海外進出法務
海外進出を、より身近で現実的なものに
Raphael Thomas
「ベルリン、ミラノ、パリをつないできた
経験を使って、日本とヨーロッパに橋を架ける。」
一欧州3拠点をつないできた弁護士、
ラファエル・トーマスが、
日本企業のEU進出を支える理由
高校時代の留学から始まった、
20年以上の日本との深い縁
トーマスさんと日本の関わりは、
いつ頃から始まったのですか?
高校時代の留学がすべての始まりですね。
正直に言うと、渡航前は日本のことをほとんど何も知らなかったんです。
でも、実際に暮らしてみたら、言葉の奥深さや文化の繊細さに、どんどん引き込まれていきました。
帰国してからも日本語の勉強を続け、高校卒業後は東京の法律事務所で働かせてもらったり、NHKのベルリン支局で働いたり、日本の文化人の通訳を務めたりもしました。
振り返ると、あの頃のひとつひとつの経験が、「日本とヨーロッパの架け橋に」という今の自分を作ってくれていたんだと思います。
「とにかく走りながら考えていた」ベルリンの小さなオフィスでのスタートアップ期
日本との関係で色々なお仕事をされた後、
ベルリンで法律事務所を
開設されていますね。
どんなスタートでしたか?
ベルリン・フンボルト大学の法学部を卒業後、2009年にベルリン中心部のミッテ区に小さなオフィスを借りたのが始まりです。
当時から壮大なビジョンがあったかというと…正直、そんな余裕はなかったですね(笑)。
目の前のクライアントに必死で向き合う毎日でした。
そこから事務所が成長していった転機は
何だったのでしょう?
創業して間もない頃に、イタリア出身のVittorio De Vecchi Lajoloがオフィスの扉をノックしてくれたんです。これが大きな出会いでした。
当時は若い弁護士二人で、とにかくどんな仕事でも受けて、走りながら考え、一緒の事務所を育てていきました。ちょうどその頃が、ベルリンでスタートアップ文化が花開き始めていた時期で、「スタートアップの法務を支える」という軸を中心に動き始めたのも、創業間もないあの頃のことです。
パリにて。左からVittorio De Vecchi Lajolo, Raphael Thomas
「クライアントが国境を越えるなら、
自分たちが先に行こう」パリ、ミラノへの拠点拡大
パリやミラノにも拠点を広げたのは、
どういう経緯だったのですか?
これは自然な流れでした。ベルリンで支援していたスタートアップたちが、最初からドイツだけじゃなく欧州全体を市場として見ていたんです。
「フランスにも展開したいんだけど、良い弁護士を紹介してほしい」「イタリアに拠点を作りたくて」等々、そういう相談がどんどん増えてきました。
それなら自分たちが先に行き、クロスボーダーで支援できる法律事務所に成長しよう、と思い、私自身もフランス語を必死に勉強し、フランスの弁護士資格も取得し、パリに拠点を置きました。
そんな中で出会ったのが、フランスのLOUVE Avocatsの素晴らしい弁護士達でした。
彼らと協力しながら、ドイツとフランスの間のビジネスを繋いできました。
現地の言語も、法律も、文化も知らないと、本当の意味でクライアントの力にはなれないと
思ったからです。
ミラノへの展開は、Vittorioのイタリアのネットワークが大きな力になっています。
実際の実務では、パリやミラノだけでなく、スペインやUKの法律家とも連携して、
クライアントに合わせて欧州全域を視野に入れた法務支援ができるように成長しています。
欧州でスタートアップの法務を手がけていると、
自然と国境を越えた対応が
求められるものですか?
まさにそうです。
これは日本の方に特にお伝えしたいのですが、欧州でビジネスを展開する企業は、日本人が想像する以上に自由に国境を越えているんですよ。
ドイツで創業したスタートアップが、早い段階でフランスに子会社を作ったり、イタリアの販売パートナーと契約したり。だからこそ、必然的にドイツ以外の法律や商慣習にも慣れて行かなければならない。その過程で、各国の信頼できる専門家との関係を築いてこれました。
ベルリンのオフィスでインタビューに応じるトーマス弁護士
「政策が市場をつくり、地球を良くする技術が、
ちゃんと社会に届く仕組みがある」
EU市場のリアル
日本企業の初めての海外展開先として、
EUを選ぶメリットはどこにありますか?
まずは、規模ですよね。
人口4億4,500万人、27カ国にまたがる市場です。しかもEUには「単一市場戦略」があって、域内のビジネス障壁を取り除き、一度拠点を確立すれば国境を跨いだ販売や展開がしやすい仕組みに向かって進んでいる。
加えて、EUは高付加価値でサステナビリティ志向の製品に対する受容性が非常に高いんです。グリーン、ヘルス、フードテックといった社会課題ドリブンの需要も大きい。
さらに産業クラスターや研究機関との距離が近く、技術を社会実装につなげやすい環境がある。初期のランディングスポットとしてEUを選ぶ合理性は、実はとても高いんですよ。
「社会課題ドリブンの需要」というのは、
具体的にどういう構造なのでしょうか?
EUの面白いところは、市場が「政策ドリブン」で設計されている点なんです。
EU委員会がGreen Deal、デジタル戦略、循環経済、ヘルスケアといった優先領域を明確に示していて、それに連動して補助金、規制、公的需要が国境を越えて動きます。
研究機関や自治体、企業が同じ方向を向いて、スタートアップも参加しやすいエコシステムができている。つまり、社会課題に取り組む技術やプロダクトが、単なるコンセプトで終わらず、実際の社会実装までの道筋がつながっているんです。
これは他の市場にはなかなかない特徴だと思います。
その構造は、
日本企業の強みと相性がいいのでしょうか?
非常にいいと思っています。
品質へのこだわり、社会課題に対する真摯な姿勢、産官学の連携など、日本企業が本来持っている強みは、まさにEUが求めている価値なんですよ。
日本国内では「当たり前」になっていることが、EUの文脈に持っていくと大きな競争優位になる場面を何度も見てきました。
EUが政策で方向性を示し、日本企業がそこに技術と品質で応える。
この組み合わせは本当に強いと感じています。
一方で、欧州市場は開拓が困難、
という声もよく聞きます。
実際のところ、どうでしょう?
よく言われますよね。でも、私はむしろ逆だと思っているんです。
確かに27カ国それぞれに言語も商習慣も消費文化も違う。それは事実です。
でもね、先程お話しした単一市場戦略やEU法という共通の枠組みをうまく使えば、その多様な市場を「一つ」として動かすポテンシャルがあるんです。
その複雑さを整理して、クライアントにとって支える形に翻訳すること、これがまさに私たちの仕事です。
だから私は、欧州の多様性はリスクではなく、可能性そのものだと言い切りたいです。
「欧州3カ国、3拠点をつないできた経験を、
今度は日本とヨーロッパの距離を縮めるために
使っていきたい」
日ジャパンデスクを立ち上げた背景を
お聞かせください。
2025年頃から、ヨーロッパにおける日本企業のスタートアップとの協業や、日本のスタートアップの欧州展開のモメンタムが明らかに変わってきていると感じたのです。
私たちはこれまで、ベルリンからパリ、パリからミラノと、クライアントの欧州展開に伴走しながら拠点を広げていきました。
その経験を、今度は日本と欧州の間で活かす番だと思いました。
日本語と欧州の法律・文化の両方を深く理解している私たちにしかできないことがある、と確信したのです。
その確信に至る具体的なきっかけとなった
出来事はありましたか?
はい、3つくらいあります。
一つ目は、2026年のパリのStation Fで東京都庁が主催したLa Conevention<<SusHii Tech Tokyo>>に参加した時の、場の熱量を感じた時です。
ヨーロッパ側も、日本側も、両者は文化、言葉、距離の壁があっても、官民が協力して距離を縮めることが重要だと本気だった。
二つ目は、東京スタートアップ法律事務所さんの存在です。
海外から日本へ、日本から海外へ、と双方向で企業の支援に本格的に取り組まれている姿を見たときに、「日本側にも同じ志を持つパートナーがいる」と感じました。
それはとても心強かったです。
三つ目は、時を同じくして、一人の日本人の学生が、「ここで働かせてください」と扉をノックしてくれたんです。かつて私が日本の法律事務所でインターンした時や、Vittorioがやってきた日のことを思い出しましたね(笑)。
「いつか欧州進出を考えている。
でも、まだ何もわからない」
そんな段階でこそ、話しましょう。
最後に、欧州進出を検討している
日本企業の方々へ、メッセージをお願いします。
欧州進出を考え始めた、まさにその瞬間から声をかけて欲しいです。
「まだ具体的な計画がない」「何から始めればいいかわからない」という段階が、実は一番大事なんです。
一緒に考えられることがたくさんあります。法的な手続きやコンプライアンスを踏まえた戦略の整理や、現地パートナーを見つける支援まで、欧州進出における「最初の相談相手」でありたい。
日本と欧州、両方の言葉と文化を知る立場だからこそできるサポートがある。皆さんの挑戦の、最初の一歩から全力で一緒に走りたいと思っています。
国境を越えた仲間たち。パリのカフェにて、
LOUVE Avocatのメンバー達と
