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更新日: 投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

退職勧奨時の弁護士同席の必要性

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退職勧奨は、従業員が自らの意思で退職するよう促すことをいいますが、会社の対応次第では、後から退職を強要されたと主張され、損害賠償を請求されるなどのトラブルが生じることも少なくありません。
このようなトラブルを回避するためには、退職勧奨の場に弁護士を同席させることが有効です。

今回は、退職勧奨に際して弁護士から受けられるサポート、退職勧奨の場に弁護士を同席させるメリット、退職勧奨を拒否された場合の対処法などについて解説します。

【解説動画】TSL代表弁護士、中川が退職勧奨時の弁護士同席の必要性について解説

退職勧奨に関する基礎知識

本題に入る前に、退職勧奨の概要や、退職勧奨でやってはいけないことなど、基本的な内容について簡単に説明します。

1.退職勧奨とは

退職勧奨とは、会社が従業員に対して、自主的に退職するよう促すことをいいます。退職勧奨自体に法律上の効果はなく、従業員自らの自由な意思によって退職を決めるという点が重要なポイントとなります。この点は、従業員の意思に関係なく、会社が一方的に雇用契約を解除する解雇とは大きく異なります。

退職勧奨自体に違法性はなく、会社は、原則として、いつでも誰に対しても退職勧奨を行うことが可能です。ただし、会社が従業員に対して、退職するよう強要することは法律上認められません。強要に該当する行為があった場合は、退職強要にあたる違法な退職勧奨として、退職した従業員から後日損害賠償を請求されるおそれがあるため注意が必要です。

2.退職勧奨でやってはいけないこと

退職勧奨は、あくまで従業員が自主的に、自分の意志で退職するように促すものです。そのため、会社は、従業員が退職を強要されたと感じるような言動をしないよう細心の注意を払うことが求められます。

過去の裁判例では、社会通念上相当と認められる限度を超えて、不当な心理的圧力を加えた場合や、名誉感情を不当に害するような表現を用いた場合、退職勧奨は違法と判断されています(日本IBM事件・東京地方裁判所2011年12月28日判決)。

退職勧奨の際に行うべきでない具体的な対応としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 従業員が退職勧奨を拒否しているのに何度も退職勧奨を行う
  • 1人の従業員に対して複数人で取り囲んで退職を促す
  • 退職勧奨の面談のために長時間に渡り拘束する
  • 勤務時間終了後に居残りをさせて退職勧奨を行う
  • 解雇をほのめかして自主的な退職を促す
  • 退職させるために閑職に回す

退職勧奨を適切に行うための注意点や具体的な進め方についてはこちらの記事にまとめましたので、参考にしていただければと思います。

退職勧奨に際して弁護士から受けられる3つのサポート

退職勧奨に際して、事前に一連の対応について弁護士に相談しておくことで、退職勧奨が違法と判断されるリスクを避けることができます。具体的には、弁護士に相談することで、以下のようなサポートを受けることが可能です。

1.退職勧奨の方針の相談

退職勧奨の方法に関する法律の規定はなく、具体的なルールも定められていません。そのため、あらかじめ、労働関連法規や過去の裁判例に精通している弁護士に相談し、退職勧奨の方針を決めておくことが大切です。
具体的には、以下の内容を決めた上で、一連の流れを組み立てておきます。

  • 退職勧奨の目的(人員削減か、問題社員の解雇に代わる救済措置として行うのか等)
  • 退職勧奨を誰が行うか(直属の上司、人事部の担当者、社長等)
  • どのように伝えて理解を促すか
  • どのくらいの回数をかけて行うか

問題社員に対する退職勧奨の場合、従業員に解雇できるだけの事情があるのか確認し、そのような事情がない場合は現段階で退職勧奨すべきかを慎重に検討すべきです。
円満な退職勧奨を実現するために、退職に応じることを条件として退職金の上乗せなどの優遇措置を提示するケースも多いです。従業員が退職勧奨を拒否した場合に備えて、このような優遇値をどこまで許容するか検討しておくことも重要です。

2.退職勧奨に伴う書類の整備

従業員が退職勧奨に応じ、自主的に辞職の意思を示した場合や、会社と従業員の間で退職の合意が成立した場合は、その内容を書面に記しておきます。辞職や合意退職は、口頭で行うだけでも原則としては有効に成立しますが、退職は特に労働トラブルに発展することが多い類型なので、後日の紛争に備えて書面を残すことにより証拠化しておくことが重要です。

具体的には、退職届、退職条件同意書、秘密保持契約書などを整備しますが、これらの書類は、従業員が退職意思を後から翻した場合に備えて、早めに作成した方が良いです。事前に弁護士に相談して書類を用意しておき、退職勧奨の面談時に日付を記載し署名押印をすれば書類作成が完了する状態にしておくとよいでしょう。

3.退職勧奨の同席

退職勧奨は、企業と従業員の間で感情的対立が生じやすい場面です。第三者であり法律の専門家でもある弁護士が同席することで、退職勧奨に伴う感情的対立が緩和され、冷静な対応により円滑な退職勧奨を実現できる可能性が高くなります。
また、その場で辞職の意思表示を得られた場合は、直ちに必要な書類を作成することができるため、将来的なトラブル発生のリスク軽減にもつながります。

退職勧奨の場に弁護士を同席させるメリット

弁護士によるサポートの中でも、円滑な退職勧奨のために特に有効なのが退職勧奨の面談時の同席です。具体的には、以下の3つのメリットがあります。

1.適正な条件で退職勧奨を進めることができる

退職勧奨を円滑に進めるためには、従業員に対して、通常の退職よりも有利な条件を提示することが大切です。具体的には、退職までの余裕を持ったスケジュール、退職金の上乗せ、再就職先の紹介、転職活動のための有給休暇の追加の付与などです。しかし、従業員からの過度な要求に応じると、会社が必要以上の負担を負うことになります。
弁護士に退職勧奨の場に同席してもらうことで、従業員から提示された退職の条件について、法律上の問題がないか、会社側が過度な負担を負うことにならないか等、法令や過去の裁判例、会社の状況に照らして逐一弁護士が判断することができます。

2.問題社員との交渉を全て任せることができる

弁護士に依頼すれば、企業側の代理人として、従業員との交渉を全て任せることも可能です。
権利意識が強く、自分の権利ばかりを主張するような問題社員に対して退職勧奨をする場合、対応に苦慮する事も少なくありません。そのような場合、弁護士が会社側の代理人として交渉の場に立つことで、問題社員の過度な要求にもひるまず、冷静に対応することができます。
また、退職の条件に関する交渉、必要な書類の作成まで任せることができるので、会社側の負担を大きく減らすことができます。

3.違法な退職勧奨になるリスクを回避できる

退職勧奨の場に弁護士が同席することは、違法な退職勧奨になるリスクを回避することにつながります。
会社と従業員だけで退職勧奨を行うと、感情的な対立が激化し、会社側が従業員に対して心理的威迫を加えたり、名誉感情を不当に害する表現を用いたりすることも珍しくはありません。このような行為は、労働者が自発的な退職意思を形成するために社会通念上相当と認められる限度を超えているとされ、過去の裁判でも不法行為と判断された事例があります。
退職勧奨の面談時に、労働問題に精通した弁護士が同席することにより、細心の注意を払いながら適法に退職勧奨を進めることが可能になります。

退職勧奨を拒否された場合の対処法

退職勧奨では、従業員側に退職するか否かの決定権があります。そのため、従業員が退職勧奨に応じないケースも少なくありません。退職勧奨に応じてもらえない場合はどのように対処すればよいのでしょうか。具体的な対処法について説明します。

1.退職勧奨に応じない場合に取るべき対応

退職勧奨は、従業員が自由意思で退職を決めるよう促すものです。従業員が退職を決めかねているけれど、前向きに検討するという態度を示した場合は、交渉を継続することは可能ですが、明らかに退職を拒否した場合は、それ以上、交渉を継続してはいけません

退職勧奨に応じてもらえない場合、その理由を把握して、理由に応じて適切な対処を行うとよいでしょう。従業員が退職勧奨を拒否する主な理由として、自身の問題行動について認識できていない、退職後の再就職先や生活への不安が大きいことなどが挙げられます。

前者の場合、従業員の問題行動について、事実を踏まえて丁寧に伝え、このまま会社に残った場合のデメリットについて粘り強く説明していく等の対応により、退職に応じてもらえる可能性があります。

後者の場合は、退職金や退職時期、有給の付与など、会社の経営状況を踏まえた上で、条件の交渉を行うことで、退職に応じてもらえる可能性が高まります。

2.解雇を検討

従業員の問題行動が解雇事由に該当するものの、穏便な解決手段として退職勧奨を行ったというケースでは、退職勧奨に応じてもらえない場合、解雇の手続を進めることができます。具体的には、窃盗や横領などの懲戒解雇に該当する犯罪行為があった場合や、勤務態度不良や能力不足などの通常解雇事由がある場合などです。

また、会社が業績悪化により経営継続の危機に陥っている等の事情がある場合は、整理解雇できる可能性もあります。ただし、整理解雇は、会社の都合により従業員を一方的に解雇することになるため、厳しい条件が課されています。整理解雇を行う場合は、慎重な検討が求められます。

まとめ

今回は、退職勧奨に際して弁護士から受けられるサポート、退職勧奨の場に弁護士を同席させるメリット、退職勧奨を拒否された場合の対処法などについて解説しました。

退職勧奨に素直に応じる従業員は少ないため、トラブルに発展するケースは珍しくありません。トラブルに発展するリスクを回避するためには、退職勧奨を行う前に、労働問題に精通した弁護士に相談しながら、どのように進めるか慎重に検討することが大切です。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づき、個別の状況に応じた退職勧奨の進め方等に関するアドバイスをご提供しています。また、退職勧奨の相談だけでなく、退職勧奨の場への同席や、従業員との交渉、書類の整備など、全面的なサポートが可能です。退職勧奨をはじめとする相談がございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社