根拠としているのか知りたいという方もいらっしゃるかと思います。まずは、法律で定められた賃料増減請求権の意義や目的等について説明します。

1.賃料増減請求権とは

賃料増減請求権は、賃料の改定を求める当事者の一方的な意思表示により、賃料を合理的な金額に改定する権利のことです。土地や建物の賃貸借契約は長期間にわたり継続する場合が多いですが、不動産の価値は経済情勢等により変動します。不動産の価値が変動したにも関わらず、賃貸借契約を締結した当時に定めた賃料がそのまま維持されるのは、当事者間における公平性の観点から問題となりえます。そこで、当事者間の公平性を保つために、賃料増減請求権が認められています。

2.賃料増減請求権の法的根拠

賃料増減請求権は土地については借地借家法第11条、建物については同法第32条で定められています。賃料増減請求は一般的に「事情変更の原則」を具現化した法規定であると解釈されています。「事情変更の原則」は、契約締結時に前提とされた事情がその後に大きく変化し、当初の契約の内容のまま履行すると当事者間に不公平が生じる場合に、契約の解除または変更を認める法原理のことです。

3.参考:改正民法の規定

上記借地借家法第11条及び第32条の規定とは別に、2020年4月に施行された改正民法では、第611条第1項において、賃貸物件が賃借人の責めに帰することができない事由により使用及び収益できなくなった場合には賃料の減額が認められると定められています。改正前は、賃借物の一部滅失のみが賃料減額の条件として記載されていましたが、改正後は、使用及び収益できなくなった場合にも減額が認められると明記されました。
民法第611条第1項は、「賃貸物件が賃借人の責めに帰することができない事由により使用及び収益できなくなった場合」に賃料の減額請求を行うことができる規定であるのに対し、借地借家法第11条及び第31条は「経済事情等の変動により賃料が不相当になった場合」に、将来の賃料の減額請求ができる規定であるという点で、異なる規定です。
本記事では、以下、借地借家法第11条及び第31条の賃料減額請求について中心に述べていきたいと思います。

賃料減額請求が認められる条件

借主側にとっては、事業上、賃料は固定費となるため、できる限り安く抑えたいものです。借主側からの賃料減額請求が認められるためには、具体的にどのような要件が必要なのでしょうか。賃料減額請求が認められるための法律上の要件について説明します。

1.土地建物に対する価格の低下その他の経済事情が変動した場合

借地借家法上の建物の賃料減額請求が認められるための要件の一つとして、土地建物に対する価格の低下その他経済事情の変動が必要となります。裁判例においては、経済事情の変動については、同法第11条第1項及び第32条第1項に明示されている土地・建物の価額の変動の他、物価や所得水準の変動、経済活動の制限等、一般的に賃料と関連がある事情は全て考慮されるべきとされています。経済事情の変動を示す客観的な指標としては、消費者物価指数や家賃指数などが用いられる場合もあります。

2.近隣の賃料相場が下落した場合

前述したとおり、賃料増減請求は「事情変更の原則」に基づく法規定なので、経済事情の変動に限らず、賃料の決定にあたり契約締結時に前提とした事情がその後に変化した場合にも、賃料減額請求が認められる可能性があります。例えば、契約締結時には周辺地域で大規模な再開発が行われる計画があったが、契約後にその計画が中止された場合は、賃料減額請求が認められる可能性があります。
また、近隣の賃料相場水準が下落した場合にも賃料減額請求が認められるケースが多いです。ただし、賃料は当事者間の個別事情を元に決定される場合もあるため、近隣の賃料相場水準との差異のみを理由に認められるとは限りません。

3.土地建物に対する租税その他の負担が増減した場合

借地借家法第11条第1項及び第32条第1項には、土地建物に対する租税その他の負担が増減した場合にも、賃料減額請求が認められる旨が規定されています。
もっとも、上記1~3の要件は例示にすぎず、あくまで賃料決定と相関関係にある一切の経済事情の変動を考慮して、合意していた従前賃料が不相当といえるかにより、賃料減額請求が認められるか否かが決定されることになります。

4.参考:改正民法による賃料減額請求の要件「不可抗力により建物が使用・収益できなくなった場合」や、「不可抗力により建物の一部が滅失した場合」

前述のとおり、改正民法第611条第1項では、「借主に帰責事由(過失や故意)がなく、建物が使用・収益できなくなった場合」には、賃料の減額が認められると定められています。「借主の帰責事由がなく」建物が使用収益できなくなった場合とは、借主の責任と無関係な不可抗力により建物が使用・収益できなくなることです。例えば、地震による建物の崩壊、集中豪雨による浸水等、自然災害の影響で建物が使用できなくなるケースが典型的な事例といえるでしょう。

また、収益できなくなった場合も含まれるので、新型コロナウイルス拡大防止のための緊急事態宣言下で自治体からの休業要請を受けて、借主が賃貸している店舗で営業できなくなった場合にも減額が認められる可能性があります。

また、改正民法では、借主に帰責事由がなく、建物の一部が滅失した場合も賃料の減額が認められると定められています。建物の一部が滅失したと認められるか否かは、社会通念上、一般的に通常の居住が不可能になるレベルにあるか否かが判断基準となります。
例えば、トイレやエアコンが壊れて全く使用できない状態の場合、減額が認められる可能性が高いでしょう。ただし、建物の老朽化による窓からの隙間風やドアの開閉の不具合等、居住を妨げない程度の設備の不具合の場合は、賃料減額は認められない可能性が高いです。

賃貸借契約書のチェックポイント

賃料減額請求が認められるか否かは賃貸契約書の内容に左右される場合もあります。賃貸契約書で確認が必要なポイントについて説明します。

賃貸契約書で最初に確認すべき点は賃料不減額特約の有無です。賃料不減額特約とは、一定の期間賃料を減額しない旨の特約のことです。まず、賃料不増額特約については、借地借家法第32条第1項には以下のように定められています。
「契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」
この条文のただし書きには、「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合は特約に従う」と記載されていますが、減額しない旨の特約がある場合については明記されていません。そこで、契約期間中は賃料を減額しない旨の特約(賃料不減額特約)の有効性が問題になります。この点、原則として賃料不減額特約は無効と解されています。その理由は、借地借家法第32条第1項ただし書きがわざわざ「増額しない旨の特約がある場合は特約に従う」と規定している以上、賃料を減額しない旨の特約はできないと解するべきである、と考えられているからです。したがって、賃料不減額特約があっても、その特約は無効といえるため、減額請求が可能となります。
(もっとも、例外的に定期建物賃貸借(借地借家法38条1項)においては、同法第38条第7項により、賃料不減額特約が有効とされています。)
なお、借地契約についても、同法第11条第1項ただし書きに賃料不増額特約の規定が存在します

新型コロナウイルスの影響により賃料の支払が困難になり、改めて賃貸借契約書を見直したという方もいるかもしれません。もし、賃貸契約書の中に賃料不減額特約の規定がある場合でも、定期建物賃貸借以外であれば、上記の賃料減額請求の要件さえ満たせば、賃料減額請求が認められるといえます。

賃料減額効果の発生時期

減額請求が認められた場合、いつから減額となるのでしょうか。賃料減額効果が発生するタイミングについて説明します。

1.過去に遡って減額請求することは原則不可

賃料減額請求の効果は、その意思表示が相手方に到達した時点で発生するとされています。賃料減額請求権は、将来の賃料を適正な額に変更させる効果を持つ形成権と呼ばれる権利なので、過去に遡って減額請求することは原則として認められていません。
この点、前述した新民法第611条第1項は、賃貸物件が「賃借人の責めに帰することができない事由により使用及び収益できなくなった場合」における賃料の減額請求であるため、過去(使用収益できなかった期間)の賃料の減額請求といえる点で異なります。

2.協議中・紛争中の賃料について

借主が減額請求をした際、貸主との間で適正な賃料を巡って見解が対立することは珍しいことではありません。意見が対立した場合は訴訟に発展する場合もあり、賃料の確定までに時間がかかるケースもあります。その場合、賃料が確定するまでの間は、貸主が「相当と認める賃料」として、暫定的に借主が従来どおりの賃料相当額を支払う必要があります(借地借家法第32条第3項)。従来どおりの賃料を支払わずに借主自身が妥当だと思う額を勝手に減額して支払った場合、債務の一部不履行とみなされる可能性があるため、注意が必要です。暫定的に支払った賃料が、後に訴訟等で確定した賃料を超えていた場合、賃料確定後に清算され、貸主が超過額に年1割の利息を付けて借主に返還することになります。

賃料減額請求を巡る裁判例

賃料減額請求を巡って争われた裁判において、賃料減額請求が認められた事例と認められなかった事例をご紹介します。

1.最高裁で賃料減額請求が認められた事例

こちらは、原審では否定された借主の賃料減額請求が最高裁で認められた事例です(最高裁判所平成17年3月10日判決)。

①事案の概要

この事案は、貸主が借主の営業に適した大型スーパーストアを建築して賃貸するオーダーメイド賃貸で、借主が貸主に対して賃料減額請求したことが紛争のきっかけとなりました。貸主は借主の賃料減額請求には応じず、賃貸契約書の特約に基づく増額改定が行われたと主張し、借主に対して未払賃料と遅延損害金の支払を求めました。

②賃貸契約書の内容

この事案では、貸主が将来に渡って安定した賃料収入を得ること等を目的として、3年ごとに賃料を増額するものとし、初回改定時は賃料の7%を増額し、その後の改定時は最低5%以上を増額する旨の特約を付した賃貸借契約が締結されていました。

③判決内容

最高裁判所は、借地借家法第32条第1項の規定は、強行法規であり、賃料自動改定特約等の特約によってその適用を排除することはできないものであるとし、借主の賃料減額請求の行使を認めました。
また、同判決では、賃料を減額すべき事由を見出すことは困難であるとして賃料減額請求の行使を否定した原判決について、借地借家法第32条第1項に規定する事情を考慮せず、公租公課の上昇と借主の経営状態等の特段の事情のみを考慮して判断したため、同項の解釈適用を誤ったものであると判事されました。

2.賃料減額請求が認められなかった事例

次にご紹介するのは、借主が主張した賃料減額請求が認められなかった事例です(東京高等裁判所平成24年7月19日判決)。

①事案の概要

オフィスビルの借主が、近傍同種の建物の賃料相場の下落を理由として、借地借家法第32条第1項に基づき、建物の借賃の減額を請求した事案です。この事案では、減額請求時点における賃料減額事由の有無が主な争点となりました。

②当事者間の契約の内容

この事案では、当事者間で以下のような約定が締結されていました。

  • 契約更新時の協議により賃料の改定が可能
  • 契約期間中でも、経済情勢の変動が著しい場合は更新時期を待つことなく賃料の改定が可能

③判決内容

この事案は、原審で借主が主張する賃料減額事由が認められないとされて請求が棄却された後、原告が控訴しましたが、控訴も棄却されました。
東京高等裁判所は、借主が主張した前回の賃料改定時以降の賃料相場の変動は、契約時に想定した範囲内の変動に過ぎず、約定に規定されている“変動が著しい場合”には該当しない等と判断しました。

賃料減額請求交渉を行う際の注意点

賃料減額請求は当事者間の利益が相反するため、トラブルに発展しないように慎重に進める必要があります。賃料減額請求の交渉を行う際に注意すべきポイントについて説明します。

1.貸主との信頼関係を壊さないよう配慮すること

賃料減額請求の交渉を行う際は、貸主との信頼関係を壊さないように慎重に進めることが大切です。「来月から賃料を○円に下げてください」などと、自分の都合で決めた額を一方的に提示してはいけません。「適正な金額について相談させていただきたい」というスタンスで交渉に臨みましょう。
また、交渉が思い通りに進まなかった場合でも「希望通りの賃料にしてもらえないなら出ていきます」などと発言してはいけません。このような強気な発言をすると、貸主側の心証を害して、(法的に認められるかは別として)本当に退去を求められる可能性もありますので注意が必要です。

2.減額を希望する理由と根拠を示すこと

交渉の際は、減額を希望する理由とその根拠をしっかり説明することが大切です。経済事情の変動を理由に減額を希望する場合は公的機関が公表している消費者物価指数や失業率に関する資料、推移を示す資料等が役立ちます。近隣同種の家賃相場の減少を理由に減額を交渉する場合は、不動産会社が公表している近隣の家賃相場の資料や、不動産鑑定士が作成した適正家賃評価額の算定資料等が有効な資料になるでしょう。

具体的な交渉の手順や注意点についてはこちらの記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。

まとめ

今回は、賃料増減請求権の意義と法的根拠、賃料減額請求が認められる条件、賃料減額請求を行う際の賃貸借契約書のチェックポイント、賃料減額効果の発生時期、賃料減額請求をめぐる裁判例、賃料減額交渉時の注意点や資料等について解説しました。

賃料減額請求をする際は当事者間における賃貸借契約書をベースとして、客観的かつ具体的な事情を総合的に考慮する必要があり、円滑に進めるためには法律の専門知識が不可欠です。当事者間での交渉が難航しそうな場合は早めに弁護士に相談することをおすすめします。

我々東京スタートアップ法律事務所は、法務・経営・会計のスペシャリストとして、中小企業やスタートアップ企業のサポートに全力で取り組んでいます。お電話やZoom等のオンライン会議システムによるご相談も受け付けていますので、賃料減額請求や資金繰り等の問題を抱えていらっしゃる方はお気軽にご相談いただければと思います。

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執筆者 弁護士後藤 亜由夢 東京弁護士会 登録番号57923
2007年早稲田大学卒業、公認会計士試験合格、有限責任監査法人トーマツ入所。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録。監査法人での経験(会計・内部統制等)を生かしてベンチャー支援に取り組んでいる。
得意分野
企業法務、会計・内部統制コンサルティングなど
プロフィール
青森県出身 早稲田大学商学部 卒業 公認会計士試験 合格 有限責任監査法人トーマツ 入所 早稲田大学大学院法務研究科 修了 司法試験 合格(租税法選択) 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社