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投稿日: 弁護士 内山 悠太郎

スタートアップが失敗する理由・失敗を回避する方法も解説

スタートアップが失敗する理由・失敗を回避する方法も解説
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日本は、他の先進国と比較してスタートアップが少ないことが知られています。その主な理由として、失敗に対する危惧、身近に起業家がいないことなどが挙げられます。

実際、経済産業省が公開している「起業の意義」という資料によると、日本国内で1980年~2009年に創設された企業のうち約3割が10年後には撤退していたそうです。なぜ、約3割もの企業が撤退に追い込まれてしまったのでしょうか。

今回は、スタートアップが失敗する理由や失敗を回避するための方法について解説します。

スタートアップの失敗とは

そもそも「スタートアップが失敗した」というのは、具体的にどのような状況のことをいうのでしょうか。ハーバード・ビジネス・スクールのトム・アイゼマン教授によると、スタートアップにおける失敗とは、投資家が投資した金額を超える金額を回収できず、今後も回収できる見込みがない状態を指すとされています(トム・アイゼマン著、『起業の失敗大全ースタートアップの成否を決める6つのパターン』、ダイヤモンド社)。

具体的には以下のようなケースが挙げられます。

  • 事業活動を継続しても利益を生み出せず、赤字経営が続くケース
  • 多少の利益は出ているが、初期投資した金額を回収できないケース
  • 事業を売却または株式公開(IPO)をして利益を得ても、利益の総額が投資家から受けた資金額を下回るケース

スタートアップ企業が、事業を軌道に乗せることができず、創業当初に投じた資金を回収できない状態が続けば、いずれは廃業に追い込まれてしまいます。

スタートアップが失敗する主な理由

スタートアップが失敗する主な理由について、アメリカで起業に失敗した80社の創業者へのインタビュー調査の結果を交えながら説明します。

(参考URL:https://www.failory.com/blog/startup-mistakes

1.ターゲット顧客のニーズを理解していない

上記のアメリカの調査において、最も多い失敗の理由として、マーケティングに関する問題が挙げられています。中でも、プロダクトマーケットフィット(Product Market Fit:PMF)の問題を挙げた方が全体の34%を占めています。プロダクトマーケットフィットとは、顧客の抱える課題を解決できる商品やサービスを提供し、その商品やサービスが市場に受け入れられている状態のことをいいます。つまり、プロダクトマーケットフィットに問題があると、製品と市場の適合性が欠如していることになります。

スタートアップの中には、自社で開発した商品やサービスへの思い入れが強すぎて、顧客の現実的なニーズと乖離することがあります。しかし、どんなに革新的だと思える商品やサービスでも、ターゲットとする顧客に必要とされなければ、購入してもらえません。

そのため、商品やサービスの内容や仕様などにフォーカスするのではなく、ターゲットとする顧客のニーズを的確に理解することが大切です。潜在顧客へのアンケート調査やカスタマージャーニー等の手法で、ターゲットとする顧客のリアルな意見を把握し、商品やサービスの開発に取り入れることが、プロダクトマーケットフィットに関する問題の解決につながります。

2.競合分析が甘い

商品やサービスが多様化した今日、多くの市場が競争の激しいレッドオーシャンとなり、未開拓のブルーオーシャンを見つけることは難しいのが実情です。ライバル企業がひしめきあう市場に新規参入して成功するためには、競合他社を分析することは不可欠です。

ライバル企業が商品やサービスをどの程度の価格で提供しているのか、どのような方法で顧客にアプローチしているのか、十分にリサーチを行いましょう。その上で、顧客に自社の商品やサービスを選んでもらうためには、どのように差別化を図るべきか綿密に戦略を練ることが大切です。

3.組織力の問題

組織力に関する問題も、スタートアップが失敗する主な要因の一つです。上記のアメリカの調査においても、人材不足によるチーム力の乏しさにより、戦略の甘さ、実行力の不足などの問題が生じ、メンバーのモチベーション低下にもつながることが指摘されています。

大企業に比べてリソースが限られるスタートアップ企業では、現在どのような人材が自社に存在していて、どのような人材が不足しているのかを的確に把握し、必要な人材を集めてチーム力を高めることが求められます。

スタートアップ企業に必要な人材や、効果的な人材の集め方についてはこちらの記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。

4.資金不足

資金不足の問題も、スタートアップ企業の失敗の原因として必ず挙げられる理由の一つです。 スタートアップ企業では事業計画通りに収益が伸びないことも少なくありません。途中で資金調達が必要な状況に陥っても、スタートアップ企業は実績がなく将来性も不安定なため、必要な資金調達を実現するのは難しいのが実情です。

資金不足による失敗を避けるためには、創業時に十分な資金を用意し、当面の間は収益が伸びないことを想定した上で余剰資金を残しておくことが重要なポイントです。

フェーズ別・失敗を回避するための注意点

事業計画の時点から立ち上げまでの段階と、事業拡大期では、典型的な失敗のパターンや注意すべき点が異なります。それぞれの段階でどのような点に注意すべきか具体的に説明します。

1.事業計画から立ち上げ段階における注意点

事業計画から立ち上げまでの段階では、自社が提供する商品やサービスの価値やビジネスモデルを検証するための人材と資金の確保が重要になります。

この段階は、人材が不足しがちな時期のため、協力してくれる人が見つかるとすぐに重要な役職に付ける、昇進の約束をするなど、好待遇で採用してしまいがちです。しかし、後から能力不足や方針の不一致等の問題が表面化することも少なくありません。また、新規採用したメンバーと既存のメンバーとの間に軋轢が生じることも珍しくありません。新しい人材を採用する際は、その人物が持つスキル、潜在的な能力、適性、人間性などをしっかり見極めた上で、既存のメンバーともよく相談するなど、慎重に検討することが大切です。

また、資金確保の面では、事業計画書をしっかり作成し、今後の収支計画を踏まえた資金配分を考えておくことが重要なポイントです。

スタートアップ企業における事業計画書の役割や資金調達のための事業計画書の注意点などについてはこちらの記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。

2.事業拡大段階における注意点

事業拡大段階では、組織力の充実、資金の確保に加えて、事業の運営体制の確立が重要なポイントになります。

この段階での有名な失敗事例として、本格ピザを格安で提供するチェーン店を展開した遠藤商事HDが、2017年に破産手続開始決定を受けたケースがあります。「500円で本格的なピザが食べられる店」としてメディアでもたびたび紹介され、一時期は国内外に80店以上を展開して2016年9月期には売上高25億円を達成しましたが、最後は約13億円の借金を抱えて倒産に至りました。倒産に至った理由としては、以下のような点が指摘されています。

  • 急成長に人材育成が追い付かなかった
  • フランチャイズ店への研修やサポート体制が不足していた

事業拡大段階では、事業の成長スピードに必要な人材確保が追い付かない、事業の拡大を支える運営体制が確立できていない等の問題が発生することが多いです。

この段階での失敗を回避するためには、短いスパンでPDCAサイクルを回すなど、常に現時点で発生している問題や課題を把握し、改善策を考え、実行することが大切です。人材不足を補うための設備やシステムを導入する等の投資が有効な場合もあるので、必要に応じて検討するとよいでしょう。

また、従業員が数十人を超えた場合、会社の組織化を検討する必要があります。1人のリーダーが管理できる人数は、様々な研究から概ね5~8人、多くても10人程といわれています。従業員が増えた場合は、組織の体制を見直して、組織力を強化することが重要です。

具体的には、社内のミッショントライアングル(重要度が高い順に、ミッション・ビジョン・バリュー・戦略・戦術の概念)を社内で共有し、それに応じた人事評価制度を取ること、権限移譲を含めた中間層の育成をすること等が有効です。

スタートアップで失敗しないための対策

最後に、スタートアップにおける失敗を避けるための具体的な対策について説明します。

1.市場分析の徹底

市場分析を十分に行うことは、自社の商品やサービスを客観的に把握し、顧客のニーズを理解し、競合他社の状況を知ることにつながります。一般的に広く用いられる市場分析の手法を簡単にご紹介します。

①3C分析

以下の3つを軸として分析する手法で、自社の商品やサービスを客観的に把握するために広く用いられています。

  • 顧客:Customer
  • 自社:Company
  • 競合他社:Competitor

これに、国:Countryを入れた4C分析が用いられることもあります。

②PEST分析

以下の4つの観点で分析する手法です。

  • 政治:Politics
  • 経済:Economy
  • 社会:Society
  • 技術:Technology

外部要素を分析して将来の状況を把握する手法で、経営戦略を検討する際によく利用されます。

③SWOT分析

以下の4つの軸で、自社の内部と外部の要素を総合的に分析する手法です。

  • 強味:Strength
  • 弱み:Weakness
  • 機会:Opportunity
  • 脅威:Threat

分析をした上で、課題を洗い出し、経営戦略に生かします。

④5F分析

5F分析(Five forces analysis)は、アメリカの経済学者であるマイケル・ポーター氏が提唱する分析手法です。5つの脅威(Forces)は以下のものです。

  • 既存競争者同士の敵対関係
  • 新規参入の脅威
  • 代替品の脅威
  • 売り手の交渉力
  • 買い手の交渉力

競合先や業界の構造から、自社の優位性を探り、利益の目安を分析することができるため、特に新規市場に参入する際にリスクを把握するために役立ちます。

2.資金繰りの確保

スタートアップで資金を確保するためには、事業支援制度などの公的サポートを利用する、投資家のサポートを受けるなど、自社に適した資金調達方法を知り、選択することが重要です。

具体的には、助成金・補助金の利用、エンジェル投資家からの出資、ベンチャーキャピタルからの出資、日本政策金融公庫の融資の利用などがあります。それぞれ、以下のようなメリットとデメリットがあります。

  • 助成金:返済が不要だが、要件を満たす必要があり、ハードルが高い
  • エンジェル投資家の投資:資金以外のサポートを受けられることもあるが、ダークエンジェルと呼ばれる悪質な投資家も存在するため注意が必要
  • ベンチャーキャピタル:出資額が大きいが、審査が厳しい
  • 日本政策金融公庫の融資:低金利で融資期間が長いが、融資までに時間がかかる

スタートアップが資金調達を成功させるためのポイントや資金調達時の注意点についてはこちらの記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。

3.人材マネジメントの徹底

スタートアップにおいて、全てのフェーズで共通する失敗の要因の一つが、人材の問題です。スタートアップ企業では、人材不足の問題に直面することが多いため、焦って採用をしてしまい、後々、会社の成長を妨げるボトルネックになることも少なくありません。

会社にとって必要な人材は、事業の成長に応じて変化します。今現在、自社にどのような人材が存在して、どのような人材が不足しているのか、定期的に確認する必要があります。

また、スタートアップ時の経営者や役員の給料は経営にも如実に影響するので、安易な増額は避けることが大切です。創業時の給料の決定方法や注意点などについてはこちらの記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。

まとめ

今回は、スタートアップが失敗する理由や失敗を回避するための方法などについて解説しました。

創業直後は、想定外の問題や課題に直面することも少なくありません。失敗を回避して事業を軌道に乗せるためには、専門家に任せることが可能な分野は社外の専門家に任せて、経営陣は経営に専念することが大切です。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富なスタートアップ支援の経験に基づいて、お客様の会社の状況や方針に合わせたサポートを提供しています。新規事業やサービスの適法性チェック、人事労務に関する問題等の対応、資金調達に関するアドバイス、契約書のリーガルチェックなど、全面的なサポートが可能です。スタートアップ支援に関する相談等がございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 弁護士内山 悠太郎 宮崎県弁護士会 登録番号59271
私は、学生時代はアルペンスキーとサーフィンに明け暮れておりました。そんな中で、弁護士を目指すにいたったのは、社会に役に立つための知識を身につけたいという単純な思いからでした。人や企業が困っている場面で手助けできるスキルを身につけて社会に貢献したいと考え、弁護士を志すに至りました。
得意分野
ガバナンス関連、各種業法対応、社内セミナーなど企業法務
プロフィール
埼玉県出身 明治大学法学部 卒業 早稲田大学大学院法務研究科 修了 弁護士登録 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社