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改正産業競争力強化法が2021年施行に・主な改正内容を解説

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アベノミクスの一環として2014年に制定された産業競争力強化法は2018年の改正を経て、2020年に「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」によって再び改正され、2021年6月に改正法が施行されました。

今回は、産業競争力強化法が制定された背景、今回の法改正の主な内容などについて解説します。

産業競争力強化法に関する基礎知識

1.産業競争力強化法制定の背景

産業競争力強化法が制定された背景には、1991年のバブル崩壊以降の長期的な経済停滞がありました。バブル時代の過剰な投資に対する反省から産業界は投資に消極的になり、それが「失われた20年」と呼ばれる低成長時代をもたらす原因となりました。
そこで、産業を活性化させるために構想されたのが、第二次安倍内閣(2012~2014年)におけるアベノミクスです。
アベノミクスとは、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」という「三本の矢」で日本経済の再興を図ろうという経済政策です。その中の第三の矢にあたる「投資を喚起する成長戦略」を実行するために策定されたのが産業競争力強化法です。

2.産業競争力強化法の狙い

2014年に施行された産業競争力強化法の狙いは、日本経済のゆがみの原因である3つの「過」を是正して産業を活性化することにあります。

①過少投資

バブル崩壊以降デフレが深刻化し、期待成長率が伸びなくなったため企業は設備投資を控えざるを得ない状況になりました。加えて2008年9月のリーマンショックによる世界的な金融危機、2011年3月に発生した東日本大震災及び福島第一原子力発電所の事故等の影響を受けて民間設備投資の水準は大幅に落ち込みました。
一方で、多額の内部留保を蓄積している企業が多いことから産業競争力が強化されて設備投資が活発になれば日本経済の再興が期待できるといえます。

②過剰規制

戦後の日本が築き上げた規制依存型経済システムは高度成長期には機能していました。しかし、生産規制、販売規制、環境規制、免許制、参入規制等の過剰規制は、東西冷戦構造の崩壊を契機とした90年代以降の世界市場の構造変化への対応力を極度に低下させました。

③過当競争

グローバル競争が激しくなる中、欧米やアジア諸国ではM&A等の事業再編が活発化しているため、寡占化と企業規模の巨大化が進んでいます。
これに対して日本では、国内企業同士での過当競争が続き、日本企業の収益性を低下させる原因となっています。

今回の法改正の主な内容

コロナ危機下の2020年の改正(2021年6月施行)では、グリーン社会への転換、デジタル化への対応、新たな日常に向けた事業再構築、新たな日常に向けた事業環境の整備を主軸として、事業者への支援制度等が強化されました。今回の法改正の主な内容について説明します。

1.グリーン社会への転換

①カーボンニュートラル実現に向けたCO2削減のトランジション推進のための金融政策

菅総理が2020年10月の所信表明演説で「宣言」として掲げた2050年のカーボンニュートラル(脱炭素社会)実現に向けて、着実なCO2削減のための取組み(トランジション)を進める10年以上の計画を策定し、事業所管大臣の認定を受けた事業者を対象としたツーステップローンと成果連動型利子補給制度を新設しました。

②カーボンニュートラルに向けた投資促進税制

民間企業による脱炭素化投資の加速を支援するため、産業競争力強化法の計画認定制度(同法第9条)に基づき、以下の設備導入に対して最大10%の税額控除又は50%の特別償却を新たに措置しました。(適用期限令和5年度末:措置対象となる投資額は500億円までで、控除税額は後述のDX投資促進税制と合計で法人税額の20%まで。)

(1)大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備導入

エネルギーの利用による環境負荷低減効果が大きく、新たな需要の拡大に寄与することが見込まれる製品の生産に専ら使用される設備(機械装置)の導入が対象となります。

  • 措置内容:税額控除10%又は特別償却50%
  • 製品イメージ:化合物パワー半導体、燃料電池等

(2)生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備導入

事業所等の炭素生産性(付加価値額÷エネルギー起源CO2排出量)を相当程度(1%以上)向上させる計画に必要となる機械装置、器具備品、建物附属設備、構築物の導入が対象となります。

  • 炭素生産性の向上と措置内容:
    3年以内に10%以上向上:税額控除10%又は特別償却50%
    3年以内に7%以上向上:税額控除5%又は特別償却50%
  • 計画イメージ:外部電力調達を一部再生エネルギーに切替え+生産工程の生産設備を一部刷新+エネルギー管理設備新規導入

2.デジタル化への対応(情報技術事業適応認定制度)

①DX(Digital Transformationデジタルトランスフォーメーション)投資促進税制

ウィズコロナ・ポストコロナ時代を見据え、デジタル技術を活用した企業変革(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためには経営戦略・デジタル戦略の一体的な実施が不可欠です。
このため、産業競争力強化法に新たな計画認定制度を創設しました(同法第9条)。部門・拠点ごとではない全社レベルのDXに向けた計画を主務大臣が認定した上で、DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資に対して税額控除(5%/3%)又は特別償却30%を措置しました(適用期限は令和4年度末まで)。
詳細については、財務省公式サイト内のこちらのページでご確認下さい。

3.「新たな日常」に向けた事業再構築

コロナ禍の厳しい経営環境の中で赤字経営が続いても、ポストコロナに向けて事業再構築・再編等の経営改革に果敢に取り組む企業に対して、繰越欠損金の控除上限(現行50%)を引き上げる措置を講じました。

産業競争力強化法に新設された新たな計画認定制度により、事業再構築・再編等に向けた投資内容を含む計画を事業所管大臣が認定し、当該認定を受けた企業についてコロナ禍に生じた欠損金を対象に最長5事業年度の間繰越金の控除上限を投資の実行金額の範囲内で最大100%に引き上げます。

4.「新たな日常」に向けた事業環境整備

①規制改革の推進

(1)場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)に関する制度の創設

現行会社法では、株主総会を招集する場合にはその「場所」を定めなければならないと規定され(会社法第298条1項1号)、実際に開催する株主総会の場所を有しないバーチャル空間でのみ行う方式での株主総会(バーチャルオンリー株主総会)は解釈上難しいとされていました。
しかし、バーチャルオンリー株主総会は株主の参加が容易になる・運営コスト削減ができる・感染症リスク低減にもつながることから、産業競争力の強化に資するとしてバーチャルオンリー株主総会開催を可能とする特例を設ける要望が強まっていました。

今回の法改正により、上場会社は、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合に限り、株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることができる旨を定款に定めることができ、この定款の定めのある上場会社についてはバーチャルオンリー株主総会の開催を可能となりました(産競法第66条1項2項、産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令)。
場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)に関する制度について詳しく知りたい方は、経済産業省公式サイト内のこちらのページでご確認下さい。

(2)規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)の恒久化

生産性向上特別措置法(特措法)で規定されている「規制のサンドボックス制度」(主務大臣の認定を受けて実証を行い実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しにつなげる制度)が2021年6月に廃止期限を迎えるところ、同制度により多業種で実績が上がったことから恒久化が求められていました。
今回の法改正により、同制度は産業競争力強化法に移管され、恒久化されました(同法第6条~第14条)

(3)民法の債権譲渡通知等の第三者対抗要件の特例

債権の譲渡は、譲渡人が債務者への通知等を確定日付のある証書によってしなければ第三者に対抗できない(その事実の存在を法的に主張できない)とされています(民法第467条1項2項)。
実務上は内容証明郵便が多く使われています。しかし、カーボンニュートラル実現・デジタル化推進の観点から、情報システムによる通知サービスを利用した債権譲渡の通知を有効にする必要性が生じていました。
そこで、今回の法改正により、債権譲渡の通知等が、産業競争力強化法に基づく新事業活動計画の認定を受けた事業者によって提供される情報システムを利用してされた場合には、当該情報システム経由での通知等を確定日付のある証書による通知等とみなす特例が創設されました(産業競争力強化法第11条の2・産業競争力強化法第11条の2第1項2号の主務省令で定める措置等に関する省令)。

②ベンチャー企業の成長支援

(1)大型ベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度の創設

日本国内でも、大規模研究開発型(deep-tech ディープテック)ベンチャー企業が出現し、量産体制の整備のための資金などについては既存株主の株式を希薄化しないデットによる大規模資金調達のニーズが高まっています。
金融機関の側からみると、リスクはあるが潜在的成長力が高いベンチャー企業に魅力はあるものの担保資産が少なく事業見通しも不安定であるため、現状ではノウハウが不足しておりベンチャー向け融資の実績が積み上がらず、実績が上がらないためノウハウが蓄積しないという悪循環に陥っているため、通常の融資手法とは異なるアプローチが必要とされていました。
今回の法改正により、事業計画を認可されたベンチャー企業が行う経産大臣に指定された民間金融機関からの一定の借入れについて独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が債務を保証する制度が創設されました(産業競争力強化法第140条、第134条2項1号)。

(2)ベンチャー企業の再挑戦支援

新型コロナウイルス感染拡大の影響が長期化する中、資金繰りの悪化により事業停止に至る前にベンチャー企業の有望なアセット(有形・無形資産)を切り出し、ニューマネーを投入しつつ承継していくエコシステム(ベンチャー業界の収益構造)が必要とされています。
また、低い時価評価をベースにした新規の資金調達に既存株主が合意していない状況(既存株主の持ち分が大きく低下する)が発生する可能性があります。
既存株主に含み損が発生した場合、現状、投資損失を税務上の損金として確実に計上するには法的整理以外のプロセスが不明確なため法的整理への移行が誘導され、再挑戦を阻害しているとの指摘もありました。
そこで、今回の改正では、中小機構によって資金調達の円滑化や有望資産の再活用によるスタートアップ企業の再挑戦支援が強化されました(産業競争力強化法第133条~第140条)。

③事業再生の推進

(1)企業の機動的な事業再構築を促すための自社株式等を対価とするM&Aの円滑化

令和元年会社法改正前は、被買収会社の株式を譲渡した時点で課税されるという問題等から自社株式対価M&Aがあまり行われていませんでした。

今回の法改正により、M&A推進のために令和元年会社法改正で創設された株式交付制度(会社法第774条の2~11・第811条の2~第816条の10)を用いて、買収会社が自社の株式を買収対価としてM&Aを行う際の対象会社株主の株式譲渡益の課税を繰り延べることが可能になりました(株の売却時に課税されます)。実効的な制度とするため事前認定を不要とし、現金を対価の一部に用いるものも対象とする(総額の20%まで)とともに、恒久的な制度として創設しました(産業競争力強化法第32条)。

(2)株式対価M&A時における反対株主の株式買取請求権の適用除外

現行の産業競争力強化法では、自社株式を対価とすることで現金を使わずにM&Aをしやすくするための措置を講じています。
他方、現行制度においては買収会社の株主保護の観点から、買収に反対する買収会社の株主に対して株式買取請求権を付与しており(会社法第469条)、買取請求権が行使された場合にはこれに応じるため金銭を使うことになります。この場合金銭を使わずに買収できるという株式対価M&Aのメリットが減少するという問題があります。

この点に対応するため、買収会社が上場会社である場合には株主が保有する株式を市場で容易に売却できることを踏まえ、その場合に限って買取請求権の適用除外とする特例を追加しました(産競法第113条)。

(3)事業再編促進円滑化業務の拡充

法改正前の事業再編促進円滑化業務は生産性向上設備の導入資金等に対象を限定されていましたが、コロナ禍で企業の借り入れも増加している状況において、ツーステップローン(主務大臣が認定した事業再編等を実施しようとする認定事業者等に対して、指定金融機関が行う貸付けに必要な資金の貸付け)の対象拡大の必要性が指摘されていました。
そこで、今回の法改正では、特に不足するおそれのある事業再編に必要な資金(大規模な買収資金、構造改善費用等)を対象に追加しました(産業競争力強化法第37条)。

④事業再生の円滑化

(1)事業再生ADRと簡易再生手続連携円滑化等

コロナ禍においては、予防的な意味合いも含めて迅速な事業再生を可能とする環境整備の必要性が指摘されていました。
今回の法改正により、非公表プロセスである事業再生ADR(*1)への金融機関の参加義務が創設されました。金融債権の減免に対して全債権者が合意していない場合は事業再生ADRによる再生手続は不調となりますが、5分の3以上の債権者が合意している場合簡易再生手続(*2)に移行します。
事業再生ADRの手続の最後に「再生計画案の債権カットが事業再生に不可欠である」ことを確認し、裁判所による簡易再生手続開始決定の際は、当該確認がなされていることが考慮されます(産業競争力強化法第54条、第55条)。
事業再生計画案が確定される見込み(予見可能性)を高めることにより、結果的に簡易再生に移行することなく、事業再生ADRでの迅速な事業再生を実現します。

*1 .事業再生ADR:経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者が関与することにより、過大な債務を負った事業者が民事再生や会社更生等の法的整理手続によらずに債権者の協力を得ながら事業再生を図ろうとする取組みを円滑化する制度。法的手続と異なり、手続開始に係る公表義務(民事再生法第35条1項、会社更生法第43条1項等)が存在せず非公表で手続を行うことができるので、公表がもたらす事業価値棄損を回避することができるというメリットがある。

*2 .簡易再生:先行する私的整理による調整において再生計画案に対して全員合意に至っていないケースを想定した公表プロセス。総債権額の5分の3以上を有する債権者の同意がある場合、債権の調査・確定プロセスを省略し、再生計画案の迅速な決議・認可を行う簡易な法的整理手続。

(2)中小機構等による事業再生のつなぎ融資の円滑化等の再生支援機能を強化

中小企業基盤整備機構(中小機構)及び認定支援機関は、中小企業者に対して、その求めに応じて事業の再生に関して必要な指導又は助言を行うことができます(産業競争力強化法第51条)。以前から事業継続のためにつなぎ融資が必要な企業や取引先との事業継続を望む企業による相談が多数寄せられていましたが、コロナ禍で相談件数が急増し、令和2年7月時点で昨年度の総相談件数を上回りました。

私的整理中のつなぎ融資の優先的な弁済について対象債権者が全て同意していること等を確認した債権については優先的な弁済が認められますが、改正前は法的整理に移行した場合他の再生(更生)債権と同様に弁済が禁止され、同一の条件下での権利変更の対象となり事業再生の妨げとなるとともに再生企業の事業価値も棄損するおそれがありました。

そこで、今回の改正では、事業再生ADRと同様に、法的整理への移行を円滑化する仕組みが設けられました(産業競争力強化法第56条)。
私的整理手続の段階で、中小企業者の求めにより中小機構等が以下の2点を確認します。

  • つなぎ融資の弁済について対象債権者が全て同意していること等
  • 商取引債権について早期に弁済しなければ事業再生に著しい支障をきたすこと等

私的整理が不調に終わり法的整理に移行した際、裁判所は上記の確認がなされていることを考慮した上で以下の2点を判断します(産業競争力強化法第57条)。

  • つなぎ融資の弁済について民事再生法の再生計画案において他の再生債権と異なる取扱いを認めるか
  •  商取引債権について民事再生法上の保全処分を命じるか

まとめ

今回は、産業競争力強化法が制定された背景、今回の法改正の主な内容などについて解説しました。

法改正により新設された各種制度の中には、中小企業やベンチャー企業を支援するための制度が多く含まれているので、必要に応じて積極的に活用するとよいでしょう。制度を利用したいけれど、要件や申請方法などがわからないという方は専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

我々東京スタートアップ法律事務所は、法律・会計・経営のプロとして、各企業の状況や方針に合わせたサポートを提供しています。産業競争力強化法に基づく各種制度の活用に関するサポートやアドバイスも行っておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

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執筆者 -TSL -
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