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雇止めの違法性の判断基準・業績悪化を理由に雇い止めする際の注意点

雇止めの違法性の判断基準・業績悪化を理由に雇い止めする際の注意点
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新型コロナウィルス感染拡大の影響により世界的な景気の衰退が生じる中、多くの中小企業が深刻な影響を受けています。人件費削減の必要に迫られて雇止めをする企業も激増し、社会問題化しています。雇止めとは、アルバイトや派遣社員など期間の定めのある有期契約社員の契約期間満了時に、会社が契約を更新することなく雇用を打ち切ることをいいます。有期雇用契約であっても、雇止めは無条件に認められるわけではなく、解雇と同様に厳しい要件が求められる場合もあるため注意が必要です。

今回は、有期雇用社員の雇止めが違法となるケース、雇止めを適法に行うための要件、業績悪化を理由に雇止めを行う際の注意点などについて解説します。

雇止めとは

雇止めという言葉の意味は漠然と理解しているものの、雇止めと解雇との違いなど、基本的な概念について正確に理解しているか自信がないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。まずは、有期労働契約と無期労働契約の違い、雇止めと解雇との違いなどの基本的な概念について簡単に説明します。

1.期間満了による労働契約の終了

労働契約には、期間の定めのない労働契約(いわゆる正規雇用、無期労働契約)と、期間の定めのある労働契約(いわゆる非正規雇用、有期労働契約)の2種類があります。契約社員、派遣社員、パートタイマーの多くは会社との間で有期労働契約を締結しています。
当事者間の解約や定年に達することがない限り原則として雇用が継続する正規雇用と異なり、有期労働契約は契約期間満了時に当事者で契約更新するか否かを決定します。この際、使用者である会社が労働契約の更新を拒否し、期間満了をもって雇用を終了させることを雇止めといいます。

有期労働契約であっても、契約更新が複数回行われるなど雇用が一定期間継続した場合には、労働者は雇用の継続に対して期待を持つのが通常です。期待に反して、雇止めにより労働契約が終了すると、労働者は思いがけず生活の糧を奪われてしまうことになります。そのため、法律によって雇止めに一定の制限を設けることにより、有期労働契約を締結した労働者の保護が図られています。

2. 解雇との違い

雇止めと似た概念に解雇があります。雇止めと解雇は、使用者である会社側の判断により労働契約が終了するという点は共通していますが、法律上の扱いは異なります。
解雇とは、期間の定めのない労働契約や契約期間中の有期労働契約を、会社が一方的に解除することをいいます。日本では、解雇権濫用法理に基づき、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められない限り、解雇権の濫用とみなされて解雇は無効となります。解雇権濫用法理は、もともと判例の蓄積により確立された判例理論でしたが、現在は労働契約法第16条に明文化されています。従業員の能力不足や勤怠不良などを理由として安易に解雇すると不当解雇(解雇権の濫用)とみなされ、多額の慰謝料や未払賃金を請求されるおそれがあります。
雇止めは、期間の定めのある労働契約を、契約期間の満了を理由に解除することをいいます。契約期間の満了時に契約を解除することは契約上の問題はありませんが、労働者の勤務の実態が正社員と実質的に変わらない場合は、解雇に近い厳格さで違法性が判断されることがあるため注意が必要です。

雇止めが認められる要件

雇止めが違法と判断されるのは具体的にどのような場合なのでしょうか。雇止めの違法性を判断する基準となる雇止めの法理、雇止めが適法になるための条件について説明します。

1.雇止めの法理とは

雇止め法理は、有期労働契約の不更新について解雇権濫用法理を類推適用するという判例理論で、解雇権濫用法理と同様に過去の判例の積み重ねによって確立されました。現在は労働契約法第19条に明文化されています。具体的には、以下の2つのいずれかに該当する場合、雇止めは違法とみなされます。

  • 有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合
  • 労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合

2.雇止めが適法になるための要件

上記2つの類型に該当せず、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められる場合、雇止めは適法となります。例えば以下のような場合、雇止めは適法と認められます。

  • 過去に有期労働契約を更新したことがなく、有期労働契約を締結する際に、「1年間だけの契約になりますが、よろしくお願いします。」などと期間限定の契約であることを明確に伝えている
  • 過去に有期労働契約を一度だけ更新したことがあるが、更新の際に、「次回の更新はありませんので、ご了承ください」などと次の更新を行わないことを伝えている

ただし、上記の場合でも、契約期間中に会社から契約更新の期待を抱かせるような言動があった場合、雇止めが違法と判断されるおそれがあります

3.更新を期待する合理的な理由とは

雇止めを適法に行うためには、労働者が更新を期待する合理的な理由が存在しないことが必要です。更新を期待する合理的な理由の有無が争われた過去の裁判例では、以下の事項を総合的に考慮して、期間満了後も雇用契約が継続するものと期待することに合理性が認められるか否か判断されています。

  • 業務の客観的内容(仕事の内容や勤務形態等が正社員と同一かなど)
  • 契約上の地位の性格(臨時性はあるか、労働条件は正社員と同一かなど)
  • 当事者の主観的態様(継続雇用を期待させる言動の有無など)
  • 更新の手続・態様(契約更新の回数、勤務年数、手続の厳格性など)
  • 他の労働者の更新状況(過去に同様の地位にある他の従業員が雇止めされた例の有無など)

判断の際は、有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間における上記の事項が考慮されます。有期労働契約の契約時または期間が満了する直前に会社側が「契約更新が行われない場合がある」などと説明していたとしても、契約期間中に労働者が更新を期待する合理的な理由が認められると雇止めが違法となる可能性があるという点はしっかり認識しておきましょう。

雇止めの類型

雇止めは、一般的に、純粋有期契約、実質無期契約、期待保護(反復更新)、期待保護(継続特約)の4つのタイプに分類されています。4つのタイプのうち、純粋有期契約タイプは適法とされていますが、残りの3つの類型はいずれも違法とされています。

1.純粋有期契約タイプ(適法)

純粋有期契約タイプは、期間満了後も雇用契約が継続するものと期待することに合理性が認められないものです。前述した事例のように、期間限定の契約であること、または次回の更新がないことを明確に伝えていた場合、純粋有期契約タイプに該当する可能性が高いです。ただし、過去に行われた更新が3回未満で、契約期間中に会社から契約更新の期待を抱かせるような言動が一切ないことが前提となります。
純粋有期契約タイプの雇止めの場合、違法性はなく、契約期間の満了によって問題なく契約関係が終了します。

2.実質無期契約タイプ(違法)

実質無期契約タイプは、期間の定めのない契約と実質的に同等の状態と認められるものです。つまり、形式的には有期労働契約であるものの、業務内容などの実態は期間の定めのない労働契約と変わらないものです。
例えば、正社員と同じ業務に従事していて、契約更新の手続はあるものの形式的に行われているにすぎないようなケースです。また、同様の地位にある労働者に対して、過去に雇止めの例がほとんどない場合も実質無期契約タイプに該当することがあります。実質無期契約タイプの雇止めは、雇止め法理により無効とされる可能性が高いです。

3.期待保護(反復更新)タイプ(違法)

期待保護(反復更新)タイプは、有期労働契約が相当程度反復して更新されたことにより、労働者の雇用継続への合理的期待を認めるものです。
例えば、会社がパート従業員との有期労働契約を3回以上更新しており、結果的に契約期間が長期に渡っているような場合です。このような場合、実質的には期間の定めのない労働契約とほとんど変わりなく、契約期間の満了を理由に突然労働契約を解除することは解雇と同視されるため、雇止めは無効とされる可能性が高いです。
期待保護(反復更新)タイプに該当する場合、実質無期契約タイプとは異なり、業務内容は正社員と同一とはいえず、また同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例があるケースでも、雇止めは無効とされる場合があります。

4.期待保護(継続特約)タイプ(違法)

期待保護(継続特約)タイプは、最初の契約締結の時点から雇用継続への合理的期待が生じていると認められるタイプをいいます。
例えば、会社がパート職員や派遣社員の採用時に「やる気がある方にはぜひ末永く働いてほしいと考えています」などと雇用継続の期待を持たせるような言動をしていた場合です。このような場合は従業員が期間満了後も労働契約が継続するだろうと期待することは自然なことで、その期待が保護されることになります。
期待保護(継続特約)タイプは、過去に一度も契約更新が行われたことがなくても雇止めが無効とされる場合があります。

雇止めが違法とされた裁判例

雇止めが違法とされた裁判例として、雇止め法理が確立するきっかけとなったともいえる有名な事件をご紹介します。契約期間を2か月と記載してある臨時従業員としての労働契約書を取り交わした上で臨時工として雇い入れられた従業員らが、5回から23回に渡って契約が更新された後に雇止めされた事件(最高裁判所第一小法廷昭和49年7月22日判決民集 28巻5号927頁)です。

この事件の原告らは、採用基準、給与体系、労働時間、適用される就業規則等において正規雇用の従業員と異なる取扱いをされていましたが、従事する仕事の種類や内容において本工と差異はありませんでした。また、過去に2か月の契約期間満了によって雇止めされた事例はなく、自ら希望して退職する者を除き、ほとんどの臨時従業員が長期間に渡り継続雇用されている実態がありました。

会社は原告らの採用に際して、長期継続雇用や本工への登用を期待させるような言動をしており、原告らも期間の定めなく継続雇用されるものと信じて契約書を取り交わしており、本工に登用されることを強く希望していたという事情がありました。
裁判所は、契約期間の満了ごとに当然のごとく更新を重ねて、期間の定めのない契約と実質的に同じ状態があったとし、本件各雇止めの意思表示は契約を終了させる趣旨で行われたものであるから、実質的に解雇の意思表示にあたると判断した上で、解雇権濫用法理を類推適用して雇止めを違法としました。
この判例は、上記の4つの類型のうち、実質無期契約タイプに該当します。

業績悪化による雇止めは違法?

新型コロナウィルスの感染拡大による影響など景気の悪化のせいで人件費削減の必要に迫られて雇止めを行う場合でも違法と判断されてしまう場合があるのでしょうか。業績悪化による雇止めが違法と判断される基準や雇止め以外の人件費削減策について説明します。

1.整理解雇と同じ要件が求められるケース

前述した4つの類型のうち、純粋有期契約タイプは適法となりますが、それ以外のタイプは労働契約法違反により雇止めが無効となります。その場合、雇止め法理により解雇権濫用の法理が類推され、解雇と同じ厳格さで正当性が判断されます

解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3つの種類がありますが、業績悪化の影響を受けて人件費削減を目的として行われる解雇は整理解雇に該当します。整理解雇を行うためには以下の4つの要件を満たす必要があるとされています。

  • 人員整理の必要性:深刻な経営危機に陥っている状況で経営再建のために解雇が不可欠であること
  • 解雇回避努力の履行:役員報酬の削減、希望退職者の募集など解雇を回避するために相当の努力を尽くしたこと
  • 人選の合理性:客観的に公平な基準で解雇対象者を選定していること
  • 手続の妥当性:整理解雇について労働者から理解を得るための説明や協議等の努力を尽くししたこと

2.雇止め以外の人件費削減策

整理解雇には上記のような厳しい要件が求められます。4つの要件を満たしていない場合、希望退職者の募集を検討してもよいでしょう。希望退職者の募集は、上記4つの中の解雇回避努力の履行という要件を満たすための手続きとして認められています。また、会社の一方的な意思による雇止めとは違い、原則として労働者本人の意思により退職となるため、適切な方法で行えば、労働者との間でトラブルが発生するリスクを最小限に抑えることも可能です。

雇止めが違法とされた場合のリスク

雇止めが無効だと判断された場合、会社は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で労働者による有期労働契約の更新または締結の申込みを承諾したものとみなされます。例えば、4月1日に契約期間が1年間の有期労働契約を締結しており、契約期間満了時に会社が違法な雇止めをした場合、再度、1年間の有期労働契約が成立することになります。契約期間だけでなく、賃金、労働時間などその他の労働条件も従前の労働契約と同一となります。

違法な雇止めにより労働者が就業できなかった間の賃金は、会社が負担しなければなりません。例えば、3月31日で契約期間が終了し、労働者は4月1日以後、勤務しなかったが、違法な雇止めであったとして裁判を提起して9月30日にこれが確定したとします。この場合、4月1日から9月30日までの半年間は本来であれば労働契約が継続していたにもかかわらず、違法な雇止めにより労働者が就業できなかったことになります。そのため、会社には半年分の賃金を支払う義務が生じます。

働き方改革で設けられた無期転換ルールとは

最後に、雇止めと関係が深い無期転換ルールについて説明します。
無期転換ルールとは、有期契約が更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約に転換できるというルールです。有期労働契約で働く労働者の約3割が通算5年を超えて有期労働契約を繰り返し更新しており、雇止めの不安の中で働いているという実態を解消するために、働き方改革関連法の施行により設けられました。
原則として、期間に定めがある有期労働契約が同一の会社で通算5年を超える全ての労働者が対象となり、契約社員、パートタイマー、アルバイト、派遣社員などの名称は問わず、平成25年4月1日以降に開始する有期労働契約が対象となります。無期転換後の給与などの労働条件は、就業規則等で別段の定めがある部分を除き、直前の有期労働契約と同一の労働条件となります。

まとめ

今回は、有期雇用社員の雇止めが違法となるケース、雇止めを適法に行うための要件、業績悪化を理由に雇止めを行う際の注意点などについて解説しました。

政府は、就業形態に関わらず継続雇用を望む全ての労働者に安定した雇用を保証することを目指して法改正を進めています。今後は各企業が自社で働く全ての従業員に対して安定した雇用を保障できるよう最善を尽くすことが求められるということをしっかり認識しておきましょう。

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